寄生獣 on the Magic World 作:なまびーる
と、兎も角、第4話、いってみよー!
見られた。
よりもよって毎日見ているバスのあの子に。
その時考えたシンイチの選択肢は一つであった。
「…ッ!」
待って、背後からそんな声が聞こえた。
初めて話す言葉が、こんなことになるなんて思わずに、一心不乱に走る。
何故なら、今この状況を話そうにも、ミギーは確実に口封じとしてあの子を殺すだろう。ためらいもなく、一撃で。
だからこそ、今は逃げるほかなかった。ミギーは何も言わなかったがそれが正しい判断であったと思いたい。
「待って! 話を…ッ!?」
なのはは、ツンと鼻をつく生臭い匂いに鼻を塞いだ。
なんだ、この匂いは? そう思う間もなく視界がにじむ。
あまりの刺激臭に涙が出てきたようだ。
「な、何…コレ…ゥ…ッ」
そして、なのはは見てしまった。
首から上のない犬の屍体、そして、今もダラダラと垂れ流れている赤黒い何か。
それが、腐った血である事が理解するののに、どれ程の時間を要したのであろう? たっぷり5分くらい使った気もするが、実際には一秒にも満たない僅かな時間。
なのはは、恐る恐るそれに近づく。
あまりのショックに思考が追いつかずに、先程逃げた少年の事も忘れて屍体を凝視…できなかった。
気持ち悪い。 あまりにも凄惨すぎる。
死んだ犬には悪いが、肉は腐り始めて、蛆が湧いているモノを凝視できる程、なのはのそういうモノに対する耐性は強くない。
ここは大人しく、エイミィに報告するとして、なのはは漸く少年の事を思い出すのであった。
「思うに僕は、好奇心はコントロールしてこそ真に意味を持つと思うんだ。 ねぇ聞いてるかなインテリ寄生生物!」
「なんだね? 私は今、新聞での情報収集の真っ最中だったのだが。」
翌日の朝、ミギーとシンイチは、絶賛口喧嘩(ただ一方的であったが)をしていた。
「よかったじゃないか、顔は見られてなかったんだぜ? さらに言えば、例の野良犬の件も学校に連絡がこなかったそうじゃないか。新聞にものっていない。万々歳さ。」
「そうじゃなくて! 僕が言いたいのは、昨日みたいに襲ってくる寄生生物もいるってことじゃないか!? 」
いや、もっと正確に言えば、今の所あって立ち所に襲い掛かって来るのが大半であるという方が正しい。
何せ、一匹しか会っていないが、事実上その確率が10割となってしまっているのだ 。
「まあ、安心しろよ。一応わかったこともある。」
「何?」
これを見ろ、と、ミギーはシンイチに記事の一覧を示す。
「ゲ…これは…?」
その記事を見た途端にシンイチは顔をしかめる。
「『ミンチ殺人』だよ。数は決して多くない。全国各地、世界から統計して考えても、耳垢にすらならないほんの小さなものだ。
そして同時に、その周囲では似たような動物の変死体も確認されているらしい。」
ただ、その凄惨な殺害方法、そして犯人は複数犯であるということ(そうとでしか考えられない距離)が話題を呼び、連日テレビで報道されている。
さらに言うならば、ここ、海鳴市の隣市でも似たような事が起こっているらしく、市内では集団登下校が検討されているらしい。
最も、その集団登下校が憂鬱なのだが。
「この事件が、君の仲間の仕業だっていうの?」
「『かもしれない』な。昨日の犬を見ただろう?」
「え…」
正直思い出したくない。
「彼奴は『共食い』をしていた。君と私の関係の様に、私達は共食いをする必要はない…」
「僕の養分を、君が使っているんだっけ?」
そう言えば、最近やたらと腹が空くようになった。
「ああ。何度も言うが、体調は崩すなよ。私も悪くなる…で、だ。
では、共食いに何の意味があるのか?
昨日の犬を見た限り、ゴミ箱という食料があったにもかかわらず、なぜ同族を喰らったのか。」
「たまたまお腹が空いていた…わけないか。」
「それもあるかもしれないな。 だが、私はこう思う…それこそが、私達に与えられた『本能』であり、 『使命』だと。」
「どういうこと?」
ミギーは沈黙した。
「…いや、やめておこう。 まだ仮説の段階だ。」
「そっか。じゃあ、そろそろ行こう。」
シンイチはランドセルを背負う。
最近始まった憂鬱なこと…ご丁寧に、我が海鳴市第一小学校では既に、集団登下校になってしまったことである。
ミギーの言う通りだとすれば、ミンチ殺人、の犯人はミギーの仲間。
そしてその仲間は、ミギーとは違って、人間の脳を奪って、寄生して、人間社会に溶け込んで生活している。
そんな事を考えた瞬間、シンイチは鳥肌を立てた。
ーーー今もそこで、誰かが見ているかもしれない。
いや、その前にミギーが察知して知らせてくれるはずだが、そんなこと関係無しに、純粋に怖かった。
世間で人が死んでいく中、もしかすると自分だけがその正体を知っている。
そして、それをなんとかできるかもしれないのも、自分である。
だが、戦おうとは微塵も思わなかった。
弱虫だっていい、いや、実際自分は弱いが、だとしても自分の命をかけてでも見知らぬ誰かを助けようとは思わない。
普段シンイチの身体を自分の命のために心配してくれるミギーと同じだ。
結局自分が一番可愛い。
それを真っ向から否定するつもりは、今のシンイチにはなかった。
「あ、の…お、おはよう。」
「おはよー。」
登校の集合場所。
返事をしてくれたのは、下級生だけであった。
シンイチの事を知っている上級生はまるっきり無視を決め込んでいるし、同級生は早く行きたそうな顔をしている。
嗚呼、ここもか。
そう思って、シンイチは列の一番後ろに回り込んだ。
この町でシンイチの居場所は少ない。精々図書室の隅っこの机か、家くらいなものだ。
そんな孤独な状況でよく生きてこれたな、と、若干10歳にして悟りきってしまったようなシンイチは、やはり可愛くない子供の一人でもあったのだろう。
要は、道行く保護者からもあまりいい目で見られないのだ。
シンイチのことを知るもの、シンイチのことを知らないものも、皆まるでシンイチのことを人身御供のように避けていく。
そんな光景を目の当たりにしたミギーは、別段感慨なく言った。
「実に面白い光景だな。皆、君を避けるように歩いているではないか。」
「…って、君どこから出てきてるの。」
見れば、服の襟元から口と目だけがひょこっと顔を出している。
「言っただろ、私は自身の身体を自由に変化させられると。」
「便利だなぁ…」
もうなんでもできる気がする、この生物は。
と、シンイチが思うと、気になることを尋ねた。
「面白いって?」
ミギーにはあまりこれといった感情はない。表情を変えることはまずないし、滅多に感情など見せない。
だから、別段なれたことである自分が沙汰されていることについて、ミギーが面白いと思ったのは、純粋に興味があった。
「敵が一ついる、沙汰される存在が一人いるだけでも、その集団の団結力は高くなる。
要は起こる問題の矛先を、全て君に向けることで、皆は団結するのだよ、見たまえ。」
周りを見てみる、すると、皆とても仲睦まじい。
少なくとも全くもってシンイチに向けるような空気をしていないのだ。
「これが、『無言の悪意』というものか。とね。」
シンイチは、素直に納得した。
其の頃、聖祥大附属小学校。
ガクガク…ブルブルブル…
「だ、大丈夫? なのは。」
金髪を小さくなびかせながら、目の前でブルブルと震えるなのはを見て、アリサ・バニングス。
アリサの問いに言葉ではなく頷きで返すなのは。
「ほ、本当に何があったの?」
「いや…実は…」
答えられないなのはに、隣にいる少女…フェイト・テスタロッサが答える。
昨日、犬の惨殺死体を直視してしまって、それからこの有様である…と。
「なんて事…! 犬好きとしては許せないわ…なのは、その犯人、見たの?」
すると、なのはは頭を振った。
「でも、何か知ってる子は見つけたんだ。
話を聞こうとしたら、逃げられちゃって…」
「お話って…てことは、なのはちゃん達のお仕事に関係してるの?」
月村すずかが、なのはに尋ねた。
学校ではこの2人だけが、なのはとフェイトが管理局の嘱託魔導士であるということを知っている。
「『ミンチ殺人』といい、ここ最近ホンットに物騒よねー。」
アリサはウンザリというように言った。
事に、どうも自分は随分と巻き込まれ体質なのだなぁ…と痛感する。
いや、自分が勝手に割りこんだのだが。
状況を説明すると、簡単な話、不良中学生が小学生相手にカツアゲカマしているところに、自分が割り込んだのだ。
一体何がどうなってこうなったのか自分でもわからない。ただ一つ言えることは、とんでもなく面倒なことになった
という事だ。
「ぁに邪魔してくれてんの、お前?」
ガン。
鳩尾に一発、鈍痛が走る。
「…ァっ。」
不良の一人が…これを仮に不良Aとしておこう、不良Aは、シンイチの鳩尾に蹴りを入れたのだ。
「おい、さすがに暴力はまずいだろ」
と、片割れの不良Bが言う。
「構わねーって。俺、コイツの小学校に弟いんだけどさ、コイツ、あだ名なんて呼ばれてるか知ってるか?」
と、心底バカにしたかのように、シンイチを文字通り見下しながら、シンイチの
頭を踏みつける。
額の中央に鋭い衝撃が走ったが、シンイチはただ、呻き声を上げるしかなかった。
「ダメイチ、ダメイチだぜ? 成績最下位、体育は万年ビリ。オマケに学校中から空気扱いされて、シカトされてんだぜ?
生きててもしょうがねーっての、コイツ。
だから二度とンな事できねーように痛めつけても問題ねーだろ?」
無茶苦茶だ。素直にそう思った。
とんでもない超理論でまくしたてられ、ガシガシと靴裏を擦り付けてくる。
「お、おい…」
「…」
何故、何故こうも馬鹿なのだ。
どうも向こうの小学生…同い年くらいの男子は、いいとこ育ちなのか、白い制服…あの子と同じ制服を見に纏っている。
大方このような状況など慣れていない、見ればわかる。すっかり固まってしまっているのだ。
取り敢えず今すぐこの不良二人を追い払わなくてはいけない。
でなければ、自分の命の危機を察知して、ミギーがどんなことをするのかわかったものじゃない。
最悪皆殺しだってありうるのだ、今の奴は。
では、自分にできることといえば何だ?
戦うこと? それは無理だ。 だったら何ができる? 何が…
ダメイチ、の自分が。
不良Aはイキがっていた。
誰彼構わず喧嘩をふっかけ、毎度の度に勝利を収めた。
本当のところは、その巨体で殴り倒しただけなのだが、それだけが、彼の自慢であった。
親はもう見切りをつけたのか最早何も言わない、言ってこない。
今の彼は、怖いもの知らずが具現化したようなモノだ。
この日までは。
足の下にいるダメイチが顔を上げた。
小学生風情が生意気に、自分に楯突こうというのか。
正直この少年が割り込んできたときから、最初から気に食わなかったのだ。
何をしてもダメなくせして、喧嘩もろくにした事も無いガキが、自分の邪魔をしてきた事が。
苛立った口調で、言った。
「おいテメェ、ナニ勝手に顔を上げてン…?」
何か、何か違った。
違和感を感じたのは、彼の視線が、自分を捉えたところからであった。
その日、不良Aは初めて『本能的恐怖』を覚えた。
彼の目。 無感情で無機質、ガンを飛ばしているわけでもない、睨みつけているわけでも、怒っているわけでも勿論ない。
ただ、獲物を見つけた捕食者の目。
大自然の中、人間は食物連鎖の頂点に立っている。
だが、そこにいたのは明らかに『格上』の存在。
自分を喰い殺す、その意味しか持たない恐怖だけがそこにあった。
が、不良Aの蛮勇はそれすらも上回った…いや、上回ってしまった。
「…ザケンナ。
ガキが一丁前の面しやがって…意気がってんじゃねぇッ!」
恐怖を振り切るように、不良Aはシンイチを殴りつけ、そして…
自分が、宙を舞った。
あ、アレ、ちょっと待ってシンイチくんの現状悲惨すぎやしませんか?
プチじゃなくてガチですやん…