それではどうぞ!
アルスとアイズ、ロキの三人が
「今は楽しむといい………まぁ、すぐに楽しめなくなるがな」
綺麗なバリトンでその男はそう独りごちる。
男はローブを翻して何処かへ去っていった。数分後、怪物祭会場一帯にモンスターが何体か逃げ出して一部の人達が混乱に陥った。
確認した逃げ出したモンスターの中でも厄介そうだったのが、11階層に生まれ落ちる白色の大型モンスター、蛇のようで花のような奇怪なモンスター。そして、魔神のような強さを持ち、大剣を握ったモンスターの三体だった。
♠︎❤︎♣︎♦︎
「っ!? ……なんだこの空気?」
「んー? どうしたん、アルス?」
俺は闘技場周辺に張り詰めている雰囲気に疑問を感じた。何故か、ギルドの連中が動揺したり混乱したりしていたからだ。
「いや………なんか変じゃないか?」
「……そう言われてみれば、なんか変やな」
それに、と俺は続けた。【ガネーシャ・ファミリア】の団員達が武器を携えて広場から散っている。それが何より異変が起きたと判断できる、と俺は言った。
俺達は頷き合って、闘技場の南側、正門付近に足を運んだ。少人数で輪になって話し合うギルドの職員を見つけて、アイズが職員に情報の提供を求める。
「………すいません。何かあったんですか?」
アイズが声をかけると、ギルドの職員達は弾かれるように振り返って目を見開いた。
「あ、アイズ・ヴァレンシュタイン……。あ、アルス・レイカー……!?」
「なんで俺を見て驚くかな……」
アイズの時は通常トーンで口にしたのに俺の時だけ何故驚いたように口にするかな。そんなに有名になったの? 悪い意味でなっちゃったかな。
俺がそう思っていると、彼等は驚いた後、一人の男性職員が早口で現在状況を説明した。
状況は、祭りのために捕獲されていた一部のモンスターが闘技場の地下に設置されていた檻から脱走し、この東部周辺へ散らばったということだった。モンスターを監視していた【ガネーシャ・ファミリア】の団員達は、魂を抜き取られたかのように放心して再起不能に陥ったとこと。
「これは、タチが悪いな……」
雑魚モンスターならほとんど瞬殺出来るが、さっき聞いたモンスターの名前に『ソードスタッグ』と『トロール』があった。20階層より下に生息するモンスターはかなり危ない。こうしている間にも人が襲われているかもしれない。
「アル君」
「ん? あ、エイナさん」
急に呼ばれて、俺は振り返るとセミロングの茶髪をしたハーフエルフの女性職員がいた。
「気を付けてね、いくら君が強くてもモンスターも強いんだから」
「大丈夫ですよ。いざって時は奥の手があるんで」
そう、とエイナさんは頷いてくれた。この状況でアイズの視線を感じるが無視しておくか。
逃げ出したモンスターはほとんどが東のメインストリートの方角へ向かったとギルドの職員は言っていたから、別方角に向かったモンスターは他の奴らに任せるか。
そして俺はあることを考えていた。それは、ベルやヘスティアのことだ。どうか、巻き込まれていないでくれ、と俺は切に願った。
俺はアイズに目配せをして、雑魚退治を頼んだ。俺が狙うのは放っておいたら被害が甚大ではないモンスター。
俺とアイズはそれぞれモンスターを狩るために、地を蹴った。
♠︎❤︎♣︎♦︎
最初に俺が発見したモンスターはソードスタッグだった。何か探しているように見えたが、被害が出る前に排除した方がいいと思い、首を即刻撥ねた。
一般人の人達がモンスターがいなくなったことに安堵して、家などから出てこようとしたが、俺が大声を出して制した。
「まだ、モンスターが出ています! 申し訳ないですが、今しばらくお待ちください!」
突然大声をだしたせいで一般人の人達は驚いてしまった。しかし、我に返って一般人達は家などに引っ込んだ。
ふぅ、と俺は息を吐いた。今まで大声を出したことは戦闘中や、ベートを説教した時くらいか。それくらいしか大声を出したことなんかないから、場違いにも少し緊張した。まぁ、別の意味で今は緊張しているのだが。
「一体、モンスター共は何を探しているんだ……?」
俺が口に出して言うと、ズシン、と地面が揺れた。地震かと思ったが違うと判断した。何故なら、ナニカが歩いているような振動だからだ。
「なんか、厄介な奴が来そうだな……」
冷や汗を流して、俺はポツリと呟いた。嫌な予感がして正直気持ち悪い。圧倒的な
『グオォォォンッッ!』
「っ!?」
遠いが、ここからでも内蔵を掻き回すような咆哮が響き渡った。俺は咆哮が聞こえた方へ体を向けて、一直線に走って行った。
数分走っていると、またもや咆哮が響き渡る。確実に俺との距離が近くなってきていると俺は思った。
俺は奇襲をかけるために、住居の屋根に跳躍して登る。屋根の上を走り、俺はモンスターに近づくにつれて握っている太刀を強く握り締めた。
モンスターを発見した俺は走っている脚を止めて、呆然と立ち尽くした。無意識に顔が引き攣る。膝が笑う。背中に冷や汗を流す。
それほどそのモンスターは、いや、
黒々とした皮膚は鉄よりも硬く見え、腕はマルタよりも太く、体の大きさは七
そして、その印象的なのはその手に握る大きく無骨な
「こいつが、あの咆哮の主……?」
屋根にある煙突の陰に俺は隠れて、呟いた。
陰から顔を覗かせて奇襲をかけるタイミングを測る。一番確実なのは、『
魔神は何かを探すように首を左右に振りながら、ゆっくりと歩みを進める。その度にズシン、と地面を揺るがす。
完全に俺のいるところを通り過ぎ、俺は腹を括って魔神の後ろへ走り、刀身にヴリトラの『神の力』の一部を纏わせる。刀身が真っ黒なナニカが纏ったことを感じ取り、俺は魔神の太い首に全身全霊の一撃を叩き込んだ。
ズガァアアアッ! と音を立てて、魔神の首にダメージを与えたと思った。だが、
『グオォォンッッ!』
「……ぐっ!!」
魔神は咆哮を上げて、振り向きざまにマルタよりも太い腕を俺に振るってきた。
ズドンっ、と俺は吹き飛び、屋根にめり込んだ。俺の思考はそんなことを他所に置いて、体のことを考えていた。
痛すぎる……! なんだこいつは!? 『神の力』の一部使ってんのに可擦り傷一つつかないなんて……!
『グウゥゥ……!!』
獲物を見つけたように、魔神はその紅い眼をより一層輝かせて、湾刀を振り上げる。
俺はヨロヨロと立ち上がり、鞘を放り捨てて両手で中段に構える。魔神を睨みつけて、跳んだ。
「はあぁぁぁっ!」
真っ黒なナニカを炎のように燃え上がらせて、俺は振り下ろされる湾刀をスレスレで回避して、魔神の首元を横薙にした。
ズガァアッと音を立てるも、弾かれてしまった。俺は舌打ちをして、魔神を蹴りつけて屋根へ飛ぶ。
周りを見てみると、さっきの魔神の一振りで俺が跳んだ場所は放射状に崩れていた。一撃でその威力。もろに受けでもしたら、それは想像に難くない。
「これ、俺一人でどうにかできるか……?」
俺は
だがそれも一瞬のことで、俺は軽く頭を振った。魔神を冷めた目で見て、上段の構えとる。狙うのは、あの大きな湾刀。
【
ググッ、と脚に力を入れる。魔神は縦振りよりも横振りの方が良いと判断したのか、腰溜めの構えをとって、横薙の攻撃を放ってきた。
俺は力を入れていた力を開放して、屋根を蹴り、力を全開にして湾刀の一番脆いと思われる場所へ叩きつけた。
『グオッ?』
バキィン、と大きな湾刀は真っ二つに折れた。こちらの武器である《倶利伽羅》は
魔神は間抜けな声を上げて首を傾げた。それを見た俺はハッ、と笑った。
「どうだよ、馬面……! 折ってやったぞ……!」
魔神に対して言ったが、形勢が不利なのは変わらなかった。何故なら、あちらは武器がない状態。対してこちらは武器が消耗し、左腕が
通常、太刀や刀などは左に力を入れるため、怪我をするリスクがあるのは利き手である右より左の方が高いのだ。よって、今の左腕が使えなくなったのは必然だ。
「どうするかな、これ……」
顔を顰めて、俺は呟いた。
この状況を打破する方法はあるにはある。だが、その方法は危険を伴う。使えば爆発的な力を得るだろう。しかし、時間制限があり、その上使った後は軽く二日は寝たきりになる。もし時間制限以内にこの魔神を倒さなかったら、その時は死ぬ。
考えている間にも魔神は折れた湾刀を投げ捨てて、俺を睥睨する。
「もう、なるようになれば、いいかっ!」
自分を叱咤するように声を出して、俺は、硬く閉じられた扉の鍵を開けるイメージを浮かべた。ガチャ、と開けられ、その扉から夜空のような黒い力が流れ出した。
一歩、俺は魔神に近付く。その時に脚から夜空色の光が漏れ出していて、髪は栗色から漆黒に染め上がっていた。
アル君の力は大体分かりますね。黒い力〜とか言ってますので。……はい、ネタばらしするとヴリトラの力です。
まえがきでも書きましたが、読み直すと凄い駄文なんですよね……。凄い自己満足感ハンパないんですが、ご了承下さいm(_ _)m
次回、力を使ったアル君がどのようにして魔神を倒すのかを書きます!お楽しみにお待ちください(待ってくれますよね?)
それでは失礼致しました。