やはり鋼鉄の浮遊城での奉仕部活動はまちがっている。 作:普通のオタク
「たでーまー」
あの後、雪ノ下の説得に思った以上に早く成功し(フルダイブの世界がどんなものか見てみたいとのこと)各自そのまま解散。時間までに事前設定を済ませておくように、とのことだ。
説明書を読む限り、設定にはキャリブレーションとか言う自分の体をタッチしてのアバターとのリンクがどーとか。まぁ色々あり、めちゃくちゃ時間がかかるらしい。こういう細かいのがフルダイブの感覚を高めるのかもしれないと理解はできてもめんどくさい。
俺が帰ってきたのを聞きつけてかリビングから小町が出てくる。まぁ昼時だし食事でもしていたのだろう。
「おかえりお兄ちゃん。可愛い妹にお土産のデザートを……なにその箱……ってナーブギアじゃん! お兄ちゃんどこから盗んできたの!? うわ、SAOまである!」
「盗んできたって、お前、俺をなんだと思ってるんだよ……貰い物だ。雪ノ下家の財力ハンパねぇ」
目を輝かせながら包装をひん剥いた小町にチョップを食らわせながら疑問に応える。
大して力は込めていないはずだが……大げさに頭を抑えながら、小町はこちらを上目遣いで見上げてくる。
「いいないいなー。小町にもやらせてくれないとポイント低いよー?」
キャピルン☆ とした感じで言う小町。あざとい。お前は俺の後輩か。
「別にいいが、今日は飯食って設定して……その後に雪ノ下たちとゲームの中で会うから……夕食より後な。それまでは勉強しとけ受験生」
「はーい。よっしゃー! 小町、やる気出てきたよー!」
いそいそと部屋に戻っていく妹。その背中に、頑張れ。と言葉にはしないが視線を投げて一旦リビングに入る。
食べっぱなしで机の上に置いておくのはお兄ちゃん的にポイント低い。せめて水に漬けておけよ……。
自分用に簡単な昼食を作り、それをすぐに食べ終えて食後のMAXコーヒーを飲んでから小町の分も一緒に食器を洗う。
受験生にできるサポートはこんな些細なもんだ。俺の時も小町はやってくれたし、兄である俺がやるのは当然だ。むしろ何もしてくれなかった親が冷たすぎて怖い。忙しかっただけだよね? ね?
ただ単に忘れていただけかもしれないという現実から目を背けて目の前の単調作業に専念した。
量も多くはないため、すぐに皿洗いを終えた俺はチバッシュしたコーヒーを淹れる。
これから作業に入るので糖分摂取である。うん、やはり美味い。マッ缶には劣るがそれはそれこれはこれである。
1杯目を飲み終えた後、2杯目を注ぎ自室に持っていく。
そして、帰宅して先に持ってきておいたナーブギアを開封。PCに繋げ、設定を行っていく。
これ自体は脳波に影響を与えてなんちゃらで、まぁ要するに設定などをする機能がついていないようなのだ。これ以上はもう少し先の技術なんだろう。仕方ない。
ハンドルネームは……由比ヶ浜に分かりやすくするように言われているしなぁ。
それにこのままだとヒキコモリのヒッキーと違いがわからん。
そう思い、数文字消しては書いてを繰り返すこと3分。
続いてアバターの性別を入力。当然男。キャリブレーションで自分の体のあちこちをペタペタ触る。誰かに見られたら死んじゃえるなこれ。
戸塚の体をキャリブレーションしたいなー。とか考えながらやっていたら設定は終了。後はナーブギアをコンセントに繋げ、頭に被り、ベッドに横になるだけだ。
ネット接続に関してはナーブギアは無線環境とネット環境さえ整っていればどこでも使用できるようだ。PCをキャラメイクに必要としたのはネットワーク上のデータバンクにユーザーとキャラクターを保存するためなのだろうか。そこのところはよくわからない。
「……よし。行くか」
普段は待ち合わせ時間には丁度に行く俺なのだが、気分が少し高まっているらしい。
時計を見るとまだ1時半位だ。
まぁ、あいつらは10分くらい前に来るだろうし、今からログインして少し散策するくらいはいいだろ。
そう思い、起動のキーワードを口に出そうと――俺の携帯が鳴った。
なんだよいったい空気読めよー。ノリノリだったのによー。
そう思いながら見ると由比ヶ浜から。遅刻しないようにとのお達しと、ハンドルネーム、Yuiでいいかな? と言う内容が来ていた。
本名は流石にまずいだろ……腐ってもネットだし。
「由比ヶ浜のハンドルネームねぇ……」
おばかちゃん、メロンガール。サブレ……これは犬の名前か。ゆいゆいは本人が嫌がってるし。つーか本名だし。
いかん。俺にはネーミングセンスが無いと思われる。由比ヶ浜にそう思われるのはヒッキーのあだ名を付けられた側として絶対に避けたい。
数分、そんな感じで考えた後、一通のメールを送る。
候補としてこれを書き出して、本名だけは止めるように書いてからメールを返す。
送信完了のメッセージを確認してから時計を見ると10分も経過していた。雪ノ下あたりはもう待っていてもおかしくなさそうだ。
改めてベッドに横になり、今度こそその言葉を……どうせだし、思いっきり格好良くとか思いながら口に出す。
「リィンク、スタート!!」
「お兄ちゃんうっ」
小町の声が途切れるのを聞きながら俺は意識をこの機械に任せる。集中力途切れさせてごめん小町……。
嘘は言ってないから……(震声
プロローグはここで終わりです。次からは0章から。
攻略会議あたりで1章になります