やはり鋼鉄の浮遊城での奉仕部活動はまちがっている。   作:普通のオタク

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唐突に、彼ら彼女らのデスゲームは始まる

警告色、という用語がある。

簡単にいえば、赤の「止まれ」や、黄色で信号の変化を示す役割を示したりするアレだ。いや、正確には違うんだが、原理はそれだ。

 

青い光りに包まれ、転移した先はスタート地点の始まりの街。

だが、空に広がるのは晴れ渡る青空でも夕焼けの紅色でもなく、危機感を煽り、警告するような赤色だ。

「スノウ! ウイ!」

周囲を見渡すが別の所に転移させられているようで、俺の声に応じる声はない。

この広場の人口密度的に……恐らくすべてのプレイヤーが居るのだから、彼女たちもこの中にいるとは思うが。

そこまで思考すると彼女らの安全はほぼ確認できたようなものだ。ならば、次に気にするべきはこの集まりについてである。

これに関してはすぐに解決した。そもそも、ボッチが持つ情報獲得手段など盗み聞きしか存在しない。誰も彼もが同じように囁いて困惑している以上、特定は容易だった。

自分でメニューボタンを開き、手に入れた情報が真実か……ログアウト手段が無いというのが本当なのかを探す。

 

あるべき場所に、それがない。

 

先ほどの男の変なポーズや掛け声を思い出しながら歯噛みする。あれはこういう事だったのか……!

ただの拉致監禁ならまだマシだ。だが1万人を同時幽閉するという、歴史に残るであろう大規模犯罪者が身代金などを要求するとは思えない。

もっと、別の理由があるはずだ。

そこまで考えた俺は震える手を握りしめ、身を翻す。

一刻も早く、二人を探さねばならない。焦る気持ちが止まらない自分を自覚しながら、人混みの中を走りだした。

雪ノ下雪乃は強くあろうとして抱え込む。

由比ヶ浜結衣は、心配をかけまいとして笑顔を浮かべる。

半年以上を一緒に過ごして来たのだ。まだ本物と呼べない関係であろうと、それくらいは判る。だからこそ、危機的状況で彼女らを1人にしてはおけない。

 

そうして走りだしてすぐに周囲の様子が変わったのを感じ、再び空を見上げる。

そこにはWARNINGの文字と、赤い……血、というよりもコールタールのような印象を受けるドロりとした液体が空を支配していた。

「なんだ、ありゃ……」

俺も思わず立ち止まりその様子を見る。

赤い液体はやがて赤いローブを身につけた男となり、両手を広げて、残酷に。しかし歓迎するように、『心からの無機質ボイス』で言い放つ。

 

「プレイヤーの諸君。ようこそ、私の世界へ」

 

諸悪の根源が、その計画の全貌を語りだした。

 

× × ×

 

健闘を祈る、と。

俺たちを死地に追い込んで、リアルの姿にアバターを変えることでリアリティをより演出して茅場晶彦は姿を消した。

恐怖で身が竦む。

こんな時に、なぜなのだろうか。いつか、雪ノ下陽乃が俺を評した、理性のバケモノという言葉が頭をよぎる。

 

現実はこんなものだというのに。

 

自分の身が危ないと知ると恐怖し、震える。命の危機だから当たり前だろう。

本当に理性で出来たバケモノならば、こんな恐怖すら制御できるだろうに。

つまり、一学生が化け物と評される方がおかしい。買いかぶり確定まである。

だが……。

だが、それでも。そう思われるくらいに、強がり、冷静でいるように務めるくらいはしなければならない。

雪ノ下と、由比ヶ浜が気丈に振る舞おうとするのは想像に難い。俺一人で弱っている訳にはいかない。不安を与えるだけだ。

……いや、違うな。そうじゃない。これは、言い訳だ。では、俺の本音は何だ。

俺はなぜ冷静でいようと頭を冷やした状態でいるのか。冷やそうと全力を尽くしているのか。

答えは、直ぐに浮かんできた。

俺は、ただ単に。

こんな状況だというのに、あの二人に自分のカッコ悪いところを……たとえ今更でも見られたくないだけなのだ。つまらない男の意地以外の何でもない。

 

「……うっし」

意地を通すためにも頭を冷やし、冷静になって周囲を見渡す。

パニックで喚き騒ぐ人。エリアの外に駆け出す人。その場にしゃがみ込み、泣く人。

人人人……人混みの中で、たった二人の人物を探す方法。

 

それは注目を集めること。発想を切り替え、向こうに見つけてもらう。

では、どうすれば目立てるか。

この阿鼻叫喚の人の波の中で、目立つ方法は少ない。

大声を上げるのでは揉み消され、セクハラするなら即逮捕。ただ騒ぐだけでは意味が無いのだ。

ならば、利用できる物はなにがある。目立つ手段が、道具が必要だ。

周囲にあるのは、喚き騒ぐ人々のみ。

……それならば喚き騒ぐ内容に、方向性を与えればいい。

大声を上げるのではなく目的を。志向性を持った意思をぶつける。

一人が反応をすれば、その意思に沿って、騒ぐ内容は伝播する。

ある作品でこういう発言がある。絶望は伝播する。

それは真実だと思う。集団心理というものにおいて、恐怖は人から人へと広がっていく。映画でもよくあるパニックシーンだ。

パニックになった人間は保身に走りやすいことから、与える志向性を絞り込む。

それは、希望にすがれるような内容がいいはずだ。

以上のことから、俺が声を出し人々に与える方向性は決まる。

決まった以上、俺は迷わずに行動に移した。

息を深く吸い、俺に出せる限りの大声を上げる。

 

「っ、情報屋!! ベータテスター!! 出てきやがれ!! 俺達は、どうすればいい!?」

 

助けを求める。

今、人々が欲しいのは、希望であり、救いだ。ならば、それを成せるだけの情報量を持っている奴を呼べばいい。

蜘蛛の糸にすがるように、釣られて、人々はそれを求めだす。

1万人の中の千人。すがるには、十分な数だと思う。

俺の叫びに周囲の数人が驚き、動きを止めるのを確認した。

そして数瞬の内。その数人も言葉を、意味を理解して同調しだす。

 

「出てこい! 助けてくれ!」

「俺達はどうすればいい!」

「見捨てないで、教えてくれよぉ!」

 

助かりたいという思いを煽る。自分が傷つかない手段とはいえ、やはり気持ちのいい物ではない。

暫くの間、絶望を伝播させるために俺はそのまま声を出しながら周囲を確認する。

人人人。人の波の中に意識を集中して違和感を捜す。

そして、目的を達成できたのを、視界の隅で確認した。

 

声を辿って、右往左往し、同調する集団。

その中をかき分けてこちらに来る影が見えたのだ。

聞き覚えのある声が、喧騒の発信源ならそこを辿るのは当たり前。

つまり、逆走し、こちらに向かって来てくれるのが探し人だ。

 

俺の方からこちらに向かってくる影に合流し、二人であるのを確認する。

いつもの……リアルで見慣れたままの、雪ノ下と由比ヶ浜の姿だ。

茅場晶彦の置き土産は正常に稼働しているようだ。きっと俺の目は今とても腐っているのだろう。いつも通りか、それ以上に。

自分が安心するのを自覚しつつも、今ここにいては話もできないと考えなおす。

二人の言葉も待たずに、俺は次の言葉を出すことにした。

「ウイ! スノウ! まずはここを出るぞ! 落ち着いて話せる状況じゃない!」

 

一日でこんなに叫ぶのは初めてかもしれない。

二人が驚きながらも同意した姿を見て、俺達はスタート地点を抜けだした。




本物を欲し始めてからのヒッキーは、やり方を変えたのでその方向性でこの作品では動きますが……このやり方はどうなんでしょう。
やりかたが良いとしても些かご都合主義過ぎに思えて仕方ない。

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