【習作・ネタ】狂気無双   作:モーリン

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22話

 

各々の陣営に戻った諸侯は、将達に今回の作戦を伝えた。

 

決められたことなのでスムーズに人事が決定され、後は砦内に入り込んだ際、いかに賊の将の首を上げるかである。

この連合で活躍しても殆ど袁紹の名声へと繋がる。しかし、将を倒した人間が名乗りを上げれば、その軍の株が上がる。

だからこの天幕内には曹操軍しか居ない。

 

劉備軍は劉備軍で、どう攻略するかを諸葛亮中心に策を組み立てている状況だと思われる。

そして、綿密に誰がどう動くかを決めて、劉備と会い、奇襲組みと分かれて砦の北部8里程の所で陣を敷いたのだ。

 

袁紹は砦南に3里程の所で既に陣を敷いて何時でも突撃できるよう待機している。

これは相手への威嚇である。西からの公孫賛に向かって門が開き、そこから圧倒的な物量で押しつぶされないように

あえて袁紹の軍を見せ付けて、警戒心を高めているのだ。

 

 

 

 

 

「さて、あたいらはここら辺での待機だな」

 

豫州の北部にある、波才率いる黄巾賊80000を擁している砦の東門から東に5里の所で小さな陣を張っている。

人数は907人。各陣営から選りすぐりの傑物を筆頭とする小さな部隊である。

しかし、各々正に一騎当千の力を持っている者が7人。その他の精鋭も実力者揃いの者たちだ。

 

「ふ、関羽。我が武の前ではお前の活躍の場は無いぞ?」

「笑止。夏候惇こそ、私についてこれるか心配だ」

 

そう、実力者揃いだがそれぞれ個性がありすぎて、兵士の統率は困難なのではないのかと、一歩外にいる趙雲がそう思った。

関羽と夏候惇は何故か反りが合わないらしい。いや、関羽は曹操に対して形だけの礼儀しかとっていないから、確かに夏候惇とは反りが合わないだろう。

しかし、戦闘スタイル…というより、軍の統率や武力が殆ど一緒な力である為、何度か小さい衝突を繰り返していたのだ。

 

「お前みたいなちびには負けないのだー!」

「なにおー!わたしもちびっこなんかに負けないよ!」

 

そしてここにも反りが合わない人物が二人。許緒と張飛だ。二人とも大食いで武力も若干張飛が強いが、状況判断は許緒の方に分がある。

互いに互い一歩も引かずに額をつき合わせて威嚇している。彼女達も軍を結成していた当初から同じキャラをしているからなのか

お互い嫌っている…とはまた違う。そう、ライバル意識を持っているのだ。

 

「趙子龍」

 

一歩外でそれらを眺めていた趙雲に声が掛かった。趙雲はその声に聞き覚えがある。そう

 

「徐晃」

 

にやりと、口を歪ませて声がしたほうを見る。そこには、黒い髪を風に靡かせている徐晃。

あの日見た姿よりも少し成長し、大人に近づいた美貌を誇っていた。

腰には二振りの刀。以前戦ったときは一振りしかなかったが、趙雲は余り気にしていない。

 

どんな武器を使おうとも徐晃は強い

 

それは揺ぎ無い事実である。そして曹操が自信を持って彼女を単機で薦めるほどの実力なのだ。

 

「久しぶりですね……あの後、大丈夫でした?」

 

その言葉にきょとんとする趙雲。

意外という言葉がぴったりなほど、昔の徐晃から出るとは思えない言葉。

そして趙雲の表情に若干驚いたのか、逆に徐晃が一歩引いている有様だ。

 

その事にクスリと笑みを零した。

 

「ふ、問題無い。…しかし、その次の日に川から死体が複数流れてきたのだが」

「ああ、それは私です。何か強姦されそうになったので、つい」

「……」

 

気持ちは分からないでもないが、彼女の腕前であれば殺さずに済んだ筈…と、考えたがそれは無いと考えることを諦めた。

そう、彼女は殺人快楽者なのだ。

 

あの時の戦闘風景が趙雲の脳裏でフラッシュバックされる。

 

徐晃の剣を受けていた時、女性の助太刀が無ければ恐らく今この場に居ない。

 

今の実力はどれ程なのか、それを見るのに絶好のチャンスなのだ。

何より今は味方で、共に賊を倒す戦友である。以前襲われた事を忘れて徐晃を見た。

 

「……此度の戦。宜しく頼むぞ」

「…此方こそ」

 

互いに右手を差し出して握手をする。その胸に秘めている思いはそれぞれ違う。

しかし、目標は一緒である。賊の討伐だ。相手は強大である、ならば手を取り合ってこの状況を切り抜けなければならない。

 

…そう、違う軍にいる限り何時か必ず来るのだ……殺し合いが

 

にやりと互いに笑い合う。生きるか死ぬか。それは神のみぞ知る事であった。

 

「あーもう!お前ら!もうちょっと緊張感をもてよ!」

 

各々で行動を起こしている様を文醜が空へと叫びながら、内心顔良に助けを求めながら時間は過ぎ去っていった。

 

 

 

 

 

そして一陣の風が、東側の門へ奇襲を掛ける者たちに届いた。

 

「……来ます」

 

風が来た方向を向く徐晃。そしてその一言が全員の鼓膜を打ち、隊列を一瞬で整えた。

全員分かっているのだ、自分達が成功させなければこの策は成り立たないと。そして、主の顔に泥を塗りかねないのだと。

 

その数瞬後に砦の付近に潜伏していた斥候兵が走ってきた。

 

「伝令!西側より公孫賛軍が攻撃を開始しました!作戦決行です!」

 

その言葉を聴いた瞬間に文醜が静かに合図を出して、全員で草原を駆け始めた。

この作戦は時間が勝負。公孫賛が力尽きても駄目、誰かが反対側の砦へと守備につき始めたら困難になる。

そう、一秒も無駄には出来ないのだ。

 

徐晃もそれには気付いており、全員と同じペースで草原を音も無く駆ける。

だが、彼女には事前にある条件の下で単機での突撃を言い渡されている。その件については勿論、了解の二つ返事である。

 

そして徐晃の懐には、短剣が4本。

 

ぐんぐん近づいて来た砦の壁の上には数十人の見張りが確認された。

 

「おい、何かこっち来てるぞ?」

「ああ?…は!あんな少数でこの砦に対して何が出来るんだ?……構えろ!報告するまでも無い!」

 

最悪の展開であるが、既にその事は予期していた。

相手が弓を構えた瞬間、徐晃が気を使って爆発的な加速を行い、風を切るように直進する。

後ろから驚きの雰囲気が出ていたが、それはすべて無視である。今は一刻も早く壁に取り付くのが先決である

 

「一人突出してきました!…は、速い!」

「馬鹿やろう!怯むな!矢を放って殺せ!」

 

そして一斉に矢が徐晃に向けて放たれる。徐晃の耳に風を切る音が聞こえたのと同時に抜刀し、中る矢だけを全て切り落とした。

僅かな金属音。そして切れる矢。相手がまた攻撃する前に、一瞬で納刀し懐から短剣を取り出し、壁に向かって一本一本素早く投げる。

 

気で強化された短剣は見事壁に突き刺さった。

そして刺さった短剣を足場にして壁の上へと一瞬で駆け上がる。

 

「何!?ば、ばか」

 

徐晃の真上にいた指示を出していた賊が彼女の視界に入った瞬間

最後まで言葉を発せられずに首を掻き切られた。

 

「ひぃ!?」

 

壁の上には目算で120人程度しか賊は残っていなかった。そして壁の下には見た限りでは賊があまり確認されていない。

いや、居るには居るが、全員反対側の西側へと向いており、此方へは気付いていない。

それもそのはず、この砦自体80000も収容できるほどの規模がある。かなり大きいのだ。故に声は近くに来ないと届かない。

 

だが、それも時間の問題である。

 

「ふふ…」

 

数日ぶりの殺人の感触に徐晃は自然と笑みが零れた。そして、もう一振りの刀を抜刀したと同時に、離れた所で逃げようとした賊を斬った。

そう、気での斬撃である。徐晃のそれは殆ど見えない。が、そこまで射程距離は無いのでこういった場しか活躍の姿は見れないのだ。

しかし、相手はその事を知らない。徐晃が刀を抜刀したら後ろの味方が死んでいたという、悪夢のような出来事が目の前で起こっているのだ。

 

「あー、やっぱりこれは好きじゃないなぁ」

 

クスクスと笑いながらそう語る姿は美しい。しかし、恐ろしい。

にやりとその威圧感で一歩も動けない賊に対して笑みを送り、音も無く全員の首を刎ねた。

 

その光景を下から見ていた趙雲はあの時より遥かに洗練された動き、気の扱いを感じた。

そう、自身も強くなったと自負していたが相手はそれ以上。距離は縮まる所か、開いていると直感的に悟った。

 

「ふ…そうでなくては……梯子を掛けるぞ!我々も遅れを取るなよ!」

「「は!」」

 

そして二番目に壁へと取り付いた趙雲隊が梯子を掛けて、駆け上がる。

 

駆け上がった趙雲が見た光景は、地獄絵図であった。

賊は縦横無尽に駆け巡る黒い影に全て惨殺されて続けているのだ。

その中心には見たことも無いような血風が吹き荒れていた。その事で一瞬だけ気を取られていたが、直ぐに気を取り直し

 

「趙雲隊!全て壁へと上がったな、では我らは北門へと参じ、同盟軍の道を開けに行くぞ!」

「「は!」」

 

がらんとしている東側の壁の上を伝って北門へと、予定通りゆっくりと進軍していく趙雲隊。

そう、まずは南門から開けないと奇襲にならない。だからこそ、時間差がはっきり出るように慎重に進軍していくのだ。

 

「く!遅れたか!?夏候惇隊!このまま奇襲を賊に仕掛けるぞ!全員、一人もやられるなよ!」

「「応!」」

 

趙雲が北側へ進軍した直後に夏候惇隊、関羽隊、張飛隊、許緒隊、文醜隊が順番に到着した。

 

「文醜隊、姫様の軍をこの砦へと招き入れるぞ!進撃開始!」

「「はは!」」

 

文醜隊は南門の開門だ。そして南門と北門には戦力確保の為と、万が一に備えてそれぞれ一つの隊が一緒に行く手筈になっている。

 

「うにゃ!?趙雲隊が既に移動を始めているのだー!続けー!」

「「はっ!」」

「ちびっこに負けるわけには行かないよ!文醜さんの隊に続け!」

「「了解!」」

 

許緒隊と張飛隊がそれぞれ南と北に分かれて進軍するのだ。

それぞれ本体を招き入れたら用意されている自分の隊を率いて砦内へと侵入し攻撃するという段取りなのだ。

 

「関羽隊!我らも賊を討つため奇襲を仕掛けるぞ!突撃だ!」

「「おお!!」」

 

壁に備えていた階段を一斉に駆け下りて砦に奇襲を仕掛ける。

本格的な奇襲組みは徐晃、夏候惇、関羽の三隊である。

その中の夏候惇、関羽は砦内部の浅いところに奇襲を仕掛けて相手を混乱させる役目だ。

 

徐晃は砦の外に張り付き、片っ端から賊を切り刻んでいくのが役目である。

これは夏候惇、関羽の退路の確保も兼ねているので、かなり重要であるが

 

「ほらほらほらほらぁあ!」

 

嬉々として、賊達をその二振りの刀で無慈悲に殺していく徐晃。

二人の隊が砦入り口へと入る前に殆ど掃討されており、入り口から少し入ったところも既に死体の山であった。

 

それを尻目に二つの隊は砦内部へと侵入した。

その砦内部は広い。700は軽く入る部屋が出入り口正面にあり、そこまで二つの隊は進軍し賊を迎え撃つ。

奥からわらわらと賊が二人の隊目掛けて駆け込んで来るのが視界に入った。

 

「…ふ、怖気付いたか?関羽」

 

その光景を静かに見つめている夏候惇とその部隊。

…いや、既に二つの部隊が一つの部隊のように展開している。

 

「まさか。そちらこそ、恐怖で足を引っ張るような事はしないで頂きたいものだ」

 

青龍偃月刀を静かに構えて賊を迎え撃つ心算である。

この程度の賊達にやられる様では、劉備の志についていけない。

 

迫り来る賊の大群。その数は1000はくだらないであろう。その後ろからも賊が来ているのが分かる。

しかし、一歩も引く訳には行かないのだ。

 

「……夏候元譲」

「……関雲長」

 

すらりと賊へと向けて臨戦態勢に入り、気勢が静かに高まっていく。

二人を中心に音が無くなる。極限まで張り詰められた覇気に自然と兵達も呼応した。

 

あともう少しで賊が彼女達の陣が影響を及ぼす範囲へと入る。先頭の賊がその範囲へと足を上げて、地へつく寸前に

 

 

その張り詰められた覇気が……

 

 

 

「「参る!!」」

 

 

 

爆発した

 

 

 

一気に賊達の懐へと入る夏候惇と関羽。互いに牽制しあってきた仲なのだ。

そしてライバル意識を置いていた仲なのだ。その呼吸は正に阿吽であった。

 

関羽がその武器を振ると同時に、夏候惇は無意識に範囲外へとステップして敵を横凪に切りつけ、一気に三人を切り殺す

 

「3!」

「ふ、此方はもう5だ!!」

 

返す刀で賊達に対して斜めに切り上げる関羽を尻目に、夏候惇は突き出された槍を一歩斜め前へ踏み込み、流す。

槍を繰り出した人物と周りの人間を七星餓狼で絶命させていく。

 

「7!」

「9だ!」

 

互いに暴風を巻き起こして、殺した数を競う。リーチ差で勝っている関羽に若干のリードを許している夏候惇だが、そうは問屋が卸さない。

更にギアを上げて敵を殺す速度を徐々に上げていく

 

「ふん!13!」

「ちぃ!?12!」

 

その速度を見て舌打ちをする関羽。内心はその討伐速度に歓喜していた。

これほどの武を持つ者と肩を並べられる機会はそうはないのだ。

 

「どうした!ついてこれぬか!?」

「ほざけ!」

 

自然と笑い合う二人。

二人の武が共鳴しあい、無双が始まる。既に二人を止める術は存在していない。

互いに競い合い、主の為にその武を振るっているのだ。

 

しかし、今現在二人の胸中を締めているのは只一つ

 

「「負けてたまるかぁあああああ!!」」

 

極限まで高まった士気で夏候惇、関羽を中心に凄まじい戦果を着実に上げていった。

 

 

 

 

 

 

 

「でやあ!」

 

砦南門付近。文醜隊と許緒隊が獅子奮迅の活躍をしていた。

視界の端で捕らえている徐晃のお陰でそちらにも兵士が流れていっているのは幸いであったが

それでも南門付近は数多くの賊が未だ残っていた状況であった。

 

「は!文醜様のお通りだ!どけええええ!!」

 

文醜もその大剣で賊をばっさりと切り殺しており、袁家の武を代表する力が存在しているのを証明していた。

だが、許緒も全く引けをとらない。いや、許緒は此れまでの人数的に考え、圧倒的な不利の戦闘をこなしてきたのだ

その経験を生かして自然に身についた立ち回りで、敵を葬っていく。

 

許緒の素の怪力は徐晃と謙遜無い。気での肉体強化をすれば徐晃の方が確かに強いが、それでも追随するほどの怪力だ。

その怪力から繰り出された鉄球は数多の賊をスプラッタにしながら葬っていくが、その勢いは留まることを知らない。

重量物が風を切る音と、賊の断末魔が当たりに鳴り響いている。

 

「許緒将軍の後ろを守るぞ!」

「「「おお!!」」」

 

そして兵士の連携。親衛隊に選ばれるほどの者たちで固めた許緒隊を抜くのは賊にとって至難である。

 

更に

 

「あたいらも負けてらんねーぞ!気勢を高めよ!一気に南門まで賊を突き破るぞ!」

「「おう!!」」

 

金色の鎧で身を固めている文醜隊。その姿が相まって相手に威圧感を与えながら無陣をぐいぐいと食い破るように進撃していく。

その傷口を広げるように許緒隊が縦横無尽に賊を吹き飛ばしているのだ。

 

「くそ!化け物共が!!止めろ!奴ら外の軍を呼ぶつもりだぞ!」

「でも、西にも軍が攻めてきてるぞ!?そっちはどうするんだ!!」

「知るか!!」

 

そして、彼女達のその進撃に恐怖を抱き、さらに南門の弓の射程外だが直ぐそこには大部隊の袁紹軍

西の門は既に公孫賛軍に取り付かれているのだ。混乱しないはずが無い。何より

 

「くそ!くそ!何時の間に入り込んできやがってたんだよおおお!!」

 

一人の賊がそう叫びながら許緒へと切り込んでいく。しかし、無慈悲にもその頭に鉄球が勢い良く当たり、頭蓋骨が砕け散りその生命も砕けた。

そう、賊にとっては警報も無しにいきなり本陣に化け物のような強さを誇る人間を筆頭に、賊が一人二人同時でやっと拮抗できる

人間が百以上も部隊を成して進撃してきているのだ。

 

「皆!一人では対応しないで二人で対応するように!決して命を無駄にしちゃ駄目だよ!!」

 

叫んだ賊の頭を打ち抜き、周りの賊もそれに巻き込んで壁へと吹っ飛ばした許緒が部隊へ檄を送る。

その横で文醜も奮闘しており、互いに背中合わせになった。

 

「やるな!」

「そっちこそ!」

 

一言交わす。それだけで互いの呼吸を理解し、あわせられる。

合図も無く二人で賊に飛び込んで旋風を巻き起こすその姿は、正に圧巻だ。

 

「どけどけぇい!袁紹軍の武勇とは、この文醜にある!その事を地獄で語り継げ!!」

 

二つの部隊が槍となり、南門へ向け一気に進軍を開始した。

立ちはだかる賊を文醜と許緒が叩きつぶして行き、血路を切り開き、荊の道を兵士達が続く。

 

「よし!南門を開門しろ!その間許緒隊と合わせて敵を寄せ付けるな!!行くぞ!!」

「「「おおおおお!!」」」

「許緒隊!文醜隊に合わせて動いて!行くよー!!」

「「「おう!!」」」

 

門に取り付いた二つの隊は予め決めていた門を開ける作業班を使う。その間彼らを死守しなければならない。

故に自然と方円の陣を敷き賊から彼らを守るように動いた。

 

わらわらと襲ってくる賊を斬っては投げの奮闘を維持し、時を待つ。

 

そして

 

「開門!開門!!」

「でかした!」

「やったぁ!」

 

重厚に開かれる大きな門の先に見えるのは黄金の軍隊。そう、袁紹軍である。

 

「壁の上を弓兵が集まる前に占領するぞ!その後本体と合流し敵を殲滅する!」

「許緒隊!袁紹隊にいるわたし達の兵士と合流して敵に当たるよ!」

 

二手に分かれて矢のように目的に向け各隊が走り出した。

ここまで半刻程度も経っていない。まさに奇襲と呼べる攻撃が今成ったのだ

 

そしてそれを待ちに待っていた黄金の軍隊。

 

「おーっほっほっほ!ここまでお膳立てしてくれた皆さんに感謝ですわ!袁紹隊!華麗に進軍ですわ!」

「皆!麗羽様に続いてー!我らの力を賊に刻みつけよう!」

「「「おおおおお!!」」」

 

そして黄金の部隊の進撃が始まった。その数は27000。内2000が許緒隊の人員である。

規律ある進軍は地鳴りを響かせながら賊を飲み込む勢いだ。その姿に賊は圧倒された。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「西門に軍が来たぞ!」

 

北門からそう声が上がった。その場にいる賊の数は少ない。何故なら

 

「ああ、分かってる!今から援護に行くから先に行ってろ!!」

 

そう、既に西に軍が来ていることは賊の中で知らないものは居ない。しかし、奇妙だと声を発した賊がそう思った。

既に周知されている事をわざわざ声を張り上げて此方に伝えてくるのか?と。

 

「…おい、お前だれ」

「悪いが、先に逝ってもらおうか」

 

言葉半ばにその意志が途絶える。崩れた賊の後ろから姿を現したのは趙雲。

槍を首に向かって神速をもってしての一閃であった。静かに地面へと投げ出された為、周りにまだらに居る賊は未だ気付いていない。

そう、策は順調に進んでいっているが、それでも全ての人間が西へと集中するわけではないのだ。

 

ただ、その策のお陰で趙雲と張飛筆頭とした二部隊で対抗が可能な人数まで減っているのも事実。

 

ひっそりと砦の影に潜伏していた二つの部隊。張飛隊と趙雲隊が賊が崩れ落ちたのを皮切りに一斉に飛び出した。

 

「……ん?おい!後ろから軍が来てるぞ!」

「何!?は!あんな少数で、馬鹿が!」

「女がいるぞ!捕らえて楽しもうぜ!!」

 

先頭を疾走する趙雲を視界に納めた賊が下世話な事を叫ぶ。

にたり笑みを作る賊が一気に趙雲へと殺到したが。全員閃光に阻まれ、散っていった

 

紅い血潮が散っている中、賊を冷たい目で見下ろす趙雲

 

「…生憎、私は高いぞ?……尤も、もう聞こえんだろうがな」

 

ぞっとするような冷たい声で既に聞こえていない敵にそう吐き捨てた。

そして空気を入れ替えるように視線を上げ

 

「全軍!北門を占領するぞ!その後南門からの伝令兵を待て!合図と共に開門するように準備を怠るな!」

「「はは!!」」

 

その声に呼応するかのように奥から残っていた賊の大群と、砦から疎らに敵が趙雲と張飛隊へと掛けて来る。

 

「賊め!鈴々がお前達をやっつけてやるのだー!!」

 

張飛が突貫し、敵をその大きな蛇矛を手足のように操り、切り刻んでいく。

しかし、流石に物量が多く、中々減っていかない。このままでは直に押し切られるのは明白だ。

その事を見逃す趙雲ではない

 

「全軍!張飛隊を援護するぞ!続け!!」

「「「おおー!!」」」

 

その鼓舞と共に趙雲も張飛が暴れている領域へと神速をもって踏み入れ、隙を窺っていた賊を数人一気にその槍で吹き飛ばす。

 

「ぐあああ!?」

「あああああああ!!」

 

断末魔を上げ、他の賊達を巻き込みながら吹っ飛んでいく様を冷静に見つめながら、その神速の槍捌きで次々と敵を葬り去っていく。

その後ろでは張飛が孤軍奮闘しており、正に暴風と表現しても差し支え無い程の勢いで武器を縦横無尽に振り回し、賊を掃討していっている。

 

「おりゃおりゃおりゃー!次の相手は誰だー!!」

 

人が吹き飛ぶ光景が賊の目の前に広がり士気が下がり、逆に味方にとって何と頼もしいお方だ。という認識を抱き、自然と士気が高まる。

暴れていた張飛が趙雲の存在に気付き駆ける、そして趙雲も張飛に向かって駆けて

 

そのまま交差して互いの背後の賊に一閃。

 

背中合わせになり、互いの呼吸を確認する。どうやらお互いまだやれそうである。

 

「お姉さん、すっごい強いのだ!」

「ふふ、貴殿こそ力溢れる槍捌き…この趙子龍。感服致したぞ」

 

にひるに笑い二人を中心に囲んだ賊を見る。奇しくも張飛も同じ表情をしていた。

 

「何か、すっごい呼吸が合うのだ!…どこかで一緒に戦ったことあったかなー?」

「口説き文句には……まだ早いと思われるぞ、張飛殿!」

 

その言葉と共に二人同時に飛び出し、暴れまわる。北門は南門に兵が集中するまでの間に門を制圧。

もしくは、何時でも連盟軍を砦に招き入れる手筈を整えることが目的だ。

 

「我が槍の妙技!冥土の手向けにしてやろう…掛かって来い!!」

「おりゃー!鈴々の蛇矛の錆になる奴は前へ出てくるのだー!!」

 

二人の奮闘を眼にし、精鋭部隊も気勢が高まり、動きが洗練されていく。

目の前に武の極みに達している人物が目を見張るような働きをしているのだ、武に精通しているものであればわくわくするだろう。

その感覚を胸に灯し、相手を殲滅せんと自身の武技を信じて、前へ。

 

「門を死守しろ!相手に慈悲を与えるな!その武技で尽く食い破るぞ!」

「「「おおおおおお!!」」」

 

二つの隊が一つになった瞬間であった。

完璧な阿吽の呼吸で武の旋風を巻き起こしている趙雲と張飛

それに呼応するかのように軍勢も勢いを増す

 

「くそ!化け物か!?」

 

一人の賊が彼女達を遠巻きに見ながら冷や汗を垂らしていた。

あそこの領域に片足でも突っ込んだら確実に死ぬ。そう悟っていた。

その賊の後ろから一人の男が走ってきた

 

「おい!南の門から官軍が!?」

「何!?…ちぃ!やはり此方が囮だったか!…おいお前ら!南が本体だ!こいつらは囮だぞ!?」

「くそ!官軍共め!」

 

遠巻きに見ていた賊が次々と南門へと走る。目の前の惨状を見れば、殆どの人間はそう行動するだろう。

賊にとってはまるで悪夢のような光景だ。昨日一緒に女を犯していた人間は既に紙くずのように真っ赤になりながら大地へ身を沈めている。

それらの光景が至るところに存在しているのだ。そう、普通の人間なら挑みたくないのだ。

 

「へ、ありがとよ。じゃあ俺らもあんな化け物な」

 

走ってきた男に最後まで言葉を発しようとして、腹に灼熱の何かが通り過ぎた。

見ると陽に反射して輝く白刃の刃。灼熱だと感じたのは己の血液。

 

「ぎゃあ!?……き、きさ」

 

一気に引き抜き、首へ剣閃を走らせた。そして賊の首が宙に舞った。

男は血を振り払い、趙雲が戦っている領域へと足を踏み入れ、賊を切り殺しながら近づく

そしてその身に纏っていた黄巾を捨て去り、口を開いた

 

「伝令!南門より袁紹軍が内部へと侵入成功致しました。北門を開放し、総攻撃を仕掛けよとのこと!」

 

その男は細作の任務をこなした連盟軍の伝令兵であった。

賊の挙動に気を付けながら趙雲に最後の伝令を伝えた

 

「分かった。北門を開門せよ!ここが正念場だ、遅れるな!」

「「はは!!」」

 

ゆっくりと開いていく北門。その先には既に陣を敷き終えている連盟軍。

青と緑のその軍隊は数多の賊軍を排除している歴戦の軍隊。この大陸でも屈指の実力を備える者たちだ。

その先頭に金色の髪と桃色の髪の女性が二人。そして光り輝く男が一人。

 

「漸く出番ね…劉備、後ろへ下がっていなくていいのかしら?」

「問題ありません。何故なら私は劉玄徳ですから。それに、鈴々ちゃんと愛紗ちゃんが一生懸命戦っている。それだけで十分!」

 

すらっと差していた宝剣を劉備は引き抜いた。

太陽の光に反射されて光り輝く刀身は曹操が厳重に保管している宝剣となんら謙遜無い程の業物であると見抜く。

しかし、それ以上に光っているのは劉備のその瞳。信念に燃えるその意志は、曹操をもってしても素晴らしいの一言である。

 

「俺も前線で士気を維持する役目に回るよ」

 

光輝いている衣服を間とている男、北郷一刀は手に剣を携えながら劉備を見て頷く。

 

「あら、ここは男として前線で活躍する。とは言わないのね」

「ああ、分は弁えてるつもりだ」

「結構」

 

にやりと、曹操は笑みを作る。最初は疑り深い男だけという評価だが、彼から出る提案は正に眼から鱗のような新しいく、されど洗練されたようなもの。

天の御遣いの称号は伊達ではなかったのだ。また、自信を誇示する事を必要最低限に留め、ここぞという時に前線へと出るその勇気。

 

だが、まだ甘い。

 

しかし、それは誰でも歩く道筋。誰もが甘い道を通り誰もが現実を知り、乗り越えていくのだ。

 

視線の先の北門が重厚な扉をゆっくりと開いていく。その中、曹操が数歩前へ出て軍の方へ振り返る。

そして、手に携えている「絶」を天へと掲げた。同盟軍の誰もが曹操の覇気に触れ、その動向を見守るように姿勢を正し、曹操を見る。

 

「聞け!同盟軍の諸君達よ!第一陣の公孫賛に始まり、第二陣の決死の奇襲戦。どれも綱渡りの状況を見事、袁紹軍へと渡してくれた。そして最後の幕引きは我らの役目である。

全員武器を引きぬけ!気勢を高めよ!その武勇を下賎な賊どもに叩きつけ、大陸に我らの怒りを轟かせろ!!平和を脅かす黄巾の賊に地獄への引導を渡す時よ!…全軍、突撃!!」

「「「「「おおおおおおおおおおお!!!」」」」」

 

完全に開門したのと同時にその手の絶が振り下ろされ、覇気が風となり砦へと運んでいった。

 

ここに英雄が立つ。黄金の髪を風に靡かせ、瞳が爛々と輝きを見せる。そう、此れこそが曹孟徳。

 

曹操の覇気に曹操軍、劉備軍全軍が呼応し、天にまで届かんとする雄たけびを上げながら一筋の龍が砦を食い破る勢いで猛進する。

地鳴りは何処までも響き、数里先の砦の中にいる趙雲と張飛の耳に入るほどである。

 

「……あれが、曹孟徳」

 

北門を占領した趙雲が一つの巨大な生物となって砦へと進軍してくる同盟軍を壁の上で見ていた。その様を見た賊は既に砦の内部へ逃げている。

気持ちは分かると趙雲は思う。あれほどまでの覇気。覇王を名乗る人物は正に王と呼ぶに相応しい気風を持っている。

覇気の風に当てられて、趙雲隊、張飛隊も士気が極限まで高まっているのだ。

 

「…趙雲隊!同盟軍が砦へ進入次第、本体と合流し敵殲滅に当たるぞ!」

「「おおー!!」」

「鈴々の隊も本体と合流して桃香様とご主人様の安全を確保するのだー!」

「「はは!!」」

 

二人の隊がそれぞれの方針を伝えて、彼らの到着まで目に付いた賊を討伐していった。

 

彼らの命運は、今日、この日に尽きるのが天命であった。

 

 

 

 


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