やはり鋼鉄の浮遊城での奉仕部活動はまちがっている。 作:普通のオタク
「それでヒッキー。ネットゲームって始めは何すればいいの?」
由比ヶ浜……ウイが訊いてくる。雪ノ下もさすがにネトゲ経験はないらしく、こちらに視線を向けてきた。そこで声に出しましょうね? 分からないことを聞くのは恥ずかしく無いからね?
疑問に応えるためにそうだな、と前置きをしつつ指を二本立てる。
「大きく分けて2つある。1つは外に出て雑魚相手にこのゲームでの戦い方を知ること。ソードスキルとかあるみたいだしな」
ソードスキル。それはシステムの補佐を受けて繰り出す謂わば必殺技である。
一定の構えをすることでどのスキルを使うかをシステムが認識。その通りに自分の体を動かしてくれるらしい。なにそれ怖い。外部操作されるとか考えたくねぇ。
「へぇー。もう1つは?」
「情報収集だ。こういうゲームにはレベルが設定されててな。敵を倒すとステータスにポイントを割り振れたりするんだが……自分の使う武器によって優先すべきステータスとかは変わるし、そもそも効率よくレベルを上げるには効率よく倒せる敵が湧くエリア……まぁ、狩場って表現をするが。そこで行動するのが手っ取り早かったりすんだよ。あとは単純に強い装備を貰えるイベントの情報とか、とにかく情報の価値は高い」
由比ヶ浜はふむふむ、と頷き、一言。
「なるほどー……で、誰に聞くの?」
「……ベータテスターがいいんだが、誰がテスターかなんてわからないな」
「ベータテスター?」
今度はスノウが訊いてくる。いや、俺もそこまで詳しいわけじゃないんだから困るぞ。そのうち。
「SAOは少し前に先行配信されて1000人位の抽選当選者が遊んでる。ネットゲームだとよくある手法でな。その抽選該当者が評価を広めてくれる結果、金のかからない宣伝係の完成ってわけだ。んでもって、プレイヤー側のメリットはさっき言った情報アドバンテージと、追加で特典アイテムとかもあるかもだが、そこまでは知らん」
「なるほど。その評価とかで実際の敵キャラの体力とかを調整したりもできるのね」
そういうことだ。
頷きで返しながら、先頭を切って歩き出す。
「外で体を動かすとするか。……その前に武器か?」
今の武器は初期装備のスモール・ソード。
だが、俺個人としては片手剣よりも短剣が欲しい。威力がなくても手数で攻めるほうが好きだからな。
「私も……そうね。レイピアとかあればいいのだけれど」
「私はこのままでいいやー。種類とか、よく分かんないし」
二人の返事を聞きつつ、まずは武器屋を探してそのまま初めての狩りに出かけることに決定した。俺が先頭を切るのは我が事ながら珍しいと思う。
性には全く合わないけどな。
× × ×
「ふっ!」
スライムポジションのイノシシ、フレンジーボアの突進を避け、側面からナイフを突き刺す。もちろん普通に刺したわけではなく、名前は分からないがソードスキルによるものだ。
これで10匹目。だいぶ慣れてきたもんだと我ながら思う。
一息つくために背筋を伸ばし、風に当たる。そのまま周囲を見渡してみると……広がる景色に思わず、ほう。と関心が鬼なる。これ、スラングな。
現在地は始まりの街のすぐ外の草原。青空と草木が目に優しい明るさを醸し出している。
少し離れたところでは雪ノ下が由比ヶ浜に武器の効率的な振り方から説明していた。
やはり優しい少女である由比ヶ浜はこのゲームそのものへの適性は低かったようで、武器を振るうことに慣れるまではだいぶ時間がかかりそうだ。
「いっそのこと、支援職の方がいいのかもしれないな、あいつは」
別に攻略に勤しむつもりもない。3人でのんびりと由比ヶ浜に付き合うのもいいだろう。
由比ヶ浜とは逆に、コーチをしている雪ノ下の適性はやたらと高い。
そもそも、あいつは体力がないことを除けば万能超人であり、事実、合気道を護身術として身につけている。
つまり、実際に運動をしているわけではないこの世界でなら、冗談抜きにトップを狙えるだけのリアル技能があるのだ。なにそれチート。
ステータスが許せば、他の武器の扱い方も身につけそうなレベルである。
もっとも、できすぎるあまり、つまずく理由がわからないという欠点があるのでコーチ向きではないが。手取り足取り接していればいずれ由比ヶ浜も覚えるだろうし、問題はない。
こちらが休憩していることに気がついたのか雪ノ下はこちらに視線を向けてくる。
「ハイキー君。ぼんやり見ているのなら、貴方にも教えるのを手伝ってもらいたいのだけれど」
「剣振れる気しないから刺突武器選んだ俺にそれを言うか?」
「ヒッキー、そんな理由だったんだ……」
呆れたように笑う由比ヶ浜に向けて反論する。
「扱いやすさ以上に選ぶべき判断基準とか無いだろ。軽いし。それに俺は避けて刺して逃げてでチクチクやるのが好きなんだよ」
派手よりも確実に、堅実に。そして急所に効率的に。
刃渡りが長いほど扱いは難しくなり急所を狙いにくくなるからな。自分の体さばきで生き死にが決まるこの世界では特にそうだ。
「たしかに一理あるのだけれど、それでも意外ね。ゲームの中くらいは派手なロマンとかを貴方なら求めると思っていたわ」
「確かにそういうのも嫌いじゃないんだがな。ネットは普通のゲームと違って相手と向かい合う。結局は人と接する以上、リアルと何か変わるわけじゃねぇよ」
なるほど。と雪ノ下は顎に手を当て、納得がいったかのように言葉を続けた。
「だから情報収集じゃなく、狩りを選んだのね。リアルと同じで人に話しかけられないから」
「当たり前だろ。噛んでキモいやつと思われるのがオチだ。リアルと同じでな」
「ヒッキー、マジでゲームでもキモい!」
現実的と言え。傷つくだろうが。
そんなこんなで慣れるまでの間、適度な休憩を入れてながら狩りをした。
時計を見るともう夕方だ。そろそろ一度休憩にするか。と思い声をかけようとした時、少し離れたところから何か叫び声が聞こえてくる。
「離脱! ログアウト! ゲーム終了!」
なんだ……? 変なポーズを取りながら、男が叫んでいる。
内容から察するなら、ログアウトしたいのだろう。だが、それならばメニューから選択すればいいだけなのだが……説明に行ったほうがいいんだろうか。
「悪い。ちょっとログアウト手段教えてくる」
二人にそう言い、男の方に足を向けた直後――
視界が、グルンと大きく揺れ、反転したような感覚に陥る。
目に映るのは青い光……システム的な何かが作用したことを理解したところで、俺は異常に気がついた。
短剣のスキル、技名とかあんまり出てないですね……。オリジナルスキルになるかもです。既出技の劣化にするつもりはありますが