やはり鋼鉄の浮遊城での奉仕部活動はまちがっている。 作:普通のオタク
正直グダグダで見苦しかったですけどいい教訓だと割り切ろう
その後、3グループが再び集まったところでジンとコッタは苦戦を素直に報告した。
流石に命の危機を覚えてすぐに今のままの動きをする気になれなかったのだろう。シリカ達が分かれていた他の2グループもその意を汲んでか分散をその場で終了。
1グループに纏まってのより安全な狩りへと方向はシフトしていった。
こうなれば時間をかけてジックリと狩るだけになる。
俺と雪ノ下は余裕を持って見守り、アルゴは合間を縫っては何事か作業をしていた。おそらくは本業の情報収集だろう。
途中で実を殴りそうになったりもしたが、そこも含めて各自フォローしていた。
最悪な展開になる前にそれを避ける。
この先生きていくために必要な技能は、既に身についた。そう考えてもいいだろう。
森の秘薬……リトルネペントの胚珠が6個集まったのは、試験を初めて24時間が過ぎようとしていた頃だったようだ。
俺が離脱していた時の話なので詳しい時刻はわからない。最後まで見ろ? そのための交代制だ。俺は悪く無い。
✕ ✕ ✕
宿からのんびり出てきた俺を恨めしげな視線が出迎える。
雪ノ下、アルゴ含めて8人分16個の視線だ。ボッチが注目浴びる機会とか稀だからどう対応すれば良いのか悩みつつ、一つ咳払いをする。
今からが試練の締めだ。ふざけても居られない。
「あー、とりあえずはおつかれさん。んじゃ、あとは6回納品して終わりだ。全員最後までやるように」
俺の気の抜けた言葉に、全員が全員脱力した様子でガヤガヤと騒ぎ出す。
そんな集団の戦闘を切るように、依頼のあった家屋に向けて俺は歩き出した。
隣を歩くように、雪ノ下がやってくる。
その顔は、なにか言いたげに歪んでいるように見えたが……。
「……事前に話した通りだ。俺はこれが必要だと判断したし、今でもそう思っている」
俺がそう言い切ったのを聞いてか、そのまま目を伏せた。
宿屋から歩いて3分もかからない筈だが、その道程が妙に長く感じた。やはり、結論は出してあったとはいえ、俺も少し思うところがあるのだろう。
家屋にノックもせずに入ると、依頼を受けた時と同じように、少女の母親が鍋を煮込んでいる。
俺達が来たのに気がついてか、母親はこちらに振り返った。その頭には、ピコーンと!マークが浮かんでいる。
それを見て、一切何も思うことなく。やるべきことの指示を出す。
「お前らが話しかけて、最後までクエストを見終えろ。それ以上イベントが発生しないと断言できる状態になったら、家屋から出て、また入り直せ。そうしないと、2回目の依頼条件が発生しないからな」
それだけ言って、俺は……いや。俺と雪ノ下。アルゴの3人は家の外で待つことにした。正確に言えば、俺が家を出たのに二人がついてくる形となる。
「スノウ、あの家でこれから起きることは話したよな」
軒先で、家に背を預けながら問いかける。
俺の言葉に、雪ノ下は頷きを返し、ポツリと。小さな声で応えた。
「依頼人……奥様にリトルネペントの胚珠を差し出すことで礼と共に剣を棚の中から取り出され、渡される。そこでクエスト自体はクリア、だったかしら。ただ、問題はその後」
アルゴは雪ノ下の言葉に首をかしげ、疑問を口にする。
「その後はイベントも何もないはずだけど、なにか変化があったカ?」
アルゴの疑問に、俺はただ、ああ。と呟いた。そうか。こいつは未だに俺が出した6回クリアの真意を知らないのだ。
「その後の展開は、あれだ。映画で言うところのエンディングテーマと一緒に流れる映像みたいなものだ。セリフのないエピローグみたいな、な。だが、いきなりあれを目にすると……」
俺が試しにこの依頼を受けた時のことを思い出す。
この世界のNPCは本物の人間を髣髴とさせるくらいにリアルだと思わされることがある。これは、俺がボッチだからとかではない。
データに沿ってるだけだとわかっていても、人間らしい表情をするからだ。
俺が言葉の続きを口に出そうとしたところで、6人が出てきた。
その表情は揃って明るい……ということはない。
まるで驚いたかのような……いや、困惑だろうか。俺も『あの時』はきっとそんな表情をしていたのだろう。
そのまま、感想を口にすることもなく、全員が家屋の中へと戻っていく。
「……なにがあったんダ?」
アルゴが口にした言葉に、返事をすることなく、俺は『あの時』を思い出す。
俺の反応を見てか、アルゴは黙って玄関を見つめる。
スノウもそれに倣う形で玄関を見つめている。
俺も視線を玄関に向け、先ほど言いかけて止めた言葉の続きを口にした。
「俺はあの時……このクエストの様子見をした時。達成感と疲労から。報酬を受け取った後にしばらく部屋でぐったりしてた。すると、あの病気の子の母親な。煮込んでいた鍋の中身を容器に移して少女の所に持って行くんだよ」
アルゴはヘー。と簡単な感想を口にする。
だが、俺は未だにあの光景を忘れられない。
同時に、あの時思ったことも忘れられないでいるのだ。
「俺は、興味本位でその母親の後を追った。すると、システムロックのかかっていて、プレイヤーからのアクセスが出来ない空間に入れたんだよ」
俺の言葉に、アルゴが興味深そうな姿勢を取るのと同時、クエストを受けた6人が気落ちした表情で家を出てきて、また入室する。
それを見送って、俺は続きを言おうと口を開く。
「その空間は、病に伏せた少女の寝室だった。まぁ、この後の展開は分かるだろ。母親が娘に薬を飲ませるんだ。だが、家庭用のゲームとは違う。この世界は、どこまでも現実的だ」
雪ノ下には一度話しているが少しだけ反応が気になり、目線を向ける。
彼女はただ、黙って玄関を未だに見つめている。だが、こちらに意識は向けているようで、俺の喋りが止まったのを察して、一度視線をこちらに戻した。
「どうかしたかしら」
「いや、なんでもない」
そう。とだけ返し、再び玄関を見つめる。
こいつは何を思うのだろう。
それを考えながらも、俺は続きを口にする。
「一度で全快なんてことはない。少し顔色が戻るくらいだ。だが、その女の子は……プレイヤーに向けて。自然な笑みで微笑むんだ」
あの笑顔を、あそこまで素直な感謝の笑みを、NPCができるものなのか。
俺はそれを考えてしまった。
だからこそ、こんなことを思いついてしまったのだろう。
二人はこれをやらせると俺が言った時には大反対したものだ。
その内容を……今現在、やらせていることを俺は口にする。
「その感謝を、NPCのデータの一側面だと割り切り、ただただひたすらに回数をこなす。奉仕部の作業は、結局のところ周回作業だ。だから」
だから。その少女の笑みを。母親の嬉しそうな顔を。感謝の言葉を。
「全てを踏みにじり、クエストを再び受けて、少女を病にかける。そして、それを解消する。それを繰り返させて、慣れさせる」
どこまでも残酷な。人として間違っている倫理観に中学生くらいの子供を染め上げる。
これが、俺の出した森の秘薬クエスト。その真実だった。
✕ ✕ ✕
始まりの町への帰り道。
行きとは真逆で、喋り声一つ聞こえない。
俺の真意に気がついたのは6人のうち何人いるのだろう。
何人居るにせよ、今日のあれが堪えたのは全員だと信じたい。
矛盾するようだがその人間性は尊いものなのだ。
俺のように捻くれてとらえ、利用しようとなんて考えない。そんな考え方が普通で、だからこそ、この世界では貴重なのだ。
だから何度でも思う。何度でも願う。
矛盾するような心を持った面々で居てくれることを。
俺は、ただただ。帰り道の沈黙の中で願い続けた。
次回から星なき夜のアリア編です。今回のようなグダグダにはならない……予定。
たぶん
きっと めいびー