それでもよければ、どうぞっ!
翌日、俺は寝ているベルとヘスティアを起こさないように教会の隠し部屋から出ていった。
ベルより早く起きた--というより【ステイタス】が熱くなってあまり寝付けなかったため、徹夜した。まぁ、試したいことがあるから別にいいけども。
俺はバベルにある簡易食堂に行き、軽目の朝食をとり、現在はダンジョンの13階層に来ている。
「神を思い浮かべる、か……」
昨日の羊皮紙に書かれた【ステイタス】を思い出し、俺は目を薄く閉じる。
神を思い浮かべたが、一番最初に浮かんで来たのはヴリトラだった。
漆黒の髪を持ち、アイズとは違った金色の瞳をして、鋭い牙をチラつかせながら笑うイケメン。
「ある意味で、このスキルは俺に対する罰みたいだな……」
だが、それでいい。なによりヴリトラを殺したという事実から目を逸らすことなく生きて行ける。
次に目を開いたとき、俺は自分の体を見回した。
目に飛び込んできたのは、漆黒の髪の毛だった。口元に手をやり、牙があるか確認。案の定鋭い牙があった。瞳の色は確認のしようがない。
「【刀神斬殺】の時とは違って、光は出ないんだなァ」
………あれ、何か口調が変だ。このどこか雑な言葉遣い。まさか、
「口調までもヴリトラと一緒かよッ! 巫山戯んな!」
思っていることは雑ではないのに、口に出すと雑になる。なんだろうこれは。この状態で知り合いなんかに会ったら、乱暴な奴、というレッテルを貼られてしまいそうで怖い。
「はぁ、一応ヴリトラになれたし、次は能力についてだな。確か、敵と見なした対象を斬る、だったか」
口に出しながら俺は左手に《倶利伽羅》を転移させた。
手頃なモンスターがいないか探しに、ダンジョン内を彷徨する。いつもならすぐにでも現れるはずのモンスターがいないので、俺は少し困惑した。
「けっ、モンスターがいねぇんじゃ試しようもねぇな」
俺は雑な言葉遣いをしながら太刀を担いで歩く。
それにしてもどうもこの言葉遣いには慣れない。元々俺はそんなに雑ではないので、こういうのは違和感がある。それに、どことなくベートみたいな口調なので、抵抗がある。
「はぁ、一匹もいねぇな………どっかに転がってねぇかな」
言いながら、俺は下の層に潜っていく。しばらく歩いていると、モンスターの怒号と冒険者の悲鳴が俺の耳に届いた。
「お、やっとかよ。暴れてやる、よッ!!」
ドンッ! と地面を蹴って飛び出し、モンスターに襲われ悲鳴をあげる冒険者達の所へ向かう。
通常時とのスピードの違いに、俺は驚嘆と呆れが入り交じった溜息を吐いた。
圧倒的過ぎる。このスピードだと敏捷のS 999の上限を超えているのではないかと思えて、笑える。
「………ぁあ……!!」
段々近付いてくる悲鳴を聴き、俺は内心焦り始める。
知らない冒険者達だろうが、ここで知らん顔を出来るほど俺は廃れたわけではない。
走り始めて十数秒が経ち、数十
「【
魔法の名前を言い、自分自身を冒険者達の近くに飛ばした。
一瞬の浮遊感と目眩が俺を襲うが、それはすぐ回復し、太刀を抜く。
「てめぇらは、消え失せてろッ!」
大量にいるモンスターの内一体を屠る。すると、大量にいたモンスターは一瞬に掻き消えた。
冒険者達はその光景に息を呑んだ。俺も、奇妙な光景を見て、冷や汗を流す。
おそらく、俺のスキル、【神化の法】は視認し、敵と見なした対象を全部斬ることが出来るのだろう。だが、対象と言っても色々だ。その対象を人にしてしまえば大量殺人が可能となる。しないけど。
「これもチートだよなァ」
ははっ、と乾いた声を出す。俺は後ろにいる冒険者達を振り返って見た。
その冒険者達は有り得ない物を見たかのような表情をしている。少し傷付く。
「全員生きてるかァ?」
俺のその一言で、冒険者達はビクッと肩を震わせた。
俺はしまった、と思って【神化の法】を解いて元の栗色の髪と碧眼の姿に戻した。
「悪い、驚かせちゃって」
出来るだけ優しい笑顔を見せて、喋りかける。だが、通常時の俺の姿を見せても驚いた表情をしている。
どうしたのだろうと思い、二人いる少年のうち一人、青い髪をしたそばかすがある少年に訊いた。
「あの、大丈夫なのかな?」
「け、け………!」
「け?」
「「「「【剣王】っ!?」」」」
「ぶふっ!?」
あまりにも大きな声+一番聞きたくなかったことを言われ、俺は吹き出した。
なんで、ここで出てくる!? 最近聞かなくなったから大丈夫だと思ってたのに、どうして!?
「す、すごい! 本物の【剣王】アルスさんだっ」
「あの! 私、貴方に憧れて冒険者になったんです!」
「僕もなんです!」
モンスターにではなく、冒険者に囲まれた俺は目をパチクリさせる。それと、今聞き捨てならないことを聞いた。
俺に憧れて? 俺がLv.2に上がって二つ名を貰ったのは四年前だ。
それに、Lv.2になるにはとてつもない苦労をする。通常なら一つのLv.を上げるのに数年かかる人だっている。それくらい苦労するというのに、この冒険者達はそれをあっさりと? とてもじゃないが、この冒険者達がLv.2か3には見れない。
「えと、君達のLv.を聞かせてもらってもいいかな?」
念のため聞いておこうと思った。ここでもし、Lv.1なら、どうしてここに来たのか聞かねばならない。
「俺たち、Lv.1です」
「何?」
俺の予想は当たったようだ。俺は眉を顰めて、この四人の【ファミリア】について聞いてみる。
「所属している【ファミリア】は?」
「【アナト・ファミリア】っていうところですけど。……あの、何故そこまで?」
アナトか。なら、フウの後輩だな。後はどうしてここにいるのか聞くだけか。
「なぁ、Lv.1の君達が、なんでここに?」
「ぁ……それは……」
俺が訊くと、獣人であろう少女が目を泳がせて、言い淀んだ。他の三人もどこか言いづらそうな表情をしている。
「アル? どうしたの?」
四人の冒険者の返答を待っていると、後ろから声が聞こえた。
その声の主は、出来れば今ここで来て欲しくなかった人だ。
「け、【剣姫】」
「アイズ・ヴァレンシュタイン……」
金色の長い髪を揺らし、アイズは俺に近付いてきた。俺は彼女にジト目を送って挨拶をした。
「よう、アイズ。出来れば今は来て欲しくなかった」
「迷惑だった……?」
アイズはしゅん、として俺を見つめてくる。俺は頭を掻いて視線を逸らした。何故なら、そのままアイズを見ていたら、彼女の頭を撫でていただろうからだ。
「いや、迷惑じゃないけど。今は、な」
「? そう言えば、この子達は?」
この子達、って。十六のお前とさほど変わらないだろ。
俺はまぁいいか、と思って紹介した。
「【アナト・ファミリア】の冒険者達だよ。しかも、Lv.1」
俺がそう言うと、アイズは少し目を見開いて冒険者達を凝視する。
「どうして、この階層に……?」
アイズも俺と同じように冒険者達にそう問う。冒険者達は先程と同じく、目を泳がせているだけだ。
「ちゃんと話してもらえないかな。正直、Lv.1で10階層以下の階層に来ること自体普通じゃない」
「……人のこと言えないと思うけど」
俺が言うとすかさずアイズがツッコミを入れた。しかし、ここで入れられてしまっては元も子もない。とりあえず、俺のことはどこかに置いてもらいたい。
「ンンッ、で、話してもらえる?」
「………」
咳払いをして四人に訊く。だが、四人は一様に黙ったままだ。
しばらく待っても何も答えない四人を怪訝に思ったのか、アイズはエルフの少女の顔を覗き込んで見る。すると、
「【解き放つ一条の光、聖木の
「っ………!」
いきなり魔法の詠唱式を早口で唱え、光の矢をアイズに向けて放った。
「アイズ! そのまま後退しろ! 俺が片付ける」
俺の指示を受けて、アイズはそのまま後退した。しかし、光の矢は後退するアイズを追従する。
俺は太刀を鞘から抜いて、刀身を地面に突き刺した。
「レフィーヤの方が威力はあるな………護の太刀っ!」
刀身に夜空色の光を纏わせて、そのまま地面に流し込む。その光は地中を這い進み、アイズに迫る矢を地中から出てきて阻んだ。
それにしても、何かいい名前があったのではないかと思う。なんだよ『護の太刀』って。まぁいいけど。
「君達、アナトのところじゃないよな……」
俺は太刀を構え、四人を睨みつけて言う。
何故【アナト・ファミリア】の所属ではないと思うのかと言うと、アナトは愛と戦いを象徴する女神のため、【アナト・ファミリア】の構成員はまず対人戦闘はしないからだ。
「ちっ、バレたか」
「当たり前ですよ、理由を言わなかったんですから。テキトーにでっち上げれば良かったのに」
一人称が俺、と言っていたヒューマンの少年と獣人の少女がそう話す。そこで、もう一人の青い髪にそばかすがある少年が俺の方に向かって話しかけてくる。
「どうしてここにいるか、でしたよねアルスさん」
「あぁ、どうしてだ?」
「それはですね……」
対人戦という緊迫感を感じ、俺とアイズは己の得物を構え、相手側も得物を構える。
そして、一拍置いた少年は口を開く。
「貴方を殺すためですよ、アルスさん」
あまりにも突拍子もないことを言われ、俺とアイズはただただ目を見開いただけだった。
後半がやけに適当でしたね……すみません。
このオリジナル回ですが、次回で終わります。ダメダメだと思いますが、お気に入り登録していただいている方々には感謝の念しかありません。本当にありがとうございますっ!
あと、スキルの説明、下手ですみません。本当にすみません(土下座)
追記
7/21
すみません、書き忘れていました。
ちなみに、アル君の二つ名って『黒閃』じゃないんです。あれは、アイズでいうところの戦姫みたいなものです。Lv.2に上がって、貰った二つ名は今回出てきた【剣王】です。すみません、書き忘れてて。
それでは失礼致しましたっ!