【習作・ネタ】狂気無双   作:モーリン

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21話

徐晃の異常性が劉備軍に伝わった日から数ヶ月経った。

黄巾賊の拡大は留まることを知らずに、漢の大陸の北方中心としてその被害が広がっている。

曹操、劉備同盟軍の奮闘もあり、早期鎮圧の対応がなされているがそれでも追いつかないほどだ。

 

その中で徐晃はきっちりと夏候惇、夏候淵、曹操の参軍をこなし

軍の統率する分野でも光るものがあると、三人は語る程だ。

 

ただ、徐晃本人はあまり乗る気ではない。何故なら自由に動けないからだ。徐晃もここまで自由に動けないものなのかと内心辟易している。

 

それでもある程度、個人で動けるのでその中で一気に爆発させるという形が一番良いということを、徐晃は自覚した。

 

荀彧はその徐晃をみて必ず一人で動かせないとは悟っている。もし一人で動いている際に奇襲など受けたら、徐晃は逆に喜ぶかもしれないがその他の兵達は無駄に消費してしまう。

確かに、暴れてないときは中々光るものがあるのは確かだが、それを差し引いても危険すぎる。

 

だからと言って、徐晃をこのままワンマンで動かすというのもしたくない。主、曹操の考えでもあるし、徐晃を失うとそれはそれで手痛い出来事である。

 

誰か軍を纏めるのが巧く、また徐晃の行動に恐れをなさない傑物はいないのか、と頭を悩ませていたら…一人だけ存在していた。

 

楽進である

 

徐晃筆頭の部隊を作成するなら彼女を付ける事は既に荀彧の中では決定事項となった。…当の本人達はまだ知らないが。

 

兎にも角にも、徐晃にはまだ参軍として経験を積ませるのが一番最適であろうという結論を出し、賊の討伐はそう動かしているのが現状である。

 

彼女達が活躍している中、官軍も重い腰を上げて賊討伐を行っていたが、動きが鈍重であった。

その為、全土にまで広がった反乱はもはや官軍の力をもってしても鎮圧に時間が掛かっている有様であった。

 

それもそのはず、曹操軍や劉備軍、各地で奮闘している軍に対して官軍は経験が少なすぎている。

 

その為、余り戦果を上げることは無いのだ。

しかし、その中で確実に戦果をあげている人間もいる。張遼、呂布、華雄の三将。そしてそれらを纏めている賈駆。その主、董卓であった。

 

その中でも呂布の活躍は凄まじく「人中の呂布、馬中の赤兎」と表されるほどであった。

 

他にも官軍で名を上げている人物はいる。

 

だがそれでも止まらない反乱。そして184年の夏が過ぎた頃に豫州で今までの中で最大数の黄巾賊が集まっていった。

 

その数80000

 

実質戦える人間は70000だが、その規模は一つの軍では到底勝てない程の規模である。

 

その事実を受けて結集したのは曹操、劉備同盟軍の18000

北方の領主、公孫賛。その参軍には常山の昇り龍、趙雲。その数12000

最大規模の袁紹率いる、顔良、文醜。数は25000である。

 

黄巾賊の砦から約40里離れた平原に陣を敷き

そこで各軍の天幕を張り最終調整へと移ったのであった。

 

その際に、劉備と公孫賛が旧知の仲だということと、趙雲と徐晃が顔見知りだという事が判明した。

その中で一波乱あったか…といえば、それは無かった。

 

今回は共に戦う仲であり、趙雲は自分の実力を見せる絶好の機会だと思ったからだ。

というより、趙雲が絡んだと同時にこの同盟軍の雰囲気が悪くなるのは明白であるし、趙雲もそこまで馬鹿ではない。

 

何より今はそんな事態ではないというのは、各州の状況を見れば明らかである。

 

軍議用天幕内に集まったのは曹操劉備同盟軍から盟主曹操、荀彧、諸葛亮。

公孫賛軍からは、公孫賛当人と趙雲。袁紹軍は袁紹、顔良、文醜である。

 

同盟軍の軍議代表選抜はそれ程揉めなかった。何故なら各陣営での軍師を選抜しただけだから。

この数ヶ月で各個人の動きや正確は両陣営とも大まかに把握している。

しかし、最終調整はやはり各陣営で行い動きを細分化したほうがいい。

 

よって話が分かる各陣営の軍師を選抜したのだ。

 

それぞれ陣営毎に集まり、軍議用の大きなテーブルを囲んで、対黄巾賊の作戦会議が始まった

 

「それでは、各陣営の代表者が集まったようね。軍議を始めるわ」

 

全員が集まったことを確認した曹操が声を掛けた。そう、時間は無限ではない。

もしかしたら他の黄巾賊が集まって野戦を仕掛けてくる規模に達するかもしれないのだ。

よって、もたついている暇は無い。

 

……暇は無いはずなのである

 

「ちょーっと待って頂けませんかしら?」

 

入り口から一番奥の場所、つまり上座に陣取っていた金髪のドリルヘアーの女性。

その出で立ちは正に派手の一言。黄金の鎧を着ており、彼女を飾る装飾も見事の一言である。

その女性が曹操の言葉に待ったをかけた。

 

「…何かしら?麗羽」

 

食い付いてきたよ…とでも言いそうな表情で麗羽と呼ばれた女性を見る曹操。

隣の荀彧はどこか悟っている表情で自身の主の心労を心の中で労った。

その隣の諸葛亮も曹操達の表情から色々な事情を察して冷や汗をたらした。

 

「あーら、わたくしの言いたい事は華琳さんなら良くご存知かと思いますわ」

 

「良く」の所を妙に強調し、前髪を掻き揚げ、にやりと笑う麗羽…もとい、袁紹。されど、教育の賜物なのかその上品さは失われていない。

 

後ろに居る、これまた黄金の鎧で身を固めた顔良、文醜はその主を止めることはせず、苦笑する程度。どうやらこれが袁紹陣営の日常のようだ。

 

「はぁ…それじゃあ最大勢力である麗羽の軍から意見を頂こうかしら」

 

袁紹の姿を見たときからこうなることは予想していた

いや、これは予想ではない。完全なる予知だ。こうなるであろうと既に判っていたのだ。

 

しかし、それでも時間を無駄にしたくは無いので曹操から切り出したのだ。

 

曹操は知っている。袁紹は盟主役をやりたいのだと。

 

が、今ここでそれを行うことは状況を不利にすることと同義。

何故なら時間を余計に食ってしまう恐れがあるから、いくら能力がある武将や軍師が揃っていたとしても数というのはそれだけで力になるのだ。

 

それに向こうは砦があるのだ。これ以上増えたら手が付けられない。

 

よって袁紹から自発的に進行役を預かりたいと発言するまで、あくまでも曹操が進めるという形を取るのだ。

 

「全く、そうじゃありませんこと?華琳さん」

 

だがその努力は果たして、実ることは無かった。

その姿を見て公孫賛は半笑いし、趙雲は我関せずを貫いている。

袁紹の後ろの顔良は曹操へ向けて申し訳なさそうな顔をするが、やはり主の意見が大切なのだろう。

 

それを見て、脳内でため息を付く曹操。しかし、現状袁紹が最大勢力というのも事実。

 

「では、この連合の盟主を先に決めましょうか。私は麗羽を推薦するわ」

 

今回の戦いは相手の方が多く、また黄巾賊の将も居るとの話だが、今回の乱の最終目的は張角の捕獲である。

世間的には曹操軍が張角の首を獲るという事であるのだ。よってここで盟主を袁紹にしてもさしたる痛手ではない。よって、ここは袁紹に盟主を渡しても問題は無いのだ。曹操軍にとっては。

 

しかし、この瞬間にも自国の民、及びその周辺の民が苦しんでいる現実は変わらない。

曹操はその事について歯がゆく感じているのだ。

 

「ああ、私も袁紹でいいと思うぞ」

 

赤い髪の公孫賛も曹操の意見に同意である。公孫賛も十分に盟主になる資格があるほどの広大な大地を支配している。

尚且つ今まで北方の異民族を抑えていた実績があるのだ。曹操以上に資格があるのは明白だ。

袁紹と比較しても公孫賛が盟主になったほうがまだましだろうが、袁紹の戦力はこの同盟軍の中では最大だ。

 

異民族対策の為、黄巾賊対策にそこまで兵を割けないのが、今の公孫賛軍の現実である。

現状、趙雲が客将として前線を切り開いてくれているが、それも何時まで続くかも解らない。

だからこそ、趙雲以外の武官にも異民族対策の実績を上げて、経験を積ませたいのだ。

 

「あら、皆さんがそこまで言うのならこの袁本初。今回の同盟軍の盟主となるのも吝かではありませんわ!」

 

簡易な椅子から立ち上がり、片手を上げてそう宣誓する袁紹。その姿を顔良と文醜以外冷めた目で見つめる。

 

「それで、どんな策でいきましょうか」

 

気を取り直してずいっとテーブルに両肘を預けて、公孫賛を見る曹操。

それにいち早く反応したのは袁紹である。

 

「そんなの決まっておりますわ!雄々しく、勇ましく、華麗に進軍ですわ!」

「「…」」

 

何時も通りの台詞。しかし、余りにも考えなさ過ぎて袁紹とその配下の顔良、文醜以外は時が止まる。いや、曹操は予想していたのか、直ぐに立て直せたようである。

 

この作戦はあってないようなもの、一言で言うと「突撃」である。

そもそも攻城戦は本来であれば下策なのだ。相手は堅牢な砦に膨大な数。しかしその数だからこそ物流を途絶えさせ、此方が挑発し炙り出し野戦へと持ち込む。

 

これが最も効率的で被害が少なく済むであろう。何故なら相手のほうにはそれ程の人数を従える傑物は存在していない。

 

野戦に誘いだし、指揮官を潰せばもはや烏合の衆。相手の士気を挫いた所で降伏勧告を行えば恐らく従うだろう。

 

そう、策を立てなければどんな名将でも城攻めは難しいのだ。今回は砦…というには些か規模は大きいが、それに当たる内容である。

だというのに突撃は下策中の下策。まず間違いなく、この連合軍に甚大な被害を被るし、下手を打たなくても負ける。

 

此方は万の単位で人が少ないのだ。

 

「さっすが麗羽様!あたい達なら賊なんてばーっと吹き飛ばせるしな!斗詩!」

「いやぁ…ちょっと厳しいんじゃないかな?相手は篭城の構えだし……文ちゃん」

 

腕を組んで自信満々の表情でそう言いきる文醜に対して、顔良は若干焦った表情と苦笑いを含めた難しい表情で首を傾げる。

 

「麗羽、その作戦では我々の軍がついていけないわ」

 

顔を少し振りながら袁紹に意見をする。そう、この作戦では同盟軍が崩壊するほどの被害が出てしまう恐れがある。

故に曹操はその盟主として、それだけは阻止せねばならない。その両隣では荀彧と諸葛亮が難しい顔をしていた。

 

「ああ、私の軍も付いていけないだろう」

 

公孫賛も曹操の意見に同意する。

公孫賛は曹操以上に率いている数が少ない上に、この乱が終わったらまた異民族の対応をしなければいけないのだ。

こんな所で無駄を出して、兵を余計に消費するのは避けたい。

 

「それじゃあ、お二人は何か策がおありなのかしら?」

「それを今から考えよう、という話よ」

 

体を背もたれがある椅子に体重を預けて一息つく曹操。

そう、まだ話が始まってすらいないのだ。あの温厚な諸葛亮ですら袁紹の作戦には辟易している。

 

「では、斗詩さん。我が同盟軍の規模と相手の規模を教えてくださいな」

 

さすがの袁紹もそれを思い起こし、席に着席し側近である顔良にそれを問うた。

 

「はい。現在同盟軍にはおおよそ55000程の規模で、相手は80000程です」

「80000!?」

 

顔良が現状の軍の規模を述べる。そして、その差は25000もある。この事実に公孫賛は驚いた。

この場合、普通なら時間を掛けて相手を挑発し、炙り出したい所である。

が、現状各軍のトップがこの同盟軍に参加しているのだ、長らく領地を空ける訳にも行かない。

 

「公孫賛。落着きなさい、我が軍の細作の情報によれば相手は実質70000程度よ」

「そうか……しかし、それでも相手の方が上となると厄介だな」

 

右手の親指と人差し指の二本で顎を支え、考える。

公孫賛の中でも、どうしたら無駄を省けるかを頭の中でシミュレートしているのだ。

 

「この場合の定石は、相手の補給線を絶ち此方の補給線を確保しながら挑発し、野戦に引き釣りだす。といった所かしら」

「そんな地味なのは華琳さんの軍だけの時にやってくださいな」

 

定石を語ったところで袁紹が却下を出す。一瞬それにむっとした荀彧と曹操だが、黙認する。

そう、確かにそれだけでは決定的ではないし、此方の資源も無限ではない。早期解決が必要なのだ。

 

「奇襲はどうでしょうか?」

 

うんうん唸っている中、公孫賛の後ろに控えていた趙雲が声を上げた。

 

「あら?公孫賛さん、そのお方はどなたかしら?」

「ああ、趙雲だ。家の客将でな」

 

そうして公孫賛が後ろへと顔を向けた。それに反応するかのように趙雲が礼をする。

 

「趙子龍と申します」

「そう。奇襲とはどういった風に行うのかしら?」

 

相手は砦の中に80000も居るのだ。しかも門は締め切っており進入しようにも変装していかなければ難しいし、女性が変装して行くのは正直、潜入しますよと言ってるようなものである。

 

それ程男の方が圧倒的に多い。……中に女性は確かに居るが。

 

「相手は烏合の衆。一日中監視をし、一番手薄な時間帯に少数精鋭で相手を掻き回すといった具合です」

「…ちょっと待ちなさい。いくらなんでも、そんな隙が出来るとは思えないわ」

 

曹操がその提案に否定をする。相手は80000。戦闘員が70000という大規模で見張りに穴があるのかと言われれば…黄巾賊の場合ある可能性はある。

しかし、今回に限ってはそれは絶望的だ。何故なら黄巾賊に将と呼べる人間が、あの砦のトップとして君臨しているのだ。

 

名は波才

 

彼は黄巾賊として確かに略奪行為を行っている。しかし、当初はこの国の腐敗を嘆いて立ち上がった人間の一人なのだ。この数ヶ月で名前を良く耳にするようになった将で、統率やその武勇は中々なものらしい。よって、確かに手薄の時間帯は現れる可能性は高いが、付け入る隙になるかどうかは分からない。

 

「……いえ、華琳様。趙子龍のその案、使えるかもしれません」

 

様々なシミュレートを行っていた荀彧が、机に固定していた視線を曹操の方へ向けて進言する。

その荀彧を見て、視線でもって続きを促す。

 

「はい……まずは地図をご覧下さい」

 

脇へと置いておいた地図をテーブルに広げた。

 

「何と」

 

趙雲が感嘆の声を上げる。そこには今回の砦の中身が簡単にではあるが記されていた。

そう、曹操が出した細作を利用しての情報集めである。此れには元黄巾賊を活用したのだ。

出入りは殆ど自由に行き来できる期間に放ってあるから、緊張感も無く簡単に内部が調べられたのは言うまでもない。

 

その情報を荀彧、諸葛亮、鳳統の三人でまとめて、地図へと起こしたのだ。

 

「砦の規模は非常に大きく、また補修も進んでおり堅牢です。壁には弓隊が張り付いており、その隙は小さいものとなるでしょう」

 

壁を指でなぞりながらそう説明する。この地図を見る限り、壁の上はやはり弓が有利に出来ており、賊を削るのも一苦労しそうである。

 

「その隙を大きくするのが今回の肝で、まず公孫賛様に砦の西側から騎弓隊にて襲撃を行います」

 

各隊の色が分かるように石にも塗装がされており、それぞれ地図上に配置する。

この砦は東西南北に門があり増援を待つには打ってつけの砦だ。援護が着たら複数の門から打って出れるので野戦に繰り出せる数も多くなる。

 

ただ、今回は援軍が繰るかは不明。

 

今の所砦からはそういった伝令兵は出現していないのが現状である。

 

「そうすると賊はある程度統率が取れていたとしても、そちら側に押し寄せるでしょう。何故なら指揮系統が整っていないからです」

「ちょっと待て、賊の将が居るという話だが、それでもなのか?」

 

指揮は通常であれば将がとり、軍を部隊を動かしていく。しかし、将が取るのは全体の方針である。

そこから細く各隊、個人個人に行き渡らせるにはどうしても、それらを纏める人間が必要不可欠。

そう、10人隊長や100人隊長である。今までの賊の行動を見る限りでは殆ど無陣で、そういった人間は確かに存在していたが、それでも少数であった。

 

例え将が居ても末端にまで命令を行き届かせるのは実質不可能なのである。

 

「はい。彼らには分隊長というものが数少ないです。よって、殆どは公孫賛様の相手を取るでしょう」

 

そうして石を動かす。

 

「その隙に東門に梯子を掛け、奇襲部隊が相手をかき混ぜ、内部を混乱させた隙に南門を開けて我ら本体が砦へと流れ込む。といった形です」

「成る程」

 

砦の中に入ってしまえば此方のものである。一人ひとりの戦力は此方が圧倒的に上であり、弓矢も本来の力が発揮し辛い程の近距離。

装備も此方の方が整っており、短期決戦は図れるし、将の首も上げやすい。

 

「あーら、それじゃあ、わたくしと華琳さんの軍で戦うのでして?しかも門も小さいですし、わたくし達の軍が華麗に進軍できませんわ」

「れ、麗羽様~。これが一番いいと思いますけど……」

「あたいは、暴れられれば何でもいいぜ」

 

しかし、納得いかないのが袁紹である。彼女の最初に宣言した作戦。それが彼女の肝なのだ。

そして何より、ライバル意識をしている曹操と一緒に入城するのは、袁紹の性格からにしてまずありえない。

攻めるのであれば堂々と一番に攻め入るのが、彼女の常勝手段である。

 

そんなあほらしい作戦でも成果を上げているのはひとえに、財力のお陰である。

お金があるから兵が買え、糧食が買え、装備が買える。金は力なのだ。

 

顔良は、流石にこの相手では袁紹の我侭は通していられないとは思っている。だからこそ、おずおずと忠言する。

文醜は言葉通りで彼女の性格は猪突猛進である。暴れられればいいのだ。

 

袁紹がその策を却下し、荀彧が若干厳しい視線を送りそうになったが、現在の荀彧がそんなことをすると、曹操の評価に傷を付けかねない。

内心袁紹に対して、罵倒を思う存分吐き出して、ぐっとこらえる。当の曹操も既に呆れ顔であった。

 

その時、曹操の隣の諸葛亮がおずおずと手を上げた。

 

「発言、よろしいですか?」

「あら、その方は?」

「はわわ、しょ、諸葛亮と申します。我が主、劉備様の軍師を勤めさせていただいております」

 

袁紹に当てられて、若干緊張していたのか、顔を少し赤くしながら袁紹に対して礼をしながら自己紹介を行う。

 

「それで、諸葛亮。何か策でもあるのかしら?」

 

曹操が興味深そうにその瞳で諸葛亮を射抜く。それを受けて若干怯んだが、ここで意見を言わなければ自分がいる意味が無いのだ。

 

「奇襲を二段構えに致しましょう」

「……成る程ね」

 

諸葛亮が提案し、荀彧がその一言で全てを理解した。

 

「へぇ…続きを」

 

にやりと曹操が諸葛亮を爛々とした目で見つめる。

既に彼女の才能には気付いており、是非自身の陣営にきて欲しいと勧誘をしたが、にべもなく断られてしまっている。

といっても、彼女の考え方は劉備に近しいものなので、半分冗談であったのだが。

 

それに、その時荀彧が嫉妬で人を殺せそうな程の目つきで諸葛亮を睨んでいたのは、曹操にとって嬉しいやらなにやらであった。

軍師としての能力は、恐らく諸葛亮が上だろう。それ程の鬼才であるのだ。

しかし、それでも曹操の子房は荀彧でしかない。その事を夜の蜜事でたっぷり体に刻み込んだのだ。

 

「はい。まず、袁紹さまの軍が華麗に正面から賊を叩き潰すのは変わりません」

「おーっほっほっほ!わたくしの軍は正面から華麗に叩き潰す軍。良くご存知じゃありませんこと」

 

口に手を当てて上品に笑う袁紹。それをスルーして地図の青と緑の石…つまり曹操軍と劉備軍の連盟軍の石を砦の北口へと移動した。

そこで袁紹と文醜以外の人間がその策の肝について理解できた。

 

「奇襲組みの人数を増強して、南と北に分かれます。北の方は西にて官軍が攻めてきたと情報をつかませれば、手薄になるでしょう」

 

黄色い石を動かして行くと、そこには手薄になった北門。そして北門の外には連合軍が待機している。

 

「さらに、南では袁紹様の軍が賊を叩くので、北はかなり手薄になる事は必須。よって、第二の奇襲が成功する運びとなっております」

 

地図上の石が公孫賛以外全て砦内に入り込んだ。その後、西からも公孫賛の石が入り込んで、作戦終了である。

それを曹操と公孫賛、趙雲、荀彧、顔良が真剣な眼差しで見る。

 

この軍は即席の連合軍である。連携は大まかにしか取れないであろうとは既に予想済みである。

 

では、この作戦を見てみよう。

まず、第一陣の公孫賛軍12000を率いて西の門から騎乗しての弓での攻撃。

 

この騎射に当たる技術はかなり凄い。

 

何故か?原因としてこの時代は鐙が開発されていない。よって馬上での戦闘は困難を極めるのだ。

 

馬の殆どは移動用や、騎乗できる人間が訓練をして漸く使い物になるほどで、馬自体のコストもかなり高い。

が、その性能は凄まじい。馬の機動力に弓の射程でヒットアンドアウェイを繰り返せるという、脅威の機動力。数が多ければ弾幕が厚くなり、より一層その力は増すのだ。

 

それを可能にしている公孫賛は「白馬義従」とも呼ばれている程である。

 

だからこそ今回の西の門でのヒットアンドアウェイで敵を挑発しつつ、しっかりとその数を減らし、尚且つ被害を最小限にまで抑えられるうってつけの部隊。

 

よって、第一陣は公孫賛しか居ない。

 

「そう……だな。うん。私たちの軍が一番槍を貰うとしようか」

「では、次に奇襲部隊ですな。如何致します?」

 

次に奇襲部隊。これは、各群の選りすぐりを選出し、1000以下の数での編成が条件である。

何故1000以下なのか。それは多すぎず、されど押しつぶされずに最適な上幾つか分かれて行動しなければならない。

故に簡単に班を決められる人数が一番丁度いいからだ。

 

役として暴れ役、城門を開ける役、賊に情報を出す役が必要である。

 

まず一番危険なのは暴れ役

此れは圧倒的物量を物ともしないで暴れられる傑物と組織的に動ける腕の立つ部隊が理想。が、一番死亡する確率があるし、策が失敗したら死が確定する

 

次に危険なのが城門を開ける役。少数の敵に見つかりながらも強引に開けれる人間が望ましい。

最後に情報を渡す役。これは北門の壁にいる兵士に情報を渡すので、口が巧い人間が望ましい。

 

何れにせよ、策が失敗すれば死が確定するのでどれも危険なのは間違いない。

 

「公孫賛軍からは私が行きましょう」

 

言いだしっぺの法則なのか、立候補したのは趙雲。しかし、順当である。

 

「私達の所からは…徐晃、夏候惇と許緒を推挙するわ」

 

戦闘能力が高い三人を曹操から推挙する。まず徐晃は確実に奇襲班に投入する。

恐らくにやっと笑いながら了解とか宣言する姿を頭の中に思い浮かべる曹操は、内心小さく笑った。

 

「それでは、劉備軍を代表しまして、鈴々しゃん…張飛さんと関羽さんを推挙いたします」

 

この二人ならばどんな局面も切り抜けられるだろうという信頼と、此方が献策したのだ。

それ相応の戦力を提供しなければ主の面子が保たれない。

 

「なら、麗羽様の軍を代表してあたい、文醜がその奇襲隊に入るぜ」

 

そして最後に袁紹軍を代表しての文醜。確かに彼女は戦闘力は高い。

だが、その隣の顔良は若干不安そうな顔で文醜を見て

 

「危険じゃないかなぁ…文ちゃん」

 

心配そうに呟いた。その事に反応した文醜は、顔良に飛びついて抱きついた

 

「わわ!?」

「もー!斗詩!大丈夫!絶対に負けないから!」

 

顔と顔を擦り合わせて、百合百合しい光景が広がっている。

 

「わかった、分かったから、離して~!?」

「まったく、猪々子さんと斗詩さんったら」

 

袁将軍が顔良を皮切りに和みムードに入ってしまった。

その光景を見てそっとため息を付く公孫賛。その姿は何故か似合っていた。

 

「進めてよろしいかしら?」

 

覇気の一部を垂れ流し、空気を硬くする曹操。その瞬間袁紹軍側の甘い雰囲気が吹き飛び、顔良が咳払いをした。そしてそれぞれ姿勢を正して、元の位置へと戻っていった。

 

「よ、よろしいわよ。華琳さん」

 

冷や汗をたらりと垂らし、曹操を見る袁紹。そして何処か気まずそうな顔良と文醜。

いくらなんでも、各諸侯が集まっている場であのような事は名家としてあるまじきことである。

…と言っても、やはり一番大きい団体なのでそこまで、まずい事とは思っていないが。

 

とはいえ、此れで進めると思うと曹操が威圧した甲斐があるというもの。

 

「それでは奇襲部隊につける兵数について、桂花」

「は!…まず徐晃には単体で動いてもらい、他の将の方々に兵士を付けましょう」

「異論はありません」

 

荀彧がまず前提となる徐晃は単体という事を宣言し、その隣の諸葛亮はそれに同意する。

 

「他の将には各150を付けて六つに分かれて潜入し、それぞれの役目を担ってもらいます」

「ちょ、ちょっと待ってくれないか」

 

重要な部分を決める前に公孫賛がそれに待ったを掛けた。

席を立ち、荀彧と諸葛亮、曹操の方へと視線を向ける。

 

「徐晃っていう将は単体で動かすって……捨て駒か何かなのか?」

 

若干怒気を浮かべている公孫賛。そう、彼女はそういったことはあまり好きではない。

捨て駒として扱うのなら、徐晃にも部隊をつけるか、奇襲隊から外すかしないと納得できないのだ。

 

「あら、問題ないわよ」

 

それをすぐさま否定したのは、徐晃の主たる曹操。その表情は自信が表れている。

そして公孫賛の後ろに控えている趙雲の目つきが少し変わった。

しかし、公孫賛は曹操の言葉を鵜呑みにしていない。

 

「その徐晃はあれか?敵陣のど真ん中で1000人以上も切れる人間なのか?そんなこと」

「あるわよ」

 

しんとなる軍議の間。曹操陣営以外はありえないと、胸中でそう思った。

……いや、一人を除いて

 

「……伯圭殿。曹操殿がこう仰られておりますし、問題ないでしょう」

 

その空気を破ったのは趙雲。そう、以前に徐晃との戦闘をした事がある人物だ。

まさかそれ程とは、と胸中思っていたが、彼女ならありえそうだとも思っていた。

それに曹操が自信を持って徐晃を評価しているのだ。曹操の気質からして、あれが嘘というのはまずありえないだろう。

 

「仮に嘘だとしても、困るのは曹操殿ですからな」

「ふふ…趙子龍といったかしら?貴方、面白いわね」

 

そこでしぶしぶ納得する公孫賛。

そして爛々とした瞳で趙雲を見る曹操。しかし、直ぐに袁紹へと視線を向け

 

「では、徐晃以外の将へ150人…合わせて900人。これらは腕が立つ部隊からの選抜を薦めるわ」

「そうですわね。…斗詩さん。後で選抜しておくようにお願いしますわ」

「わかりました」

 

袁紹も承諾し、顔良へ手配をするように指示する。

その後、公孫賛軍と袁紹軍、同盟軍の大まかな動きを確認した。

 

「それでは、今回の軍議はこれにて締めさせて頂きますわよ。解散」

 

袁紹がこの軍議を締め。各々が軍議用の天幕から出て各陣営に散っていった。

その中で曹操は今回の戦に関しての対策不足、そして乱についての規模の大きさの認識不足を改めて実感した。

 

何故ならたかが農民や賊の集団に対して将と称される人間が、それも一級品の傑物が頭をつき合わせて策を練らなくてはならなかったのだ。

今回の乱は必ず鎮まるだろうとは確信している。何故なら曹孟徳や英雄が動いているからだ。その結末は揺ぎ無い。

 

しかし、これからの戦を考えるとやはり少し舐めて掛かっていたのかもしれない。

 

まず、攻城に対しての対策が遅れている点だ。

 

梯子をかけて奇襲は確かに効率がいい。しかし、それには前条件がある。

そう、武に自信がある人物が多く存在していないとその選択肢は取れないのだ。

曹操軍のみを見てみると、まず徐晃、夏候惇、許緒が曹操よりも強いといえる人物だ。

 

しかし、この三人だけでの奇襲は恐らく失敗するであろう。

それ程城に対しての奇襲は危険が付きまとうのだ。それに、賊以上に警戒が強い正規軍に関してはこの策は取れない。

 

そこで城を攻略する方法を改めて考える。

 

まず一つ目が正攻法。つまり、人数で圧倒するということだ。大群でせめて落とす。これが一番楽だし、相手の策すらも飲み込めるほどであろう。

どんな奇抜な策でも大人数の前では将や兵士が思い通りに動くことは至難であるのだ。

 

次に曹操が最初に述べた、挑発しておびき寄せ、野戦で叩くということ。これが現在一番使えるものである。

 

最後に、攻城兵器での戦闘。正規軍相手では挑発に乗ることはまず無いと見る。そこで強引にあぶりだす為の攻城兵器だ。

幸い、李典がこういった物作りに光るものがある。何か案が無いか聞いてみるのもいいかもしれない。

 

そう考えながら荀彧と諸葛亮を率いて自陣へと戻っていった。

 

 

 

 

 

 


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