暫くして一夏が帰った後に束姉が入れ替わるようにして帰ってきた。
「ただいまー」
「あ、束姉おかえりなさい」
夕飯を作っていたので台所から顔を出す形で挨拶をする。
「おっ、今日の晩御飯は何だい?」
「今日はハンバーグにでもしようかと。ちょうど具材が冷蔵庫にあったので」
「やったね。束さんはそらくんのハンバーグ大好き!」
本当にうれしいのかその場で大はしゃぎな束姉。ハンバーグを夕飯に選んだのは正解だったようだ。
「それで、束姉は何処に行ってたの?」
「あり?ゆーくんからは何も聞いてないの?」
「はい、祐兄は僕と入れ替わる感じで寝ちゃったので」
束姉が今日の午後していたことを知らされる。どうやら僕たちの本当の親から親権を奪う形で取ってきたらしい。
束姉らしいと言えばそれで済むのだが、問題はないのだろうか。
「……」
「め、迷惑だったかな。束さん的にはこれで本当の家族になれるから嬉しいんだけど」
「僕も嬉しいですよ。僕と祐兄をここまで育ててくれた人が親になってくれるんですから。でも……」
「でも?」
「今度からは今回みたいな無茶はしないでくださいね?」
「うっ……」
僕や祐兄の為に頑張ってくれるのは凄く嬉しい。でも、それで体を壊してしまったら申し訳がない。
束姉は天才学者とも言われているらしいし、僕らのせいで研究ができなくなってしまったら……
「じゃあ、もう少しで夕飯ができるので手を洗ってきてください」
「はーい」
先ほどまでのしょげた様子が嘘のかのように元気に返事をし洗面所へと走って行った束姉。
テーブルの上に料理を並べると向かい合って座る。
「「いただきます」」
食事前の挨拶を言って料理に箸を付ける。
ほとんどの料理が皿の底を見えてきたときに、束姉が箸をテーブルに置いた。
「ねぇ、そらくん。今から大事な話をするからゆーくんを起こしてあげて」
何時になく真面目な声で話しかけてくる。大事な話というので僕も頷く。
『祐兄、束姉が大事な話をするって』
僕は自分の中にいるもう一人の人に心の中で声を掛けた。
『ん?大事な話か……分かった』
どうやら起きていたようなので、ホッとする。祐兄は一度寝ると起きるまでかなりの時間を要する。
でも、一度起きるとかなりの時間起きているので均等は一応取れているらしい。
「そらくんは高校行く気はない?」
大方予想ができていた質問だ。あと数か月後には大事な人生の節目とも言われている受験が僕にはある。
「……」
「私はね、そらくんには行って欲しい。そう思ってるんだ、私は……そらくんはゆーくん達と出会うまでは独りだった。
自分には研究といっくんやちーちゃん、それに大事な妹がいるから、他はいらない。そう考えていたんだ。でも、そらくんやゆーくんと出会ってからは他人も悪くない、そう思えるようになったんだ。だからそらくんにも此処だけじゃなくもっと広い世界を見てきてもらいたいんだ」
僕は束姉の言葉を聞きながら自分の手をある機械に触れさせた。その機械は仕組みこそ理解は出来ないが、束姉が作ったもので簡単に言えば祐兄の思っていることが声として聞こえるものだ。
『空、私も束さんと一緒の考えだ。今、お前の世界はあまりにも狭すぎる。それは私のせいだろう。だからこそだ、広い世界に行ってみないか?
今以上に楽しいことがあるはずだ』
「僕は……」
先ほどまで楽しい会話をして、暖かかった部屋の温度が心なしか少し寒くなった気がする。
「僕は……迷惑をかけてもいいのかな?僕は本当の親なんてもう覚えていない。いや、多分忘れたんだと思う。生みの親を忘れるような僕が迷惑をかけてもいいのかな」
泣きたいと思っていないのに涙が頬をつたる。
そんな僕を束姉は優しく抱きしめてくれた。
「いいんだよ。そらくんはもっと束さんやゆーくんに迷惑をかけてもいいんだよ。だって私たちは家族……なんだから。それに親を忘れたのなら、私を覚えてくれれば良い。これからは私がそらくんとゆーくんのお母さんなんだから」
僕の頭を優しく、ゆっくりと撫でてくれる。
『空』
祐兄が優しく僕の名前を呼ぶ。
『私や、束さん。それに一夏や千冬さんもそうだろう。お前は今まで迷惑を掛けなさすぎだ、これからは頼れ』
「うん……うん」
僕たちはその日、本当の意味での家族になったのだろう。
それから僕は一夏君や冬姉に受験をすることを告げた。冬姉というのは千冬さんが「束をそう呼んでるのだから私も呼べ」と言っていたので呼んでいる。
学校でもそれなりの成績を取っていたので最悪の事態は免れた。
それに束姉や冬姉、祐兄や一夏君の力を借りて、僕たちは受験に臨むことが出来た。
「な、なぁ空。此処は何処だ?」
「ぼ、僕に聞かれても……」
現在僕たちは迷っています。
今日は受験なので一夏君と張り切って試験会場に行ったはずなのに、どうしてこうなったんだろう。
『全ては一夏のせいだな。あんなに自信満々だったのに』
一夏君は僕に道案内は俺に任せろと自信満々に言ってきたので案内を任せていた結果、迷った。
「取りあえずは人を探そうか。人に聞けば大丈夫だよ」
「……そうだな」
僕たちは試験会場と思わしき建物にはいるので人に聞けば席に座れるだろう。
そう思っていました
これで次回からは本来の内容に進める……