【習作・ネタ】狂気無双   作:モーリン

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25話

 

 

 

 

街などで徴兵を行い、各軍軍備を整えながら周辺の賊討伐を行っていった。

その際は陳留の政務などを遅らせないように、荀彧や夏候淵、李典や楽進等を定期的に送り、月一で曹操がその成果を確かめに帰還する。

各々政務や、陳留の兵士の調練、設備の改築、改良、改案や治安維持、治安向上政策等、やることは山ほどあるのだ。

 

それのローテーションが二回ほど過ぎ、西暦184年も後僅かになり、季節は冬に突入した。

 

その中で曹操、劉備の同盟軍は漸く、黄巾賊の本拠地を見つけ出すことに成功した。

厳密に言うなら、黄巾の将を抱えている拠点を見つけ出した。その中で旅芸人の三姉妹の姿が見えたということである。

しかし、三姉妹の情報は曹操軍のそれも荀彧、夏候淵、曹操そして徐晃の4人しか知られていない。

 

夏候惇と許緒、楽進、李典、于禁にも伝えようかと荀彧に相談するが、それは止めていた方がいいということだ。

まず夏候惇と許緒はつい、口が滑るかもしれないという点。他の三人は知らなくても不便はしないからだ。

 

と言っても、徐晃が楽進を連れて彼女達を捕獲する直前にその事は説明するが。

そしてその事に付いては曹操、荀彧の指示でもある。無用に混乱させる訳にも行かないからだ。

…そう、今回の戦、徐晃隊が始めて発足するのである。

 

黄巾党本体が待ち構えているのは荊州南陽の宛の城である。

……そう、黄巾賊が一挙に攻めてきて宛が占領されてしまっているのだ。

その際の太守は命からがらで逃げる事が出来、この事件が公に広まったのだ。

 

勿論、曹操劉備同盟軍の耳にも入った。それを受け、慎重に準備を整えていく。

時間は掛かっても良いのだ。何故なら相手の規模が史上最大級であるからだ。

 

その数150000という膨大な数だ。

 

この数字は確かに賊の数だが、国を憂いて立ち上がったり、もうその道しかない人間もいる。

そう、この数字が国に対しての民から見た評価に近いのだ。

だからと言って放置すれば、被害が拡大するのは当たり前で、手が付けられなくなる前に鎮圧しなければならない。

 

そして、これが黄巾賊に対して最後の大戦になるだろう。

三姉妹の確保をしてしまえば、この乱はもう長くは持たないだろう。

故に、曹操達は張角達の捕獲さえすればこの戦の目的は成される。

 

逆に、恐らくだが他の諸侯の何れかが「張角」を討ち取るはずである。つまりはでっち上げ。

 

この数を潰せば恐らく黄巾賊と名乗る団体は殆どなくなるだろう。

何故なら、これほどの条件が整う事は今後ほぼ無いと見ていいから。

だからこそ、でっち上げが出来るのだ。それか、三姉妹を庇って将の何れかか、賊の何れかが、「張角」を名乗るか。

 

荀彧や曹操はそれらを視野に含めているが、基本触れない運びを取る事にしている。

確かに、黄巾賊の長を倒すというのは魅力的なものだ。しかし、それにかまけて目的である三姉妹を逃すのはナンセンス。

 

そして三姉妹の捕獲を徐晃隊に任せる形をとるので、必然的に先頭を走る隊が夏候惇隊しかなくなる。

信頼していないわけではないが、それでも難しいといわざるを得ない状況だ。

勿論、狙えるなら狙うというスタンスを表向きには取っているが。

 

何故困難なのか、それは他の諸侯が必ず先行し、でっち上げを獲りに行こうとするからだ。

でっちあげを行うには先行して、これが張角と言い張るしか方法が無いからだ。

 

劉備軍は必ず行うだろう。彼女達は今、名声が喉から手が出るほど欲しいはずである。

この機会を利用しない手は無い。そして、他の諸侯。朝廷からの信頼を得られるのだ。

 

そして今回の大戦と呼べる程の規模。

 

150000という数は本当に奇跡的なものが発生して上手く回った結果なのだ。

偶々姉妹が居て士気が高く、そこで宛を攻めたら落とせた。という形なのだ。

 

だからこそ、黄巾の将と言える頭が回る賊も多数配置されているのだ。

 

そう、ここで対黄巾賊の軍を返り討ちにさえ出来れば、黄巾の乱は国を転覆させるほどの規模となるのは、予想が出来る。

 

故に、しっかりと抜かりなく準備を進めるのだ。これが最後とするために。

 

豫州からの街を出立した曹操、劉備の連盟軍は神速の行軍を持って、情報が入った一週間後に出立し、三日で宛の南に50里程に陣を敷いた。

その数は28000という規模。と言っても賊に対しては決定的に数が足りていない。しかし、心配は要らないと、曹操は判断している。

 

それは直ぐに分かった。着陣二日後に、南から袁術軍を率いる、呉の孫策、周瑜、黄蓋率いる部隊が到着した。

数は25000。その次の日には袁紹軍が到着。数は35000と、先の戦を経て、何処からその兵力を捻出したのだと問いたい数を投入してきた。

最後に、遥々と来た公孫賛軍。数は20000と、数を聞いていたのか、それなりに用意して来た。

 

此れで合計108000という数である。それでも圧倒的に足りない現実であった。

官軍も他の集結している賊の相手を取っており、回せる手が無いのが現状。昨今の黄巾賊は30000以上は徒党を組んで街を襲ってくるのだ。

その為、曹操は陳留に被害が及ばないように、周辺の賊を片っ端から討伐し、彼らを降伏することに成功している。

 

そして、直ぐに情報が此方に届けられるよう仕向け、手を回している。よって、確実という訳ではないが、安全は保障してある。

 

だからこそ、目の前の最大規模の黄巾賊をどう討伐するか、軍議用の天幕を張って、各代表者を昼から二刻の時間にて集った。

 

その天幕に集まった人物は、連盟軍と袁紹軍、公孫賛軍からは以前の波才戦と同じ面子であった。

そして袁術軍……もとい呉軍からは、孫策と周瑜、黄蓋の三人であった。

 

「私たちが最後だったようね」

 

天幕に入ってきたのは褐色の健康的な肌を大胆に露出し、チャイナ服の様な衣装で身を包んでいる桃色の長髪の女性。孫策である。

その後ろから来るのは、断金の誓いを交わした、周瑜。髪は黒く長い、そして孫策同様肌が多く露出している服装だ。

その隣の黄蓋も彼女たちと同じく、健康的な黒さを持つ肌。そして特筆すべき点は、その大きな胸である。

 

「あら、美羽さんではなく、その…」

 

そこで袁紹は言い淀み、顔良の方へと視線を向ける、顔良が前後のやり取りで意図を察知して袁紹に耳打ちをした。

そして、何か解決したのか、直ぐに頷いて、孫策の方へと視線を向けた。

 

「孫策さんなのね。では、席に付いてください。軍議を始めますわ」

「分かったわ」

 

素直に入り口から近い所へと腰を落着けた。天幕内は一番奥に袁紹軍、その手前の右に曹操、劉備連盟。

左に公孫賛。そして孫策軍だ。

 

「全員集まったところで、今回の盟主を決めましょうか」

「袁紹でいいぞ」

「私も、袁紹でいいと思うわ」

 

この連合で一番数が多いのは、袁紹の軍である。従って発言力も一番大きいし、名門という点も大きい。

何より、公孫賛は前回ぜ袁紹の人となりを大まかに掴んだので、今回も袁紹を真っ先に推薦し、軍議を進めようと促す。

それにいち早く賛同したのが、孫策。

 

彼女もまた、袁家には色々な意味でお世話になっているので、大体は察しがついている。

何より、何度か顔を合わせていたのだ。…と言ってもすれ違っただけだが。

故に、どういった行動をとるのかはある程度把握できているのだ。

 

「私も袁紹でいいわ」

 

曹操も、頷きその答えに賛同した。両隣の荀彧、諸葛亮もそれに賛同している。

 

「あーら、先の戦での輝かしい活躍をまた期待なさっているのなら、お任せなさい。この袁本初が皆さんを勝利へと導きましょう!おーっほっほっほ!」

 

顎に手をあて、上品に笑う。その光景を全員が見慣れたように聞き流しながら、曹操が口を開いた。

 

「それで、麗羽。今回の戦、どう攻めるのかしら?」

 

腕を組んだまま袁紹を見る曹操。それに余裕を持って見返す袁紹は何処か機嫌が良い。

 

「あーら。前回の策を流用すれば、賊なんて一網打尽ですわ!」

「前回の策?」

 

胸を張って宣言する袁紹に前回参加していなかった孫策が疑問を浮かべ、曹操を見る。

その視線を感じて、孫策を見る曹操は何処か諦めたような、そんな雰囲気を感じさせながら口を重々しく開く

 

「前回の大きな賊討伐で行った策よ。簡単に説明すると、砦を攻める際に囮を使い、奇襲をし、本体を招きいれ、更に奇襲という形での短期決戦の策よ」

「へぇ…面白そうね」

 

にやりと、曹操を見る孫策はテーブルの上に腕を置いて、若干身を乗り出しその胸が強調される。

曹操の隣の荀彧が誰にも聞こえないように舌打ちをし、さらに諸葛亮も脳内でその胸の大きさを羨ましがる。

曹操はその光景を曹操軍内で一番の巨乳の徐晃と比較するが、やはり、戦闘力では向こうが勝っているという結論をはじき出す。

 

「そう!その策で今回の賊も一網打尽にしてしまいましょう!」

「無理ね」

「無理だな」

 

曹操と公孫賛は一瞬で結論を出した。その事にピシっと固まる袁紹。

予想していたのか、背後の顔良、文醜は冷静に受け止めている。いや、文醜に限って言えばそれより暴れたいなと思っているだけだが。

 

そう、今回の作戦でその策は使えない。何故なら相手が「宛」を占領しているから。

よって、市街戦も考慮に入れないといけないのだ。そう、前回の策の有用性は既に無い。

ましてや、相手は150000という数で、砦より広い城を構えているのだ、物量は以前より遥かに多く押し寄せられる。

 

故に不可能なのだ。

 

「そ、そうなのかしら……であれば、さっさと策を出しなさい。諸葛亮」

「は、はわわ!そ、そんな事いわれましても……」

 

前回、諸葛亮が荀彧の策を元、簡単に出したように見えたが、実際には頭をフル回転させ袁紹が納得するような策を用意したのだ。

と言っても、趙雲の奇襲という言葉で大まかな構想は出来ていたが。それでも、荀彧が形にしたからこそ、あのような策を捻出できたといえよう。

 

そう、袁紹が納得すような策を。

 

実際、荀彧が始めに提示した策でも、全く問題ない。

賊に逃げ道を与えることで此方の被害を減らすことが出来るのだ。

しかし、諸葛亮が提案した策はほぼ逃げ道は無い。東門まで行けば逃げれるが、果たして何名がその門まで辿りつけたか。

 

「麗羽。此方の数と相手の数の情報を共通認識にする為、説明をお願いしたいわ」

 

そこに救いの手を出したのは曹操。現状、仮にも部下に値するのだ。あのような状況から救い出すのは当然である

と言っても、慌てていた彼女を一瞬楽しんだのは秘密である

 

「そうね。では、全軍の数をまず最初に確かめましょう。斗詩さん」

 

その声と共に、後ろへと控えていた顔良が一歩前へ出てきて口を開く

 

「はい。麗羽様の軍の総数は35000です」

「我が連盟軍は28000ね」

「わたし達の軍は20000」

「我らの軍は25000よ」

 

顔良に引き続き、曹操、公孫賛、孫策の順で答える。

その中で、軍馬や弓といった細かいところまでも報告する。

 

「…合わせて108000という数ですね」

 

顔良が頭の中で計算して、合計値をはじき出す。

かなりの大規模な数。しかし、誰も驚かない。何故なら相手の方が多いと言う事を理解しているから。

 

「宛を占領している黄巾賊の数は150000という膨大な数です」

「150000か……良くこれほどの人間を集められたと思うよ」

 

公孫賛が感心するように、されど冷や汗を垂らしながら相手の数に対しての感想を述べる。

他の諸侯も同様だ。多少の違いがあるにせよ、相手の多さは全員が実感しているのだ。

 

「それも戦闘が出来る人間の数よ」

「42000も差があるのね」

 

曹操がそれに注釈を入れ、その差を孫策が呟く。だが、問題はその差だけでは無い。

 

「それもあるけど、占領された宛の市民の救出はどうするのかしら?」

 

曹操が策を考える前に問題点を指摘した。そう、市街を占領されたのであれば、逃げ遅れた市民がいるかもしれない。

黄巾賊は非戦闘員も居るため、皆殺し等は恐らく無いと思うが、それでも恐怖にて支配されていることは容易に想像できる。

逆に、彼らを取り込んだのかもしれないし、そも彼らが既に黄巾賊に身を落としていたのかもしれない。

 

だが、それを考えても全員が全員そうであるはずは無い。何故なら人間だからだ。

確かに、最近の宛の太守の評判は余り良いとは言えない状況であったのは事実だが、悪い。という訳ではなかった。

故に、監禁されている市民がいるはずなのだ。

 

彼らを救えば評判は上がる。そういう打算的なものも確かにあるが、救える者は救うのが曹操である。

 

「各軍部隊を割いて保護するしか無いと思うわ」

「……そうね、孫策の言う通りその場その場で動かなければならないわね」

 

市街戦において策は不要である。何故ならゲリラ戦に近い形態であるからだ。

個人個人で動いて殲滅か、少数部隊を複数引き連れて、ブロック毎に占領していく形である。

火矢は厳禁。賊が行うのは仕方が無いとして、官軍が行うのはナンセンス。

 

早期解決は望めるが、その後の住民の保障は望めない。それでは本末転倒である。

故に、臨機応変での対応が必要となってくるのだ。

 

「民が苦しむのはわたくしとしても心苦しいわ」

 

神妙に頷く袁紹だが、彼女の政策はあまり良いとはいえない。しかし、彼女自身の根元には優しさも確かに存在しているのだ。

 

「軍師の者達も異論は無いかしら」

 

曹操のその言葉に揃って頷く軍師陣。えげつない方法での策は彼女達にはあるが、それは行わない。

何故ならメリット、デメリットで考えればデメリットの方が高いからだ。…といっても単純に「燃やす」という事だけだが。

それでも、隠れている賊などを炙り出すのには丁度良いのだ。

 

「では、市街戦は各軍が連携して当たる事で決定ですわ」

 

全員異論は無いのか、袁紹に向かって頷き次の課題へと促す。

 

「次に、攻城についての策へ移りたいと思いますわ」

「待ちなさい、先に野戦について決めたほうが、攻城戦への流れも見えてくるわ」

 

それに待ったを掛けたのは、曹操。人数差で高確率で野戦に持ち込まれるだろうと予測し、そしてそのまま攻城戦へと移るかもしれないのだ。

野戦で相手を打ち負かしたら、それこそ各門から攻め入れば鎮圧は可能なのだ。故に、野戦から攻城へとシフトする流れも把握しておけば、後々が楽である。

市街戦の作戦は、あくまで保険の意味だ。……まぁ何処から決めても大差は無いが。

 

それでも、野戦から攻城の流れは想定できるのだ。決めておいて損は無い。

というより、市街戦は本当に特殊なのだ。出来れば行いたくないのが本音である。

 

「確かに」

「異論は無いわ」

 

それに同意する公孫賛と孫策。市街戦を考慮に入れたとしても、その流れは自然だ。ならば、策を考えておかねばならない。

 

「伝令!!」

 

野戦の相手の展開を読んで、此方の部隊を決めようとした際、天幕から連合軍の伝令兵が血相を変えて飛び込んできた

 

「何事」

 

一番近かった周瑜がその眼光で伝令兵を見抜く。それに呼応し、礼を取り口を開いた。

 

「黄巾賊が宛から南西4里の平原にて陣を展開中!おおよそ、45000の部隊を三つ確認!列となっている模様!」

「へぇ、丁度いいわね……相手を監視しなさい。動きがあったら直ぐに知らせなさい」

「は!!」

 

元々、相手の陣が展開してから策を決める手筈であった。宛より50里離れた所で陣を敷いている為、たとえ進軍してきても間に合う。

何故なら、そこまでの大所帯を動かすのにはかなりの時間が掛かる。意思の統一というものは難しいのだ。

更に、いま陣を展開しているのだ、まだまだ時間はある。

 

といっても、恐らく本日中の襲撃は奇襲くらいしかない。何故なら、既に日が傾き始めている時間だからだ。

暗くなると、どうしても軍の把握が困難になり、進軍すらも危うい。そして何より、味方を攻撃しかねない。

味方を攻撃すればその軍はもはや烏合の衆。混乱し、手が付けられなくなる。

 

…といっても、統率が得意な将であれば無用な混乱は避けれるが、それでもリスクが大きい。

 

だが、奇襲はそうではない。何故なら奇襲とは一撃離脱を主軸として部隊を展開し、強襲するからだ。

故に自然と部隊人数は少なくなる。だからこそ、混乱は余りしないのだ。

 

……そう。相手が展開したのなら、此方から奇襲を仕掛ける事が出来るのだ。

 

「好都合ね、良い時間に展開してくれたわ」

「相手は漸く此方に気付いた様な気がしなくもないけどね」

 

にやりと、先ほどの伝令を聞いて獰猛な笑みを浮かべる曹操と孫策。

 

「しかし、あちらが展開したとなると、此方も直ぐに動きを決めないといけないな」

 

公孫賛が黄巾賊が動いたのを危惧する。といっても、始めの一歩は此方が確実に遅れるという事は既に自覚していた。

この陣を敷いてから既に一週間も経とうとしているのだ、寧ろ今まで動かなかったのが驚きである。

 

黄巾賊が動かなかった訳は至極単純だ。

 

宛を占領し、そこで三姉妹によるライブや宴を行っていたからだ。

その傍ら、生粋の山賊や盗賊は街の人間を陵辱したり強奪したりしているからだ。

それによって、賊から斥候を出す時期が遅れ、ようやく発見したという運びである。

 

故に、孫策が言っている言葉は概ね正しいのだ。

 

「もう!賊如きに先んじられるなんて、ちょっと華琳さん!どういうことですの!?」

 

しかし、一人冷静ではないものが居た。袁紹である。

賊に先に動かれたのが気に入らないのだろう。何故か曹操に矛先を向けているのは、やはりどこかで意識していたからなのか

 

「麗羽様、でもこれで此方の動きを詰める事が出来ますよ」

 

その怒りを咎めるように指摘したのは顔良である。後ろから一歩前へ出て、笑顔で袁紹の顔を覗き見る。

袁紹は顔良に厳しい視線を飛ばす。しかし、顔良はそれでも笑顔を崩さない。

顔良の笑顔に袁紹はそっぽを向いた。

 

「……ふん。では、どう相手に当たるかを決めましょう」

 

漸く話が進むのかと、軍師陣は全員そう思った。

ここまで決まったことは市街戦。しかも内容は個別に当たることという、あって無いようなもの。

しかし、逆に時間が掛かったからこそ、良いタイミングで相手が動いてくれたという、見方も出来る。

 

「そうね、一番数が多い麗羽の軍は単体で当たっても問題ないわよね」

 

曹操が袁紹の方へと視線を向ける。その目はかなり挑発的である。

そして袁紹は、その視線に見覚えがあった。そう、学んでいた時代に袁紹が曹操に絡み、向けられる視線。

故に、袁紹は内なる炎が付いてしまった。

 

「当たり前ですわ!この袁本初の軍は皆、精強の兵共ですわ!」

「さすが麗羽だわ。それでは此方も細かいところを詰めていきましょうか」

「え、ええー!ちょ、ちょっと待ってください!」

 

しかし、曹操の目論見を止めるものが。苦労性の顔良である。

だが、それを更に阻止する人物が居た

 

「ええー、斗詩。かなり暴れられる内容だと思うんだけどなぁ」

 

顔良の隣に居座る文醜が顔良の言葉を無視するように言葉を零す。

その顔は若干不満そうだ。

 

「もう!文ちゃんも!」

「あら、でも麗羽の軍はこの陣営の中で一番整っているから、問題ないと思うわ。桂花」

「はっ」

 

顔良が必死に二人を咎めている間に、曹操はその有用性を証明する為

袁紹軍で軍師の任に就いていたことがある荀彧に、その回答をさせるべく声を掛けた

 

「袁紹様の軍は35000と、この同盟軍で最も大きい規模です。また、その内訳も騎馬、弓、歩兵と適度に分かれており、野戦において華麗に力を発揮するのは間違いないです」

 

そう、今回の袁紹軍はかなりバランスが取れている軍なのだ。文醜が騎馬を、顔良が歩兵を、袁紹が弓をと前、中、後と揃っている。

財力があるからこそ、この数を用意できたといえよう。そして、宛が占領されたという情報からでも、このようなバランスで進軍することも決定している要素である。

 

「おーっほっほっほ!我が軍がこの連盟で一番華麗で精強であるのは、当の昔に気付いておりましたわ!お任せなさい荀彧さん!我が軍の力を見せてあげましょう!」

 

一気に機嫌を直した袁紹は高笑いをして、その事を認める。

文醜も嬉しそうな顔をし、顔良も最初は唸っていたが、確かに他の軍と比べればバランスがいい事に気付く。

そう、将を除けば、この陣営で最も強い軍が袁紹軍なのだ。恐らく正面から堂々とぶつかっても4万なら打ち勝てるほどだ。

 

「それで、私たちはどう分けるのかしら?」

 

ずいっと体をテーブルに預けるように体重を乗せる孫策。それに反応したのが曹操と公孫賛陣営である。

袁紹の高笑いを背景に、これから細かい箇所を詰めていくのだ。

 

「発言、宜しいでしょうか?」

「あら、冥琳。何か思いついたの?」

「思いついたほどではないが」

 

挙手をしたのは孫策の親友の周瑜であった。それに近くの孫策が反応し、続きを促す

 

「公孫賛様の部隊を二つに分ける運用で、我らと連盟軍にあてれば均等に戦力分散が可能かと」

 

公孫賛軍の軍勢は2万それに将が公孫賛に趙雲だ。丁度1万で分けられる。

しかし、彼女達が名を上げることが困難になることは明白である。何故なら戦力比的に公孫賛軍の絶対値が少ないから。

 

「……うん。それがいいな」

 

公孫賛のその言葉と共に周瑜が驚いた顔で公孫賛を見る。

彼女自身提案したが、それでも通るとは思わなかった。この戦で何を目的とするのか

その事は誰もが同じなはずだ。そう、名誉を欲しているはずなのだ。

 

「おいおい、余り見くびらないでくれよ。私だってそれが一番分かりやすく、均等に配置できると思っているさ」

 

半ば自嘲しながら公孫賛はそう言う。分かっているのだ。今回彼女達の軍が一番小さく、最弱なのだ。

いくら騎馬で固めようとも、数の暴力というものは強大だ。だからこそ、それをひっくり返せるように軍師が存在している。

だからこそ、たかが賊が相手でもしっかりと軍議を行っているのだ。

 

「それにな、名誉も確かに欲しいが、目の前で苦しんでいる民が存在している……ならば、答えは一つしか無いだろう」

 

自嘲していた表情から顔を上げて周瑜を見る。その顔は晴れ晴れとしていた。

その姿を趙雲が見て、クスリと笑った。

 

「…伯圭殿、その志。誠に天晴れですな…この趙子龍。感服致したぞ」

「だったら、私の元へ客将としてじゃなくてだな……」

「おや、それとこれとは別ですぞ?」

「やれやれ」

 

何も含んで無い笑顔で首を振る公孫賛は、何処か吹っ切れている。

…と言っても、彼女なりの考えがあるのだ。公孫賛の将は客将の趙雲しか現在存在していない。

帰還すればいるにはいるが、それでもこの場に集まっている一流の将達と比べると見劣りする。

 

そう、慢性的な人材不足なのだ。幽州を回しているのは実質、公孫賛一人。

故に、この件で領地が増えたりしたらもう、てんてこ舞いに陥ることは予想できる。

だが、名誉を手に入れれば将が集まる可能性もあるが、それだったら今までも集まっていても可笑しくないというのが、彼女の結論だ。

 

「…恩に着る」

「気にするな、私たちは今は同盟軍で同志さ……さて、我らは騎弓と騎馬が各10000だ。どう分ける?」

 

公孫賛の軍は騎兵が20000。内訳として公孫賛率いる騎弓兵が10000で趙雲が率いる騎馬が10000だ。

攻撃力では趙雲。しかし、機動性や遠隔での強力な攻撃は公孫賛である。

 

「我が連盟軍は、騎兵は6000用意できるわ。よって、趙雲隊が孫策の元に就くのが妥当かしら」

「ふむ…此方としても異論はない」

 

孫策軍は歩兵と弓は用意できるが、馬が袁術から借りれなかったのか、用意されていない。

故に、機動性に関しては他の陣営より一歩遅れる運びになっていた。しかし、趙雲がつけばそれは解消される。

前、中、後と揃えられ、波状に攻撃を与えられ、早期殲滅も可能になる。

 

「じゃあ、私が曹操の所だな。宜しく」

「此方こそ、噂の「白馬義従」の力。しかと目に焼き付けておくわ」

 

前回はその全貌を見れなかったが、今回は一緒に追従することとなる。何時か当たるかもしれない軍の戦力をこの目で焼き付けておくのだ。

それに、公孫賛は強い。あの異民族を長期に渡り押さえつけている手腕は光るものがある。だが、王としては甘い。

 

「まぁ、あんまり期待するなよ」

「……」

 

謙遜しすぎだろうと曹操は内心思い、変な汗をかいた。

 

「あら、結論がまとまったかしら。それでは攻城戦へとはいりましょう!」

 

高笑いに満足したのか、意見が纏まったタイミングで袁紹が声を掛け、次の議題へと移ると宣言する。

だが待ったを掛ける人物が居る。

 

「待ちなさい、麗羽。まだ此方の軍の内訳が決まっただけよ。次に野戦での策を」

「何を仰られるの華琳さん。雄々しく、勇ましく、華麗に進軍ですわ!おーっほっほっほ!」

「ちょっと、麗羽様ー」

 

前回参加したメンバーはその事が既に分かりきっていたのか、対してアクションは取らない。

そして初参加の孫策たちも何処かで慣れていたのか、寧ろ方針がある事に対して驚いていた。

 

「麗羽。申し訳ないけど、それは出来ないわ。それに、無用な出費は貴方が言うように、華麗では無いわよ」

「キィー!!ならさっさと策を仰いなさい!……諸葛亮さん!!」

「は、はい!」

 

また当てられたせいなのか、気を抜いていたかは分からないが、ビクっと体を反応させて大きな声で返事をする。

その様子に荀彧は頬が引き攣るのを実感した。隣の曹操はその事を気にせず、視線で言葉を促した。

 

「す、すみましぇん。…こほん。……宛の城への潜入経路は四つです。まずは北側の市街地に面した正面門、賊が展開している南門。最後に西と東門です」

 

宛の市街地は賊が陣を展開している反対側の北側に存在している。南門は賊が少し離れた所で展開している。

そこで諸葛亮は自身の記憶から書き起こした地図をテーブルの上に広げて、各軍が分かるように色付けした石を置いていく。

 

「また、この地図から分かる通り、宛は山脈と小さな平野に囲まれており非常に攻め辛いのが特徴です。特に北側まで回るのは難しいかと思います」

 

諸葛亮が用意した地図は宛の地域が大まかに記されている地図である。

 

ここで現状を確認しよう。

 

 

まずこの同盟軍が陣を敷いている場所は宛の南西の博望に近い位置。そこから城へと侵入するためには、山脈に囲まれた平原を一直線に突破するしかない。

しかしそこで待ち構えているのが黄巾軍の135000を三つに分けた陣が展開されて、同盟軍を迎え撃とうとしている。

 

そして宛東側は山脈があり、此方から北側へ進軍するのは厳しいの一言。

その西には関が構えているが、今回は関係ないので割愛している。

 

「ううむ…予想以上に入り組んでおるの」

 

黄蓋がその爆乳を腕で押しつぶしながら地図を睨んでいる。

その光景を見ていた諸葛亮と荀彧は呉の戦力の強大さを再認識した。彼女達は…大きいと

 

「……賊の三部隊はこの南西の所に列をなして陣を敷いておりますので」

 

そこで、諸葛亮は色つきの石を宛の南西にとんとんとんと三つの石を置いた。

 

「この布陣となります。山脈で一気に突破するのが難しいので、一番強力な軍を一番奥の部隊に衝突させるのが得策かと」

「……しかし、この合計90000の人数を突破するのは至難だが、どうお考えになっておられるのですか?」

 

並列をなしている三部隊を突破するのは至難。そこを指摘する周瑜だが、諸葛亮は稀代の軍師。その知略が光る

 

「連盟軍で相手の部隊を釣り、奥の部隊までの経路を開け、その隙に袁紹様の軍が奥の一部隊とその二部隊の間に入り込みます」

「よっしゃ!これは暴れられそうな予感だぜ!」

 

張り切ったのは袁紹軍の文醜。確かに、数の差もあり、相当暴れられるのは確かである。

石を動かして説明する。連盟軍の石を二部隊を覆うように展開し、その二部隊を東側の山脈まで釣るように動かす。

 

「そして、私たちの軍がその間に更に入るわけね。……ふふ、面白そうじゃないの」

 

形として、西側の一番端に賊軍その隣に袁紹軍、孫策軍が並び、賊が二つ並ぶ。最後に東側に曹操軍だ

この形であれば、各軍の力が一対一で発揮されるだけでなく、90000の二部隊を挟み撃ちに出来、かつ相手と孫策、袁紹、連盟軍全ての抜け道も用意出来る。

故に此方が壊滅するのはほぼ無いと断言できる。

 

にやりと諸葛亮を見る孫策はその危険性も認識した。あの知略は自身の右腕の周瑜と並ぶかそれ以上。

その周瑜は諸葛亮を冷静な目で見つめていた。その視線には気付いた諸葛亮だが、諸葛亮の目は二人の胸へと動く。

そして圧倒的敗北感を味わうのだ。さもあらん

 

「…そう、ね。……異論は無いわ」

「同じく」

 

他の軍師たちが声を上げないのを見計らって曹操が結論を出す。それに同意した公孫賛も結論を出した。

 

「……しかし、135000という数は何とか減らせられないものでしょうか?」

 

公孫賛の後ろに立っていた趙雲が、相手の数を指摘して対策が無いかと声を上げた。

尤もである。いくら此方が強くても数は強大だ。ましてや、前回みたいな波状攻撃を行うわけではない。

正面からのぶつかり合いになるのだ。

 

「いえ、減らせるわ」

「何と、誠でございますか、荀彧殿」

 

若干驚いたように声を上げる趙雲だが、半ば予想はしていた。この人員で減らせない筈は無いと。

 

「夜襲を仕掛けるわ」

「へぇ……冥琳。それ私も参加したーい」

 

甘えるように隣の周瑜にのしかかる孫策。その豊満な胸は形を変えて正に変幻自在である。

荀彧は、自分の胸を誰にも気付かれないようにつつく。しかし、あのような事には逆立ちしてもならない。

曹操はそれに気付き、荀彧を愛おしそうに見る。

 

「駄目だ。…全く。少しは自分の立場を考えて欲しいものだ」

「ぶー。冥琳のケチー」

「何を言っても駄目だ」

 

全く取り付く島が無い周瑜に孫策は表面上、へそを曲げた。だが、彼女も分かっているのだ。

しかし、武人として心が奮い立ってしまっているのだ。…そう、彼女も徐晃ほどではないが、バトルジャンキーの気質なのだ。

 

「宜しいでしょうか?」

 

その二人が絡んでいる姿を荀彧は厳しい目で見つめている。その視線は胸に行っているが、内心はまったく別のことを考えていた。

孫策と周瑜。かの孫堅の娘でその器を引く人物。そして隣の周瑜は軍師としても荀彧の耳に届くほど、名が広がっている。

何時か相見えることがあるのだ。しかし、それは今ではない。今は袁術に飼われているが…恐らく、主を食い破るだろう。

 

いや、必ずその時が来ると確信する。彼女が飼われているだけの虎な筈がない。

 

「あら、ごめんなさいね。どうぞ、続けて」

 

そこで周瑜から離れた孫策が、荀彧に向けて視線を飛ばし、その豊満な胸を見せ付ける。彼女達も胸に来る視線は気付いていたのだ。

 

(……我らは相容れない……必ず)

 

悲愴な決意を決める荀彧。そして隣の諸葛亮も同じような感情を抱いていた。

その感情を胸に秘め、咳払いをして続ける

 

「概要は山脈から一番西側の賊に夜襲を駆け、敵陣を横断するというもの」

「何と……些か危険では?」

 

危険どころではない。135000もの大群の中を突っ切るというのだ。まず間違いなく途中で力尽きそうだが

 

「そうでもないわ。まず、夜という事で弓矢は殆ど当たらない筈よ」

「うむ、ワシ位であれば感覚でどうにかなるが、訓練も受けておらん賊に戦果は期待できんの」

 

夜の射撃は困難を極める。明かりが無ければ距離感も分からない。

相手が見えなれば的を絞れないのだ。故に、弓矢はあってないようなものだし

例え放っても賊同士が潰れてくれるのだ。

 

「更に、何時でも離脱できるように浅いところを、賊が追いつけない限界の速度で東の山脈まで横断して自陣へと帰還するという形よ」

「荀彧殿の考えだと、ほぼ横断するだけという形ですが、効果はあるのですか?」

 

そう、浅いところだと奇襲しても大した被害が与えられないのは必須。本来であれば火を用いて陣を焼き払いながら敵に打撃を与えて離脱するという

物的被害を期待するものが多い。が、今回の策は殆ど横断するだけである。…それでも危険には変わりないが。

 

「あるわ。そこに賊と同じ黄巾を巻いた兵士が賊を攻撃する。という一点を与えてあげれば、同士討ちを期待できるわ」

「なるほどね…桂花。その賊に変装する為の準備は出来ているのね?」

「はい。数は多くありませんが、問題ありません」

 

暗ければ隣の人間の顔も見えない。そして、特に親しくなければ135000の数の人間の顔を全て覚えられるわけが無いのだ。

故に同士討ちは成功しやすい。それに拍車を掛けるのは彼らに秩序が無いからだ。

無節操に襲ってきた賊に理性は期待できない。故に暴走することは必須だ。そう、黄巾の将が居たとしてもその制御は困難である。

 

そして膨大な数。45000は一流の将でも制御が難しい。曹操ほどのカリスマがあれば出来なくは無いが、それでも効率という点においては首を傾げる。

適切な数の兵士を割り当て、無理なく敵を攻める。そして、理詰めで相手を陥落させるのだ。そう、これが荀彧の軍略。

相手が多いのなら、同士討ちさせればいい。仮に治めたとしても、その後の連携が取れるほど相手の心情が回復することは、永遠に無い。

 

「…私は異論は無い」

「私もありません」

 

他の軍師二人が同意する。この奇襲で相手の数を減らせるし、その数が少なくとも、相手の連帯感を損なわせることも可能だ。

 

「…ふむ。浅く、深追いをしなければ突破は可能のようですな。私も異論はありません」

 

希望を出した趙雲も賛成の意を示し、奇襲の運びは決定した。

 

「漸く、攻城戦」

「それでは、奇襲部隊を決めましょう」

「ちょ、ちょっと華琳さん!?まだ決まっていませんでしたの!」

 

漸く攻城戦に入るのかと思いきや、今度は奇襲戦の人員を決めなければならないのだ。

袁紹は前回活躍できた攻城戦に興味を示しているが、あれは単に策が成っただけである。

しかし、活躍したのは事実だし、砦の南と西側は殆ど袁紹軍で片付けたのだ。

 

「……攻城戦でやることは単純よ。野戦での動きで城へと取り付く経路が各々出た筈」

「何を仰いますか。まだ決まっておりませんわ」

 

袁紹がそれに突っ込みを入れる。そう、この軍議ではまだどういった経路で城を攻めるかは決まっていない。

しかし、テーブルの上に広げられた地図を見れば、どの軍が何処の門へと取り付くかは一目瞭然である。

西側に展開している袁紹、そして南に展開している孫策、東側に展開している連盟軍。

 

全員が共通認識を持っていたと思ったが、曹操にとっては思い違いらしい。

 

「…では、盟主のご希望通り、攻城戦に付いて先にまとめましょう。桂花」

 

若干呆れた表情を作るが、それに構わず隣の荀彧を呼んだ。

 

「はっ。…まず袁紹様の軍は賊を打ち破った後、西側へと取り付きます。そこから位置的に孫策様は南門。我ら連盟軍は東門からです」

「付け加えると、北側の市街には殆ど兵士が残っていない。それは相手の動きで分かっているわ。故に、此方は私たちが抑えるわ」

「お待ちなさいな。奇襲等はどうするのかしら?このままでは華麗に進軍が出来ませんわ」

 

荀彧が答え、曹操が付け加える。その際に荀彧がその石を動かして、視覚的にも分かりやすく説明する。

だが、身を乗り出して待ったを掛ける袁紹。前回のように華麗に攻城戦が行く運びにしたいらしいが

 

「それは不可能よ。奇襲は不意を突くから奇襲であって、既に相手に悟られていたら奇襲とは呼べない。よってこの流れでの攻城戦はひたすら門を攻める他ないわ」

「……きぃー!」

「れ、麗羽様。確かに奇襲は困難を極めるかと思いますよ」

 

完全に論破されて憤りを示す袁紹に各陣営は辟易するが、顔良はそんな袁紹を宥める様に諭す。

曹操が入っていることは尤もであるのだ。何より相手は将が複数いる…最低でも三人もいるのだ。

篭城すれば兵士を統率することは出来る。故に隙は以前よりも少なくなるのだ。

 

「…分かりましたわ!もう!……では、奇襲部隊の人員を早くお決めなさい」

 

背もたれに体重を預ける袁紹。そっぽを向いている彼女のイライラは取れていないらしい。

しかしそれにはお構い無しで、曹操が口を開く。

 

「奇襲部隊に関しては…そうね、孫策軍以外は、前回の奇襲部隊と同じでいいと思うわ」

「ああ、それでいいぞ。そうだろ?趙雲」

「問題ありません」

「あたいも異論はないぜ」

 

公孫賛と趙雲。文醜が同意し、孫策軍の方へと視線を向ける。

そこにはわくわくしている孫策を押さえつけている周瑜と、それを見て微笑んでいる黄蓋がいた。

そして視線に気付く黄蓋が徐に口を開いた。

 

「なら、孫策軍からはワシが行こう」

 

ぐっと力瘤を作るように腕を上げる黄蓋。歴戦の猛将故、誰もがその意見に反論はしない。

…その隣の孫策が周瑜によって挙手をしないように圧力をかけられているが、それは今は関係ない。

 

「華琳様。徐晃には凪をつけた方がいいかと」

 

奇襲部隊の段階で荀彧が考えていた事を口にする。

徐晃に付いては兵を率いてもらうことは確定しているが、やはり彼女には参軍をつけないと心配の種が取り除かれない。

故に楽進をつけることを曹操に進言する。

 

「そうね。その後の野戦でも慣れる為投入するのもいいわね。それで、数はどうするのかしら?」

「…各将に1000の数を付けて一気に突破が私としては一番理想かと」

 

周瑜が考え、口にする。

 

「へぇ…周瑜。その数の根拠を述べなさい」

「はい。まず機動性の問題です。多ければ多いほどその機動性が失われていきます。その代わりに攻撃力と防御力が上がりますが、それでも20000は付けないと厳しいです」

 

相手は45000という大群が三つだ。半分以下で漸く攻撃力と防御力を持たせる意味が出てくる。

それ以下だと数の圧力で紙も同然なのだ。

 

「であれば少数精鋭の基本を守り、敵陣を撫でる様に駆け抜ける形が理想です。その素早さを保つには1000が一番都合がいいかと」

「うむ。確かに押しつぶされず、速度を維持するのであればその人数が妥当ですな」

 

何も135000を一気に相手にするわけではない。上辺だけなので、数万そこそこの中を突破するという形なのだ。

故にそこまで多くの戦力も必要ないのだ。だからこそ、趙雲は納得する。

 

「それでは、数は1000で異論はないかしら?」

「異論は無いな」

「無いわ」

「ああ、あたいも無いぜ」

 

満場一致に決まった奇襲部隊。各将が1000を持つと8000の数となる。この数で一点突破を果たすのだ。

陣形は相談しなくても大丈夫である。何故なら彼女達は戦場を見て、部隊を見て、自然と形にするからだ。

そう「武人の感覚」で決めて、戦場を駆けるのだ。

 

「漸く決まりましたわね。それでは、他に何かありませんかしら?」

 

袁紹が漸く決まったのを見計らい、早速声を掛けた。既に当たりは暗くなりかけているのだ。

しかし、自身たちの命運を決めるのだ。慎重にならざるを得ない。

 

「それでは、策以外の事をさっさと詰めましょうか」

 

袁紹も馬鹿ではない。流石に決める物はまだ残っていることを自覚しているのか、ふてくされた顔だが、盟主らしい仕事をしてくれる。

それに答えるように全員が頷き、その他の後方の仕事を詰め、軍議は解散となった。

 

既に日が落ち始め、月が顔を出そうとしていた。

 

 

 

 

 

 


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