それではどうぞ!
一話
朝の日差しが、高い市壁に囲まれるオラリオに届き始めていた頃。
【ロキ・ファミリア】のホームの中庭でアイズが一人長椅子にぼー、として座っていた。いつもなら愛剣を振っている時間だが、今回は愛剣ではなく代剣のレイピアだからか、それもあるだろうが今日は気分が乗らなかった。
(私達のせいで、あの子に迷惑が………。それに、アルにまで……)
昨日の夜、ベートのある一言で嫌悪し、怒りもした。
『あんな雑魚共とお前じゃ釣り合わねぇ』
違う。ベルはまだ冒険者成り立て、だから弱いのは当たり前だ。けど、アルスは違うとアイズは思った。それに、ベートよりもアルスが強いのはアイズ自身がよく知っていた。
彼は、【ファミリア】が解散された後も『恩恵』なしで、手に持った小太刀だけでダンジョンに籠っていた。その時会ったアイズは目を見開いて、必死でやめさせた。死んで欲しくなかったからだ。だが、アルスはその時こう言った。
『俺にはダンジョンでモンスターを狩ることしか出来ないからさ……だから、ここで生活費を少しでもな』
あっけらかんとした態度でアルスは言ったのだ。これには普段口数が少ないアイズでさえ絶句した。確かに大昔の人々は『恩恵』なしでモンスターを狩ったと聞く。だが、まさか現実でその場面を見るとは思っていなかった。
その後もアルスはアイズの目の前でモンスターを狩っていた。1階層のモンスターでも常人に対しては力は雲泥の差。それでも『恩恵』がない人にとってはアルスは異常だった。それほど常人だったアルスは元から強かったのだ。だから、アイズは彼に強く憧れた。惹かれた。
あれこれぼー、と考えていると、アイズへ近付く者がいた。
「アイズ」
「リヴェリア………」
「相変わらず早いな。剣は振っていないようだが」
視線をリヴェリアと合わせていたが、アイズはそっとその金色の瞳を芝に落とした。
ほんの少し、間が空く。
リヴェリアは少し迷ったような表情をしたが、すぐにいつもの毅然とした表情になった。
「何があった」
アイズは顔を上げて、小さく視線をさまよわせた。言うか、言わないか。少し葛藤したが、話すことにした。
「酒場であった、ミノタウロスの話……」
「あぁ」
「私は、アルと一緒に、男の子………アルの仲間を助けたんだけど……」
その時あったことをリヴェリアに話し、リヴェリアは納得したように頷いた。頷いた後にリヴェリアはこめかみの部分を押さえた。
(アルスの殺気は確かに分かっていた。………やはり、あの時に話を止めるべきだった)
後悔するも、もう後の祭りだ。
リヴェリアは話終えたアイズの顔を窺った。いつも通りの乏しい表情に見える。だが、暗いなとリヴェリアは思った。
直接ではないにしろ、ベルを傷付けたことでアイズは悩んでいるようだと思った。それもあるが一番はアルスに迷惑をかけたと思っているだろうと、リヴェリアは悟った。
「お前はどうしたい?」
しばしばの沈黙の後、アイズが口を開いた。
「………分からない、けど」
アイズは必死に考えた。そして、小さな声で答えた。
「アルには謝らなくていい、って言われたけど……ちゃんと、謝りたい、と思う」
「そうか………」
会話が途切れて、見計らったように館全体へ伝わる鐘の音が鳴り響いた。
朝食を知らせる合図だ。
「言ってくれれば、いつでも相談に乗ってやる」
「うん……」
「朝食だ。行こう」
そう言ってリヴェリアは踵を返した。
二人揃って、ホームの中へ入っていく。その最中、アイズがリヴェリアに声をかけた。
「リヴェリア……」
「ん?」
「………ありがとう」
変わらない彼女の表情に仄かな温もりを見つけたリヴェリアは、あぁ、と言って少し頬を緩めた。
(まだ、暗いな……。あの三人娘と……アルスに頼むか……)
激励の類が不得意なリヴェリアは、その手のことが得意な三人娘に任せた。そして、アイズがいつも通りになるにはアルスだ、とリヴェリアは思った。
♠︎❤︎♣︎♦︎
あー、クソ。今日、
俺は今、絶賛不機嫌だった。何故なら、今日は怪物祭だー! と思ってたのだが、昨日の夜のこともあり、記憶がすっぽり抜けていた。
ダンジョンに行ってもいいが、今日はそんな気分じゃなかった。昨日の夜のアイズの顔を思い出したからだ。
「はぁ………あんな泣きそうな顔すんなよなぁ……」
アイズが謝ってきた時、彼女は泣きそうな表情をしていた。いつもなら大体はアイズの気持ちは分かるが、あの時は分からなかった。何故泣きそうになっていたのか。
「あー! クソっ! むしゃくしゃする!!」
街を歩きながら、俺は髪を掻き毟った。周りの人達がぎょっと目を剥くが気にしない。
現在の俺の服装は昨日の白色のパーカーではなく空色のパーカーだ。昨日のパーカーはモンスターの返り血が少しついたから洗濯中だから。
俺はお世話になっている【ミアハ・ファミリア】に行ってポーション類を大量購入してきた帰りだった。『神の宴』に行こうかと考えたが、やめた。面倒臭そうだったから。
口をへの字に曲げて歩き、道の角を曲がった時、
「おわっ………すみません」
「………いえ……」
俺が曲がった途端に通行人とぶつかりそうになった。反射的に謝り、すぐに去ろうとするといきなりガシッ、と腕を掴まれた。
「な、なんですか。謝りましたよ……ね……?」
俺は腕を掴む手を伝い、相手の顔を見た。顔を見た俺は一瞬で固まった。相手は、
「アルスはっけ~ん♪」
「あら、ちょうどよかったわ」
「そうですね。ちょうどよかったです」
「…………」
アマゾネス姉妹とエルフ一人、女神一人………じゃない。アイズ一人。………え、アイズ?
「お、お前ら……! なんでここに」
俺はゲッと気まずい表情になった。なにせ昨日の一件があるため、こいつら【ロキ・ファミリア】には会いたくなかった。
「なんで、って言われてもねぇ?」
「街にいて何か悪いですか? レイカーさん?」
ティオネとレフィーヤが、何か文句でも? と言いたげな視線をぶつけてくる。何も文句なんかねぇよ。全部俺の都合だし。
ていうか、さっきのはどういう意味だ。ちょうどいいって。
「で、なんだよ。ちょうどいいって」
「あぁ、そうそう! アルスには! あたし達と一緒にアイズの服を選んでもらいます!」
褐色の肌が多く露出した両腕を広げてティオナがそう宣言した。このセリフで分かる通り、決定事項のようだ。何を言っても聞きはしないだろう。
「はぁ………アイズはいいのか?」
「う、うん……」
なんかまた暗いし。しかも【ステイタス】関連じゃないだろう。もしかしたら昨日の夜のことをまだ引き摺ってるのか。
「安心しろよアイズ。ベルは無事見つけたし。怪我は膝を少しやらかしたけど、あいつは大丈夫だから」
「……そう。よかった……」
お、少しはマシになったか。ベルのこともネックになってたんだな。
「じゃあ、アルスが来たことだし行こう!」
ティオナに腕を掴まれた状態で俺はズルズルと引き摺られるようについていった。アイズも手をしっかり握られている。
行き先はどうやら路地裏のようだ。確かあそこにはいろいろな服屋があったはずだ。そして、ついた店を見て、俺とレフィーヤが狼狽えた。
「こ、ここは……」
「ま、待て……俺は男だぞ。アマゾネスの服なんて下着同然だろうが」
そう、俺達の目の前にある店はアマゾネスの服屋だった。
エルフはあまり露出が多い服は好まない。なのでレフィーヤは抵抗があるのだろう。そして男の俺に関しては言わずもがな。
「久しぶりねー、私もちょっと羽目を外しちゃおうかしら」
「ほらほら、アイズ行くよ! アルスは逃がさないから」
昨日の夜も思ったんだが、俺の力ってS 951だよね? なんで俺よりも力が弱いベルに押し退けられたり、こうしてティオナに腕を掴まれて動けないでいるのだろうか。
ティオナとティオネによって連行される俺とアイズは店内に入るのだった。後ろからレフィーヤが慌てて追ってくる。
正直に言う。俺、アイズ、レフィーヤからしたら店内は目に毒だった。
カウンターの奥で見本として飾られている品々は、人並みの恥じらいを持つ者なら目を逸らしたくなるような服ばかり。
アマゾネスの店員はというと、下着も同然のような格好をしている。
「俺、外出てていいか……?」
顔を俯かせて俺はアイズに訊いた。チラリとアイズを見る。流石にアマゾネスの服は恥ずかしいのか、うっすらと頬を染めている。
「う、うん。で、できれば………」
「ダメよ、アルスもちゃんとここにいること」
ティオネによって退路が断たれた。や、やばい。アマゾネスの服を着たアイズを見たら俺の心臓が潰れる。
「アイズ、これなんてどう? あたしとお揃い~」
「え、えっと……」
ティオナが勧めるのは、紅色のパレオと胸巻きの組み合わせだ。今ティオナが着ているものと似た衣装に、アイズは真っ赤になって、俺を見てきた。
オイ、なんで今俺を見る。凄く胸がバクバクいってるぞ。
もうダメだ、と内心思っていると、
「だっ、ダメですっっ!!」
わなわなと肩を震わせていたレフィーヤが爆発した。
「こんな、こんなみだらな服をアイズさんに着させるなんて、私が許しません!! アイズさんはもっと、もっと清く美しく慎み深い格好をしなくては! そうっ、エルフの私達のような!!」
自分の胸を手で叩き、真っ赤にしてまくし立てるレフィーヤ。
確かにアイズには露出が多い服は似合わないかな。まぁ、見てみたいけど俺が死ぬし。でもだからと言ってレフィーヤみたいに低露出もちょっと、という俺の見解。
「でも、こんな服を着たアイズも見てみたくない? ねぇ、アルス?」
ピタリと止まるレフィーヤ。俺は直立不動になり、思考が停止してしまった。
「あ、ありません!!」
「ちょっと考えたでしょ? アルスなんて真っ赤になって固まってるしね」
ニヤニヤと笑いながらティオナが言う。そして俺はようやくフリーズから脱した。
「うるさい。アイズにはそれは似合わないと俺は思うぞ」
どうにか平静を装うことに成功した俺は言う。まぁ、心臓はバクバクいってて死にそうだが。決してアマゾネスの服を着たアイズを想像したわけじゃない。絶対に。
「アイズさん、エルフの店に行きましょう! 不肖ながらこの私が精一杯見繕います!」
「れ、レフィーヤ……。あ、アル、助けて……」
戸惑い驚くアイズが店の外に引っ張り出される時に彼女は俺を見た。その目が捨てられる子犬みたいで俺を大いに揺さぶった。
だが、
「ごめん、アイズ」
片手で合掌して俺は苦笑いを浮かべた。その時に、馬鹿、と聞こえたが気の所為ではないだろう。
俺は後ろにいるアマゾネス姉妹を一瞥した。にやりと笑う二人はすぐにアイズとレフィーヤを追った。その際にティオナは俺が逃げないように服を掴んだ。
「やっぱり逃げられないのか……」
そう呻いて、ついていくのだった。
その後もずっと、彼女達は俺とアイズを振り回し続けた。度々俺の心臓が止まりかけたがな。
この話がいつにも増して駄文に………orz
それでは失礼しました。