寄生獣 on the Magic World 作:なまびーる
感想、評価、あったらどしどしください。駄文ですが、よろしくお願いします。
「…ん。」
気がついたら、朝になっていた。
カーテンに隙間が空いていたらしい、そこから光がさしこみ、慎一の顔に直射していた。
「…ん〜?」
大きく伸びをした途端に、違和感。
右腕全体が痺れてしまったかのように感覚がない。
変な格好で寝すぎたかな…そう思い右腕をゆっくり動かしていると。
「な…なんじゃこりゃ!?」
驚きのあまり声を上げた。
見れば、部屋は本で散らばっており、それら全てがほとんど床にぶちまけられていたからだ。
ご丁寧に、全部開いた状態で、だ。
泥棒かと一瞬思っても見たが、こんなご丁寧に嫌がらせのように全部開いた状態で床にぶちまけ何かを探すとは到底考えられない。
どちらかといえば、幼児が興味を持ったものを粗方探してそのまま片付けない状態に似ている。
「コレ片付けるの…? ハァ…」
溜息をつく。そういえば少し埃っぽい。
窓を開けて換気をしてから、リビングに降りる。
寝室の母の様子を見に行くと、案の定仕事着のままベッドに倒れこんでいたので、音を立てないようにタオルケットをかけてやった。
今日の朝食は、ベーコンエッグにすることにした。
普段血圧の低い慎一にしては珍しい、無性に腹の虫がなったのだ。
いつもより少し多めに冷や飯を盛り、レンジにかける。
その間にフライパンに油を敷き、温めたところでベーコンと卵、水を投入、蓋をする。
こんな簡単な料理くらいであったら、慎一にでも作れる。
野菜室からレタスを取り出し、簡単に盛り付け、その上に焼きあがったベーコンエッグを乗っける。
パンがなかったのでご飯にしたが、このままご飯にのせても良かったかもしれない。
「…いただきます。」
きちんと手を合わせて食べ始める。
なんて事のない朝、右手の違和感を除けば、いつもと変わらない朝。
が、今日は違った。
ーーイ、イタダキ、マス…?ーー
ノイズとともにそんな声が聞こえた。
「うぇあッ!?」
ガタ、と、椅子から転げ落ち妙な叫び声を上げる慎一。
慌ててキョロキョロと周りを見渡し、誰もいないことを確認する。
「な、何…!?」
情けないことに声が震えていたが、もうそんなことはどうでもいい。
兎も角今のはただの幻聴、昨日少し夜更かししたから、ただの寝不足だと自分を言い聞かせた。
手早く食事を口に運び、飲み込む。
申し訳程度に朝のテレビをつけ、気持ちを落ち着けた。
「…ごちそうさまでした。」
慎一はしばらくその体制で止まる。
その声は聞こえない。
だいぶ落ち着いてきた、未だ心臓はバクバクと脈打っているが、もう問題はない。
少し早食いしすぎて気持ち悪いのを堪えつつ、慎一は手早く食器を洗い、食器立てに掛けておいた。
「ハァ、ハァ、はぁ…遅れる遅れる…!」
朝の登校、慎一は縺れる足に鞭打ちながら朝からマラソンを敢行していた。
今朝の本達の整理をしていたらすっかり遅れてしまっていたのだ。
だが、まだ間に合う。
このペースが続けば、の話だが、そんな話は荒唐無稽な訳で
「へぇ…へぇ…へぇ…」
情けない声でへばる慎一。
額は汗がタラダラと垂れ、目に侵入してくる。
それを拭い、目の前の信号を睨む。
今のペースでは、間に合わないかもしれない。
だが、それでも最後の最後まで悪あがきしてみせよう、せめて諦めないように。
そんなちっぽけな覚悟をした直後、慎一の目の前をバスが通った。
この近くにある、聖祥大附属小学校へ向かうバスだ。
「…ぁっ。」
小さく、慎一は声を上げた。
いつも目が合う、栗色の髪の女の子。
今日はいつも一緒にいる友達と楽しそうに話し合っている。
「…」
すれ違う瞬間、わずか数秒ではあったが、慎一は何時も、その子のお陰で毎日を過ごせている。
何故というのも、ちゃんと説明はできないのだがどうにも彼女の笑顔を見ると力が沸くのだ。
なんというか、とにかく頑張ろう、そう思わせてくれる。
たった数秒の時間、相手は慎一の事など見向きもしないであろう時間が、この悲惨な毎日を過ごす支えの一つであった。
「…よし、頑張ろう。」
そう呟いたと同時に。
キーン、コーン、カーン…
「…あ゛」
どうも遅刻は確定してしまったようだ。
「…ったくお前は、学校生活の態度だけが取り柄のお前が、遅刻したら意味がないだろう!?」
「…すみません…」
「もういい。お前のすみませんはもう聞き飽きた! 今日は廊下に一日中立ってろ!」
「え…でも、授業は…」
「んなモンやっても理解できねぇんだろ!? お前が居たって意味ないから、ある意味邪魔だから。」
そんな、言い終える前に慎一は教室から担任の教師に叩き出された。
クラスの方からは、そんな慎一を嘲笑する笑い声が聞こえてくる。
いつもの事だ、今の担任は、何かと慎一に難癖つけては、こうして廊下に立たせる。
今でこそこの様な口調で罵ってくるが、最初の頃は、「少しずつ頑張ろう」と声をかけてくれていたのだ。
それが何故…いや
単に自分がダメイチであった、ただそれだけのことだろう。
廊下に立ち続けて30分。そろそろ授業も終わりに近づいた頃。
「…ん、アレ…変だな…なんだか眠…」
急激な睡魔がやって来た。
瞼が自然と落ちていくのを堪え、なんとか耐える。
が、そんな葛藤虚しく。
「zzz...」
慎一は、すっかり意識を夢の中に落としてしまった。
闇に沈んでいく意識の中、慎一は一つの声を聞いた。
ーーーシッパイ、シタ。
失敗? なんのことだよ。
それは少し苛立ったように答える。
ーーーうるさい。
クスクス、キャハハ…そんな嘲笑の嵐が、慎一の目覚めのアラームとなった。
「…ッ!?」
見れば、廊下をいく生徒らが自分を見て笑っていたり、
目の前には、鬼の形相をした担任がいた。
あ、終わったな。
瞬間的に、慎一はそう思った。
結局、慎一は放課後まで居残りで漢字の書き取りを命じられ、夕焼け染まる頃になってようやく解放された。
「…ハァ…」
今日は極まってどうにもならない日になってしまった。
寝違えたのか、未だに右手は痺れるような感覚が抜けない。
右手の感覚を首を傾げながら確かめていると、校門を抜けた先でやかましいキンキン声が響いてきた。
「やーい、やぁいっ! 今日も居残りだね、流石は"ダメイチ"!」
「やっぱりダメイチは俺たちの期待を裏切らねーな!」
ゴリラっぽい同じクラスのでくのぼうと、いかにも頭が悪そうなソバカスのチビの揶揄いを無視し、スタスタと前を素通りする。
あの二人はこんな風に慎一を揶揄う。が、暴力などの直接的な嫌がらせをするのにそこまでの度胸がないらしく、ある意味では一番マトモとも言える。
が、無論そんなことを思ってもただ単に
自分がからかわれているだけ腹がたつ。
結果無視する、だがそれが一番正解なのだろう。
思えばこの学校に転入してから友達ってできたっけ…?
記憶を探ると、全く持っていない。
何時も廊下に立たされるか、図書室で本を読むことしかしていないのに気づき、よく自分が物理的に虐められていないなと関心する。いやしてはダメなのだが。
そんな、憂鬱な下校道。
カラスが口やかましくカァカァと鳴いて、空を自由に泳いでいる時間、慎一は朱く染まった道路にへばりつくように、じっとりと信号が青になるのを待っていた。
疲れた、その一言。
そして、
こんなので、いいのか? という不安。
実は慎一、今の生活を辛いとは思えど、全く持って不満はない。
母とは確かに少し疎遠だが、一緒に居られる時間があるし、たとえゲームや漫画なくとも慎一には少なくとも慎一にとってそれらよりずっと面白い本がある。
充実しているとは口が裂けても言えないが、慎一には、それで十分だった。
"ダメイチ"な自分には、この程度の身の丈にあった生活が相応しい…と。
だが、そんなことを思いつつ、"変わりたい"という欲求はある。
今の自分が好きかと聞かれれば、真っ先に"嫌いだ"と言うであろうその社会的貧弱さ。
自分の運動神経、頭脳、そしてこんな卑屈で嫉妬深い性格に嫌気がさし始めた。
そんな時。
つん裂くような高い音が、夕焼けの住宅街に響く。
それと同時に、慎一は見てしまった。
横断歩道を渡る…いや、正確には道路に飛び出したボールを追いかける少女。
そして、それに迫る軽自動車。
慎一は思わず耳を塞いだ。
このやかましい音が急ブレーキ音である事は間違いなかった。
そして、何故か脚が前に進んだ。
本当に何故だかはわからない、ただ、このままでは軽自動車が少女に激突…少女はタダでは済まない。
助けなければ。
そんな事は一瞬でも思わなかった。
自分の脚などでは到底間に合わないし、何より自分も巻き込まれる。
そして、その後起こりえるであろう残酷な光景もまた、見たくない。
だから、慎一ははすぐに目をそむけようと思った。
にも関わらず。
脚は今こうして前に進んで、自分は小さな少女に手を伸ばしている。
なんで?
そんな事を思う前に、反射的、といったところか。
目前にまで迫った軽自動車のバンパーに思わず右手を突き出す。
左手で少女を乱暴に押し出す。
この瞬間、慎一の頭は真っ白で、何も考えていなかった。
慎一が気を取り戻したのは、
軽自動車のバンパーがひしゃげ、何かに激突する轟音と、小さな少女と、誰かの悲鳴。
慎一が、恐る恐る瞑った目を開けると、そこには自分の右手があった。
一つの目玉がついた。
「う、わぁぁあああああッ!?」
軽自動車のバンパーが大破し、辺りにパーツが散らばり、道路の舗装が少し禿げている最中。
傷一つ無い慎一は絶叫を上げた。