冬休み。
一部のリア充と言われるような人々はちょっと甘い雰囲気に、逆に嫉妬心やら劣等感といったマイナスな感情を持つ人々にとっては阿修羅を彷彿とさせる雰囲気を纏いやすいこの時期、俺と明日香、枕田と浜口のテスター陣はペガサス会長と海馬さん両名にKCに来るよう言いつけられた。
俺はアカデミアに残って冬休みをすごす予定が一瞬で消滅したのも同じ日だ。
明日香達は実家に戻るつもりだったらしく、予定に大した変化はないと言っていた。なんだこの理不尽さは。
で、現在KC前。言われた時間午前10時の10分前……つまり午前9時50分に全員集合するよう打ち合わせをしたんだが……
「なぜ20分前に全員集合するかな……」
俺が到着すると同じ交通機関を使っていたかのように全員集まった。
全員バラバラの場所に住んでいるはずなんだがこれはいったいどういうことだ?
明日香と枕田と浜口が同時に来ていたということを考えると、おそらく3人で来るように話しあったんだろう。だがこの集合時間10分前というのは……
「まぁいいや。行くぞ」
「え、ええ……」
「ま、待ってよ!」
「お、置いていかないでください!」
3人は凄い緊張している様子だ。まぁ気持ちは…………俺、初めて会ったとき緊張してなかったな……動揺してたけど。ともかく3人を引き連れてKC社内に入り、受付の人(以前デュエルしたことのある人だった)に挨拶して海馬さんのいる社長室に通される。と思ってたんだが、社長室ではなくシミュレーションルームなる部屋……たしか、デュエルディスクの現行OSのテストをするために使った部屋だったな。中に入ると海馬さんとペガサス会長が中で待っていた。
「おはようございます。海馬さん、ペガサス会長」
「Good morning.龍斗ボーイ」
ペガサス会長はにこやかに挨拶をしてくれたが、海馬さんはただこちらを睨むように見ているだけだった。
「えっと……紹介します。左から天上院明日香、枕田ジュンコ、浜口ももえです。3人ともテスター試験に合格しました」
明日香達は紹介されるとそれぞれ順に頭を下げて挨拶をした。ペガサス会長はニコニコと、海馬さんは無言のままだったが……
「……それで、いったいどんな理由で呼び出されたんです?ただテスターを紹介させるためじゃないですよね」
もしそんな理由ならいくら雇い主相手とはいえ帰らせてもらうけどな。
「貴様が認めたテスターの実力を見せてもらう。この俺直々に相手してやろう」
「私も相手をしマース」
げ……明日香達の実力……なんか嫌な予感がしてきたなぁ……はぁ……仕方ない2人には逆らえないし……
「……了解です。しかし、時間は大丈夫なんですか?海馬さんも会長も忙しいでしょう?」
「まずはそちらから2人出せ」
無視したよこの人……OSのテストのときも無視してたけどさ……3人が話しあった(じゃんけんしたとも言う)結果、枕田と浜口の2人に決定。そして枕田の相手をペガサス会長が、浜口の相手を海馬さんがすることになった。
『『『『デュエル!』』』』
海馬さんに追い出され、仕方ないのでモニタールームに明日香を引き連れて移動。中には以前デュエルした社員の方もいたので軽い挨拶をして観戦することに。
…………あれ?俺が認めたってか試験を合格したテスター……つまり明日香、枕田、浜口の実力を見るんだろ?俺…………必要ないよな?帰っちゃダメかな?……わかった明日香。帰らないから、帰らないから右肩に置いたドス黒いオーラを纏った手を退けろ!俺の考えを読むってどんな離れ業やってのけてくれてんだよ……
「で、龍斗君。どの娘が本命?」
「栗田さん、1killしてほしいなら素直に言ってくださいよ」
以前偶然6連続で1killした栗田さんがからかってきたので若干のトラウマを思い出させる。すると栗田さんは引きつった顔で『冗談だよ』と言って退散した。一応アタッシュケースいっぱいにデッキを持ってきているから記録更新を狙えるだろう。無駄に終わりそうだが……
「さて、枕田と浜口はっと……」
海馬瀬人
LP1800
モンスター
無
魔・罠
無
手札2枚
VS
浜口ももえ
LP2400
モンスター
【ナチュル・ビースト】:攻
ATK2200
魔・罠
【ナチュルの神星樹】
フィールド
【ナチュルの森】
手札2枚
なんか浜口がおしてる。魔法止まってるから攻め辛いのか……枕田は?
ペガサス・J・クロフォード
LP2000
モンスター
【ブルーアイズ・トゥーン・ドラゴン】:攻
ATK3000
魔・罠
無
フィールド
【トゥーン・キングダム】
手札3枚
VS
枕田ジュンコ
LP1000
モンスター
【RRーブレイズ・ファルコン】:攻
ATK1000
魔・罠
【RRーネスト】
伏せ1枚
手札5枚
ふむ……ライフ的にはピンチ。しかしアドバンテージはしっかり稼いでるな。浜口はおそらく海馬さんのターンに移るところだろう。枕田のところはどちらともとれるが、もし会長のターンならピンチだな。逆なら勝てそうだが……割とギリギリなのか……?
『俺のターン!……【青き眼の乙女】を召喚!』
【青き眼の乙女】
攻撃表示
ATK0/DEF0
出たよ【乙女】。これで攻撃を1度無効にできるが、もう一つの効果を使う手札があるのか?
『カードを1枚伏せ、ターンエンド』
伏せただけ……【亜空間】?それともブラフ?もしくは普通に防御カードか……あ、【サイクロン】使われた。破壊されたのは……【銀龍の轟咆】?使わない……あ、【ビースト】……【マロン】召喚で【レディバグ】落として、もう一つの効果発動。墓地の【コスモスビート】と【マロン】戻して1ドロー……【神星樹】で【マロン】リリースして【バタフライ】……【死者蘇生】から【マロン】おかえりなさい。また【マロン】の効果で【チェリー】2枚戻して1ドロー……で、シンクロして【パルキオン】……なんだこの惨劇……
「で、【レディバグ】が効果で出てくると……」
「あのデッキに龍斗は負けたのよね」
明日香うるさい。あのデッキは試験用のやつだから負けても仕方ないんだよ。ってかなんか凄い回り方してないか?魔法も罠もほぼ止まって【青眼】も【パルキオン】で倒される……手札に【オネスト】あったら逆転だけど……守備表示か……【オネスト】は無いことが確定したな。
「これは……ほぼ決まったな」
「いくら伝説のデュエリストとはいえ、魔法も罠も止められたらね……」
海馬さんのデッキは【青眼】がいなければ火力不足だし、他の切り札級も【XYZ】。展開できない以上壁にしかならないしなにより手札が1枚しかない。
心の中で合掌しつつ枕田の方に目をやる。あれ?【ブレイズ・ファルコン】が【レヴォリューション・ファルコン】になってる。【レヴォリューション・フォース】でも使ったのか?このまま【トゥーン・ドラゴン】を攻撃して効果発動。【トゥーン・ドラゴン】の攻撃力を0にしてジャストキルが成立した。
「…………次は明日香だな。相手が海馬さんならかなりイラついてると思うから、頑張れ」
「…………相手がペガサス会長であることを祈るわ」
相手は海馬さんだった。枕田達がモニタールームに入ってきて栗田さんとは別の人がからかってきたので今度は『【メタポワンキル】でデュエルしましょう』と脅して引かせた。
明日香のデュエルは永続罠を使い回して海馬さんのイライラを更に強くしながら勝利した。恐るべし【ドゥローレン】。
海馬さんはこの後会議らしく役員やら社員やらに心の中で本日2度目の合掌をすることとなった。
会長も仕事があるとのことで帰ることになったが……
「何故そうなる?」
「アンタだけ楽しようってのは納得いかないの!なんか奢りなさいよ!」
KCから出ると明日香達に睨まれ脱兎のごとく逃げ出そうとするも再び明日香に肩を掴まれ断念。『もう帰ろう』と言ったところ何も話してなかったはずなのに3人揃って『何か奢れ』と脅迫された。
一応テスターも仕事なので給料を貰ってはいるから金はある。仕方がないと渋々了承。近くのファミレスでデザート類を奢ることに。
「あたしはコレにするわ」
「では私は……コレにしましょう」
「じゃあ私はコレね」
3人別々のパフェにしてきやがった。
願わくは大きなやつ1つを分けあってほしかったがそうはならなかった。
「アンタはどうするの?」
「…………バニラアイス」
なるべく安く、かつ空気を読んでそうな物を頼んだ。校内ではDpを使うから金は貯まるがそれでも節約はしておいたほうがいいからな。
「却下よ」
「は?」
「あたし達は皆パフェにしたの。ならアンタもパフェを頼みなさい!」
「金出すの俺なんだが……」
「それはアンタだけ楽してるからいけないの!」
入学試験前に泊まりこみでデュエルしてたんだが……しかし枕田は断固としてバニラアイスを許さなかった。仕方ないのでパフェを見る、たしか枕田がチョコレート、浜口が白桃、明日香がマンゴーだったな。
「じゃあ抹茶パフェで」
「よろしい。じゃ、注文するわよ」
枕田が店員を呼び出し注文する。なんか勝手にドリンクバーも頼んでいたのだがもう何も言うまい。
浜口と明日香が『適当に持ってくる』とかぬかしてきたが反論する気力も失せたので任せることに。
「はぁ……疲れた……」
「何もしてないじゃない」
わかってないな。何もしない方が疲れるんだよ。時間が長く感じるから何もしない、できない時間は地獄のように長いんだよ。そんな他愛ない話をして明日香と浜口が戻ってくると『何の話をしていたのか』とまた同じことを言わなきゃならないという事実に面倒を感じて枕田に任せることにした。
『お待たせしました』
明日香達の会話を聞き流していると店員がやってきてパフェを4つ持ってきた。暇を潰すためにゆっくりと抹茶パフェを食べていると……
「ちょっとちょうだい」
と言いながら枕田に一口取られた。
「…………このためにバラバラにしたのか」
「当然よ。はい。チョコレート」
そう言って枕田は自分のパフェを一口分掬い俺の口元に持ってくる。コレ、言ったほうがいいのか?
「間接キスだぞ」
3人の空気が凍った。そういうのは女子同士でやっとけ。俺は遠慮する。ということで自分の抹茶パフェだけ黙々と食べようとすると枕田が復活して、『あ、アンタは女の子みたいな顔だから気にしないでいいの!』と言って無理矢理に食べさせてきた。コイツ、ほんの少しとはいえ、気にしてたことを普通に言ってきたな。直後に明日香と浜口も復活して俺の抹茶パフェを掻っ攫ったり、自分のパフェを俺に食わせたりと若干同性扱いされてるような感覚に苛まれつつ、パフェと格闘していた。
「…………」
「明日香、無言で俺の頭に手を伸ばすな」
「いいじゃない。少しくらい撫でさせなさいよ」
「ざけんなコラ」
…………こんなやりとりもあったが。
☆
パフェとの格闘を終え食後休憩を数分挟み、明日香達と別れ自宅へ向かう。アカデミア行きの船はしばらく無いので当分の間は自宅で冬休みをすごすことになっている。
だが、自宅が見えてきてポケットから鍵を出そうしたところで、あることに気がついた。別に鍵が無いとかではない。
自宅の前に誰かがいるのだ。キャリーバッグをそばに置いて、家の前でただ立っている同い年くらいの少女が。
「…………誰だ?」
アカデミアで見た記憶の無い奴だ。茶髪……かな?夕日やらでよくわからん。長さはそこまで長くないな。ここで立ち尽くしても仕方ないので無視することに決定し家に向かうと、気付いたのかこちらに視線を寄越してきた。そして、
「っ!!…………お兄ちゃん!」
バッグをそのままに飛び込み、抱きついてきた少女。
…………この少女は今何と言った?
ーーーお兄ちゃん!
いや、そんなバカな。転生当初の手紙には俺には兄弟はいないと書いてあったじゃないか。なのに『お兄ちゃん』?アレか?『ジャンジャジャーン!今明かされる衝撃の真実ゥ!兄と弟はいないけど妹ならいるんでーす!』とかいうオチか?いや、でも妹いるなら両親のところじゃないのか?いや、それだと何故俺だけ親元を離れてるのかという話になったりするから妹でもないだろう。
だったら何故俺は今『お兄ちゃん』と言われ抱きつかれてる?兄弟でもないとなると昔……つまり俺が俺として転生する前、仲良かった女の子が俺を『お兄ちゃん』とか呼んでたのか?
それとも、そもそもこの少女と俺には接点は一切無く、近所の不良によってこの後金を巻き上げられる展開になったりするのか?
…………少し落ち着こう。どんな関係であれこの少女の登場によって、
「?お兄ちゃん……?」
面倒なことになりそうな予感をヒシヒシと感じていることには変わりそうもないのだから。
名前を出すなんて言ってません(キリッ
すみません次回は名前が出ますんでそれまで辛抱してください……!
次回は1話で2回デュエルです!ついでに龍斗がサボります。