【習作・ネタ】狂気無双   作:モーリン

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24話

 

 

 

 

先日の大規模な黄巾賊を討伐して一週間。同盟軍も陣を引き払い、賊を倒し、その近くの町へと駐屯を決めた。

人数は16000と、当初から徴兵を行って人数を保っていたが、先の戦闘で2000も減ってしまっている。

故に、この先確実に控えている最終決戦に向けて、各々陣営で徴兵を行うのだ。

 

だが、現状劉備軍は治めている土地が無い上に、スポンサーも少ない。故に徴兵一つでも一苦労なのだ。

調練は関羽、張飛が付いていることもあり、錬度が高く纏まっているが、それ以前の段階での問題だ。

故にそこ徴兵は集まった人間がどの陣営につくかをある程度、公平にするように分ける。

 

…尤も、各町へと行く劉備軍の将にも徴兵を行ってもらうが。

 

徴兵のほかにも、兵士の娯楽、息抜き等の休日。更に物資の確保や調整、武具の修理など、やることは盛りだくさんだ。

 

やることが沢山あっても、将にもちゃんと休日というものが存在している。

 

「あー…いい湯だ」

 

その休日を謳歌するものが真昼間の街の宿の、大きなお風呂の施設内に一人。長い黒髪を後ろで縛ってアップにし湯につけないように配慮し

布を畳んで頭の上に乗せている。豊満な胸を湯に浮かべ、湯船に足を伸ばしてリラックス状態の徐晃である。

 

長い遠征は心身ともに疲労が蓄積していくのは必須である。それに、女性であれば一週間に一度は絶対に風呂にだけは入りたいのは真理である。

無論、徐晃もその例に漏れず、久しぶりの休日に久しぶりの湯を楽しんでいるというわけである。

ここで、お酒が好きな人物であれば酒を用意して飲みながら長湯するという、乙な嗜み方もあるだろうが、徐晃はそこまで酒が好きでは無いので、何も持ってきていない。

 

現在この大きい風呂の中には徐晃一人しか居ない。それはそうだ。真昼間から入る人間は殆どいない。

いや、この状況で真昼間から入る人間は、徐晃くらいしか居ないだろう。いくら休日だからと言って、出陣が無いとはいえないのだ。

しかも昼間だとその出陣する可能性が飛躍的に上昇するのだ。他の人間が見たら何をやっているのだと言われるに違いない。

 

だが、徐晃はそんな細かいことは気にしない。軍の編成は夏候惇と于禁。政は荀彧が筆頭で、夏候淵、李典など。楽進は警邏の仕事を行っている。

楽進は非常に正義感も強い一面を持っている。故に天職というべきか、警邏隊長に任命された日から張り切って、街の治安維持を勤めているのだ。

 

徐晃は他の人の手伝いや、本当に小規模の1000人位まで賊討伐が主である。

 

徐晃一人だと、対応が物凄く早い。俊馬を駆り100里以内。つまり、街を中心とした半径40キロメートルの小規模な賊討伐なら、一日で片付けるのだ。

それに、徐晃には曹操軍を名乗るように言いつけられており、評価も順調に上がってきている。また、徐晃の名も売れ始めてきているのだ。

しかし、当の徐晃は名が売れ始めていると聞いても、全く興味を示さない。何故なら彼女はそんな名誉欲は欠片も無いからだ。

 

徐晃は湯を両手で掬い、透明なお湯をじっと見つめて意味もなく、投げる。彼女の気分転換は此れでいいのだ。

体を休める。これは徐晃の殺しにも重要なことなのだ。何故なら疲れた体での殺しは余りすかっとしないからだ。

動きも徐晃が満足するレベルまでに達しない他、殺せる人数も少なくなるという点もある。

 

暖かく、されど熱過ぎない湯船に浸かりながら徐晃は風呂を満喫している中、更衣室へと繋がる扉がガラガラと開いた。

その音と共に水場を裸足で歩く音が聞こえてくる。その音に徐晃はのっそりとその方向を見ると

 

「曹操さん」

「あら、徐晃だったの」

 

金色の髪を下ろした曹操が、全裸で威風堂々と徐晃を見下ろしていた。

曹操の右手に持っているのは、何やら高級そうなタオルで一品物だと直ぐ分かる。対して徐晃はその辺の雑貨屋で買える質の悪いタオルだ。

一目瞭然だろう。その事を尻目に、徐晃が体を曹操の方へ向きなおす。

 

「曹操さんこそ、こんな真昼間にお風呂なんて、どうしたのですか?」

「あら、私が昼間からお風呂に入る事がそんなに意外かしら?」

「ん~…そういう事は、あんまり考えたことはありませんでしたね」

「そう」

 

その間に曹操は体を洗う為、風呂用の椅子に座り、香料を含んでいる石鹸で体を洗い始める。

風呂の中に女性特有の甘いにおいと、清涼感漂う涼しい匂いが徐晃の鼻をくすぐった。

ごしごしと時間を掛けて洗ったのだろうか、ばしゃんと、桶からお湯を体にかける音が数回した。

 

「徐晃」

「何ですか?」

 

徐晃は既に体と頭を洗って、風呂でゆっくりしているだけであった。そのゆっくりしている徐晃に曹操は声を掛けた

くるっと、後ろを振り返り、曹操を仰ぎ見る。

 

「背中を洗うのを手伝いなさい」

「嫌です」

 

徐晃はくるっと反転させて、ゆっくり寛ぐ。その表情には、まだ背中も洗ってなかったのかという思いが、少しは入っていたのかもしれない。

 

「いいじゃない、減るものでもあるまいし」

「んー……何故か嫌な予感がするのでちょっと」

「命令よ」

 

曹操は不敵な笑みを浮かべて徐晃を見る。腕を組んでおりその小ぶりな胸を精一杯主張していた。

その光景に特に思うことなく、ため息を付いて風呂から体を持ち上げた。風呂場特有の湿った空気に触れて、名残惜しそうに風呂から完全に出る。

 

「ふふ…」

 

じろじろと曹操は徐晃を観察するが、それも直ぐやめて後ろを振り返り、専用の布を徐晃に渡す世に後ろに向かって手に持っているタオルを突き出す。

徐晃はその前に他の椅子を持ってきて曹操の後ろへと設置し、そこに座った。

曹操から突き出された高級感溢れる、もふもふした、やわらかい布地で作られているタオルをさわり、何故か負けた気がした徐晃。

 

それを表へと出さずに、丁寧に石鹸をタオルへと馴染ませて、ゆっくりと曹操の背中へと当てて、優しく洗う。

その事に曹操は何も言わず、ただただ受け入れ、身を任せていた。

 

「……徐晃」

 

少し力を入れてごしごしと背中を洗っていた徐晃に、曹操が正面を向きながら声を掛けた。

その雰囲気から、どんな表情をしているのか、徐晃が知る術は無い。

 

「何ですか?」

「…部隊の件何だけど、徐晃はどれくらいの規模を望んでいるのかしら?」

 

そこまで言い切ったところで、桶のお湯を曹操の背中に流す徐晃。水が床に零れる音が室内に響く。

曹操の背中は此れでよし、と徐晃は頷き

 

「んー…そうですね。その時々で良いですよ。ただ、私としては奇襲とかに使ってもらいたいですが」

「なるほどね」

 

こんな時まで曹操は自分の軍の事を考えている。その姿を見て徐晃は忙しい人だなぁと思うが、それは曹操の気質なのでスルーした。

 

「洗いましたので、私はお風呂に浸かってますね」

「待ちなさい。まだ髪が残ってるわ」

「……」

 

体を少し捻り、顔を此方に向ける曹操の表情はにやにやしていた。まるで悪戯をしている子供のように無邪気であった。

しかし、やらせようとしていることは子供よりも幼稚だが、徐晃はあえて黙認する。反論の一つでも言ったら恐らく、何か危険だと悟ったからだ。

 

「はぁ…分かりました」

「…全く、これが桂花や春蘭なら向こうからお願いするほどだというのに…」

「私はそんな気は無いですよ」

 

そういいながら、洗髪剤を徐晃に渡してくる曹操。それを徐晃の中の正論で返して、洗髪剤を受け取り、手に馴染ませてから曹操の髪を洗う。

 

「部隊をつけるのは決定事項だけど、貴方一人では兵士が可哀想になるから楽進を付けたいのだけど、いいかしら?」

「……んー…………いいですよ」

 

髪を両の手でわしゃわしゃと動かしながら洗う。曹操の問答に徐晃は何故迷ったか。簡単である。自分が部隊を引き連れて戦をする姿が中々思い浮かばなかったから。

という、この問答には無関係そうな思いがあった。確かに参軍として曹操の下にも付いた事があったが、実際に部隊を引き連れて行ったかというと、それは無い。

だからこそ、自分が部隊長になって、参軍として楽進が来るという事が中々思い浮かばなかったゆえだ。

 

「基本は、と頭に付くけどね。その場その場で状況や残っている将も変わってくることでしょう。故にどう動くかは、その時になってみないとはっきりとは分からないわ」

「そうですね。とりあえず策通り動くように努力します」

「期待しているわ」

 

曹操は確信している。必ず彼女は策通り動くと。目標を持って動くと。

何故なら今までの経歴がそう物語っているからだ。しかし、と曹操は思う。

 

夏候惇が指摘した徐晃の危険性。

 

大丈夫大丈夫と思っていても、今まで付き合ってきた側近が、曹操が徐晃よりも信を置いている夏候惇がそう進言してきたのだ。

だが、参軍としての実績も残している。この問題は長引きそうだと結論を出し。頭の隅においておく。

現状解決する術は無いからだ。徐晃に対して

 

「あまり惨たらしく殺さないで欲しい」

 

と言った所でどうなるか。恐らくいう事は聞くと思うが、かなり不満が溜まりそうである。

何よりも曹操が直々に「大きな戦場を用意する」といったのだ。しかも徐晃の異常性が分かっていた段階でだ。

 

よってその言葉を徐晃に発してしまうと、王としての価値が下がるのと同義である。

 

王が王の言葉を、約束を守らずして誰が人を裁くのだ。

 

「それじゃあ、お湯掛けますね」

 

難しいところだと一人頷き、徐晃と夏候惇の問題を再認識したところで丁度髪が洗い終わったのか、徐晃が曹操の頭の上から勢い良く桶からお湯をぶっ掛けた。

当然、考え事をしている曹操はそれに、驚き、びくっっと体を震わせた。

そして、髪からお湯を滴らせながら半目になって徐晃を見る。

 

「……流すなら流すといいなさい」

「え?声を駆けて頷いたので流したのですが」

「……そう」

 

若干の気恥ずかしさを感じてしまった曹操は、やっぱり疲れているのだろうかと頭を悩ませながら、滴る水を軽く拭い、立ち上がり風呂へと歩を進める。

徐晃は椅子を元に戻し、少し冷えてしまった体を温めるため、遅れて風呂へと歩を進め。ちゃぷんと浸かる。

 

「ふぅー」

 

染み入るお湯に浸かり、疲れが取れていくのを自覚する。ここ最近は遠征で碌に休息を取れていなかったのだ。

今の現状を省みると、ゆっくりと疲れを癒し、また政務へと戻る方が結果的にいい方へ繋がると予測し、曹操は存分に体の力を抜いた。

また、隣に徐晃が居たのもそれに拍車を掛けた。万が一暗殺者の類が襲ってきても、徐晃を出し抜ける人間なぞ、大陸に一人居ればいいほうであるからだ。

 

隣で寛いでいる徐晃を改めて見る曹操。

 

その体は正に、女性と男性の理想だろう大きい胸に、くびれた腰。すらっとした手足に、雪原ではないが健康的な肌色が逆に艶がでていた。

顔も曹操が見た中で三指に入るほどの美貌で、その声も凛としている。そして曹操が認めうる…いや、この大陸に対抗するものが居るかどうかの武力。

これで彼女の狂気が、性癖がなければ確実にこの場で体を味わいつくすはずだが、先ほど述べた理由によりそれは出来ない。

 

「…勿体無いわ」

「……その視線で何の話かは察しがつきますが、私はそういうことに興味は無いですから」

「じゃあ、貴方は男に興味があるのかしら?」

 

徐晃の恋愛面が気になった曹操は少し突っ込んだ話をふった。

しかし、徐晃は直ぐに首を振った。

 

「それも考えてませんでしたね……ああ、でも男は好きですよ」

「な、何ですって!?」

 

ばしゃん!と勢い良く湯船から立ち上がる曹操。

胸中はこの美貌を味わいつくすのが、よりにもよって自分ではなく、男だということが認められないからだ。

まず、相手が相当いい男性でなければ、曹操が確実に認めないだろうし、そもそれでも認めないだろう

 

だからこそ、憤りを感じたのだ。しかし、それは杞憂に終わる。

 

「ええ、醜い男が惨たらしく断末魔を上げる姿は、本当に好きですよ……ふふ」

「……」

「あと、強い女性の苦しむ姿も楽進を通して興奮することも自覚しましたし…ああ……女性もいいかもしれませんね」

 

一気に冷静になり、ちゃぷっと静かに湯船に戻り体を温めなおす。

曹操は正直、なんとコメントを返せばいいのか咄嗟に思いつかなかった。

しかし冷静に考えれば予想できていた事なのだ。そういえば、徐晃はこんな人物だったと。

 

(…春蘭が言ってたことはやっぱり正しいかも)

 

胸中で徐晃を皮肉った。だが、もう一度徐晃を見ると、やはり綺麗で魅力に溢れている。……ただ一つを除き。だが、その体を味わいたいと思うのだ。

ままならないとため息を付き、しかしたまにはこういった、取り留めの無い考えを自身の頭の中で真面目に考えるのも、悪くは無いと思った。

だからこそ思考する。どうすれば殺されずに徐晃を襲えるか。そんな馬鹿馬鹿しい考えをしていたら、自然と笑みが零れた。

 

「ふふ…」

「……何か可笑しいところでも?」

「そうね……ふふ。いいえ、徐晃は可笑しく無いわ。でも、貴方にも関係がある事は確かよ」

 

本当におかしそうに笑う曹操の姿は、年相応に映った。その姿に徐晃は若干の驚きを浮かべるが、納得する。

 

曹操も人間なのだ。

 

今は何故か知らないが、若干警戒心を解き、笑っている。

不敵に笑う事や、悪戯に笑うことは多々あるが、こうやって年相応に笑っているのも中々似合うと徐晃は思う。

 

「…そうですか。それは、何よりです」

「ええ……本当に、良い湯だわ」

 

リラックスした曹操の表情は今まで見たことも無いような、穏やかな表情であった。

しかし、その表情を何時もの少し、眉を寄せたような表情へと戻し、緊張感と覇気が戻る。

 

「でも、良い湯に浸かり続けることは出来ない。……徐晃。貴方に密命を与えるわ」

「……何でしょう?」

 

正面を向いている曹操の視線の先は何を思い描いているか、徐晃は少しだけだが興味を持った。

 

「張三姉妹を捕獲しなさい」

「張三姉妹?」

「ええ、旅芸人をしている三人の女性よ。名を天和、地和、人和と呼ぶらしいわ。そして、彼女達がこの乱と呼べる事件の中心人物」

 

荀彧を通し、とうとう手に入れた今回の乱の首謀者。それは奇しくも徐晃が会った事がある、人物であった。

しかし、徐晃は分からない。何故なら旅芸人をしている女性としか情報が無いからだ。と言っても、その言葉を聴いて

脳裏に彼女達の姿を思い浮かべた。それが引っかかり、徐晃は顎に手を当てて考える。

 

「…何か心当たりでもあるのかしら?」

「そう……ですね。と言っても確証は無いので何とも。とりあえず、特徴を教えてください」

「分かったわ」

 

そうして教えられた特徴。…特徴と言っても髪の色と、身体的特徴だけだが、それだけで徐晃は頭にティンと来るものがあった。

何のことは無い。江陵であったあの女性と特徴が一致しているのだ。

 

「……あったことあります」

「何ですって?…何処で?」

「江陵です。数ヶ月前に会いました。…確か、旅芸人してるって言ってましたし……と言っても、その桃色の髪の女性しか良く覚えてませんが」

「好都合ね」

 

にやりと徐晃へと向かって笑う彼女の姿は、威風堂々としてる姿へと完全に戻った。

曹操の中では既に黄巾の乱の結末のビジョンが思い描かれているのだろう。張角を手にし、何処まで飛躍するのかは曹操しだいだが

それでも徐晃には、彼女が躓くというビジョンが思い浮かばなかった。

 

「規模が10000以上の賊軍相手に対しては必ず細作を送って内部を調べてながら討伐に当たっているけど、中々尻尾を掴ませないわ」

 

曹操と荀彧は彼女達が居る賊軍こそ、本体であるという事を予測し、細作を情報が掴め次第はなっている。

何故なら彼女達が居るかも知れないからだ。居たらそこに徐晃と部隊を突っ込ませて、彼女達を捕縛すればいい

……が、世の中、中々上手くいかない。

 

細作に気付いたのかは定かではないが、中々そういった場所には姿を現さなくなった。最後の目撃情報からすでに一ヶ月過ぎようとしている。

恐らく朝廷が発した声が彼女達に届いたのだろう。かなり警戒して動いていると思われる。

 

しかし、曹操は確信する。必ず表舞台に出てくるということを。何故なら原因は何であれ彼女達が乱の首謀者であるから。

恐らく最後の戦には出てくると思っている。その前に他の人間に殺されていたらいたで、どうしようもない。

だがそれは無いと思っている。

 

世間一般に広がっている首謀者張角の情報は出鱈目だからだ。

 

この情報は恐らくまだ自分達しかもって居ない。というより、賊に対して細作を放つなんて行為は官軍は確実にしないし

他の諸侯も賊というだけで、中々舐めて掛かる人物も多いので細作なんて放たないだろう。

それに、既にその情報を掴んでいたら必ず名乗りを上げて、朝廷にその情報を売り渡すはず。自身の地位を上げる為に。

 

だが、それが無い現在は、まだ情報が割られていないと8割方安心している。

 

荀彧にも朝廷にそれとなく探りを入れてもらった結果、依然として張角の情報は変わらないままなのだ。

 

「でも、必ず機会は存在する。その時になったら確保を頼むわ」

「了解」

 

そうして、湯船から上がる曹操。その体はほのかに紅くなり、その肢体と合わさって艶を感じる。

そして徐晃も湯船から上がるように立ち上がった。その徐晃の肢体も曹操と違うエロティックを感じさせる。

 

若干曹操の視線が胸に向けられたのを気にせず、先に扉の方へと行って開け放ち、新鮮な空気を吸い込み、吐き出す。

その間に、曹操は開け放たれた扉から更衣室へと足を運んで、体に付いている水を拭いていった。

 

「あー…良い湯でした」

 

満足行く湯船だったのか、ぐぐっと背伸びをして、その布で体を拭いてから更衣室へと入っていった。

 

「そういえば、どうして昼間にお風呂へと?」

 

髪をごしごし拭いている徐晃が、髪を傷めないように拭いている曹操へと問いかけた。

 

「あら?余り考えてなかったのではないのかしら?」

「んー…何となくです」

 

そう、徐晃にとっては何となく。だが、何故か気になった。気になってしまったのだ。曹操が。

宙に視線を向けている徐晃を曹操が髪を拭きながら見る。普段ならこんなことを聞く様な人物ではない筈。

が、余り考えても仕方が無いと思い、苦笑しながらそれに答える。

 

「そう。……桂花と秋蘭、春蘭がたまには休んで欲しいという要望があったのよ。折角だから大きいお風呂に入ろうかしらと思ってね」

「なるほど。お風呂っていいですよね」

「そうね、たまにはゆっくり浸かるのもいいわね」

 

曹操のたまにはゆっくり浸かるという言葉に、色々考えを張り巡らせる徐晃は、取り留めの無い事だったなと思って直ぐに思考の外へと追いやった。

そう、曹操は生粋の女性好きでも有名であったのだ。

 

「さて…と、徐晃。どうかしら?」

 

髪を拭き終わり、さっと着替えた曹操が髑髏の髪飾りでその髪をツインテールにし、クルリと先端を巻いている。

服装も何時も通りである。

 

「何時も通りですよ」

「そう。ありがと」

 

お世辞の一つでも言えれば完璧だと思ったが、徐晃にそれらを求めるのはまだ早いかと考え、礼を言う。

その徐晃も、ぐしゃぐしゃだった髪の毛を丁寧に整え、丈が短い着物を着込んでいた。

そして最後に二振りの鞘が若干反っている刀を腰へと差した。

 

「あ、待っててくれたのですか?」

「ええ。感謝しなさい」

「どうも」

 

そうして、曹操の一歩後ろへと付く徐晃。この辺りの知識は荀彧から既に叩き込まれて即刻直した事である。

以前は堂々と、一人で先に進んでいっていたのだから成長をうかがわせる。

 

が、曹操はそういう気分ではなかった

 

「徐晃。私の隣を歩きなさい」

「…え?……それは荀彧さんに怒られそうで」

「大丈夫よ。怒られたら私の名を出していいわ」

 

その言葉と共に後ろを見る曹操に対して、何だろう?と思いながら、まぁ休日だし、こんなものかと結論を出して曹操の隣に並ぶ。

 

「徐晃。今日は私と店を回るわよ」

「…了解です」

 

曹操のその宣言にクスリと笑い。頷く。

 

 

たまには悪くない。そう、悪くないな。

 

そう胸中で思いながら、曹操と共に街を回ったのであった。

 

 

 

 

 

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