【習作・ネタ】狂気無双   作:モーリン

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2話

「ふぅー、食べた食べた」

 

食堂の中の客が疎らになってきた時刻に、一人の女性が席を立ち、料金を支払い外へ出た。

腹いっぱいに食べたのか、感想を漏らしながら腹をさする。

 

その名は姓は徐、名は晃、字は公明である。

 

本来の歴史であれば男性で、得物は斧という形だが…この世界は少し、いや、だいぶ違う。

 

まずは有名武将がほぼ全て女性というところだ。

有名どころでは曹操、孫策、劉備といずれも女性であり、その配下の有名どころも殆ど女性である。

しかも全員が全員美しい女性だ。

 

また世界の常識も変わっているところがある。

まずは食事、現代に近い食事が出来、それが提供される食堂が大きな町だと多数配置されていたりする。

 

そして服装。

 

徐晃の服装は和風で丈の短い白い着物に蘭の模様が描かれている。これは先日賊を討伐した際に着ていたものではなく、一般服として販売されていたものを購入したのだ。

 

正確に言うと着物ではないけど…まぁそこらへんは気にしない。そこから分かるとおり女性の服装はかなりコスプレに近い風潮である。

対して男性は時代にあった服装…より多少派手だが、それでも女性の服装より時代が遅れている。

 

刀剣類に関しても同じ事がいえる。

この時代、戟が主流で徐晃が指している刀風な刀剣など本来では存在してないはずなのだが…そこの技術も発展している。

しかし、兵士が持っているものはやはり戟や槍が多く、まだ連弩が開発されていないのか、遠距離は弓矢である。

 

他にも人物の性格等はかなり変わっている。

 

そんな世界である。

 

徐晃はこの世界で生を受けて既に18年。

生まれは辺鄙な邑であった。人口の数は100も届かない邑で、邑全体が家族のような暖かい雰囲気に満ちていた。

そこで普通に暮らしていたり、たまに狩りに参加したりしていた少女であった。

 

しかし、彼女の人生を変えたのは…そう、賊の襲撃である。

 

その時徐晃は歳にして12。

…予めいっておくが、家族が死んだとか邑が壊滅したとか、そういうことでは全く無い。

 

賊が襲撃してきて、徐晃は家族を守るため狩りで使っている粗末な剣を持ち出して、村の若い者と一緒に迎撃に当たった。

賊の人数もそこまで多いものではなかったが、装備が違う。何人かは殺せたが、邑の若い人間も多数死んでしまった。

そしてその中で戦っている美少女と形容できる少女、徐晃に目を付けないはずが無かった。

 

襲ってきた賊に倒され徐晃は衣服を脱がされる。

しかし、徐晃は既に怪力に目覚めており、男を振り切って、頭を無我夢中で蹴りぬいた。

 

賊の頭蓋骨と一緒に粉砕される肉。初めての殺人。その感触が…彼女にとっての転機となったのだ。

 

気持ちいい。もっと、もっと味わいたいと

 

始めは蹴りで賊の骨ごと折ったりしていた。賊もただの少女に負けるのは面子に関わることだったのか、誰一人逃げずに少女に殺到する。

 

だが、彼らの行動は徐晃にとってとても遅く感じた。いや、事実野生動物を相手にしているほうが速い。

しかし、蹴りだけだとどうしても大勢を相手にするのは骨が折れる。

粗末な剣は既に折れていたので足元に転がっている血だらけの剣を拾い、賊の攻撃を掻い潜って一閃。

 

肉、骨、肉と切れる。その感触が徐晃にとって先ほどの蹴りよりも快感を覚えたのだ。

ひしゃげる感触ではなく、すっとした感触。そして断末魔。血の匂い。

 

 

最高

 

 

その一言に尽きた。相手は賊で自分達の物を壊しにきた、奪いにきた悪い奴。

そう認識していた為、一切のためらいは無かった。そしてココで武の才を開花させる。

腕に覚えがある賊を殺すたびに動きに無駄がなくなっていった。

 

そして一刻の半分もせずに賊を全滅させた。数はおよそ42人。

ほぼ全員が体の一部を切断されており、夥しい量の血を撒き散らしながら、大地を染め上げていた。

 

そのむせ返るような肉の匂いと血の匂いの中、徐晃は思った。

 

 

殺したい

 

 

邑の者達は恐怖の目で徐晃を見つめていた。その中には両親も見受けられた。

しかし彼女にとってはあまり関係なかったのだ。その時、血の海に佇んでいたときの願望。

すこし冷静になった頭で考え、一瞬で回答を導く。そう、この邑にはもう自分の居場所は無いと。

 

その日は自分に着いていた血を洗い流し、旅の支度をすぐさま開始した。

その次の日の明朝に荷物を持ってすぐさま旅に出た。

 

当てもなく只ぶらぶらっと…という事ではない。ただただ殺したいと思ったからだ。賊を。

あの醜い顔で醜い断末魔を何時までも聞いていたいと心の底から思った。

幸いなのか、一般市民や自身に害が無いもの達にはそういう欲求は全く沸いてこなかった。

 

そして旅を続けて賊を討伐していった中で、自身が興奮を覚える、快感を覚える条件が分かった。

 

それは自分を見下したりする者や大義名分が立っている殺人とそれと同時に強い人間との死闘。

 

この二つだった。強い人間は賊でも居た。同じ女性であったが、関係なかった。

何時までもこの女性と戦っていたいと思っていたが、それも幾ばくかして直ぐに終わった。相手の死という結果を残して。

 

がっかりしたが、自分の中の欲求を漸く理解したのだ。その死闘をした彼女を丁重に弔った。

 

 

旅は賊から奪った金品と食料で全てまかなっている。商人の護衛とかもやってみたが、襲い掛かってくる賊はあまり多くなかったのが徐晃の印象であった。

しかし、お金は結構手に入ったため慈善活動として活動している。それは今も変わらない。

大好きな殺しができて尚且つお金も安定してもらえるという事実は、彼女にとっても嬉しかった。

 

このことから分かるように、殺し以外はいたって普通の女性なのだ。ファッションも少し悩み、食事も好き嫌いがある。

文字は少ししかかけない。けど、農業については多少覚えがある。そんな女性なのだ。

 

「あ~荊州もあんまり賊を見かけなくなったなぁ…」

 

ぶらぶらと街を歩く。この場所は荊州の江陵。中々発展している場所であり、劉表が収めている街である。

南に行くには大きな河を船で渡らないといけない立地、気候は比較的温暖で過ごすには丁度いいところだ。

 

そんな街の中でポツリと誰にも聞かれることは無い声量でそう零す。

はぁとため息を吐く。まるで恋煩いを起こしているような憂いたその姿は、道行く人の視線を集めていた。

 

しかし実際はそんな青春色の悩みではなく、血みどろの全く方向性が違う悩みだとは誰も知ることは無い。

 

そもそも何故徐晃は数多の賊を討伐したのにも関わらずにその名を広めていないのか。

普通の武人であれば、この荊州の間であれば広まっていてもおかしくない功績である。

先日の盗賊を合わせれば彼女は既に2000以上もの賊を単身で殺している。

 

だが、広まっていない。その原因は彼女にあった。

まず名乗りを上げていない。賊の中では生き残ったものは確かに存在する。しかし9割り以上もの賊はすでに物言わぬ骸である。

だからこそ、危険な人間が賊を通して広まらないわけが無かった。

 

だが、殆どのものはその言葉を信じない。そして彼女が名を上げないということも相まって噂話程度に納まっている。

しかし、その噂話は官僚の者達にも耳にすることがある眉唾物であり、官軍もまったくと言っていいほど信じていない。

よって彼女の偉業…いや、異業は広まっていないのだ。

 

得物の柄をとんとんと叩き、その感触で自分のその感傷を少しでも慰める。

この二振りの剣…いや、刀といったほうが適切か、その刀が二振り。

銘は特に無い。盗賊から奪ってきた金をふんだんに使い、兎に角丈夫で切れる刀剣を作って欲しいという要望を見事鍛冶師が答えた一品もの。

 

刃渡りは70センチ、柄を合わせれば1メートルもの刀二振り。

どちらも長さは同じで、二刀流にて戦うのは些か力が必要になってくるが、徐晃は全く問題ない。

恐ろしい怪力の中に繊細さも光っており、武の神の愛されているのか、その才は計り知れない。

 

舞うように戦うその姿は誰もが見惚れ、誰もが恐怖する。

 

しかし、いくら丈夫な刀剣でも定期的に鍛冶師に見せてメンテナンスを…欠けた部分が無いか点検を行う必要も勿論出てくる。

そう、徐晃はその鍛冶師の所へ向かっているのだ。

 

 

「おーい、おっちゃん」

 

街から少し離れたところに、煙突が在る家屋が一軒ぽつんと建っている。

その中に足を踏み入れて、主たる人物を呼んだ。

 

「あぁ!?…お、嬢ちゃんか。何だ?剣の点検か?」

「はい、つい先日200人ほど賊を切ったので、なんかあったらやだなぁ…って思いまして」

「は!相変わらずの化け物な強さだな。…まぁ一般人に手を出してないからこの場合、英雄といったほうがいいか?」

 

出てきたのは大柄な男。額には鉢巻を巻いており、汗を吸っている。

上半身は薄い肌着を着ており、びっしょりと汗を吸って下の肌が見えている。

 

この鍛冶師の主人と徐晃は既に5年の付き合いだ。

旅に出てから1年ほどで、武器に関してはやはり自分にあった武器が欲しいと思っていた。

今までは賊から殺して奪った粗末な剣や、たまに良質の槍や、戟、剣を振り回しながら戦っていたが、殆どの武器は自分の怪力に耐えられなかったのだ。

 

一戦もてばいいほうである。最悪、殺しながら武器を変えて戦っていたのだ。

だからこそ、欲しいと感じたのだ。…というのは表向きで、簡単に言うと色々変えながらの戦闘は面倒くさいと思ったからだ。

 

そこで、鍛冶師いねぇかー?と探し回っていたらこの主人と出会ったのである。

頑固者で実力者にしか剣を打たないという人物だったが、徐晃の立ち振る舞いとお金に糸目をかけないという言質で徐晃の武器を製作した。

注文は難しく、丈夫で切れるもの。

 

勿論、どんな武器でもそのように作ってきた。しかし、切れ味といったら一般兵士が持っているものや、大剣は斬る。というより、砕くといったほうが正しい。

かといって、斬るために特化させたら脆い事この上なかった。そうして、色々なところを旅して、とある武器が眼に映った。

 

そう、刀もどきの刀剣である。金は徐晃から相当貰っていたし、出来るまで援助するという言葉もあり、武器商人からそれを買った。

その刀剣を一時期徐晃に与えて、どういう感じか聞いてみると

 

「この剣いいですね。しっくりきます」

 

という色の良い返事が来た。が、丈夫さはやはりあまり無いのか、次の週には折れた刀を持ってきた徐晃には若干の殺意が沸いたのは良い思い出らしい。

しかし、折れたところから、どういった技術を使っているのか目で見て肌で感じとり、再現した。

単純に再現するのではなく、材料に丈夫なものと自身の経験で切れ味が増すものなどをふんだんに盛り込んで出来たのが今の徐晃の剣である。

 

銘はあえてつけなかった。

 

普通の鍛冶師は銘を打ち、世に名を残そうとするが、この鍛冶師はそういうことにあまり興味が無かったのと同時に、徐晃が扱っているということで

あまり良い評判にならなさそうと予想していた。…のろい付きなどの噂が流れたら商売上がったりであるし、後世にそんな不名誉で名を残したくなかったのである。

 

しかし彼の人生で間違いなく最高傑作であり、切れ味、頑丈さは折り紙つきである。実際徐晃が使っている場面、試し切りを大木や大きな石なので行ったが、切れる。

鉄も難なく切れた。この事には鍛冶師本人は予想外でうれし涙を浮かべたほどに嬉しかった。

 

…実際は「気」というカラクリがあり、刀身を薄く覆っていたというのは徐晃の中で絶対に墓場まで持っていこうとする秘密である。

 

「英雄なんて所詮は人殺し…でも私にはその肩書きは似合いません。化け物で結構ですよ」

「ま、そうだと思ったぜ。そんな綺麗な肩書きは嬢ちゃんに似合わねぇ」

「それはどうも。…それでは点検をお願いします。先日の盗賊でお金はいっぱい入ったので気合入れていただいても結構ですよ」

 

そうして腰に携えている二振りの剣を鍛冶師に渡す。

 

「はは!そんじゃま、始めるか。明日の…そうだな、昼頃取りに来てくれ」

「はい」

「変わりに俺が作った奴を貸すぜ。無いと寂しいだろ?」

「ありがたくお借りします」

 

そうして徐晃は同じような刀を一本借り受け、鍛冶師の店を出たのであった。

 

 

 




誤字、脱字等御座いましたらご一報よろしくお願いします。

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