徐晃達が町を出て半刻程度時間が経ち、視界に漸く牙門旗が立っている陣が見えてきた。
その旗印は
「劉…」
ポツリと徐晃がそう零す。既に伝令から何が起こったかを聞いているので、他の二人も慌てた様子は無い。
そう、緑色の旗印に「劉」という漢字一文字。それが多数風に靡いている。
それを見た徐晃はにやりと笑みを作り、馬を駆る速度を上げる。それに追従するように二人も速度を上げて現地へと急行した。
三人が陣の手前まで付き、曹操軍の兵士が居ることをしっかりと確認する。
その兵士に声を掛けて、曹操が居るところへと案内を頼み、三人で付いていく。
陣…前黄巾賊の拠点は中々広かったのだろうか、かなり空白地帯がある。だが、その物資は既に無い。
恐らく燃やされたのだろうかと徐晃は思う。曹操であればそうする筈である。
その空いた空間に二つの天幕が作成してある。そう、曹操軍と劉備軍のものである。
兵士が案内するのは勿論、曹操軍のほうの天幕である。その天幕に伝令兵が入り、入幕の許可を取る。
「おかえりなさい。徐晃、凪、真桜」
天幕内に入ると声を早速掛けてくる曹操。それに臣下の礼を取って口上を述べる三人。
徐晃はこういた礼節も着々と身に着けている。当初は目も当てられない状態であったと、荀彧は語っている。
「凪ちゃん!真桜ちゃん!」
声がしてくるほうを見ると、駆け足で此方へと近づいてくる于禁。どこか自信が付いているその表情。
それを機敏に感じ取り笑顔を向ける楽進と李典。
そしてもう一人声を掛けてくる者がいた。
「徐晃さん」
徐晃は既に入っていた時から気付いていた。短い間だが旅をした桃色の髪の女性。
あれからまた色々成長はしているが、それは割愛する。
その声を受けて曹操の表情を見る。そこには若干の驚きが混じっているのを悟る。
また、夏候淵、許緒、荀彧そして、劉備軍の面々も驚きが混じっていた。
「ふふ…久しぶりだね。劉備」
真名では呼び交わしていない。しかし、この二人には何かを感じさせる物が確かに存在している。
何かが似ている。関羽と夏候淵はそう直感的に悟った。
「うー曹操さんの所に居るとは思いませんでした…一足遅かったですね」
ぶーと頬を膨らませるその姿は可愛らしい。
そう、劉備は徐晃を自身の軍に誘う予定だったのだ。
間近で見た徐晃の戦闘能力は劉備の記憶に未だに鮮烈に残っている。
あの覇気、あの恐怖。
義姉妹の契りを交わした関羽、張飛の両名。彼女達の武力もかなり高いし、兵の統率も一級品。そしてカリスマを感じさせる。
いや、事実この二人のお陰でここまで切り抜けられてきたといっても過言ではない。
だが徐晃程の力は感じなかった。
実際二人合わせても彼女に届くかどうかと言われれば…厳しいと言わざるを得ないほど実力差はある。
彼女達も気が使えて武器を保護しながら戦っているので、打ち合うこと自体は可能である。
しかし、その力と技術は本当に人殺しに特化している。よって二人同時で殺されないと思う。というレベルなのだ。
「まさか、知り合いだったとはね…」
徐晃が劉備の方を見て不敵に笑っている。その事で曹操は徐晃があちらへと行くことは無いと直感的に判断し、声を掛けた。
彼女が敵に回るとしたらそれこそ万の兵士を消費しないと倒すことは困難である。
だからこそ驚いたのだ、まさか劉備と知り合いだったとは、もしかしたら暇を貰い向こうへ行くのではないかと。
「ええ、昔ちょっとありまして」
その気配を察知したのかはわからないが、ちらっと曹操のほうを見て零した言葉を拾い、投げ返す。
そして劉備軍の面々に向かって体を向き直して挨拶をする
「始めまして、私は徐晃と申します」
宜しくお願いしますとお辞儀をする彼女を見て、劉備軍の面々も慌てながら挨拶と自己紹介を行った。
その後遅れてきた二人も挨拶を交わす。
「この人が……」
その中でポツリと誰にも聞こえないように呟く北郷一刀。
しかし、その口だけの動きで徐晃は悟るが、関係ないので直ぐに記憶から消去した。
「さて、改めて現状を説明するわ…桂花」
「は!」
荀彧の口から事の端末を知らされる。
陣は劉備軍が先に仕掛け、さらに寡兵で押し勝ちそうになっていた。
その為、援軍として駆けつけた曹操軍の旗印は立てずに、劉備軍の旗印を立てた。
何故か。このようなハイエナの如く、戦果を挙げる事は曹操の覇道には不要だからである。
まだ機会はある。そう、まだ黄巾賊は全滅していないのだ。名を上げる機会はまだまだ眠っているのだ。
曹操軍と劉備軍。双方話し合い、ここから共同戦線を張らないかという提案を曹操軍の方からして劉備軍が承諾したのだ。
共同戦線は黄巾党の張角の首を取り、実質黄巾党が壊滅するまでの間。
内容としては物資を此方で用意するから一緒に戦ってくれというかなりシンプルなものである。
利益は向こうの方が多い。しかし曹操はそれでいいと思っている。
劉備
彼女は必ず自身の覇道を妨げる最大の敵に成るだろうと言う事を直感的に悟ったのだ。
同じ王としての才と英雄としての気質。常人では理解できない直感。
事実、王佐の才といわれている荀彧を始め、夏候惇、夏候淵の両名も曹操の意図は図りきれなかった。
「…以上です」
「ご苦労様、桂花」
その言葉と共に、顔に笑みを貼り付け後ろへとさがる。
「それでは、我らの戦力を確かめましょうか」
「はっ!華琳様の軍の総数は12000。劉備率いる義勇軍が7200とおよそ20000となります」
ずいっと前へ一歩踏み出したのは夏候惇。軍事関係なら彼女が全て把握している。
…数は夏候淵が算出したのは言うまでもないが。
「将は我ら合わせて…14名。参軍をつけても7隊できる程の規模です。ですが、軍は混ぜず各々足並みを揃えて戦に当たるといった形で進めていきます」
夏候淵も一歩前へでて全員に聞こえるように説明する。
将として使える人間は曹操、夏候惇、夏候淵、荀彧、許緒、徐晃、楽進、李典、于禁。劉備、関羽、張飛、諸葛亮、鳳統である。
北郷はまだ戦慣れをしておらず、将としての能力は無いので除外している。
此れだけ見れば三国志を少し知っているだけの人でもかなり有名どころが集まっていると解る。正に理想のメンバーだ。
「では、我らは我らで動いても宜しいのか?」
関羽が一応礼を取りながら夏候淵へと視線を向ける。
「確かに各々の判断に任せるけど、策を立て、それに則って動いてもらうわ。その際はそちらの二人を貸して欲しいのだけれど?」
荀彧が関羽の言葉に肯定するが、全体としての作戦を立てないと同盟を組んだ意味がまるで無い。
よって、賊に当たる際は策を立て、無駄を無くし、後に必ず控えるであろう黄巾賊との最後の戦までに余力は残しておかなければならない。
「はわわ!わ、わかりました!」
「あわわ!了解でしゅ!」
顔を真っ赤にして、ぱたぱたと手を振りながら答える。突然振られた事に驚いているようだ。
その二人の姿に場の雰囲気は若干軽いものになる。その姿を見て荀彧はため息を付いた。
「そ、それで。賊のトップ…長の情報は何か掴んでいるのか?」
場の空気を取り戻そうと北郷が進言する。
北郷が気になっている事、黄巾党の長、張角のことである。
この世界は有名どころが見事に美少女や美女になっている世界である。
当然、張角も黄巾の乱を引き起こした人物で有名だし、そのカリスマは曹操、劉備と引けを取らないはずである。
そんな人物が、男のままではないと北郷は思っているのだ。だから、あまり乱暴にはしたくないとも。
「……」
しかし荀彧はその言葉を無視する。
何も聞こえていないように諸葛亮、鳳統の了解を得られたのと同時に一歩下がり、沈黙を貫いている。
「あ、あのー」
聞こえていなかったのかな?と思い、もう一度荀彧に声を掛けた。
「男が私に話し掛けないでくれる?汚らわしい」
まるで汚物を見るかのように北郷を見る荀彧。そう、彼女は途轍もなく男嫌いなのだ。
ただ、男嫌いだからと言って益がある質問や話を聞かないということは無い。
しかし北郷が聞こうとしたことはまだ荀彧の情報網でもはっきりとわからない事であった為、伝える意味がないと判断したのだ。
…だからと言って此れはひどい。の一言に尽きるが
「な!?」
「き、貴様!我らのご主人様に何と言う…!!」
驚く北郷に、その言動が逆鱗に触れたのか、怒りを露にしながら荀彧を睨みつけるが
当の荀彧はどこ吹く風である。
「桂花」
「はっ」
曹操に呼ばれすぐさま臣下の礼を取る。
「全く…同盟を組んだのだから軽率な発言は控えなさい」
「……はっ」
体外的な面もあるし、一応同盟を組んだ相手で劉備がご主人様と仰いでいる人物である。
ならばそれなりの礼を尽くさなければならない。そして相手は義勇軍だが、この国を憂い立ち上がった人物たちである。
よって、ああいった発言は此方が有利になることは無いのだ。逆に風評が悪くなりかねない。
「愛紗ちゃん」
「で、ですが桃香様」
じーっと関羽を見つめる劉備。その目には何か言い知れぬ圧力が宿っていた。
「う…申し訳ありません」
「私じゃなくて、荀彧さんに言うべきだよ?」
そうしておずおずと先の言動の事を謝る
「…申し訳ございません」
「此方こそ、桂花が失礼したわ」
変わりに答えたのは曹操であった。当の荀彧は北郷の方を親の敵と言わんばかりの視線で射抜いている。
その視線に辟易している北郷は早くこの場が終わってくれないかなと内心で涙した。
「さて、黄巾の長…張角はまだ此方もはっきりとした事が判っていないわ。だから教えられることは無いの」
と、きっぱりと先ほどの北郷の質問を返す。そう、まだその正体ははっきりしていない。
しかし、一つ分かったことがある。
とある邑にての聞き込みの結果、三人組の旅芸人が中心となっているという確かな情報を入手したのだ。
その名前が天和、地和、人和。
あれほどまでに人間を集められる力は曹操の覇道にとって是非とも欲しいものだ。
それに、三人とも美しい女性という。手に入れない手は無い。幸い世間にも伝わっていない。
この情報は曹操軍のそれも曹操と荀彧、夏候淵しかまだ伝わっていない極秘の情報である。
これが外へ出たとなれば彼女達を匿う事はかなり難しくなる。
知らぬ存ぜぬを通せば行けなくは無いが、それでもリスクが跳ね上がることは確かだ。
だから伝えないのだ。
「そう…か。わかった。ありがとう」
そうしてお礼を言いながら一歩下がる。
荀彧はそういって下がる北郷を睨みつけ、視線を外し考える。
天の御遣いと聞いて情報などをどこかで零してくれるかと思ったが、恐らくそれは両隣に居る諸葛亮と鳳統に止められている。
天の知識はどんなものかは想像が付かない。ただ、神輿として崇めるだけの価値はあるという事は確かだ。
何故なら天の御遣いの肩書きだけで此れほどまで義勇兵が集まっているのはかなり驚いている。
楽進、李典、于禁の三名が中心で構成されていた義勇軍もこれほどまで大きくなかった。
そして意外に頭が回るということであった。それなりの教育を受けている節が見受けられるが、礼儀作法は全くなってなかった。
いろいろな可能性が考えられるが、彼はほぼ天の御遣いと見ても問題ないだろう。
あの服は太陽に反射されて光り輝いている。そして先ほどの言動。
トップと聞きなれない言葉を耳にし、同じような意味で此方でも判るような言語へと変えてきている。
異国の言葉と見て間違いないだろう。よって、天の御遣いであるという事は確信に近いのを抱いているのだ。
が、真相はわからない。しかし、神輿としては絶大な効果はあるだろう。
仲間に引き入れるのかと最悪の想定が荀彧の頭の中で展開される。寒気が全身に走り、そして曹操を見る。
彼女の視線はどうやら北郷には興味なさそうだ。むしろ、その隣の隣。劉備に興味を示している。
「これからは賊の情報が出てきたところから片っ端に潰していく為、各自準備をすること。では、解散!」
そうして曹操陣営と劉備陣営の集いが解散されて、各々陣へと戻り準備に取り掛かった。
準備と言っても曹操軍は殆ど被害なく賊が鎮圧されたのだ。後は物資の援助の確約や街の治安維持
政務を運営する為に荀彧を一度陳留へと戻し、政務を回してもらい、今後の政策を指示して此方へと戻す手配。
その護衛は許緒と親衛隊に任せ、素早く行ってもらうのだ。
そして夏候淵には物資の支援等の経路を確保。夏候惇には軍備。三人には調練や後ろの作業を。
最後の徐晃には
「徐晃、貴方は少数の規模…そうね、数千人位までの賊討伐を任せるわ」
「…了解です。でも、部隊はどうします?」
「部隊は必要があった時のみで、貴方が単独で動くこと以外は参軍として動く形になるわ。」
そう、曹操は以前徐晃に部隊をもって戦に臨む様にと通告していたが、この乱は個人でも動いてもらう形にしたのだ。
此れは荀彧と相談した結果である。まず、部隊を組ませるだけの人員が居ないのが大きい。
が、正直数千の規模であれば全軍を動かさず即対応できるような少数精鋭での殲滅が望ましい。
それにそれ以上の賊が出てきたら参軍として部隊経験を積ませるのも悪くない手だ。
そして最大の要因は、今回の件で張角を手に入れ兵数を増やして人員不足という面を解決するという、狸の皮算用で見通しを立てているからだ。
……狸の皮算用とは言うが、曹操と荀彧がそれを見通している点で既に高確率でそういう事の運びと成るのは間違いない。
さらに、漢室から賊討伐の為、軍を動かせという命令も来ているのだ。これで兵数も劇的に増やすことの大義名分が出来たのだ。
軍の解体が通告されても、何れは必要になるのだ。よって、張角の運用方法は変わらない。
……正直に言えば、彼女は臨機応変に、と一言で片付けられるが。
「そうですか。……小規模であれば私一人ですよね?」
「それは難しいわ。この乱と呼んでも相応しい事件で名を上げる為、劉備達も軍を動かし少しでも賊を討伐したいはず」
その言葉を聴いて徐晃はしゅんと肩を落とす。
数千殺せれば一週間は人を殺さなくても我慢が出来そうだと思って期待していたのだ。
そしてさも当然とばかりに徐晃に説く曹操。
無論、徐晃を通して部隊が組める最低限の人数は派遣するが、それらは基本劉備軍内で動いてもらい、曹操軍は他の将兵と徐晃のみの戦力となる。
「…まぁ今は一本だけなので丁度いいです」
そうして腰に差している得物の柄をとんとんと叩く。
「そういえば腰に二本差してないわね。しかも前と形が違うし大丈夫なの?」
「大丈夫です。試し切りしましたが前よりも癖が少なくて直ぐ馴染みましたよ」
そうしてゆっくりと抜刀する。すらりと引き抜かれた刀身は日の光に反射して鈍く輝く。
その姿は正に日本刀である
すらっとしたスタイリッシュな刀身に、湾れ刃の刃紋。そして全体的に反っており、徐晃の戦闘スタイル「斬る」に特化している。
「へぇ…」
目利きが利く曹操はその刀身を見て感嘆の声を上げた。
自身が持っている二振りの剣。それよりは格は低いと確信できるが、それでも名剣と呼べるほどの物であると一目でわかった。
曹操自身も見たこと無い刀身。それを美しいと感じ取った。
刀の背をつつっと人差し指でなぞりながら感触を確かめ、納刀する。
「それでは、そういう事態になったら劉備軍と協力して当たればいいですか?」
「そうね、それでいいわ。策は向こうの諸葛亮と鳳統に協力してもらいなさい」
「了解です」
あちらの献策でも曹操軍は問題ない。何故なら劉備軍の物資を此方で用意しているからだ。
彼らの支援を行ったのは曹操という名目は既に立っている。よって小さな戦闘は向こうに頼っても風評的には問題ない。
そう、大きな戦で活躍すればいいのだ。
「ふふ、期待してるわよ」
「まぁ、味方を切り殺さないように努力します。とりあえず、劉備たちにその旨を伝えますね」
「任せるわ」
口を手で隠し上品に笑う曹操を尻目に、今回のことを劉備軍に伝える為に踵を返して天幕から出て行った。
「劉備さんに取り次いでいただけないでしょうか?」
劉備陣営の天幕前まで来た徐晃は、そこに居る門番へと声を掛けた。
「は!…恐れ入りますが、どちら様でしょうか?」
「ああ、ごめんね。私は徐晃って言うんだ」
「徐晃様ですね、畏まりました。しばしお待ちを」
そうしてさっと入り口から姿を消していって、暫く待つとそっと出てくる門番。
「許可が取れましたので、どうぞ御入幕を」
「ありがとう」
そうして、最低限まで広げられた入り口から陣へと入る徐晃。
「徐晃さん」
そして正面に居る劉備から声が掛かってくる。その顔はどこか嬉しそうだ。
張飛は何かニコニコしており、関羽は劉備の隣で隙無く佇んでいる。
「どうも、とりあえず今後の簡単な動きを伝えに来ました」
そう言いながら劉備を見据えて歩く徐晃。
「…それは、徐晃さんが関係あるのでしょうか?」
徐晃は前方に五人を見据えられる所で止まり、腕を組む。
その際胸が盛り上げられた。しかも、胸元が中々開いているので谷間が強く強調され、それに目がつつっと移る北郷。
その事に気付いた関羽が武器の柄で北郷の足を叩き、その邪な視線を中断させる。
男ならしょうがない。
「ええ、数千位の賊は小規模なので曹操軍は基本、私一人しか動きません」
その瞬間、徐晃と劉備以外の空気が固まった。
「何?曹操は此方を捨て駒として扱う心算か?」
内心怒りを覚える関羽だが、それでも冷静に徐晃に問う。
張飛は徐晃が言ったことをうーんと悩み、北郷は口をぽかんと開けている。
諸葛亮、鳳統は険しい顔で徐晃を見て、劉備は相変わらず笑顔を保ったままだ。
「いえ、此方も私を通して部隊をお貸しいたしますのでご安心を。それに事によっては他の将兵もつけるかと」
「では、何故徐晃さん一人なのでしゅか?」
噛んだがそれでも真剣なまなざしで、魔法使いのような帽子がずり落ちないように徐晃を見る鳳統。
そもそも、こういった事態は彼女達二人は予想していた。まず立場がはじめから違うのだ。しかし、それでも客将といえ将を付けてくれるだけでもありがたいこと。
だが、劉備側から見れば先の言葉と徐晃が言っている言葉が合致しない。
「そのままの意味です。貴方方に兵士を派遣して貴方方の部隊へと組み込んでください」
「徐晃さんが統率しないのですか?」
北郷を挟んで徐晃を注視している諸葛亮が質問をする。
「はい。私は基本一人で動きたいので」
「一人は危険なのだー」
「いえ、2000程度であれば今の私でも壊滅させる事は出来ます」
張飛が両腕を頭の後ろへと回しながら危険を示唆する。しかし直ぐに反論をする徐晃。
刀一本でもその程度ならいけそうだと自身の体調等を顧みて判断したのだ。
「何を仰いますか、徐晃殿。そのような所業、もはや人間業では……」
半ば笑いながら徐晃の言葉を切り捨てようとし、彼女を見る。
しかしその瞳は嘘を言っている瞳ではない。その事に関羽は冷や汗を垂らす。
「い、いや、ちょっと待ってくれよ。流石に一人では危ないと思うよ」
そして北郷もその事に対して意見をする。
尤もなことだ。今回戦った賊は多かったが、その10分の1を一人で倒せると豪語しているのだ。
「うーん……一応、4000人斬りしたので大丈夫だと思いますけど」
「4000もなのかー!?」
驚く張飛。
その言葉に呼応するかのように、とん。と刀の柄を叩く。
「まさか……本当に?」
「ええ、何だったら曹操さんがその事実を知っているので証明しましょうか?」
「いいえ、その必要は無いです」
すっと一歩前へ出たのは劉備。
「徐晃さんが嘘を言っているようにも思えません。何より私は彼女の強さを目の当たりにしてるし……うん。何とかなるでしょう」
にこりと徐晃に笑いかけ、徐晃を信じると宣言する。
「し、しかし!」
「なら、曹操さんへ聞いてみる?愛紗ちゃん」
関羽の方へと視線を向けて口を開く。
その言葉にうっとなって納得いかないながらも一歩引く形になった。
そう、曹操という人物を出したことによってそれは限りない事実へと変貌したといっても過言ではない。
もし此れで徐晃が嘘を言っていたら、必ず罰が下るだろう。最悪斬首だ。
それらの危険性を孕んでいるこの公の場でその宣言を堂々としているのだ。真実なのだろうと軍師二人は察する。
「まぁ信じられないのであれば、次の賊討伐で証明させましょう。…死んだら死んだでいいですし」
「もう、徐晃さんったら」
ふふふ…と二人で笑い合う姿を見た関羽は胸中複雑な思いが駆け巡っていた。
しかしとその思いを止める。義姉があそこまで心開き、信頼している人物なのだ。
だが、4000人は正直関羽でも不可能。一回の戦場で100人以上200人以下の撃破だけでも大手柄だ。
それの20倍。
既に意味がわからない境地だ。単純に関羽が20人でもその数には達するだろうが、彼女は一人だ。
ありえない。関羽はそう思っている。しかし、嘘を言っているようにも思えないのだ。
「じゃあ次の戦、宜しくお願いしますね。徐晃さん」
「ええ、こちらこそ」
そうして握手をする劉備と徐晃。
その時、天幕が慌しく開き、伝令兵が駆けてくる。
「伝令!」
「何事だ?」
胸中に駆け回っていた思いを一旦外に置き、慌ててきた伝令兵に関羽は声を掛ける。
伝令が駆けつけた様子が慌しかった為、全員気持ちを切り替え、伝令兵を注視した。
「は!この陣より北西50里にて、賊の陣を確認!数は5100!曹操軍より指令。兵を1500貸すので討伐するようにとの事です!」
「何?…曹操軍は?」
「は!東北63里ほどにも大規模な賊が発生したので部隊を分けての行動だそうです」
「なるほど…わかった。下がっていいぞ」
はは!という言葉と共に下がる。
「…では、直ぐに編成をして出立致しましょうか」
そう言葉を発した徐晃に全員が注目する。
その事を感じ取りにやりと徐晃の口は弧を描いたのであった。