それではどうぞ!
夢を見ていた。
それは、自分の主神を殺したあの時。
あれはまさに地獄かと思うような光景。ホームにしていた場所は炎によって焼け崩れて、跡形も無く崩れていた。
主神は自分の『
そして、俺はもし『神の力』を使われた時に対抗するために以前殺した神の『神の力』の一部を使った。
『絶対に……お前の次の主神に同じ道を歩ませないでくれ……! これが俺とお前の最後の約束だ』
体から、口から血を流す主神を見て、俺は涙を流しながら頷いた。そして、俺は真っ黒なナニカが纏った己の太刀で、崇めていた主神の首を落とした。
殺した後、俺は泣き叫んだ。子供のように。
♠︎❤︎♣︎♦︎
「……ん、うぅ、ん……」
目を開けようとすると、突然入ってきた光が俺の目を焼いた。
眩しくて左手で目を隠そうとしたが、左腕に痛みが走った。
「いっつっ!」
あまりの痛さに俺は思わず声をあげてしまった。
痛みによって、寝ていた頭が冴えてくる。そして何故寝ていたか思い出した。
「そっか……ヴリトラの力使って倒れたんだっけ……」
あの時、どうにでもなれと思って使った力。
ヴリトラを殺す前には、一人の神を殺した。その神は自分の子供達を利用して悪事を働いた。時には窃盗をし、人を殺していた。そんな時に俺達【ヴリトラ・ファミリア】に依頼が来た。その神を殺して欲しい、と。
依頼が来たその日の夜に作戦を決行した。勿論、殺すのは俺の仕事だった。俺の《スキル》、【刀神斬殺】の能力を使って。
次の日にダンジョンに潜っていると、刀身に真っ黒なナニカが纏わりついていて、それをモンスターに向けて斬ってみると一瞬にして霧散した。
それからだ。俺には殺した神の『神の力』の一部を使えると分かったのは。
「まさか、ヴリトラの髪の色や瞳の色になるなんてな……」
苦笑して俺は無事の右手で前髪を弄る。その髪は漆黒の髪ではなく、いつも通りの栗色の髪だった。
しばらく弄った後、右手をベッドに投げ出す。
…………ベッド?
「そういや、ここ、どこだ?」
今更俺は気付いた。俺が寝ていたのは教会にある地下室の床ではなくどこかの部屋のベッドだと。
ベッドは柔らかく、凄くいい匂いがする。匂いを嗅いでいるとなんだか安心する。
とりあえず、俺は上体を起こして部屋を見渡す。殺風景だが、白で統一された部屋はなんだが居心地がよかった。
ボーっとしていると、部屋の扉が開いた。開けた人物を見るために俺は扉の方向へ顔を向ける。
「あ……アル、起きたの?」
「あ、アイズ……お、おう………」
そういえば、後を頼むって言ったっけ。それにしてもまさかアイズの部屋に寝ていたなんて。今思ったら匂い嗅いじゃった、と恥ずかしい思いがする。というかここで死んでしまいたい。
「アイズ、俺何日寝てた?」
恥ずかしさを紛らわすために、俺は平静を装って訊く。せいぜい二日だろと思っていたのだが、アイズの言葉を聞いて驚いてしまう。
「えっと……五日間寝ていた」
「え、ま、マジですか……?」
「うん」
あ、あれれ? 二日だと思っていたんだけどな。まさかの五日間寝ていたなんて思いもしなかった。
そして俺はハッ、と気付いた。俺が五日間寝ていたということはアイズはどこで寝ていたのだろうか。
「なぁ、アイズ。ここってお前の部屋、なんだよな?」
一応確認してみる。これで本当にアイズの部屋だとしたら凄く申し訳がない。
「……うん。嫌、だった?」
アイズは上目遣いで俺に言ってくる。俺はブンブン首を左右に振って否定した。
「い、いや! 嫌じゃない。ただ、五日間アイズがどこで寝てたか気になってな……」
気まずそうに俺は視線をアイズから白いカーテンから覗く窓の外へ向けた。
「え、えっと…………そ、その……」
もう一度アイズに視線を戻すと、彼女は目を泳がせて頬を赤く染めた。俺は何故そのような反応をするのか気になり、首を傾げて訊いてみた。
「どうしたんだアイズ?」
ベッドに腰掛けたアイズは太腿の間に両手を挟んでモジモジして、意を決したように言った。
「…………アルの、横で……」
「…………」
あぁ、ここで死んでしまっても構わない。俺を産んでくれた母様、今俺は貴女の下へ行きます。
………まさにそんな気分に、俺はなった。
俺達二人の間に気まずい雰囲気が漂う。しかし、そんな雰囲気は扉をノックする音によって砕かれた。
「……はい」
部屋の主であるアイズが返事をする。すぐに扉は開かれて、現れた人は【ロキ・ファミリア】の副団長、リヴェリア・リヨス・アールヴだった。
「入るぞ、アイズ。……ん? 起きていたのかアルス」
緑色の髪を揺らして、俺を見ると少し頬を緩めた。珍しいな、と俺は思った。
リヴェリアさんはあまり笑顔を見せないため、俺はそう思ったのだ。ということは、この人が笑顔を見せるほど俺の容態は悪かったということか。
「どうも、リヴェリアさん。ご迷惑をおかけしてすみません」
「いや、いいさ。これでアイズの機嫌が治るからな」
「リヴェリアっ………」
リヴェリアさんに頭を下げると、彼女は首を振る。次いで、彼女にしては珍しくニヤッとした笑みをアイズに向けた。
アイズは赤かった顔を、一際真っ赤にさせてリヴェリアさんを制してようとした。
「機嫌? やっぱり、ベッド独占しちゃったから機嫌が悪かったのか?」
何故機嫌が悪かったのかは分からないが、もしそうなら、やはり申し訳がない。
だがアイズは真っ赤にしたまま、フルフルと首を振る。リヴェリアさんに目を向けると、本当に彼女にしては珍しい意地悪な笑みを浮かべていた。
「違うぞ。アイズは、アルスが近くにいるのに寝ていて構ってもらえないから機嫌が悪かっただけだ。あとは、ホームの中にお前がいるのに反発する者とかな」
「り、リヴェリア………」
リヴェリアさんのことを止めようと、アイズは声をかけるが、その声が段々小さくなっていく。
「そうだったのか……ごめんなアイズ。俺もここまで寝ていたとは思わなかったからさ」
「う、うん……」
アイズはそう言って縮こまってベッドの上で体育座りをしてしまった。その仕草がもの凄く可愛い。耳まで真っ赤にしてるし。
「それで、リヴェリアさんはどうして? アイズに用でも?」
「いや、私が来たのはお前の見舞いだ。左腕の治療などを、な」
言いながらリヴェリアさんは手に持ったポーション類や薬草をチラつかせた。
俺はこの五日間こうしてお見舞いなどをアイズやリヴェリアさんがしてくれたことに遅まきながら分かった。
「本当にすみません。自業自得なのに」
本当に、これは自業自得なのだ。自分でなるようになれ、と思ってしたこと。
「まぁ、治療に関してはアイズが頼んだのだがな。アイズに感謝しろよアルス」
手際良く巻かれていた包帯を解かれて、次に薬草や高価なエリクサーを使うリヴェリアさんにそう言われる。
俺は未まだ体育座りをして顔を俯かせているアイズを見た。
「アイズ、ありがとな」
俺は笑みを浮かべて、アイズにお礼を言った。彼女は少しこちらを向いたが、すぐに顔を真っ赤にさせて俯いてしまった。
そんな反応をしたアイズを見て、俺とリヴェリアさんは少し声を出して笑った。
落ち着いたところで、リヴェリアさんは部屋から去ろうとした。去り際、彼女はとんでもない発言をした。
「あぁ、そうそう。部屋を出る時は気を付けろよ」
「え?」
「アイズの部屋付近にはティオネやティオナ達がいるから手出しされないが、それ以外は狙われるぞ」
それだけを残して、リヴェリアさんは出ていった。
俺は機械のようにギギギ、とアイズに視線だけで問う。
「……大丈夫、アルは私が守るから」
表情に変化がない乏しい表情で言う。どことなくキリッとしているのは見間違いではないだろう。
俺が狙われる理由は大体察することはできる。なにせ、女神より美しい美少女の部屋で寝ていたんだ。それりゃ狙われるだろう。主に男性陣に。
「……あはは………」
骨の節々が痛い今では、俺よりレベルが低い奴でも簡単に今の俺を倒すことは容易だろう。
その後、俺はアイズに肩を支えてもらいながら食堂に行った。【ロキ・ファミリア】の男性陣が睨んできてその内の三人程が突っかかってきた。
だがその時、ベートがその三人に一喝を入れて食堂から追い出した。
「さんきゅ、ベート」
「……ふん」
礼を言ったのだが、鼻を鳴らされてしまった。しかし、それはベートなりの照れ隠しなのかもしれないと俺は思った。
……案の定、ベートはティオナにからかわれている。
俺はそれを微笑ましく見ていたのだった。
五日間もアイズのベッドで寝るなんてアル君、なんて羨ま--ゴホンッゴホッゴホッ!
意外にアル君は匂いフェチ? 疑惑が私の中で浮上。自分ので書いておきながら何を言っているのやら。ちなみに私はニーソックスが好きです。アイズの私服でニーソックスを履いていたので、その時は発狂しそうでした。
まぁ、私のことなんてどうでもいいですね。
それでは失礼致します!