【習作・ネタ】狂気無双   作:モーリン

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3話

 

 

 

腰に若干の寂しさを感じながら鍛冶場を出た徐晃が向かう先は、宿である。

既に日没をし始めており、夕暮れがこの江陵を照らしている。仕事もひと段落したのだろうか、道には先ほど鍛冶師を訪ねて行く時より多く感じた。

その人々を見ながらゆっくりと宿へ向かっていく。途中、上手そうな肉まんが販売していたので一つ注文し、金を払って一口。

 

「…旨い」

 

じゅわっと肉汁が出てかつ、ほのかな甘みとまろやかな口当たりが口内に広がる。

皮と肉のバランスがよく、塩味も丁度良い。その旨い肉まんをむしゃむしゃと咀嚼しながら歩いていった。

 

肉まんを全て食べ終わり少し歩くと、目的の宿があった。部屋を一つ借り受けて、ちょっと一休みしてまた宿を出る。目的は食事である。

先ほど食べた肉まんで余計に腹が減ってしまい、お金もまだまだ底を見せないため、今日の夕食は少し豪勢に行こうと決心した。

既に辺りは暗くなり始めている。宿で一休みしたから結構時間がたってしまっていた。

 

大通りを少し歩いていると、喧騒が漏れている酒場があった。喧騒…と言ってもそんなに騒がしい。という程でもないから、この場合活気といったほうが適切か。

他の店はこれほどまで活気に賑わっていなかったのと、美味しそうな香りがしなかったため、この酒場に決めて店内へと入る。

 

広さは結構あり、テーブル席とカウンター席、個室という豪勢に間取りを揃えている店内だ。

 

「いらっしゃい!」

 

主人であるのか、酒場なんて入っても殆ど歓迎されることは無いが、この酒場の主人は気が良い。挨拶をするとは現代日本に通じるところがある。

店内を見回すと、カウンター席の端が開いていたので、その席に腰を落着け、主人に問う。

 

「主人、餃子と酒をお願い」

「はいよ!ちょいと待ちな」

 

そうして、忙しそうに準備を始めながら、他の客の料理を同時進行で捌いていく。その手つきは熟練の技を感じさせる。

 

「はい、お酒です」

 

可愛らしい女性がお酒を片手に徐晃の席へ行き、カウンターテーブルに置く。

 

「ありがとう」

 

にっこりと笑いかけ、僅かながら女性の顔が赤くなる。しかし、その事を気にも留めずに正面に置かれた杯を傾けて、酒を嗜む。

この時代、お酒は何歳で飲んでも咎められることはない。勿論、18才の徐晃も例に漏れず、普通に飲酒をしている。

といっても、この時代のお酒は強いとは言えず、現代でいえば、チューハイ位のアルコール度数レベルなのだ。

 

よって嗜む程度や晩酌程度に飲むことは逆に体の健康を促進する。勿論、度が過ぎれば別だが。

徐晃は酒は好きでも嫌いでもない。普通に飲めるという程度だが、妙に飲みたくなるときがあるのだ。

そういう時には、こうして酒場なので飯を食いながら酒を嗜むのだ。

 

そうしてしばらく待っていると

 

「へい、お待ち!餃子でさぁ」

 

ごとっと豪快に置かれた器は結構大きく、徐晃の拳が5つほど入る。そこに餃子が沢山入っており、汁も旨そうである。

蓮華も付いており、さっそく一口汁を啜る。

 

「…旨い」

 

先ほどの肉まんと同じくらい旨く感じ、餃子も咀嚼する。この餃子も肉汁がたっぷりで、ほのかな香料の香りが食欲をそそる。

しかも熱々なので、夜に食べるのには丁度良く、体が温まる。

これは正解だなと思いつつ、餃子を食べながら、酒をちびりちびり飲んでいく。

 

 

 

 

 

「ああ!?もいっぺん言ってみろ!!」

 

そうして8割りほど餃子を食していたときに、後ろのテーブル席から男の怒鳴り声が上がった。

その声につられてふと後ろを見ると、大男と美しい女性が対峙していた。

 

「貴様のような男に酌など出来ぬ。と、申したはずだが?」

 

挑発的な視線を大男に流す女性。髪の毛は水色で肩まで伸びており、現代風に言うとナース服みたいな感じの服とその手には厳つい槍が握られている。

露出度が徐晃とためを張れるくらいあり、美しい腿が周りを照らしている炎に照らされて妖美だ。

 

「て、てめぇ…死にてぇようだな!」

 

その言葉と共に、男が握っていた杯を横に向かって投げ、結構な速度で宙を走る。

くるくると回転しており、遠心力で丁度中身が出てこない。そして、とある人物に当たった。

頭にあたり、回転力がなくなったため、零れなかった酒が全てその人物へと掛かる

 

「いたっ、つめたっ」

 

そう呟いたのはカウンター席の端に座っている黒髪の女性。徐晃であった。

一瞬だけ状況を見て興味がなくなったのか、残りの2割を食べていた最中であった。

もちろん後ろを向いていたし、殺気も無かったので徐晃には避けるすべは無かった。

 

そうした結果、胸元まで酒で塗れてしまったのだ。

その事実を認識し、後ろを振り返る徐晃。眼に映ったのは先ほどの二人。

思わぬ事に、店内が静かになった。

 

「…そういう事は外でやってよ、うるさい」

 

本当に迷惑そうに本心でそう呟く。

 

「ああ!?てめぇがうるせぇんだよ!ココは餓鬼が来るところじゃねぇ!帰れ!」

 

しかし、怒りで顔が赤くなるほど怒りを感じている男にはかえって逆効果で、更に怒気を上げてしまった。

確かに徐晃は大男が対峙している女性より、少し身長が低い。しかし、年齢に関してはこの世界、見た目幼女でも18才以上な女性は少ないが、見かける。

よってこの言葉は男にとって少し軽率であった。

 

だからと言って、あまりそういうことにプライドを感じていない徐晃はその程度で怒るこはない。

が、やっぱり少し傷ついてしまうのは仕方が無いことであった。

 

「もう18ですよ…童貞」

 

男にとって…いや、この大男の年代にとっては最大級の侮辱を放ってしまったのは、本当に少し仕返しがしたかっただけである。

他意はないのだ。…恐らく。

 

「何だと!この餓鬼が!!」

 

そうして、カウンターへと歩を進めようとした大男

 

「おっと、貴様の相手はこの私だったと記憶してるが?」

 

歩き始めた男にそう声を掛ける美女。手には槍を携えて、男を挑発する。

 

「…お前ら二人!表へ出ろ!ぶっ殺すか犯してやる!!」

 

完全に堪忍袋の緒が切れたのか、額に血管が浮かび上がるほどの怒りを言葉にし、叩きつけ、外へ出る。

 

「この酒場を血で汚すわけにもいかないしな」

 

徐晃を見てそう口にして女性も外へと出て行った。それを見届けて徐晃は残り一割に減った餃子を全て胃へと流しこみ、咀嚼しながら外へと出た。

勿論、徐晃はしっかりと料金を置いていった。

 

 

 

 

 

 

外には既に野次馬が出来ており、その中心には大男と、最初に対峙していた女性、そして徐晃が餃子を全て飲み込んで、女性の隣に立つ。

 

「へへ、良く見るとどっちも上玉じゃねぇか…おい、今なら一晩相手するだけで許してやってもいいぜ」

 

外の夜風に吹かれて若干冷静になったのか、それとも二人の容姿に男の本能が反応したのかは定かではない。

ただ、その言葉を口にした瞬間、徐晃の中の何かのスイッチが入った

 

「ふふ…良く吠える。ねぇ、私が最初にいっていいかな?」

 

顔つきが妖艶になり、服装や、酒を嗜んだことも相まって顔が上気しており、色気が普段の数倍以上も跳ね上がり、周りの野次馬の目が釘付けになる。

 

「ふむ、いいでしょう。私より、貴殿の方が被害を被っておりますし、私は後ろで控えていることにしましょう」

「ありがとうございます。…ああ、楽しみ」

 

最後の一言は女性には聞こえない声量で呟いた徐晃。

 

そうして徐晃は一歩前へでて、大男と対峙する。後ろに控えている女性より幾分か背が低いので、正に子供と大人である。

そして、これほどまで美しい女が男の手で汚される様を野次馬は期待しているのだ。

 

「どっちでもいいぜ、俺は優しいからな、殺しはしないさ…だが」

「御託はいいから早くしない?」

 

何かを徐晃に伝えようとした大男の言葉を遮って、勝負を始めようと促す。

 

「け!…一晩じゃねぇ、死ぬまで俺の奴隷として可愛がってやるぜぇ!!」

 

その言葉と共に、帯刀していた剣を抜き、大きな図体を揺らしながら徐晃へと迫る。距離はおよそ10歩

対する徐晃は構えておらず、自然体である。

 

「取ったぁ!!」

 

図体の割には意外と早く、この決闘に自信を見せていた実力の片鱗をうかがわせた。

しかし、この程度の速度は徐晃にとっては止まっているのと同じである。

僅かな金属と金属が擦れる音を出し、神速の抜刀を行い、男の刀身を切った。

 

あまりにも流麗に斬ったので、男は完全に徐晃の着物を切り、珠の様な肌に傷を入れたと確信していた。

 

しかし、男が思っていた相手の反応が無い。

そう思ったときに、地面に何かが突き刺さる音が男と野次馬全員の鼓膜を揺らした。

その音の根源を見ると、徐晃の後ろに何かが刺さっている…それは刀身であった。

 

男はあの刀身に見覚えがあった。それは自分が何時も腰に刺している剣。そこで漸く、視線を自身が振り切った剣へと向ける。

綺麗に切られており、その切り口は非常に滑らかである。

 

「へ?」

 

そう口から零し、徐晃を見る。その姿は先ほどと同じ自然体。抜刀もしていないし、何かをしたようにも見えない。

 

「て、てめぇ!何をした!?」

 

慌てながらそう徐晃に問う男だが、徐晃は綺麗な笑みを浮かべたままその場を動かない。

 

「お、おい!無視するな!何をしたんだ!?」

「斬ったのだよ。貴様の剣を……な」

 

男の問いに答えたのは徐晃ではなく、後ろの女性であった。

その女性の顔には驚愕が表へ出ていた。

 

「へぇ…」

 

後ろの女性がその事実に気付き、自然と笑みが零れていた。

極度のバトルジャンキーである徐晃は直ぐに目の前の男を始末して後ろの女性と死闘を演じたいと思った。

 

「き、斬った!?…ばかをいうな!金属で出来てる剣を斬るなんて…そんな」

 

その言葉から先は続かなかった、野次馬から悲鳴が上がったからだ。

何があったのか、それは直ぐに分かった。自分の剣が落ちていたのだ…否、自身の右腕ごと地面におっていたのだ

 

「あ、あああああ!?腕がああああああ!」

 

野次馬も蜘蛛の巣のように散っていくものが出てきた。しかし徐晃にとってはそんなものは関係なかった。

 

「や、やめてくれ!俺が、俺が悪かった!だから!」

「あっそ」

 

そう周りの様子も、男の言動も全てどうでも良かったのだ。殺す瞬間の感触だけ得られればこの男に用は無い。

早く後ろの女性と殺し合いがしたいのだ。

神速の抜刀で男の胴体をなぎ払おうと刃を滑らせた。一秒未満で男を両断するその刃は…金属音と共に薄皮一枚のところで止まった。

 

「…既に勝負は付いている。それ以上手を下す必要はない筈だが?」

 

後ろの女性が、槍のリーチを生かして徐晃の後ろから男への攻撃を止めた。

 

「…ふふ、やっぱりいいわ。貴方との殺し合い…とっても感じそうだよ」

 

槍を打ち払い、体を反転させて女性を見る。

その女性は油断なく槍を構えて徐晃の出を伺っている。その顔は険しい。

その間に、腕を切られた大男は野次馬に引きずられながら這い蹲って逃げていった。

 

「……貴様。殺人中毒者か」

「ええ。ただ、一般市民とかには全く興味ないんだけどね。あ、あと強い相手との死闘も凄く感じるわ」

 

女性は険しい顔のまま、冷静に相手の性癖を当てた。その事により、徐晃は更に一段階相手の評価を上げる。

この状態で未だに頭が冷静でいられる人間はいったいどれほどいようか。

殺し合いたいといわれても尚冷静でいられる。その事だけで、徐晃は下腹部に熱がこもる

 

「武人かと思ったのだが…貴様は只の殺人鬼。この趙子龍の槍で成敗してくれよう」

 

そして臨戦態勢を取る女性こと趙子龍。三国志では劉備の息子、阿斗を敵陣中にて救出するという離れ業をやってのけ、半ば伝説と化している人物である。

ただ、この趙雲は女性であり、いまはまだ名が広まっていない。しかしその実力は本物で、この趙雲もまた、数多の賊を葬ってきたのである。

 

「私は…ふふ、武人じゃないからね。名乗るほどでもありません」

 

そうして、刀を鞘へ納刀し初めて構える。

徐晃は趙雲をそれほどの相手と見た。しかし…

 

「いざ、参る!!」

 

その言葉と共に先ほどの抜刀術よりは少し遅いが、閃光のような突きを徐晃へ向かって繰り出す。

初速から最高速度を誇る槍さばきは達人の域へ達しており、一流を超えた超一流という領域である。

 

「ふふ、最高だよ!!」

 

その突きを見た瞬間に、徐晃の全身が歓喜した。先ほどより速い抜刀術でその突きをなぎ払い、そのまま一歩踏み込む。

返す刀で趙雲の首を跳ね上げるように空気を切り裂きながら刀を滑らせる。

 

「ふ!」

 

しかし相手はあの趙雲である。弾かれた槍を立てて柄でその剣閃を防ぎ、槍を回転させて、刀身のほうで一瞬で刀を打ち上げる。

打ち上げる筈の刀は趙雲の力に負けずに、徐晃の手にまだ残っている。だが、打ち上げられたことによっての隙は僅かながらに在る。

常人では決して間に合わないような小さな隙も、この趙雲は付いてくる。そう、相手の腹部へ槍を繰り出す。

 

それを回転しながら避けて、遠心力を利用して地面へと叩きつける。

 

「ぐぅ!?」

 

恐ろしい力で地面へと叩きつけられたが、趙雲の意地なのか、槍から手を離すことは無かった。

しかし、それは悪手であった。

叩きつけられた槍を踏みつけながら趙雲へと切り込む。

 

「く!?」

 

上半身を反らして致命傷は避けるが、切り傷が出来、血が滴る。

上半身を反らした力を利用して、槍を地面から引っ張り、上に乗っていた徐晃をどかす。

それを察知し、徐晃はバック転で軽やかに後ろへと距離を開けた。

 

「あはははは!!」

 

本来であれば綺麗な笑い声な筈だが、この場面では悪鬼が笑っているようにしか聞こえない。

瞳は爛々と輝いており、顔は上気している。されど頭の中は意外に冷静な部分もあり、戦況を良く把握している。

 

その笑い声と共に、地面が陥没するほどの踏み込みで趙雲に迫る。

地面からの切り上げを趙雲はいなし、自身が誇る神速の連撃を徐晃へと叩きつける。

 

「ハイ!ハイ!ハイー!!」

 

しかしその尽くが片手で防がれ、最後に打ち払われて、そのまま一瞬で回転し、遠心力を伴った剣閃を趙雲へと走らせる

 

「くぅ!?」

 

紙一重で槍を剣と自身の間に滑り込ませて、防ぐ。だが趙雲は思った。

 

まずい。趙雲の本能がそれを告げる。ココまで打ち合わせてきて自分と相手の力量を悟った趙雲はこう結論付けた。

 

このままでは確実に負ける。と。

 

力は圧倒的に此方が負けている。速度は僅かながらも向こうに負けているし、戦闘の嗅覚というものなのか、それらは同じくらいと見切った。

だから負ける。

 

(く!?我が武をもってしても、これまでか…)

 

そう思った矢先に、徐晃の足元へ矢が刺さった。

 

「こぉら!そこの貴方達!街の大通りで何をやっているの!?」

 

そう大声が聞こえた。二人ともその方向を向いてみると、妙齢の美女が大きな弓を携えて此方を警戒している。

周りには官軍であろうか、結構な数の兵士が二人を警戒していた。

 

「…時間切れって奴ですね。面白かったですよ、趙子龍」

 

その言葉と共に徐晃は刀を納刀して妙齢の美女達が居る反対のほうへと歩き出す。

 

「こら!待ちなさい!そこの黒髪の女性をひっ捕らえなさい!」

「「「は!!」」」

 

そうして官軍が二人へと…徐晃のほうへ向けて走っていく。その僅かな時間で趙雲は徐晃へ質問をした

 

「…名は、なんという?」

「……徐晃」

 

一瞬間が空いたが、名前を趙雲へと教える。

 

「そういえば、初めて戦った相手に名前を教えましたよ」

 

振り向いて満面の笑みを浮かべる徐晃。あたかも、初めてを貴方にあげちゃった。みたいな背景はきらきらと輝いていそうな感じである。

それに一瞬だが、眼を奪われてしまった趙雲は気を取り直したら既に徐晃の姿はなく、兵士がおそらく去っていったであろう道を走っていく。

 

「徐晃……次は必ず勝つ」

 

そうして趙雲はその決意を胸に秘めたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

「…御暑いところ悪いのだけれど、あなた、ちょっと屯所まで来て事情を説明してもらうわよ?」

 

いつの間にか後ろに立っていた妙齢の美女に肩を捕まれて趙雲はどう説明したものかと頭を悩まる。

 

「あら、その傷大丈夫かしら?」

 

肩を掴んでいた女性は趙雲の胸の上にある切り傷をみて、そうなげかけた。衣服を赤く染め上げており、結構な出血量を伺わせるが

 

「はい、大丈夫です。血はまだ止まっておりませんが、深手ではないですので止血を施せば問題ないでしょう」

「そう、それじゃあ止血も兼ねて屯所までお願いね」

 

そうして妙齢の女性は趙雲に肩を貸してなるべく負担を掛けない様に屯所へと向かっていったのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 




誤字、脱字等御座いましたら、ご指摘をよろしくお願いします

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