【習作・ネタ】狂気無双   作:モーリン

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5話

 

 

 

 

江陵を出て一年。その間に殺した賊の数は…1200

ココ最近、賊の出没数が増えてきている。といっても大方の原因は分かる。

朝廷が原因である。

 

この国はいまや荒れ果て、民は貧しい生活を強いられている。

その中で貧富の差が昔より大分激しくなり、貧しい民が賊へと身を落としていく。

そしてその被害が邑にも及びさらに賊へと、流民へと流れていく。

 

さらにそこから悪循環が生まれて…今の状況へ。

その間に朝廷は対応らしい対応は行っていない。さらに太守やその県を治めている人間も欲に眼がくらんだ人間が多数見受けられる。

中にはまともな人間も居たが…それでも焼け石に水だ。

 

だからこそ、邑の人間は自分達の手で邑を守っていかなければならない事になってしまっている。

本来であれば国が対応することをだ。

 

 

もう末期なのだ。国という名詞で呼ばれるにはぎりぎりな状態なのだ。

 

 

 

「ま、私にはあんまり関係ないけどね」

 

賊の砦に単身で乗り込み、合計154人の賊を全て切り殺し、一休みしている徐晃。

前年から身長の変化は殆ど無い。しかし、その腕には更に磨きが掛かっていた。

徐晃は何時でも死線と隣り合わせである。しかも孤立無援の状態だ。

 

その中に既に7年も身を投じている。

故に第六感というべき感覚…言うなれば「勘」というものが物凄い発達している。

来る。と思えば、予想通りの所へ来るし、居る。と思えば予想通りのところに敵が潜んでいる。

 

この勘と身体能力、怪力、武の才能で今まで生き残ってきたのだ。

しかもまだまだ成長を止めることは無い。どんどん強くなっていくと徐晃は実感している。

 

砦の中に既に生きている人間は誰一人も居ない。

 

今は

 

賊を殲滅した後、地下へ行く階段があった。

そこに女が監禁されており、様々な匂いを発しながら虚ろな眼をしていた。

 

「…どうする?」

 

その姿を見て徐晃は……同じ女として多少は同情する。しかし、そこまで心は揺れ動かない。

これまで何度もみてきたし、今更何をしても彼女達の時を戻すことは出来ないからだ。

 

「……あ…こ、殺して……殺してほしい…」

「分かりました」

 

虚ろな眼を徐晃に向ける女の首に刀を当て、一閃。

このときばかりは徐晃は快感を得られない。だが、最後の情けとして行う。

勿論、そのまま外へ連れ出して邑の近くまで送ることもある。

 

だが、多くの女性は陵辱され尽くされ、自身の死を願った。

 

そしてその結果が、血の海に沈んだ女性である。

 

「……」

 

ままならないものだとそう最後に思い、女性のことを思考の外へと出した。

 

 

 

だからこそこの砦には生きている人間は居ない。あるのは金と食料と武器等である。

しかしあまり多くはもっていけないので一晩この血生臭い所で過ごし、金と食料を拝借して立ち去る。

これまでもこれからも徐晃はそうしていくつもりである。

 

「あー…中々良い布使ってるなぁ…あったかい」

 

そう一言呟いて徐晃は瞼を閉じた。

 

 

 

朝になり、金と食料をまとめて持ち込んだ。幸い馬が生きていたので、それようの食料等を拝借し、荷物を多くまとめて砦を発った。

 

徐晃は馬の扱い方は普通に言うことを聞かせる程度には嗜んでおり、こういったことは初めてではない。

この場合は馬と余分な食料を街や邑に着いたら売りさばき、旅の路銀へとする。だからこそ、徐晃は幸運だなと思った。

 

「さてと、行きますか」

 

打ち捨てられた砦を背にして歩き出す。こういった砦は燃やすか、取り壊されない限り何時の間にか次の賊たちが占領して再利用する。

だからこそこの場所は忘れない。また一年後くらいに行けば賊がウヨウヨ居るに決まっているからだ。

彼らは後を絶たない。それはこの国の常識となりつつあった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そう、報告ご苦労様」

「「は!」」

 

ここは陳留の城の王座の間。王座には少女がひとり、その下段の空間には女性が二人。

臣下の礼を取る前髪をオールバックにした長い黒髪の女性とその傍らに居る水色の髪をした女性。

その二人が臣下の礼を取っている相手は…金色の髪をし、ツインテールの先がカールしている少女。

 

「これで3件目……ね」

「はい、華琳様。この付近を根城とした賊が何れも何者かによって撃破されておりました」

 

水色の髪の女性が、金色の髪の少女…華琳が零したその言葉に礼をとりながら反応した。

 

「秋蘭。この件についてどう思うかしら?」

 

挑戦的な瞳を水色の女性…秋蘭にそう投げかけた。

 

「は!畏れながら申し上げます。まずこの3件で共通する項目は…死体の状態。全員が滑らかに体を切断されており、中には剣ですら切断されておりました」

 

この3件での共通項目。それは死体の状態である。どの死体も綺麗に切断されており、どの表情も絶望に満ちたままの状態であった。

当初発見したときは、あまりにも凄惨で兵の一部はその場で嘔吐したほどであった。

捕らわれていたと思われる女性も綺麗に首が切断されており、その女性は穏やかな表情であった。

 

「私の剣撃でもあれ程まで流麗に斬るのは難しいでしょうが、私も負けておりません」

「そうね、春蘭の武器は斬るより叩き潰すといったほうが適切かもしれないわね」

 

秋蘭の隣の黒髪の女性…春蘭も先ほどの死体の切断面を見てそう判断した。

この春蘭は猪突猛進な正確だが、認める時は認める。そう、彼女が認めるに足るほどの流麗さであった。

 

「姉者の言うとおり、相当な実力者が賊を討伐したものと予想が出来ます」

「そう、秋蘭の言うとおりよ。賊を下した人間は相当な腕を持つ者……ふふ、欲しいわ。その才」

 

爛々と輝くその瞳は華琳が認めうる相手にしか見せない輝き。

 

「か、華琳様!私では華琳様の剣には足らないのでしょうか!?」

 

うるうると瞳を塗らして華琳を見上げる春蘭はまるで子犬のような庇護欲をそそる。

現にその隣の秋蘭はその姿を情欲が混じったような瞳で見る。…極度のシスコンなのだ、秋蘭は。

また華琳もそういった面を見せる春蘭を愛おしく感じる。

 

「いいえ、春蘭。貴方は私の剣。その事実は絶対変わらないわ」

「か、華琳様~!!」

 

感動に打ち震える春蘭。その隣では鼻を押さえて上を向く秋蘭に、微笑ましい者を見るような慈愛の目で春蘭を見る華琳。

しかし、その目をすぐさま切り替える。

雰囲気を察したのか、二人の姉妹もすぐさま切り替え、華琳を仰ぎ見る。

 

「曹孟徳が告げる!この3件に関わる人物を探しだしなさい!」

「は!この夏候元譲」

「夏候妙才。華琳様の命、拝命いたします!」

 

臣下の礼を再度とり、春蘭、秋蘭の二名が退出した。

そして王座の間に残るのは華琳ただ一人となった。

 

「ふふ…我が覇道を語るに足る相手か……楽しみだわ」

 

報告を受けていた時よりも覇気を噴出し、まだ見ぬ相手にそう語りかけた。

 

 

 

 

 

 

 

勝手に評価が上がっている中、当の事件の中心人物はというと…

 

「このラーメン…いい出汁ね」

 

とある街にてラーメンを啜っていた。因みに塩ラーメンである。

日本人のようにずずっとはいかず、ちゅるちゅると可愛らしい音を立てながら食べていく様は殺し合いとはかけ離れている。

しかし、その傍らに立てかけてある二振りの武器が、彼女はどういった人物かを思い出させてくれる。

 

「ま、出汁しか良く分からないけど、美味しい」

 

そうしてスープまで飲み干して、料金を置き、店の外へと出た。

既に馬や余分な食料は売り捌き、中々なお金が出来た。実は徐晃は必要最低限の手荷物しか持っていない。

殆ど邑や街でその日だけにやっすい布とかを買って使用し、あとは捨てる。

 

たまに体を拭いた布が欲しいと言ってきたが、何かちょっとあれなのでそういうのは断っている。

気にしないっちゃ気にしないが…やはり気分がいいものではないからだ。

 

「久しぶりに鍛錬でもしようかな」

 

店の外へでて、首をこきこきと鳴らしながらそう呟く。

鍛錬…と言っても、筋肉トレーニングや、木を蹴って落ちてきた葉っぱをどれだけ切れるかとか、適当にしている動きを鍛錬と称しているだけだが。

尤も、こういったことは気持ちが大事なので、鍛錬という事実は変わりないだろう。

 

そうして通りを歩くと、綺麗な桃色の髪をした女性が、むしろを背負って

 

「あ、あの、むしろいりませんかー?」

 

道行く人々にそう投げかけている。しかし、殆どの人が無関心で通り過ぎ、そして男はその女性の胸の部分に目がいくが、やはり通り過ぎる。

 

「うう…せっかく街まで来たのに」

 

彼女は結構その場に居たのか、疲れたような顔をして愚痴を零していた。

そんな彼女をみて徐晃は、徐にその女性の下へ歩き出した。

 

徐晃が近くに来たのを察知したのか、うなだれている顔からじゃっかんぎこちないが微笑を浮かべて

 

「むしろいりませんか?」

 

そう口にする彼女を徐晃はみる。

改めてみると相当な美少女である。徐晃より幾分か背が高く、その体系はまさに女性の理想で出ているところが出ていて引っ込んでいるところは引っ込んでいる。

むしろはまだ残っているが、彼女の笑顔見たさで男が幾つか買っても可笑しくは無い。

 

現に既に何個か減っている。しかしむしろを完売させないと宿に帰れないのか、家に帰れないのか、それは徐晃には知るすべは無い。

 

「…それではお一つ」

「あ、ありがとうございます!」

 

このむしろはまぁいわば敷物である。

徐晃は旅を行う中で野宿はごくごく当たり前のことであるが、地べたよりもこういった敷物があれば、暖かさも地に直接座るより格段に暖かい。

…といっても一回使えば捨てるか、気分によって持ち帰るかしかしないが、路銀が予想以上にあるのも要因していた。

 

馬と食料。特に馬となれば地方によってはかなりの値がつく。この地域も中々高価に買い取ってもらい、懐は暖かい。

 

「はい、どうぞ」

 

にっこりと綺麗に微笑む彼女は世の男性が見たらさぞかし綺麗に見えるだろう。無論、女性の徐晃から見ても綺麗に思えた。

 

そう、彼女は綺麗なのだ。

 

「つかぬ事を伺いますが…」

「はい?」

「ここへは一人で?」

 

綺麗だからこそ蛾が集りに来る。

徐晃はむしろを一つ買い、彼女の護衛も買おうかと思った。

ここ最近は護衛も行っていなかったし、何か違うことを行いたいと、本当に気まぐれの選択だったのだ。

 

「はい、そうですが…」

「であれば、帰り道私が護衛を買いましょう。腕には覚えがあるので、心配要りません」

「で、でも、お金は自分と家族の分しか…」

「心配無用。私は旅をしておりまして、丁度何処へいこうかなと悩んでいまして、一人で行くのも寂しいので、お美しい方と一緒であれば旅路もさぞ面白くなるでしょう」

 

賊がわんさか出てくる。そう確信している徐晃。

これほどの美

 

「そ、そうなんですか…でしたらお願いします。邑へ帰ったら是非お礼をしますので!」

 

そしてこの無警戒心。

 

良く今まで賊や悪い人間に目を付けられなかったと徐晃は心の中で思う。

しかし、徐晃にとっては賊がこなくても良いとも思っている。国内の有名な都市や、町を見て回り、ちょうど行くあても無くなっていた所であったのだ。

ここの地域内の賊も噂が正しければ全て討伐し終えたが、彼女の故郷の地域ではその限りではないはずである。

 

最悪何事もなく、またこの地域内であってもそれはそれで旅をするきっかけになるので、いずれにせよメリットしかない。

 

 

 

そう、護衛を買って出たがこの女性は殺されても犯されても徐晃にとってはあまり関係ないのである。

 

 

 

が、護衛を買って出たからにはその役割を果たすが、賊が200人位発生した場合は守りきれる自信は無い。

勿論、賊全員を殺しきる自信はあるが。

 

「こちらこそ、宜しくお願いします。通りの宿で部屋を取っておきますので帰る際にお声掛けください」

「はい!…あ、私の名前は劉備です。字は玄徳と申します」

「これはご丁寧に、私の名前は徐晃、字は公明と申します」

 

では、と一言呟き、片手を上げ、通りを歩く。そして手に持ったむしろをみて

 

(…意外に邪魔だった)

 

内心、彼女にかなり失礼なことを思っているが、事実そうだったから仕方が無いのであった。

 

 

 

 

 




誤字脱字等御座いましたら、ご指摘の程をよろしくお願いします

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