【習作・ネタ】狂気無双   作:モーリン

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29話

 

 

 

黄巾の乱が終わり、曹操軍も陳留へと戻り、事後処理や滞っていた政務や邑の見回り等、各々割り振られた業務へと戻っていった。

また、朝廷から派遣された陳宮から曹操は正式に、西園八校尉の一人に任命された。その際色々あったが、余り関係ないので割愛する。

 

曹操が懸念していた夏候惇と徐晃の問題は今は表面化していない。

夏候惇は確かに徐晃に警戒心を抱いているが、同時に今回の乱での貢献者でもある為、表面上は普通の対応をしている。

何より、夏候惇が少数を引き連れて邑の見回りを行う際には、徐晃に隊の調練を頼むからだ。

 

故に爆発はしないだろうと曹操は読んでいる。

 

だが、それも何時までも均衡が保つわけではない。何か切っ掛けがあればその関係も修復出来るかもしれないが、今の所はまだ様子見が良いと判断した。

 

というより、その問題が表面化していない現状、そちらに感けていられないのだ。

そう、溜まりに溜まっている政務をこなさなければならないからだ。

連日に渡って睡眠時間が大幅に削られている事実は、曹操をもってしても疲れるの一言であった。

 

荀彧も溜まりに溜まっていた書類に追われて、手が空いていると思われた徐晃すら用いて、その書類を捌いている。

正に猫の手も借りたい状況であった。意外にも徐晃は真面目に書類仕事を取り組んで、二日も経てば聞いてくる事も少なくなり

仕事が捗った事は荀彧にも驚きであった。

 

と言っても、簡単なものなのでこの程度であれば、夏候惇でもそつなくこなすだろう。

……書類仕事に付いての忍耐力は別としてだが。荀彧は隣で仕事をしている徐晃を通して夏候淵を見る。

彼女は夏候惇の仕事も大半背負っているのだ、しかしそれでも何処か余裕がある態度を崩さないのはさすがと言った所か。

 

が、今は人のことを心配している場合ではない。兎に角どんどん書類を捌かないと対外面でも評判が悪くなることは必須。

故に主、曹孟徳に恥をかかせないよう奮闘しているというわけである。

 

そして今日は、朝から徐晃を捕まえて、荀彧の執務室へと連行して、どさっと書類を置いて、手伝って欲しいという、命令を下した。

この件については既に曹操からも許可を得ている。しかし、徐晃はあくまでも手伝い。

調練や、黄巾党の残党がいれば、そちらを優先に対応するのだ。

 

此れまでも何度か残党狩りはあった。

最初の頃は規模が大きく、軍を動かしたことはあったが、既に活動も沈静化してきて、隊を率いての対応となった。

徐晃は率先して参加しており、2000程度の賊狩りであれば、安心して任せられるという実績がある。

 

此れには曹操も大助かりしている面がある。やはり現状一人でも多くの者が、内政に対応してくれる状況が欲しいのだ。

参軍に付いていた楽進は、街の警邏隊の隊長を勤めている為、軍での出陣以外は余り街を離れられないのが現状である。

だからこそ、徐晃を起用しているのだ。

 

「もうお昼ですよ、気分転換に何処か食べに行きませんか?」

 

荀彧が机でぽんぽんと書類やらの処理をしている中、徐晃が立ち上がり、ぐっと背伸びしたのを視界の端に捕らえて

その大きな胸に若干の殺意を書類にぶつけながら格闘しようかと思った矢先に、徐晃からの提案が来た。

そう、荀彧の体内時計でも既に昼を大幅に過ぎ去っており、何時でも昼休憩にいける時間帯である。

 

だが、その提案に驚いたように徐晃を見る荀彧。

 

それもそのはず、まさか徐晃がそんな提案をしてくるとは思わなかったのだ。

曹操とは夏候姉妹や荀彧、許緒と同じくらい、昼食を共にしている姿を見かけているが

それでも一人で食べている姿の方が珍しくない。

 

というより、この曹操軍内にほぼ同時期に参入した時から一度もそんな声は掛かって来なかったのだ。

荀彧も、若干反りが合わないと思っていたし、何より危険人物だというレッテルが貼られていた為、疎遠になっていたのは事実。

 

「……そうね。その提案に乗るわ」

 

少し考えて結論を出した。

ここで断ることは簡単だが、それだと今後、仕事を任せたり手伝わせるときには、若干気まずい雰囲気を出すより

こうしてスキンシップした方が良いと考えた。というのもあるが、最大の要因は夏候惇との不和。

 

彼女の性格やらを知る絶好の機会なのだ。

 

故に断るという選択肢は無くなり、一緒に食事を共にするという事にしたのだ。

勿論、曹操と顔を合わせれば、彼女も誘おうと思った。しかし、基本的には向こうからアクションが無ければ、共に食事をすることは無い。

それでも誘うのは、一時でも主の傍に居たいからだ。

 

「それでは、美味しいところを最近見つけたので、そこにいきましょう」

「任せるわ」

 

荀彧はそういえば最近、街へと出て食事をしていなかったと、改めて自分の状況を省みて、女性としてはちょっと頂けない状況だと反省した。

今度の休みはお店を回って自身の女子力…もとい、流行や服等を新調して、曹操を悦ばせる要素を作らないといけないと、決意した。

 

そうして荀彧も立ち上がり、二人で執務室から出て行った。

 

陳留の城から出ると、そこには活気がある町並みが広がっている。曹操が赴任してから交通の面がが整備され、商人が行き交うようになった。

その為、お金を落としてくれて経済が潤うという形だ。といってもそこまで単純ではないが、簡単に言うとそう表せる。

兎に角、お金というのは使わないと経済が回らない。お金持ちはお金持ちなりに豪勢に食事を取るのは、別段悪いことではないのだ。

 

その豪勢な食事の為に、どれくらいのお金を他の者に落としているのかは、想像に難くない。

故に、お金はどんどん使って、市場を回していけば自然と人も住み着き、更に経済が活性化するのだ。

 

しかし、そうすると流民や貧困層などの下級市民というべきか、それらの民が発生するのは必須である。

そういった者達が発生する原因が、一言で言えばお金だ。このお金をどう手に入れるのか、それは働くことである。

よって、曹操は働く場所の提供や公共事業等も展開しており、貧富の差をなるべくだが、緩和するように努力しているのだ。

 

さらに人が住み着く条件の一つの治安維持。これは楽進が街全体の警邏を部隊で行っており、治安は安定している。

が、やはり犯罪は起こってしまうものだ。教育が一定レベルに達していない市民が多いため、秩序が守れないのだ。

此れに関しては現状、手が回せない状態だ。私塾等は開いているが、それでも多数を占める中級層の市民では、ずっと受けられるほど安くは無いのだ。

 

その活気付いた街を東側へと歩き出した徐晃の隣に並び、荀彧もとてとてと歩いてく。

歩幅が違うので徐晃が一歩前へ歩くと、荀彧は1.5歩歩かないといけないのだ。その為歩き方は可愛らしい歩幅となる。

 

「街の東側に出来た料理店で、可愛い女の子が料理を作って、それがまた美味しいって評判らしいですよ」

「らしいですよって、あんた実際に行って見たんじゃないの?」

 

徐晃の言葉に怪訝な顔を向ける荀彧。

背は徐晃の方が圧倒的に高いので、見上げる形になるのが、荀彧にとってまざまざと胸を見せ付けられる格好となってしまうのは、不本意であった。

 

「行きましたよ。餃子ってあんなに肉汁が出るものなんだと、初めて感動しましたね」

「そ、そう…」

 

それを知って知らずか、両の手を膝にやり、前かがみになって荀彧にその感動を伝える徐晃。

胸が大きく開いている着物の為、その谷間がアップで荀彧の視界に映る。やはり、相容れないと一人で悟りながら

されど、純粋にそう伝えてくる徐晃に、文句が言えるはずも無く、曖昧に答えるのが精一杯であった。

 

いや、荀彧も若干彼女の神秘性…というべきか、その美に圧倒されていたというのもあった。

曹操とはまた違った完成された美は、多くの民を振り向かせるほどである。誰がどう見ても美人と形容できるその容姿は

嫉妬を通り越して呆れるくらいである。

 

「そうなんですよ。今まで国中回ってきて三指に入る美味しさでしたから、心配は無用ですよ」

「なら、さっさと行きましょう。そんな話をしてるとお腹が減ってくるわ」

「はい」

 

圧倒されていた谷間が荀彧の目の前から無くなり、またとてとてと歩き出す。

しかし、と荀彧は思う。そう、徐晃の料理に付いてのこだわりだ。

あの性格からして当初は、人肉を笑いながら食べているというイメージがあった。

 

その事は決して口にはしないが。

 

事実、最初に徐晃と会い、戦闘してきた後は血がべっとり口周りに付いてたのだ。

そこから連想できなくは無い。失礼極まりないが。だが、実際は普通に料理を吟味し、美味しいところを探している女性であった。

 

そう、曹操との買い物も護衛の意味合いが強いが、それでも曹操とファッションに付いては会話できるほどである。

ただし、女性の共通の趣向品。いわゆる香水や軽い化粧に付いては全く付いてこれないが。

その事に曹操は勿体無いと思っているが、強制してもどうせ徐晃を抱け無いから、そこまで拘る必要も無いのだ。

 

また、徐晃自身から何か甘い香りが漂うのだ。むしろそれで大丈夫とは、レズビアンの曹操が内心思っている事である。

 

意外だと思ったのは仕方が無いことだったのかもしれない。

 

「あ、ここです」

 

そうして歩くこと5分程度の近くに、前の店を流用しているのか、少し趣がある家屋に新しい看板とちぐはぐなお店であった。

徐晃が中に入り、荀彧もそれに倣って入店した。中は飲食店なので清潔が保たれているのは当たり前だが、雰囲気は明るい。

赤を基調とした作りになっていて、回りの客はわいわいと料理を食べている。

 

テーブル席が主になっており、店の奥に二人席が空いているのが眼に取れた。

 

その時

 

「いらっしゃいませー!」

 

元気が良い少女の声が二人の鼓膜を打った。

二人がその方向を見ると、髪の毛が緑色でおでこを見せるように前髪を蒼い大きなリボンで結んだ

許緒と同じくらいの身長の少女がエプロンを着て此方にお辞儀をしていた。

 

「こんにちは、また来ました」

「毎度どうもありがとうございます!二名様ですね、此方へどうぞ」

 

その少女に案内されて着席する二人は、テーブルにおいてある目録とお品書きに眼を通して何にするのかを考える

その間、ピークの時間帯でもある為、少女は忙しそうに客を捌いてた。

 

「何がお勧めなの?」

 

荀彧が目録に眼を通しながら徐晃へと問う。色々な種類の料理を取り扱っており、正直何が旨いのかが判断付かなかったのだ。

 

「そうですね…麻婆豆腐とご飯、それに野菜汁が私のお勧めですね」

「それでいいわ」

 

実際に何が美味しいのかは分からないなら、知っている人間に聞けば良い話。

と言っても味覚には個人差があるが、徐晃ならまぁ国中回ったというし、ゲテモノ好きでは無いと思われるので、任せたのだ。

そうして、少女を呼んで、二人とも同じ品を注文して待つこと、半刻程度。

 

少女がお盆を二つ軽々と持ってきて、すっと徐晃と荀彧のテーブルへと支給した。

 

「お待たせしました!麻婆豆腐とご飯と野菜汁です。熱いので気をつけてお召し上がりください!では、ごゆっくりどうぞ!」

 

真っ赤とは言わないがそれでも辛そうな麻婆豆腐を見て荀彧は、ちょっと失敗したかもと思った。

しかし、ご飯はふっくらとしており良い色を出している。更に野菜スープからは食欲をそそるような香りを出しており、美味しそうだ。

 

お盆に載っていた簡易なお手拭で手を拭い、蓮華で野菜スープを掬い一口。

 

「……美味しい」

 

口に入れた瞬間、芯から温まる様な温度で広がっていくのは、野菜と香料の香り。

ふわっと広がる優しい香りの中に、胡椒がぴりっとアクセントを醸し出し、寒くなってきた昨今では丁度良い刺激を与えてくれる。

更に野菜は、歯ごたえがあり、良い野菜を惜しみなく投入しているのは、荀彧でも感じ取れる。

 

喉をこくっと鳴らしてその汁を胃へと流し込む。口の中に残る味わいもしつこくなく、されど薄くない。

 

確かに、徐晃がお勧めするだけはあると思った。

 

「ふふ、美味しいですよね。いい人がこの陳留へと店を出してくれて、感謝ですよ」

 

そうして徐晃も蓮華で野菜スープを飲んで、笑顔になる。食は徐晃にとっても非常に大事な部分である。

やはり美味しいものを食べなければ、日々の力が出ないし、健康を保てない。健康を保つことすなわち、殺しが何時でも出来るということだ。

病気にでもなって、満足する力を出せないなんて本末転倒過ぎる事は、絶対にあってはならないのだ。

 

故に徐晃は食事に人一倍気を使い、拘っている人物でもある。

 

そして、荀彧は目の前にある、メインディッシュ。そう、赤い麻婆豆腐に手をつけた。

まず香りは、刺激的で香辛料が使われていることは明らかであった。

 

そして一口。

 

「あふ!?」

 

熱かった。辛味と熱さが相まって、予想以上に辛いと思い、はふはふと咀嚼していった。

そして首を傾げる。こんなに甘味があっただろうかと。そう、辛さの中に甘み…いや、旨味が濃縮されており、辛味が逆にいいアクセントとなっている。

ふと気付けば辛味が無ければならないと認識しているほど、マッチしている味なのだ。

 

豆腐と挽肉、そして新鮮な葱を使ったシンプルのようで深い味わいは、ご飯とも良く合い、後味はまろやかなものとなる。

 

そしてスープ。

 

此れを飲めば、すっと口の中がすっきりして、口内が非常に落ち着ける状態へと誘う。

この組み合わせは、正に三位一体と思わせる程であったのだ。

 

「んー…美味い」

 

徐晃も麻婆豆腐に口をつけて、ご飯を食べ、スープを飲む。

単品でも美味しいもの達だが、こうも考えられている品々をチョイスする徐晃の舌は本物であった。

綺麗に食べる徐晃を見て、意外に几帳面な一面と彼女の拘りも感じ取れたので、そっち方面でも収穫があったのは僥倖であった。

 

「ここです、華琳様」

「へー、秋蘭がお勧めする程の料理、楽しみだわ」

 

二人でゆっくりと食事していた時、既にお昼のピークは過ぎており、客も疎らになった頃を見計らってか

曹操が夏候淵と許緒を引き連れてその店へと足を運んできた。

 

「いらっしゃいませー!」

 

曹操が先に入店し、後から二人が入店し、聞き覚えがあるような声に反応し、許緒が視線をそちらへと向けた

 

「あー!!流流だ!」

「季衣!?」

 

驚いたように、流流と呼ばれた緑色の髪の少女を指差した。

そして許緒の声に反応した緑色の髪の少女…流流も許緒の方を向いて驚いた。

 

その後、曹操たちと食事をして、流流もとい、典韋が許緒がいるからと言う事で、城の料理人として雇われた。

そう、あの曹操が典韋の料理が旨いと率直に思ったのだ。そして許緒の推薦という事もあり、直ぐにスカウトしたという訳だ。

この件に関して店長も承諾しているし、何より商い人なのだ。曹操の性癖も理解している。

 

故に若干哀れみを込めて典韋を送り出した店長。その事に典韋は余り疑問を持たずに、簡易な引継ぎをして、退職した。

 

「そういえば流流、何で陳留に居たの?」

「もう!邑で噂になってたわよ。華琳様のお抱えという事で。…私は信じられなかったけどね」

「なにおー!私はちゃんと働いているよ!」

「うん。だから安心して、丁度いいから邑にお金を持っていく為に、料理店で働いていたわけなの」

 

なるほど。と許緒は納得し、典韋がこの店で最後に作った餃子をおいしそうに食べる。

その様子をにこにこしながら見る典韋は、やはり親友の無事な姿を間近で見られて安心しているようであった。

 

「桂花と徐晃は何故ここに?」

「はい、華琳様。徐晃に誘われまして」

「珍しいわね」

 

荀彧と徐晃は既に食事を終えていた。その状況を省みて判断することは一つ。

曹操たちよりも早くに食事を行っていたということである。故にどちらかが誘ったのであろうという事は予測付くが

正直、荀彧からは絶対に誘わないだろうと思っていた。だが、徐晃からも、誘うことは無いだろうとも思っていた。

 

だからこそ、珍しいと返したのだ。あの徐晃が荀彧を誘うなんて日があるというのかと。

 

これは良い方向へと向かっているかもしれない。そう思った曹操は夏候惇との問題も、もはや時間次第の可能性も高いと予測した。

 

「ほう、甘菜からか。珍しいこともあるものだ」

「でも、料理に関しては見る目があるよ、甘菜ちゃんは」

 

両隣の許緒と夏候淵がそう反応する。夏候淵の言葉は曹操と同じだが、許緒はまた違った視点で徐晃を見ている。

といっても、どちらも食事好きという価値観の一致がそれを生み出しているだけだが、それを聞いた曹操は関心を持った。

 

やはり徐晃も人間だと、感じたのだ。

 

「お腹が減ったので、ついでに誘っただけです」

 

無表情でそう言う徐晃の内心は分からない。しかし、少なからず何か思った。という事は確実だろう。

若干顔を外の景色へと向けて逸らしている徐晃の頬は赤く染まってはいないが。

 

曹操は徐晃の無表情を見て、何処か不器用な雰囲気を感じた。それが少し可笑しく思い、内心少し笑った。

 

「それで、桂花。仕事の進捗具合は?」

「はい。今の所徐晃の手もあり、数週間で留守にする前の仕事量になります」

「そう。大変な時期だけど、よろしく頼むわよ」

「任せてください。全ては華琳様の為に」

 

簡易な礼を取り、近況報告をする荀彧。

それを少し細めた目で受ける曹操の頭の中は既に次の計画に移り

どのように今後を展開していくかを予測を立て、日程を大まかに決めていく。

 

やる事は山のようにある

 

それは曹操が思い描いている「天下泰平」の架け橋の為である。

農業、商業は勿論。軍事面や治安、街の体制等山積みであるが、不可能な課題ではない。

 

くすりと内心笑い、部下になった典韋を見る。

 

親友の許緒と談笑をしており、まるで仲の良い姉妹の様にほほえましい。

 

視線をふと外し、徐晃を見る。

 

面倒くさそうに机に肘を突き、ぼーっと窓の外を見る美女。いや、傾国の美女。

曹操の視線に気付いたのか、視線を曹操に向ける。

 

「……さて、そろそろ私たちは仕事へ戻りましょう」

 

憂いた表情を見せる(荀彧目線)曹操をぽーっと見つめていた荀彧は、徐晃の声に気を取り戻し

そういえば、既に昼休みの予定時間を過ぎそうになっている事に慌てた。

 

「それでは、華琳様。我々は執務に戻ります」

「ええ、よろしく頼むわよ」

「はい!」

 

そうして、曹操たちと別れ、徐晃と荀彧はお金を払って見せの外へと出た。

 

天気は良好。季節も春にはまだ届かないが、もう直ぐそこまで迫ってきている。

気温も丁度良く、ぽかぽかと眠くなる時期である。

 

口を開かないように欠伸をした徐晃は、溜まった涙を強引に手で擦り、落とす。

隣の荀彧も猫の手を作って涙を処理していた。

猫耳フードと相まって、道行く人は心温まり、これからの仕事を頑張ろうと思った。

 

城へと戻り、荀彧の執務室まで無言で移動する二人。

既にお昼の時間を少し過ぎて城の中は慌しく仕事をする文官や

遠くから掛け声が聞こえる武官や兵士、そして夏候惇の声。

 

漸く回りだしたと言っても可笑しくない曹操軍。

 

荀彧は町を見て、書類を見て、そして人を見てこう思った。

 

まだまだ大きくなる。と

 

見据える先は曹操の覇道の先と同じなのか。それは分からない。だがそれで良いと思っている。

必ず曹操が荀彧の道を切り開いてくれると、そう信じているからだ。

 

「……始めるわよ」

 

曹操への忠誠を新たにし、荀彧は机に溜まっている大量の書類と格闘し始めた。

それを見て徐晃も、妙に気合が入っている荀彧を尻目に、机の前に座って単純な計算や簡単な書類。それらの整理を手伝った。

 

ふと、徐晃の耳に入った鳥の鳴き声は、春の訪れをまだかまだかと待ちわびている風と共に、青い空へと消えていった。

 

 




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