ジョン・メイトリックスは勇者部所属   作:乾操

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(^q^)チョウテンカイ


8・嫌な考えが浮かんだ。もしこれも夢だったら……(後編)

「…………」

「おはよ~ございます~」

 目が覚めると、目の前に園子ちゃんの笑顔があった。私の身体はえらく仰々しい装置に横たえられていて、頭の上では妖しい光を放つ機械がミョンミョン音を立てている。見回すと、園子ちゃんと、もう一人白衣を着た技術者らしき人の姿も見えた。

「ここ、どこ?」

「商店街のリコール社ですよ~」

 そういえば、そんな店が商店街にあったナァ。気にはなっていたけど、同級生の友達が、

「私の従妹の友達で、リコール社に行って植物人間にされかけた奴がいるんだ。脳ミソは、いじくらないほうがいいぜぇ!」

と言っていたこともあって、行く決心がつきかねていた。そんな私が、なぜリコール社にいるのか。

「あの、私は……」

「記憶が混濁しておりますね~。犬吠埼さん、あなたは当社のお客様ですよ。素敵な夢、ご覧になれまして~?」

「は、はぁ」

 そっか、私はリコール社に来て夢を見ていたのか……まだ記憶が混濁していて、なんで来たのか思い出せないけど。まぁ、夢見最悪だから二度と来ないことにしようそうしよう。

「夢を見るのは疲れるでしょ~?」

「そうですね」

「ビールでも飲んでリラックスしな」

「あ、どうも」

 渡されたビールを口に含む。どうやら林檎サイダーのようだ。美味しい。そんな私を見ながら、園子ちゃんは笑顔を崩さず、

「今日はもうお家に帰るの?」

「はい。お姉ちゃんも待ってるでしょうから」

「そう~」

 ゆっくりと身体を起こして装置から降りる。園子ちゃんが私の身体を支えてくれて、預けていた荷物も返してくれた。

「またのご利用を~」

 園子ちゃんがニコニコ出口へ案内してくれる。今日が最後です。もう来ることは無いでしょう。

 にしても、夢と言うのはなんと摩訶不思議なものであろうか。夢を見ている時の実感は現実と寸分たがわぬものだった。柔らかな布団の感触、香ばしいトーストの香り、刺すような日差し、吹き抜ける風、弾けろ筋肉、飛び散れ汗……すべてがあまりにもリアルだった。

 昔テレビで偉い学者さんが言っていた。夢と現実の違いなんて、時間と言ういい加減な概念を除けば無いに等しいのだ、と。

「その通りだ樹」

 そう、この世は全てゆめまぼろし。今私がいるこの現実だって、もしかすると夢かもしれない。

「樹、良く分かったな」

 …………?

 私は振り向いて室内に目をやった。園子ちゃんも同様に振り向く。

 その先には、白衣を着た技術者の姿があった。園子ちゃんと同じくらいの背丈で、改めてみると白衣はぶかぶかだった。

「だが、夢は必ず醒めなければならない。だろ?」

 そう言うと、『彼女』は白衣を脱ぎ棄て、デエェェェェエンとその姿を白日(蛍光灯)の下にさらけ出した。瞬間、園子ちゃんの表情に明らかな変化が現れた。

「み、ミノさん!?」

 ミノさんと呼ばれた女の子は園子ちゃんと同じく神樹館初等科の制服を着ていた。が、お嬢様と言うよりは元気溌剌勝気な女の子と言った風だ。そんなミノさんの出現に、園子ちゃんは『ミノさん! 殺されたんじゃ?』と言わんばかりに大いに驚いている。

「この世界は樹の夢であると同時に勇者部全員の夢、そして園子自身の夢でもある。だから、それを利用したまでさ」

「えっ、ここってまだ夢の世界なんですか?」

「その通り!」

 言うや、ミノさんは自分の耳元に手を伸ばしてカチリ、とスイッチを押した。すると、ミノさんの頭はみるみるスライスされていき、中から見知った筋肉質な顔が現れた。

「た、大佐!?」

「I’m Back!」

 大佐はミノさんの身体を脱ぎ棄て(サイズが明らかにおかしいけど、夢だから問題ないのだろう)、頭を園子ちゃんに放り投げた。

「受けとれぃ!」

「わ、わ!」

 園子ちゃんは何とか頭をキャッチする。すると、ミノさんズヘッドは大きな声で一言、

「びっくりするのはこれから!」

 と叫び、突如大爆発を起こした。室内が粉塵に包まれる。

「逃げるぞ樹」

「ええっ、ちょっと大佐!」

 大佐はその煙に紛れながら私のことを脇に抱え込むとリコール社の建物を飛びだした。外は夕暮れで、買い物客がごった返している。後ろからは「ま~て~」という間抜けな声が聞こえた。大佐は道行く人を半ば突き飛ばすような勢いで駆けていく。

「大佐、逃げ出したにしても、どうするんですか?」

「勇者部の全員を見つけ出す」

「どうやってです? 匂いを嗅げとでも?」

「ああそうだ!」

 曰く、園子ちゃんの夢であるこの世界と、私達が見ている夢の世界はそれぞれ全て繋がっていて、それが映画のセットよろしく壁で区切られているのだという。

「大佐は平気なんですか?」

「鍛えてるからな」

「そうですか」

 考えてみれば、大佐は存在自体が冗談みたいな人だ。夢の支配なんて尽く跳ね返してしまうだろう。

 大佐が犬のようにクンクンと鼻を動かした。

「向うに風の夢がある」

「分かるものなんですか?」

「風の夢は常にうどんの出汁っぽい匂いがする」

「なんだそれ」

 大佐は少しキョロキョロしたあと、街角にある小さなビルにたどり着いた。なんだか湿気た雰囲気のビルで、如何にもな怪しいオーラを噴出している。

「開けるぞ」

 大佐は私を下すと、どこからともなくショットガンを抜いて、扉を押し開けた。

 扉の先は、先ほどとは打って変わって時刻は夜。月明かりの差し込む位病院だった。

「なに、ここ……」

「風の見ている『悪夢』だ」

「悪夢?」

「そうだ。お前も見ただろう」

 よく覚えていないけど、言われてみれば悪夢だった気がする。なんだか、このまま無理に思い出すと大佐を見る目が変になりそうだ。

 私と大佐は暗闇の病院を進む。窓には鉄格子がはめられていて、通路のところどころにはやはり格子がはめられている。怖いというより、妙に物々しい雰囲気だった。

「ここは、精神病院あたりだろう」

「分かるんですか?」

「適当だ。……静かにしろ……」

 大佐に言われて私は口を閉ざす。すると、遠くから足音のようなものが聞こえてきた。タッタッタッと、駆けているようだ。そして、その音が最大になった時、通路の突き当りの丁字路をお姉ちゃんが駆け抜けているのが見えた。

「風だ」

「なんかトンファー持ってませんでした?」

「追うぞ」

 私達はお姉ちゃんの後を追う。

 お姉ちゃんは息を荒げて当直室へと向かっていた。そこには、当直の医師と看護師がいて、患者への投薬について話し合っている。

「お姉ちゃん、何する気なんでしょ」

「見てれば分かる」

 碌でもないことが起きることは何となく予想付く。で、その予想は当たっていた。

 お姉ちゃんはトンファーを構え直した。そして、目にも留まらぬ速さで当直室に突入、看護師を殴り倒し、警察に通報しようとする医師の腕をそのまま叩き折った。

「腕の骨が折れた……」

「人間には215本も骨があんのよ。一本ぐらい何よ!」

 やることが派手だ。でも、いい加減止めなければならない。

「お姉ちゃん!」

 私と大佐はお姉ちゃんに駆け寄った。

「!? 樹!? なんでここに!?」

 お姉ちゃんはひどく驚いている。驚きながら、私の肩をがしりと掴んだ。

「こんな危険なところに来ちゃダメでしょ!? あなたは人類の希望なんだから」

「一体どんな設定なのか知れないけど、落ち着いて」

 私と大佐はお姉ちゃんを落ち着かせて、ここが園子ちゃんの作りだした夢だということを説明した。初めこそ信じられないという顔をしていたけど、本人にもどこか思い当たる節があるのか、納得してくれた。流石はお姉ちゃんだ。

「じゃあ、他のみんなも何かしらの夢を見ているってことなの?」

「そうだ」

「あらやだ」

「とにかく、ここを出よう」

「腕の骨が折れた……」

 お姉ちゃんの手を引いて、私達は病院から外に出た。外は相変わらず夕暮れの商店街で、買い物客が右往左往している。その光景に、お姉ちゃんは唖然としていた。当然だ。さっきまでいた病院の中は夜だったんだから。でも、このことがより一層、夢への理解を深めることにもなった。

「ところでお姉ちゃん、何で私が人類最後の希望なの?」

「……言われてみれば何でかしら」

「夢と言うのはだいたいそんなもんだ。気が付いてみると、脈絡がない……見ろ、東郷だ」

「えっ」

 大佐が指す方を見ると、なるほど確かに東郷先輩が車いすを転がしている。学校で移動する際はいつも友奈さんが押していたから、自分で転がしているのはちょっと新鮮だ。

「なんか、元気ないですね」

「話しかけてみるわ。おーい、東郷!」

 お姉ちゃんが東郷先輩に駆け寄る。私たちもその後に続いた。

 声に気付いて振り向いた先輩の顔は真っ青だった。

「どうしたの、具合でも悪いの。顔が真っ青よ?」

「友奈ちゃんが……友奈ちゃんが……」

「友奈がどうしたの? 先を言えよ」

「友奈ちゃんが……男と不倫してる」

 なんだそれ。

「友奈ちゃんが男に盗られちゃったら、私どうすればいいの」

 おろろーんと泣く東郷先輩。先輩は事故のせいで記憶が欠落しているらしく、その寂しさを友奈さんに依存することで満たしている(なんかそれ以上な気もするけど)らしい。そんな人が離れてしまうなんてことになると、耐えがたい苦しみがあるのだろう。知らないけど。

「落ち着きなさい東郷。これは夢。夢なのよ」

「ううっ……夢……?」

「そうよ東郷。夢。DREAM。分かる?」

「ぐすん……風先輩、慰めてくれるのは分かります。でも、私だって夢と現実の区別くらいつきます」

 先輩は涙を拭った。

「友奈ちゃんは気立てが良いから、いつ殿方に見初められてもおかしくなかったんです。そういうわけで、私死にます」

「オイオイオイオイちょっと待てよ待てって。そう短気起こすこともないでしょー」

 東郷先輩は懐から短刀を取り出すとそれを首に当てた。お姉ちゃんがそれを必死で止める。

「二人とも! 早く友奈を見つけて連れてきて! 大至急!」

「わ、わかった!」

 私と大佐は東郷先輩をお姉ちゃんに任せて走りだした。大佐の筋肉レーダーによれば、そう遠くない位置に友奈さんがいるという。

 しばらくとせず、友奈さんは見つかった。公園の中をふらふら徘徊しているのが私達の目に入ったのだ。見るからに面倒くさそうな夢を見ている。

「友奈さーん」

「あっ、樹ちゃんに大佐……」

 友奈さんの顔はさっきの東郷先輩同様真っ青だった。

「どうしたんですか。具合でも悪いんですか?」

「東郷さんが……東郷さんが……」

「東郷先輩が何です?」

「東郷さんが……私の事きらいだって……」

 友奈さんはがっくりと肩を落としている。

「私、何か怒らせるような事しちゃったかなぁ。ぼた餅せがみまくったせいかなぁ」

 それに関しては、東郷先輩は頼まれなくても作って来ると思う。それにしても、夢の中とは言え、ここまで消沈する友奈さんは始めて見た。貴重だ。

「東郷先輩が友奈さんの事を嫌いになるわけ、無いじゃないですか?」

「うう……」

「これは夢、夢なんですよ」

「……夢?」

 友奈さんは半信半疑といった様子で私の顔を見かえす。

「そうですよ。東郷先輩は、友奈さんの事が大好きなんです。今も変わらず」

「ホント?」

「ホントですよ。今から会いに行きましょう」

 私がそう言うと大佐は友奈さんを持ち上げると脇に抱えた。さっき私も抱えられたけど、良く考えたらとんでもない事だよねこれ。

 友奈さんを確保した私達は急いで元来た道を戻る。東郷先輩はお姉ちゃんの努力のおかげもあって、まだ無事だった。

「東郷さん!」

「友奈ちゃん!?」

 大佐の手を離れた友奈さんはバランスを崩しながら駆け出して、東郷先輩に抱き付いて、二人でオンオン泣き始めた。

 それを見ながらお姉ちゃんも目元に涙を浮かべて、

「樹……友情って素晴らしいわね。泣けるでしょ?」

「いや、展開が早すぎて私ついてけない。……ところで、夏凜さんは?」

「ああ、夏凜ならあそこにいるわよ」

 お姉ちゃんの指す方を見やると、ベンチに座る夏凜さんの姿があった。東郷先輩を制止する最中、偶然通りかかったのを保護したらしい。それにしても、何故顔が真っ赤なんだろう。

「夏凜さんはどんな夢見てたの?」

「本人に訊いてみれば?」

 お姉ちゃんがニヤニヤしながら言う。不思議に思いながら、夏凜さんに訊いてみた。

「どんな夢を見たんですか?」

「…………よ」

「え? なんて言ったんですか?」

 顔を伏せるようにボソボソと呟く。何を言っているのか聞こえない。聞き返すと、今度は勢いよく真っ赤な顔を上げて、

「みんながいなくなる夢よ! 悪い!?」

「いや、別に悪くないですけど。ウフ」

「その笑いは何なのよ」

「何でもないですよ」

 夏凜さんは拗ねてそっぽを向いてしまった。ほんと、この先輩可愛い。

 とにかく、勇者部一同は全員集合を果たした。あとは、この夢から脱出するだけだ。しかし、肝心の方法がわからない。

「俺に良い考えがある」

 そんな中、大佐が自信ありげに言い放った。

「ジョン、何か策はあるの?」

「これだ」

 そう言うと大佐はライフルをガチャコンと構える。うん、知ってた。でも、今ここでぶっ放したところで夢から覚めるわけでもないだろう。

「どうすんのよ」

「こうするんだ」

 言うや、大佐は天に向けてライフルを一発放った。すると、上空でビシッという音が聞こえたかと思うと、男の人が悲鳴を上げながら落ちてきた。ビタン! と漫画のような音を立てて地面に叩きつけられたそのスーツ姿の人は、見覚えのある人だった。前の話で、私の頭に激突したサリーとか言う男だ。

「おいサリー」

 大佐が地面にうずくまるサリーさんの胸ぐらを掴み上げる。

「あの、大佐、この人、誰なんです?」

「園子の精霊の一人だ。さっきから俺達の上を飛んでいた」

「え゛っ」

 精霊って、可愛くてふわふわしてるものなんじゃないの……!?

 私達の驚きを他所に、大佐は問い詰める。

「夢から覚める方法を教えろ。そうすれば殺すのは最後にしてやる」

「誰が言うかよ、くたばれ……」

「見上げた忠誠心だサリー。だがな! てめぇの命を張るほど値打ちのある相手か? さぁ頭を冷やしてよく考えてみろ」

 すると、周りの景色が一転、賑やかな夕暮れの商店街から、寂しい夜の崖へと変化した。遠くに私達の暮らす街の灯が見える。大佐はサリーさんを逆さ吊りにすると(左手一本で支えている。凄い)、崖から突き出した。

「支えてんのは左手だ 利き腕じゃないんだぜ。さぁ、言うんだ」

「知らねぇよぉ……園子が、園子が知ってる……」

「そうか」

 サリーさんから脂汗がにじみ出ている。そんな彼に大佐は冷酷に言い放った。

「お前は最後に殺すと約束したな」

「そうだ大佐、助け——」

「——あれは嘘だ」

 大佐は無慈悲に手を放した。サリーさんは登場時と同じような悲鳴を上げて奈落の底へと墜落していった。

 急展開の連続に私達はついて行くのがやっとだ。

「さっきの男、ジョンの知り合いなの?」

「自分でも良く分からんが、精霊についてちょっとわかるのだ」

「ふうん」

 まぁ大佐は私達の知らない交友関係をいくつも持っていそうだし、今更驚くこともない。個人の交友より、今は夢からの脱出だ。

「この先何があるか分からん。みんな武器を持て」

 そう言うと大佐はどこからともなく様々な銃器を取り出して私達に手渡した。

勇者(コマンドー)に変身して戦えばいいんじゃないですか?」

「東郷の言うことももっともだが、ここは園子の精霊が作りだしている世界だ」

 精霊を介して神樹様の力を得る勇者(コマンドー)の力は、この世界では信用できないという事らしい。でも、それなら大佐の銃も不味いのではないだろうか。

「俺の物は大丈夫だ。筋肉の加護がある」

「それなら安心です」

「ホンット筋肉って便利ですねー」

 友奈さんがロケットランチャーの説明書を読みながら言う。全くその通りだ。いつも徒手空手で戦っている人が持っていると違和感が尋常じゃない。対して東郷先輩は狙撃銃を持っていても何の違和感もないのはさすがと言ったところだ。

 お姉ちゃんと夏凜さんもそれぞれライフルやらマシンガンやらを持っている。私も小さなマシンガンを持たされた。

「これは、勇者っていうか、ちょっとした軍隊ね」

 お姉ちゃんが呆れ顔で言う。これぞまさしく『勇者(コマンドー)』。

「園子は恐らく商店街のリコール社にいる。あそこがこの夢の中心地点なのだろう」

「殴り込みってことね。いいじゃない。やってやろうじゃないの!」

 夏凜さんがアラブる。それに友奈さんが、

「そんな物騒なのじゃなくて、一緒にうどん食べながら話そうよ」

「ロケットランチャー装備してるアンタが言っても説得力ないわよ」

「えへへ」

「言ってる場合じゃないぞ。あそこに偶然にも位置エネルギー車がある。あれで商店街まで行こう」

「夢って便利ね」

 私達は近くに偶然停めてあった位置エネルギー車に乗りこみ、大佐の運転で商店街へ向けて発進した。

 夢からの脱出をかけた戦いが、始まろうとしている。




夢は馬鹿に出来ませんよ。以前背中を刺される夢を見て、その痛みで起きたことありますから。夢で刺されたところを撫でながら「あれは夢だから、ホントに刺されたわけじゃないから・・・」と呟いてました。

あと、次回がたぶん最終回です。

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