プロローグ(前編)
私は空が好きだった 空を見ていれば嫌なことも忘れることができる。
その私の考えもやがて空を見るだけでは満足できず、空を飛ぶことができたらという方向へと向かっていった。
しかし運命というものは残酷だった。
念願の航空会社に勤めることが出来、なおかつパイロット養成プログラムを受けることとなった私は夢が叶うと思っていた。
悲劇は訓練中に起きた。
私と同じ志を持っている皆と苦しいプログラムをこなしていると近くで火事が起きたらしく、周りが慌ただしくなった。
皆を落ち着かせることに勤めたが効果はなく、それどころか皆を現場へと向かわせてしまった。
その時に自分だけでも行かなければよかった。変な正義心を持たずに自分の事だけを考えていたらと今でも思う。
そこで夢は覚めた。
周りを見渡す、自分の近くでスヤスヤと寝息を立てているのは自分が世話になっている家の家主である篠ノ之束さんだ。
彼女には昔から世話になっている。
先に目が覚めたことだし、朝ご飯でも作っておこう。
そう頭を切り替えて私は台所へと立った。
料理のいい匂いにつられてか束さんが起きたらしく、寝室から物音が聞こえてきた。
「起きたんですか?束さん」
「ん~、その呼び方はゆーくん?」
「はい、そうです」
まだ寝ぼけているのかフラフラとやってくる。
「フラフラしていると危ないのでまずは顔を洗ってきてください」
「はーい」
これではどちらがお世話になっているのか分からない。
束さんが顔を洗っているうちに料理をテーブルへと運ぶ。一緒に生活するにあたって私たちが決めたルールの一つである。
束さんは自分の研究で普段は部屋に籠っているのだが、食事だけは一緒にテーブルで向かい合ってとると昔に決めたのだ。
「では、いただきます」「いただきまーす」
私の合図で一緒に食べ始める。
今日のメニューは炊き立ての白米に、味噌汁、昨日安く売っていたサバを使ったサバのの味噌煮だ。
朝ご飯に味噌煮はどうかと思うが、束さんを正常に動かすにはこれぐらいの濃い味付けの方が良いとこの10年で学んだのだ。
「そういえばゆーくん」
「はい?どうかしました?」
「えっとね、そろそろいっくんも高校受験を受ける季節になってきたからさ、それを機にゆーくん達も受けたらと思って」
「……私はともかく空には俺も受けてもらいたいと思いますよ。まだアイツだって子供だ。世間を全く知らないだろうしな。でも、私たちには現在親という者がいないので受けれるのでしょうか」
私たちは親に捨てられている。捨てられて生活もままならない時に束さんと出会い、その時からお世話になっている。
空自身は自分は高校に行く気はないとまで言っている。理由としてはこれ以上束さんの迷惑になりたくないのだろう。中学に通わさせてもらっているだけでも十分と思っているに違いない。だから現在の空の進路は中学を卒業したらそのまま束さんのお手伝いをすることだ。
でも私は空には高校を受けてほしい。何故なら今の時代中卒というのはあまりよろしくない。これからの空のことを考えたら最低でも高校は出てもらいたい
「大丈夫!君たちの親には私がなります。ってちーちゃんと決めたのさ。親権を今日の午後から本来の君たちの親と話し合って貰ってきます。だから安心してそらくんに受験を受けさせることができるのだー」
「そう、ですか…… ありがとうございます。私と空に不自由ない生活をさせてくれている上に親にまで……」
「私は10年間初めて他人と暮らしたよ。でも、他人ってのも案外悪くないって思わせてくれたのがゆーくんとそらくん。だから私は君たちに恩返しをしたかったの、ってことじゃダメかな?」
彼女はずるい。何時も私たちが断れないようにして私たちを幸せにいつもさせる。
「分かりました。ならばこれからは束さんではなく母と呼べばいいのですか?」
「あははは、それはイイネって言いたいけどちーちゃんが許してくれないかな。私の弟になんてことを言わせてるんだーって怒っちゃうし」
「言いますね、確実に」
織斑千冬 先ほどから束さんがちーちゃんと呼んでいる人物だ。
彼女とは束さんをを通じて知り合ったのだが、どういうわけか彼女も私と空のことを弟のように思ってくれている。
それは嬉しいのだが幾らなんでも過保護すぎないかって思う事が時々あるのだが彼女の尊厳に傷がつくので言わないでおく。
「お昼食べたら話し合いに行ってくるね。午後にはいっくんが遊びに来るらしいから遊んで待ってて」
「分かりました。一夏と遊ぶのは多分空でしょうが」
「??どうして」
「私はちょいと眠いのでその間はお昼寝をさせてもらおうかと」
「なるほどなるほど。じゃあ、午前中はゆーくんが行動するんでしょ?」
「ええ、まぁ」
「私と一緒に外で遊びに行きましょー」
「……午前中だけですよ?」
「うん!」
そう言うと彼女は食べ終わった皿を台所へと運んでいく。私も後に続き皿を水につけておく。
彼女は現在追われている身なのに遊びに行っても大丈夫なのだろうか……
少し不安になりながらも身支度を済ませ、外で待つことにした。
全部で三部構成となりますプロローグです。