やはり鋼鉄の浮遊城での奉仕部活動はまちがっている。   作:普通のオタク

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そしてミナは語り出す

俺達のいる位置から一歩前に出たミナがさらに一歩前に出て、ディアベルと肩を並べる。騎士と姫みたいで栄える……なんてことはないが人の前に堂々と立つ姿はどちらも立派な物だと思う。

だが、今この二人にはそんな物語のような人々の胸を撃つ騎士と姫さまとして振る舞ってもらわなければ困る。

俺は視線をミナの背に向ける。

ミナの思いを、熱意を信じてこの舞台を俺は作った。

それは決してプラスの感情だとか、熱意が心を撃ち攻略組の信頼を得て万事解決。だなんて夢みたいな展開を求めてのことではない。

ネットゲーマーは言ってしまえば大半が中二病だ。材木座だ。変態だ。

特に、VRMMOなんていう「なりきり」の局地のようなゲームに手を出すのはよっぽどと言ってもいい。

つまりだ。ナイト様をおだてるのに適したか弱いお姫様、或いは助けを求める村人。

そんな立場にミナを据えた。俺達以外が部長になる流れになった時に俺が立てた案はこれであった。

無論、それをさせるには真に迫る嘆願が必要となる。

故に、ミナも騙した。

 

段取りも打ち合わせも全て放棄し、あいつの言葉で語るしかないように追い込む。

ここでこちらに文句を言うような動きをするのは失策だ。それが分かる程度には理知的な奴だかららこそ、俺はあいつが部長になるのを問題ないと判断した。

後で殴られるかもだが……その時は決闘モード使って罪にならないようにしてから、せいぜい殴られるとしよう。半減決着にしておけば、うん。流石に死なないよね? 剣抜いたら逃げよう。

そんなことを考えている間に話す内容が纏まったようで、ミナが口を開いた。

「ギルド、奉仕部部長のミナ、です。私達の成り立ちはこの際置いておきます。大事なことは2つ。私達……ここに居ないメンバーも含めた低年齢プレイヤー21人は自らの意思であの3人に手伝って貰い、このギルドを立ち上げたという事実と」

 

言葉が会場に染みるまで、数拍の間を置く。話す内容をその場で構築しているのだろう。

自身の感情と向き合い話す。訴えかける行為というものはそれだけで良いのだが、今回は訴えではなく嘆願。俺達は頼む側である。そこに理路整然とした根拠が必要となるからだ。

間が開き過ぎないようにミナは次の言葉を発した。

恐らく、まだ構築はしきれていない。

沈黙は金という言葉があるが、今このような場では逆効果でしか無い。

沈黙を長引かせるのは猜疑心を煽ってしまう。ソレは現状では最悪だ。

だから喋る。

 

「私達がこれからする要請……あなた達を攻略組と仮称しますが……攻略組と奉仕部の扱いを対等とすることです」

この言葉にざわめきが起きる。意識としては全てのプレイヤーは平等だと誰もが思っているのだろう。

だが、既に無意識下においてその条件は覆されている。背に、腰に。それぞれが装備している武器がそれだ。

所持するリソースの差。それによる上下。上の人はその格差を優越感と呼ぶ。

「待ってくれ。対等も何も、俺達は最初から対等だ。それとも、それは物理的な意味を持って言うのかい?」

「いいえ。あくまでも将来的に発生する明確な立場格差の話です」

ディアベルも流石についてこれていないのだろう。ミナに問いかける。

対するミナは即座にそれを否定した。

「攻略はとてもストレスの貯まる状況だと思います。生き残るために装備を整え、他のプレイヤーとの物理的な戦力差が発生することは避けれません。その結果……極論が過ぎますが、攻略組プレイヤーは一般プレイヤーに対しては優越感を。一般のプレイヤーはあなた達に対してどうしても後ろめたさを持ちます」

ざわつきが再び大きくなる……かと思ったが、逆だ。それは小さくなっていく。

否定出来ない。そう理解しているのだろう。

人は醜い生き物なのだから。少なくとも俺はそう思っているし、彼らの中の何割かもそう思っているのではないだろうか。

ディアベルは口を挟むこと無くミナに続けるように目線を送った。どういう評価を下すのか、興味深くはあったのだろう。

ミナはそれを受け頷き、再び口を開く。

「だから、私たちは補給に徹します。さすがにこの階層のように装備までの供給はできませんが……攻略済みの階層を対象に強化素材集めに専念。その他、情報の調査も情報屋……鼠のガイドブックの著者と共同関係を結びましたので……私達で基本的に行います。あなた達が最前線で攻略に、レベル上げに。専念できる状態を作り上げます」

故に対等。数値ではなく貢献度で。こっちは攻略する人員がほしい。ボスと戦うのは……死ぬのは怖いから。

だからこそ、他の可能なことは全て受け持つ。対等だからこそ互いが互いを無碍に出来ない関係を。

 

拍手が起きたのは客席の一角からだ。

視線を向けずとも、その方向に居たプレイヤーを俺はよく覚えている。

続いて対角線上、黒い巨体の男が拍手していた。座っていてもでかいので逆の意味で目立つ。

二人の拍手に釣られてか、周りの他のプレイヤーからも拍手が……同意の印が立てられていく。

思わず脱力してしまい、崩れ落ちそうになった。

ようやく一区切り、これまで積み重ねたことはムダではなかった。そうようやく実感できる。

そう思った矢先、ディアベルが動いた。

「これから先、俺達攻略組は奉仕部からの要請に従い、これより対等な関係を結ぶ! 互いが互いに最大限の利益をもたらせるよう、全力を尽くす! ただし!」

……思わぬ一言に、耳を疑った。ただし。それは、この状況下で条件をつけるということだ。俺の予測から大きく外れているし、攻略組の中にも不和が生まれかねない。

何を考えているのか、そう思いディアベルに視線を向けると……ディアベルもまたこちらを見ていた。

「奉仕部の相談役……代表は君、かな。名前は?」

「……ハイキーだ。言っておくが、責めるつもりならお門違いだぞ。俺達は仕事を与えることでこいつらに自立できるようになって欲しかったんだからな」

嘘ではない。そもそも、俺達がこういう関係性を目標にしたのは安全を確保しつつもこの世界で生きていく手段を確立するためだったのだから。

だが、次のディアベルの言葉により、俺達の大前提が崩れることになった。

「ではハイキーくん。君に指導者代表として、攻略組代表を不肖ながら名乗らせてもらうが要請させてくれ」

「なにをだ」

俺の問いかけに、ディアベルは頷き、言葉を作る。

 

「君達が彼女たちの保護者に相応しいか、実力を見たい。いざというときに彼女たちを守れる存在は必要だからだ。ムリにとは言わないが……君にボス攻略に参加してもらいたい。ミナさんたち21人は安全を確保されるべきだが、君たちはそうではない、だろ?」

 

ぐう正。ぐうの音も出ない正論だった。


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