やはり鋼鉄の浮遊城での奉仕部活動はまちがっている。   作:普通のオタク

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本日2回目の投稿。興が載ってる時は本当に筆が速い


そうして、ハイキーは己の考えを語りだす

「まずは、奉仕部をやるにあたっての問題点を提起しよう」

話が出来る状態になったのを確認し、俺は会話のイニシアチブを取り、話題を切り出した。

再びインスタントメッセージに問題点を箇条書きにして出していく。この作業ももはや慣れた物だ。

 

・人手不足

・資金不足

・実力不足

 

「と、まぁ三大不足要素が今の俺達の正面には立ちはだかっているわけだ。2に関してはアルゴに頼んだ情報でどうにかなると仮定して進める」

俺の言葉に3人が3人共、自分の手元に送られてきたメッセージを見る。

「これこそどうしようもない問題では無いかしら。実力はどうしても時間とリスクを掛けねばつかない物なのだし……リスクを背負わない、安全第一は私達3人が昨日散々言い合って出た結論よ。曲げる気なのかしら?」

攻めるような口調で言う雪ノ下。俺は即座に首を振って否定する。

「その心配はない。俺は保身が大事だしな。自分でもそこを曲げる気はねぇよ」

「でも、じゃあどうするの? ヒッキーも危険な目に合わないんならそれこそ人手がさらに減るんじゃない?」

由比ヶ浜の懸念も最もだ。

現状、奉仕部は俺と雪ノ下のゲームへの適正とその万能っぷりで支えられている。こうしてアルゴに同席してもらえるだけの勢力としての価値は『辛うじて』ある状態だ。

俺が後ろへ下がるような計画ならそれもご破綻だろう。そりゃ不安になる。

だが、一つだけ勘違いがあるようなのでそれを正す。

「ウイ。俺は自分が危険な目にあわないとは言ってない。だが、危険度は昨日のレベル上げと大差ないはずだ……むしろ安全とも言える」

俺の発言に安堵する声が2つと、楽しむような含み笑いが一つ。

後者の声の主はこちらに愉快げな視線を向けて言う。

「ためずにそろそろ話してもらおうカ。腐れ目、お前の計画はなんなんだヨ?」

アルゴの要請に俺は頷き、3人を見て改めて語りだす。

 

「お前ら、この街に今現在引きこもっているプレイヤー……どれくらい居ると思う」

俺の発言に3人は互いの顔を見合わせ、首を振る。ほとんど、ということしか分からないだろう。俺もそうだし。

「その中で、あまりこのデスゲームに適正を持ってないプレイヤーっていうのが、結構な数居ると俺は睨んでいる」

由比ヶ浜に……『優しい女の子』に視線を向ける。

「ウイみたいに優しいプレイヤー……そして、戦闘行為自体に適正の低い年代のプレイヤー……少年少女、小学生から中学生くらいのプレイヤー達だ」

「……なるほどナ」

さすがにアルゴは理解が速い。情報屋をやるのだから、頭の回転は早いとは思っていたがその通りのようだ。続いて雪ノ下も理解したのか、少し怪訝な顔をしている。

ついてこれていない由比ヶ浜はえっえっ? と俺達の顔を順に見渡しているが、とりあえずは言い切ってから改めて説明してやるとしよう。

話を進める。

 

「彼らを雇い入れることで、俺達は奉仕部の活動における人手不足を解消する。実力不足は人海戦術でカバーだ」

「雇い入れると言っても、どういった業務をするつもりなのかしら?」

雪ノ下の即座のツッコミに頷き、アルゴに視線を向ける。

「確認だ。第一層で手に入る各高性能武器は人手がアレば手に入る物がほとんどか?」

 

俺の質問に、アルゴは少し考えてから「特別だゾ」と溜息をつきながら頷いた。

「片手直剣なら隣の村の森の秘薬クエストのクリア報酬。多少リスクはあるが、主に出てくるリトルペネントは低レベルから倒せるモンスターだナ。1レベルでもカーソルは紫くらいダ。レイピアなら少し難易度は高いがモンスタードロップ。時間をかけて戦術を練れば低レベルでも問題はなイ」

アルゴの返事に了解の意味で頷き、再び視線を3人に向ける。

「俺とスノウ、そして戦闘に適正が比較的あったりする子供プレイヤーでアルゴの情報を参照にしつつ、第一層で手に入る最高武器を手に入れる」

俺の発言に由比ヶ浜が俯いた。恐らく、貢献できないと考えているからだろう。

自分が足を引っ張っているとネガティブになりそうな計画内容だし、ここまでの説明では仕方ない。

もちろん、俺は由比ヶ浜にも役割を与えるつもりなので、すぐに続きを言う。

「ウイを始めとした戦闘への適性の低い子供は、より危険度の低いモンスター……それらの武器を強化するのに必要な強化素材をドロップするモンスターや、採取等の手間な作業をやってもらうつもりだ。だが、そういう子供プレイヤーは……精神的に脆い状態の可能性が高い」

続きの、由比ヶ浜に任せたいという言葉を……重い責任を与える言葉を、俺は思わず言い淀む。だが、言わねばならないことだ。

そう思い口を開こうとして、雪ノ下が動くのが目に入った。

一瞬だけ止めるべきか戸惑った。告げる、ということは言う側にもそれなりに負担があるからだ。

そうして戸惑っている間に雪ノ下は告げてしまう。

「ウイさん。その子どもたちを元気づけるのは貴方にしかできないと私は思うのだけれど……お願いしてもいいかしら」

雪ノ下が言う。捉えようによっては始まりの街に籠もって入ろとも取れる発言だ。

だが、俺の懸念は杞憂に終わる。

自分に役割があることが分かったからか。あるいは、雪ノ下に任されたからだろうか。

由比ヶ浜は表情を引き締めて……どこか嬉しそうに頷いた。

「任せて。責任重大だね」

「……ああ。頼んだ」

由比ヶ浜にそう言い、雪ノ下に向けて目を閉じ小さく頭を下げる。俺らしくもないが、素直に感謝する気持ちを込めて。

雪ノ下が小さく首を振ったのを確認し、俺は再び言葉を作る。

ここからは将来も見据えたプランに切り替わる内容だ。

 

「そしてそれらを攻略を狙うプレイヤー……攻略組と呼ぼう。彼らにその全てを譲渡、することで、彼らの戦力の底上げを行う。同時に、俺達という集まりを彼らに認知してもらい……攻略支援の集まりとして、奉仕部に役割と発言権、そして利用する顧客を確保する」

 

俺は自分の計画を言い終え、一息をついたところで再び全員の表情を確認し、疑問がないかを確認する。

手を上げたのは由比ヶ浜だ。

「ヒッキー、格安で売るとかじゃあ駄目なの? 私達の労力に見合わないんじゃない?」

「安心しろ。初階だけだ。正確に言えば、2階層からはこの手段は使えない」

再び確認を取ろうと、視線をアルゴに向ける。

「2階層からは武器の種類は一気に増えると俺は推測するがどうだ」

「むしろ1階層からでも多すぎるくらいだゾ。最高性能に的を絞るから出来る芸当だナ。そして強化素材の問題として、武器によって必要な素材が変わるんダ。しかも伸ばすステータスによって要求するアイテムは変わル。そのあたりはどう対処するんダ?」

アルゴの補足説明に頷き、プランを語る。

 

「2階層以降は予約制にしようと思っている。武器~の~を成長させたいので~の素材を集めて欲しい。要求量10個につき300コルとか、手頃な値段でその依頼を引き受けるって感じでな」

次に難色を示したのは雪ノ下だ。

「直接物を渡すのは奉仕部の理念に沿うものではないのだけれど……」

「それは攻略を任せる以上こっちがガマンするべき点だろう。このシステムの真の目的は攻略組のレベル上げに向ける時間を少しでも伸ばすことにあるんだしな」

素材Aを俺達が集める間に強化したい依頼人が素材Bを集めるとしよう。

単純に考えても素材集めにかかる時間は半分で済むし、その浮いた時間でレベル上げに励むこともできる。

「……なるほどね。いかに楽をするか、楽をしたいかをプレイヤー視点で考えたプランなのね」

「そういうことだ。あとは雇える人数を増やすためにそのうち扱う商品の幅も広げて、昨日話題に出たように商会としての側面も持てればプランとして盤石だろ」

そうして、アルゴに再び顔を向ける。

 

「このプラン、お前としてどう評価する」

アルゴは沈黙し、しばし黙考する。

こいつの支援があれば、この先もこのプランは上手く回るだろう。後ろ盾としてはこれ以上の人物は居ないかもしれない。

アルゴの手伝いをしたからこそ、俺はそう評価する。ゆえに、どうしても、彼女の協力は取り付けたい。

「どうだ」

もう一度問う俺に、アルゴは答えるために口を開いた。




投稿当初から決めていたプランによる奉仕部活動、そろそろ本格スタートです。

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