やはり鋼鉄の浮遊城での奉仕部活動はまちがっている。 作:普通のオタク
「それはダメだロ、腐れ目」
アルゴは首を横に振る。たしかに、俺のこの案には大きな欠点がある。それは……
「お前たちの身は安全かもしれないガ、子供たちは別ダ。お前のやり方は人道的に間違っていル」
「ちょ、ちょっと待ってアルゴさん! ヒッキーの提案の通りなら、私達はその子たちを鍛えること前提じゃないの?」
由比ヶ浜の質問にアルゴは頷く。前提は認めているのだろう。
だが、そのまま反論を口にした。
「ステータス的に同格のプレイヤーが、あれこれ指示を出して素直に聞くカ? ましてや子供が中心の計画ダ。仮に上手く行っても調子に乗った子供が狩りに出てそのまま死亡とかもあるんだゾ」
子供の奔放さが、力を得ることが仇となる。故に。
「オレっちは、協力できそうにないナ」
アルゴはそう言い切って席を立ち、店の出口へと向かっていく。
雪ノ下も由比ヶ浜も黙ってその背中を見つめ、俺に視線を移す。
まったく、そんな目で見るんじゃねぇよ。捨て犬と捨て猫かお前ら。
仕方ない。できれば使いたくなかったが、もはや手段を選んでもいられない。
足を止めるためにも、まずは言葉を投げる。
「なりゃ、」
噛んだ。
アルゴが出ようとするタイミングで聞こえるように言ったので、店中に聞こえていたかもしれない。死にたい。他の相手、大体NPCの店員だけだけど。
だが幸いアルゴが反応して、そのままの姿勢でとどまった。肩を震わせて見えるのは気のせいだと信じて、俺は言い直す。
「なら、子供たちが統率を取れるようになればいいんだな? 調子に乗らないように」
「できるのカ?」
ニヤニヤした声でアルゴは答える。
「やる。だが、俺達3人だけだと無理だ。手伝え」
「信用も理由も足りないゾ」
俺は手持ちの金と、ドロップアイテムを全てオブジェクト化し、机の上に置く。
「さっき買った金策場所の情報代とここの会計込みだが、俺の全財産だ。武器と防具以外のだがな」
俺の行動にアルゴは目を剥く。ここでリソースのほぼ全てを支払うと言い出すとは思っていなかったのだろう。だが、彼女はこれに反応せざるを得ない。なぜなら、
「売れる情報は何でも売る。そんな守銭奴主義のお前がこの金を見過ごす理由がないからだ。そして、信用がなくても金があれば商品を売るのが売る側だ。違うか?」
俺が言い終わると沈黙が店の中を支配した。
アルゴも動かない。俺達もアルゴから目を離さない。店員NPCは設定位置でニコニコしている。こっち見るな。
長い沈黙を破ったのはアルゴだ。
俺の出したコルを勘定し、懐に仕舞い終えてから口を開く。
「……足りないナ。条件、飲んでもらうゾ」
そう言いながら席についた彼女に、俺は頷きで返した。
× × ×
アルゴとの話し合いを終え、3人で外に出て狩りをする。
初日のように由比ヶ浜に戦い方を教えながらの狩りだ。もはや懐かしいと思うのは昨日から濃い密度の生活を送っているからだろう。
ついでに、アルゴから買った効率のいい金策も兼ねているので、先ほどの出費ですっからかんになったストレージとサイフにはある程度の額が入った。アルゴさまさまだ。
「スイッチ!」
ワームを相手に由比ヶ浜が一撃を入れて元気よく言う。それに答えた雪ノ下がレイピアを片手にかけ出した。
スイッチとは相手に強い攻撃を入れて隙を作る間に後ろのメンバーと交代することを言う。こうやってローテーションを作ることで集中力を長く保ったり、その間にポーションを飲んだりなどと、やれる幅が増えるようだ。教えてくれたアルゴには頭が上がらない。
「……実際、昨日よりも効率いいな」
あくまでも教えていた時に比べればである。ソロハントの方が効率がいいのは否めないが、PTでやる以上は安全と効率の両立ができるこういった戦法はどんどん覚えていかなければならないことだろう。
「そうだねー。少し大変だけど」
「ソードスキルのタイミングや発動モーションもまだ覚えきれていないものね。ウイさん」
「こ、これからだしっ!」
ワームにとどめを刺した雪ノ下が言いながら戻ってきた。
反論する由比ヶ浜もいつも通りに見える。
なんとなくだが部室でないのにいつもの雰囲気っぽいことに安堵しつつも、俺は次のモブを探す。
「レベル、ある程度必要だしな……」
アルゴの言っていたことは尤もだ。同格程度の相手にあーだこーだ言われても納得いかない。その通りだと思う。
ならば、実力と経験を身に着けねばならない。
平塚先生とかがいい例だろう。彼氏居なくて俺のこと好きすぎて重くて怖いけど、生徒のことを親身に思い、経験等から裏打ちされた言葉と態度で導く。指導者の鑑で……鑑ではないな。殴るし。
まぁ、良い教師であることは確かだ。
保護者代わりの雇用主になるつもりがあるのだから、先生のようにはなれなくても、それに近づかなければならない。まったく……。
「働きたくねぇなぁ……」
「唐突になんだしっ!?」
「あなた、こんな状況になってまで主義主張が揺るがないのね……」
おいおい何を今更この二人は。
「俺の将来の目標は専業主婦だぞ。ぶっちゃけ、このシステム考案したのだって軌道に乗ればほぼ休んでいられるからだしな」
市場は勝手に動いてくれるのだから幹部は楽していられる物である。商会バンザイ。子供を雇おうと思ったのは……まぁ、なに? べ、別にただの気まぐれなんだからね!
俺の発言に二人共頭を抱えてため息を付いているが、アルゴやお前らに説明したことは全部が全部本当のことだからな。
恥ずかしいので口には出さず、俺は現れたモブに斬りかかった。