気休めで始めた筈なのに、意欲が止まらないのは何故でしょうか?
主人公が鎧を召喚時のイメージBGMは一応炎の刻印で流れた『レオン・ガロ召喚』ですが、お好みに合わせてBGMを想像してみてください。
目の前で、壮年の男性と少年が話している。
白いコートを羽織った彼は、少年の前に膝をつき優しそうな眼差しで少年を見ていた。
『光牙、お前はどんな大人になりたい?』
『おとうさんみたいに、つよくてかっこよくなりたい!』
男性の問いに少年が笑顔で答えると、小さく笑った男性は、少年の小さな体を抱き寄せる。
『だが…ただ強いだけじゃ駄目だ。力だけを求めればいずれは闇に堕ちる…優しく、守りし者となれ』
優しく紡がれた言葉は、少年の耳に入った。
まだ6歳の…当時の俺には、その意味は分からなかった。
だが…その言葉は深く、今もこの胸に刻まれ続けている。
「…ぁ」
混濁していた意識が復活し、視界が広がっていく。
仰向けになっていた身体を起こし、気怠気に首を振って周囲を確認すると、修練場に灯る僅かな明かりを頼りに本を読んでいた青年と目が合った。
「目が覚めたか?」
「えぇ…おはようございます、
本を閉じた青年に俺…
世界には、誰も知らない闇が広がっている。
遥か古の時代から続く、人を喰らう魔獣と人間の戦いが。
ホラー、と呼ばれる奴らは人間の邪心から生まれる闇…
そして…ホラーは人間に憑依して、肉体と魂を喰らう。
奴らを倒せるのは、ソウルメタルと呼ばれる金属で作られた武器を操る魔戒騎士か、魔界の力を用ることが出来る魔戒法師だけだ。
俺の父、暁壮介は
だが…そんな父は俺が幼い頃、法師だった母と共に、ホラーとの戦いで命を落とした。
両親以外に身内の居なかった俺は、父の盟友である風間悠斗さんに育てられ、騎士としての修行を受ける事となった。
修行を受け続け8年、ソウルメタルで作られた剣を用いての訓練に入ってからというもの、師匠の修行は厳しさを増していった。
「でやぁぁ!」
大上段から勢い良く刃を振り下ろすが、師匠は苦もなく躱した後に鳩尾への正拳から袈裟切り、返す刃で切り払いを繰り出してくる。
「目の前の動きだけに集中するな!次の動きを予測して攻撃に活かせ!」
「っ、はい!」
師匠の攻撃を必死に受けながら、指示された通りに次の動きを予想しながら再び攻撃を繰り出す。
だが、年期の違いだろう。
騎士の卵である俺の攻撃など一撃も掠る事無く、師匠の蹴りをまともに腹に喰らった俺は地面に倒れ臥した。
「っ、はぁ…」
「此処までだな。俺は
「、はい…」
息を切らしたまま地面に倒れる俺を一瞥し、踵を返す師匠を見送った後…俺は至らなさから、目元を腕で覆った。
-yu-to SIDE-
西の管轄、と呼ばれる俺が属する場所にある、魔戒騎士を束ねる場所…番犬所。
もの静かで、何処か神聖な気配の漂う其処に俺…風間悠斗は居た。
俺達魔戒騎士が扱う剣…魔戒剣はホラーの陰我を断ち切る事が出来るが、その返り血や邪気で刃が穢れてしまう。
そのため、俺達は定期的に番犬所を訪れては剣の浄化を行わなくてはならない。
「風間悠斗」
狼を模したオブジェの口へ刃を突き入れ浄化を終え、鞘へと戻しているとふと声を掛けられた。
視線を向けた先に居たのは、白いローブを纏った妙齢の美女。
この西の管轄を治める神官だ。
「黄金騎士の血を継ぐ者の様子は、どうですか?」
神官の言葉に、俺の脳裏に盟友の息子であり、弟子である少年の姿が過った。
修行を始めた当初は心配しか無かったが、現在は拙さや粗は目立つものの、着実に力を…いや。
「今現在の力でも、牙狼の鎧を受け継ぐに値する実力は有しています」
「では、近いうちに彼を英霊の塔へ「しかし」…なんです?」
俺の言葉に神官が継承の儀を行う手筈を始めようとするが、俺は其の言葉を遮った。
「今の光牙では…
-kouga SIDE-
「はぁ…」
師匠と別れ、幾分か疲労が取れた俺は、郊外の森を抜けた先にある場所へ来ていた。
其処には、一枚岩の社に一振りの剣が祀られている。
鍔に三角形の紋章が刻まれたそれは神々しくあり、同時に見る者へ畏れを感じさせる佇まいをしている。
その剣こそ、魔戒騎士の最高峰である黄金騎士牙狼の称号を継ぐ者にのみ、手にする事を許された剣…『牙狼剣』だ。
騎士としての修行を始めてからというもの、俺は迷いが生まれた時は此処を訪れている。
「父さん…」
目の前に祀られた黄金の剣を見て、小さく声を洩らす。
『また此処に来たのか?小僧』
誰一人返事を返す者の居ない筈の建物に、俺以外の声が響き渡った。
下ろしていた左手を胸元へ翳すと、中指に填められていた髑髏を模した指輪が、カチカチと顎を鳴らして喋っている。
「小僧はよしてくれ、もう14だぜ?」
『俺様からすれば、お前は何時まで経っても小僧のままだ』
苦笑する俺の言葉に皮肉を交えて返事を返すこの指輪は魔導輪ザルバ。
黄金騎士が代々受け継いできた魔導具であり、人間との共存を望み、指輪に封印されたホラーだ。
幼い頃に父さんが填めていたのをぼんやりと覚えていたが、ハッキリとみたのは死後、師匠との修行を始めてからだった。
『お前さんは迷いや悩みが在ると、何時も此処に来るな』
「まぁな…。ザルバ、俺に…本当に牙狼の称号を継げると思うか?」
ザルバの言葉に曖昧な返事を返すと…俺は、胸に抱えていた思いを吐き出し始めた。
「師匠に教えを請い、修行を始めて8年…俺は、強くなっている自覚がないんだ」
『…正直に答えるが、お前さんは既に鎧を継ぐのに足る実力は得ている』
俺の言葉に少し考えた後、ザルバが返答するのを聞くと…俺は、牙狼剣の束を握り、力を込めて引いた。
だが、その刃は1ミリすら動く事無く其処に在り続けた。
まるで…今の俺では、自分を抜くに値しない。と言っているように。
『小僧。今のお前さんには、牙狼剣を抜くのに最も足りないものがある』
「…魔戒騎士として、守りし者とは何か、か…」
束から手を離し、床に腰を降ろした俺へ、ザルバはヒントをくれた。
魔戒騎士とは守りし者。
それが分からないまま、ただ力を求めるだけでは闇に堕ち、暗黒騎士となる。
師匠から修行の時に何度も聞かされた言葉だ。
『その答えが見つかれば、牙狼剣はお前さんを認める。今はただ鍛え、悩むことだ』
「…そう、だな」
小さく溜息を吐きながら立ち上がった俺は、牙狼剣に一礼すると丘を後にした。
英霊の丘を降り、森を抜けようとした頃。
空は茜色に染まり、日が沈もうとしていた。
「ヤバいな…」
刻一刻と夜に近づくのを感じつつ、小さく舌打ちをしながら歩むスピードを早めていく。
『ホラーが動き出すまでに帰るぞ』
ザルバの言葉は、俺の焦りを如実に現していた。
いくら師匠に騎士としての修行をつけてもらい、ソウルメタルの剣を支給されたからと言って、俺は所詮魔戒騎士の卵だ。
素体ホラーならばなんとかなるかも知れないが、既に憑依したホラーを相手にするには実力が全然足りない。
立ち向かおうなど、それこそ無謀と言ったところだ。
歩き続け、ちょうど半ばに差し掛かった頃だ。
ガサッ
「!」
近くの茂みが大きく揺らいだのに対して、俺は反射的に剣を抜いた。
ホラーか、あるいは野生の獣か…。
いずれにせよ、最低限身を守る事だけはしなければならないと腹を括った。
括ったのだが…。
「女の子…?」
茂みをかき分けて現れたのは…俺と同い年くらいの女の子だった。
腰まで伸ばした艶やかな黒髪に、烏羽色の着物を着崩したその姿は露出度が些か高く、同年代の女の子よりも明らかに成長している身体は目のやり場に困る姿であった。
だが…その身体には、大小さまざまな傷が刻まれていた。
それも…戦いによる傷が。
「ザルバ、彼女は…」
『ホラーではない。だが…人間とも違う気配を感じる』
警戒したまま、俺はザルバに小声で確認をとった。
魔導火の扱い方を教わっていない俺には、ホラーの気配を感じ取る事が出来るザルバの存在が頼みの綱だからだ。
どうやら、目の前に居る彼女はホラーではないらしい。
だが、気になるのは続けてザルバが言った一言だ。
人間とも違う気配…つまり、この子が人間じゃないと言いたいのか?
(まさか…)
小さく頭を振った俺は、改めて彼女の姿を見た。
『見つけたか?』
『探せ、必ず近くに居る筈だ!』
そう遠くない茂みの向こうから聞こえる男達の声。
彼らの声は何処か殺気立っており、誰かを探しているようだった。
傷だらけの少女に、殺気立つ男達。
彼女が追われ、狙われている事など容易に想像出来た。
「とりあえず…何処かに身を隠さなきゃな」
小さく、彼らに気付かれないように呟くと俺は、少女を抱えて森の中へと消えていった。
-devil SIDE-
「くそ…何処に行きやがった」
暗くなった森の中、俺は舌打ちをしながら辺りを見回す。
こんな辺鄙な所に来たのも、全ては仕事だった。
SS級はぐれ悪魔、黒歌。
嘗ての主を殺し逃亡したそいつを捕まえる事が、俺達に与えられた任務だった。
俺達に依頼してきた女王が言うには、捕えた後は好きにしろと魅力的な事を言ってきやがった。
たっぷり愉しませて貰った後に引き渡すつもりだったのだが、ヤツは思ったよりも抵抗してきた。
任務に就いたのは俺を入れて6人の悪魔が追っていたが、ヤツに殺され4人に減ってしまった。
(絶対に見つけてやる…そして、此処まで手子摺らせたんだ。楽に終わらせねぇ)
生きていれば良いと言っていたし、腕や足を切り落とした後に輪姦でもしてやろう。
そう思って醜く笑っている時だった。
『
「っ、誰だ!」
何処からともなく聞こえてきた声に、俺は警戒して周囲を見た。
闇の底から響くような声は、暗い森全体から響き渡る。
『
その言葉と共に地面から黒い手が現れ、俺の足を掴んできた。
「な…っ!?」
地面に伸びる俺の影から、ソイツは現れた。
黒い爬虫類を思わせる外皮に歪んだ角の生えた骸骨のような貌。
短い翼を生やすその姿は俺達とは違う…聖書に記された悪魔の姿に酷似している。
「キシャァァァ!」
「っ、う…あぁぁぁぁあ!」
白く濁った目をしたソイツは、俺に向かって吠え…その身体を闇へと変える。
その闇が俺の中に入ってくるのを最後に…俺の意識は途絶えた。
-kouga SIDE-
目の前で気を失った少女を抱え、男達から離れた森の中に身を潜めた俺は、追っ手が来ていない事を確認して溜息を吐いた。
『自分から面倒事に首を突っ込んで、どうするつもりだ?』
「分かってるけどさ…女の子が追われてるのに放っておけないだろ」
目の前に横たわった少女を眺めながら、悪態をついてくるザルバに小さく呟く。
あのまま放っておいて、もし見つかっていたらどうなっていたか…。
最悪、死は免れても心に深い傷が残る事をされる筈だ。
「ん、っ…」
小さく唸るような声と共に、彼女はゆっくりと身体を起こした。
「目が覚めたか」
「っ!あなた、誰?」
起きるや否や、俺を見て警戒するような声を発するものの、彼女は身体の傷の痛みから顔を顰めた。
「俺は暁光牙だ。君は?」
「…
俺の声に対して彼女…黒歌は此方を警戒しながらも、小さく自分の名前を呟いた。
「黒歌か…。男達に追われていたみたいだけど、何かあったのか?」
「…あなたは、アイツらの味方じゃないの?」
「顔を見た事も無い奴らの仲間になった覚えは無いし、仮に仲間だったらこうして身を隠す必要があるか?」
未だに警戒したままの黒歌の言葉に肩を竦めながら答えると、彼女は一応信じた様子で溜息を吐いた。
「…それで、自分に関係ない私を助けたって…馬鹿じゃないの?」
「…仕方ないだろ、放っておけなかったんだから」
此方を軽く睨みながら呟いてくる黒歌の視線に耐えられず、視線をそらしながら言葉を洩らすと、観念したように黒歌は自分の身の上について少しだけ、教えてくれた。
自分と小さい妹の二人で生きてきた事。
妹の身の安全の為、自分を勧誘してきた男についた事。
其処で問題があり、妹と逃げ…そして、離ればなれになってしまった事。
どこか、悲しそうな目をして話す黒歌を見て、俺は何故首を突っ込んでしまったかを理解した。
俺は、無意識に黒歌から似たものを感じ取っていたんだろう。
だから…誰かも知らない黒歌を助け、こうしている。
「…そうか」
話を聞き終えた俺は、小さく呟く。
「えぇ、妹を…
俺の呟きにもう話す事は無い、と言わんばかりに黒歌は立ち上がろうとする。
そんな時だった。
『まずいぞ小僧、ホラーの気配だ』
「なんだって…?!」
今まで黙っていたザルバが、切羽詰まったように俺に声を掛けてきた。
「見つけたぞ、黒歌…」
続いて聞こえてきたのは、さっき…黒歌と身を隠す前に聞こえた男の声。
振り返った先に居たのは、一人の男。
170cm後半ほどの身長に黒い短髪を逆立てた、ガタイの良い男。
だが…その姿から感じる気配は、異質なものだった。
今まで見てきた人間とは違う異様な不気味さ。
それが、全身から滲み出ている。
間違いない…ザルバが言っていたホラーって言うのは、コイツだろう。
「…逃げろ」
震える身体を抑え剣を抜くと、黒歌と男の間に立って背後の黒歌に声を掛ける。
「何言ってるの…その男はあなたじゃ」
「早くしろ!妹を探して、また一緒に暮らすんだろう!?」
黒歌が何かを言っているが、それを遮り大声で叫ぶ。
その剣幕に圧されたのだろうか…黒歌は「…ごめん」と呟くと、脇目もふらずに背中を向けて駆けていった。
分かってるんだよ、俺じゃ歯が立たないだろう事くらい。
でも…あんな話を聞いて、死なせる訳にいかないだろ。
『小僧…お前』
「悪いな、ザルバ…俺のわがままに、付き合ってくれ」
呆れたような…それでも、何か嬉しそうな感情の籠ったザルバの声にやせ我慢した笑いを浮かべると、俺は男…いや、ホラーに切り掛かっていった。
-kuroka SIDE-
森の中を、傷だらけの身体に鞭を打って駆ける。
脇目もふらず、ただ出口に向かって。
全ては、妹…白音とまた一緒に暮らせる未来の為に。
でも…私の足は、次第に遅くなっていた。
頭を過るのは、自分に背中を見せて剣を構えた男の子。
怖くて震える身体を抑えて、無謀にも立ち向かおうとする彼の姿。
「っ…」
視線を、自分が走ってきた方向へと向ける。
既に遠くなったけど、彼が戦っているであろう音は、私の耳に届いている。
森の先から聞こえる音へ足を向けたら…きっと、私はもう二度と白音に会えない。
そんな予感を感じながらも…私の足は、無意識に再び森へと進んでいった。
-kouga SIDE-
「っがぁ…!」
黒歌を逃がした後、俺は男に憑依したホラーに向かっていた。
剣を振るえば避けられ、拳や蹴りを繰り出せば受け止められ、殴られる。
地面に倒れる度に身体を起こして、再び切り掛かる。
そんなやり取りを、何度も何度も続けていた。
気がつけば、俺たちは森を抜け…一枚岩の所まで来ていた。
「おいおい…分かっているだろ?お前じゃ俺には勝てないって」
「っ…」
呆れたような嘲笑を浮かべながらホラーは地面に倒れた俺の頭を踏みにじる。
力を入れて起き上がろうにも、身体はボロボロで立ち上がる事もままならない。
「卵とはいえ魔戒騎士か…そういえば、魔戒騎士は喰った事がなかったな」
そう言うと男は頭から足を降ろし…俺の目の前にしゃがみ込んで髪を掴み上げた。
「試しに、此処でお前を喰うのも良いな。その後に、黒歌で愉しんで喰うとするか」
「待ちなさい…!」
俺を見下しながら舌舐めずりするホラーの言葉に、待ったをかける声が聞こえた。
ホラーが振り返った先…そこには、逃げた筈の黒歌が、傷を庇いながら此方を睨んでいる。
「へぇ、わざわざ喰われに戻ってきたんだ」
「黒歌…なんで」
「あなたの狙いは私の筈よ…彼には、これ以上手出ししないで」
気丈に振る舞う黒歌の言葉にホラーは立ち上がり、腕を組んで悩むような仕草を見せる。
「そうだな…元々はお前が狙いだったんだよ。でもなぁ…そいつも喰ってみたいし…そうだ!」
わざとらしく、大げさに悩みながら黒歌に歩み寄ったホラーは、彼女の腕を掴み俺の目の前へと投げ出した。
いきなりの行動だったからか、受け身もとれず地面に倒れる黒歌を見て笑うと男は口にしてきた。
「ソイツの目の前でお前を犯して喰った後で、ソイツを喰う。そうすりゃ良いんだ!」
ホラー言葉に、俺達は目を見開いた。
それを見て下卑た笑みを深めながら、ホラーは一歩一歩と黒歌に近づいていく。
今まで気丈に振る舞っていた表情が恐怖へと変わる黒歌を見て、俺は歯嚙みした。
同時に思い出されるのは、黒歌が悲痛な面持ちで言っていた言葉。
『
(クソ、何が魔戒騎士になるだ…!目の前で、彼女が喰われそうになっているのに…俺には何も出来ないのか!?)
血が滲むほど拳を握り、悔しさで目を瞑った時。
『諦めるな、光牙!』
昔聞いた、懐かしい声と共に全ての時が止まった。
再び目を開けると、俺は知らない場所に立っていた。
辺り一面が白い空間に包まれて、そこら中に魔導文字が飛び交っている。
「…此処は」
『お前の心の中の魔界だ』
小さく呟く俺の後ろから、再び響いた懐かしい声。
後ろを振り返ると…其処には死んだ筈の父、暁壮介が立っていた。
「父さん…?」
『大きくなったな…光牙』
俺を見た父さんは、昔見せた優しい笑顔を浮かべたのもつかの間、厳しい目で俺を見てきた。
『光牙、魔戒騎士となる道を選んだなら決して諦めるな』
「…でも、俺には何も出来なかった。アイツには剣が通じなかったし、黒歌も…」
俺の言葉を聞くと、父さんは俺へと歩み寄ってくる。
そして…俺の頬を強く叩いた。
『お前は、守りし者とは何か分かるか』
「…」
『守りし者とは、魔戒騎士をさす言葉ではない。大切な誰かであり、その者の為に戦う者の事だ』
父さんの言葉を聞き…改めて黒歌の事を思い出す。
彼女は…妹の為に戦い、生きようとしている。
それこそ、守り者と呼べるあり方だろう。
そんな彼女が、このままホラーに喰われれば…?
きっと、彼女の妹を初めとした、彼女に関わった人たちが悲しむ未来が待っている。
『お前はこのままで良いのか?』
「いいわけ…ないだろう…!」
父さんの問いかけに、俺は改めて拳を握りしめる。
だが、それは悔しさからではない。
彼女と、関わった人たちの笑顔を奪おうとするホラーへの怒り、そして諦めようとしていた俺自身への怒りからだ。
『ならば、剣を取れ。守りし者として戦え!』
俺の言葉を、表情を見届けた父さんは、手に持っていた赤い鞘の剣を差し出してきた。
『今こそ、お前が牙狼となり人々を守れ!』
「…はい!」
父さんの言葉に強く頷き、赤い鞘を掴む…その瞬間、俺の意識は光に包まれた。
意識が覚醒すると、俺は再び森の中に居た。
目の前には恐怖に怯える黒歌と、狂笑を浮かべ近づいていくホラーの姿。
もう、さっきまでのような悲壮感は感じない。
それどころか…身体から、力が漲っているのを感じる。
「待て…」
ゆっくり…だが、力強く立ち上がりながら、俺はホラーを睨みつける。
「…何だ?俺を先に喰えとかくだらねぇ台詞は聞きたくねぇぞ」
「…いや、そう言うつもりは無いし、お前がその言葉を聞く事は二度と来ない」
愉しみを邪魔された怒りからか苛立つのを隠そうともしないホラーを見据えたまま、俺は背後に突き刺さった牙狼剣の束を力強く掴む。
今までだったら、この剣を抜こうとすると、何処か弾かれるような感覚を得ていた。
だが、今は違う。
掴んだ剣の束は俺の手に深く馴染み…身体の中に暖かく、強い思いが流れ込んでくる。
その時、俺は確信した。
牙狼剣は、遂に俺を牙狼を継ぐ者として…守りし者として、認めてくれたのだと。
「お前は…今此処で、俺が倒す!」
剣を掴む手に力を込め、強く引く。
重く、縫い付けられたように動かなかった剣は勢いよく岩から抜け、その勢いのまま俺は天に牙狼剣を力強く掲げると、頭上に円を描いた。
腕の動きに合わせて虚空に切れ目が走り、円の中心が割れ、光が俺を照らす。
そして…鋼が降り注ぎ、身体に纏われる音とともに、俺は金色の光に包まれた。
-kuroka SIDE-
「お前は…今此処で、俺が倒す!」
絶望の中に聞こえた彼の声は、とても力強かった。
後ろを振り返ると、ボロボロだったのが嘘のように立ち上がった彼…光牙が剣を抜き、頭上へ円を描く姿。
直後、彼を眩い光が包み込んだ。
その光の強さに私と、後ろに居る…私を犯そうとしていた男は思わず目を覆う。
光、というのは私たち悪魔にとっては毒だ。
ましてや、其れを間近で受ければ軽症では済まないだろう。
なのに…その光は私の身体を蝕むどころか、暖かく照らした。
次第に光が収まっていった後…私の視線の先に立っているのは、一人の騎士だった。
太陽の様に輝く黄金の鎧。
牙を剥き、鋭く敵を睨みつける翠色の瞳をした狼の貌。
抜き身だった剣は鎧と同じ黄金の鞘に納められ、その両足は力強く大地を踏みしめる。
彼は、ただ立っているだけというのに…恐怖と絶望に囚われていた私の心に安心感と希望を与えてくれた。
「馬鹿な…黄金、騎士…牙狼だと?!」
背後の男が、信じられないと言わんばかりに言葉を発する。
牙狼…それが何を意味するか分からないけれど…ただ、言える事は。
あれほどまでに狂ったような笑みを浮かべていた男が、恐怖に怯えているという事。
『……』
彼が一歩、また一歩と此方に近づいてくる度、ガシャン、ガシャンと重たい鋼音が鳴り響く。
そして…。
『…はぁっ!』
一蹴り。
たった一度の前方への跳躍で私と男の間へ間合いを詰めた彼は、剣を握る手で男の胸元へ拳をめり込ませた。
「っぐぉ…!」
ズン、と重い音を響かせた一撃に苦悶の声を洩らし、後ろへと後ずさる。
あまりの光景に傷の痛みも忘れていた私に、声がかけられた。
『…黒歌』
「!」
鎧越しのくぐもった声に、私は驚きながら彼を見上げる。
『…君は、俺が守る』
微かに此方を見てそう呟いた彼は、鞘から剣を抜き、ゆっくりと構える。
その姿は、まるで御伽話に出てくる騎士のようであり…私の胸は、無意識に高鳴っていた。
-kouga SIDE-
牙狼の鎧を纏った俺は、胸元に掲げた左腕に添えるように牙狼剣を構える。
「ッ、ヌオアァァァァァァァ!」
胸を押さえ苦しんでいた男の姿が咆哮とともに内側から弾け飛び、ホラーとしての本性を露にする。
猪と河馬、鰐を掛け合わせたような醜い姿を現したホラーは、獰猛なうなり声をあげて俺に牙を剥く。
その姿を見て、俺は静かに吠える。
『己の欲望の侭に辱め、未来を奪おうとする貴様の陰我…俺が断ち切る!』
『
大顎を開き牙をむき出しにしたホラーが飛びかかる。
だが、其れよりも速く一歩を踏み出した俺は、ヤツの胸元へ潜り込むと同時にその胴体へ刃を押し当て
そして…。
斬っ!
素早く、右薙ぎにホラーの身体を斬り裂く。
『ッ、ギィ…!』
深く、内蔵を斬り裂かれ致命傷を負ったホラーは、俺の身体に食らいつこうとするも断末魔と共に爆散した。
『…』
牙狼剣に斬り裂いたホラーの邪気が封印されるのを確認し、鎧を解除した俺は振り返り、黒歌を見る。
互いに見つめ合う俺達。
だが…その時はまだ知る由もなかった。
この出会いが…後に、永い付き合いとなり、互いが相棒になる事を。
男は知る。この世に潜む知らない闇を。
女は知る。己の知らない深淵の闇を。
互いの世界を知った時、どんな道を選ぶのか。
次回『相棒』
おいおい、お前のパートナーは俺様じゃないのか?
ホラーファイル No.01
エゴル
黒歌を追っていた悪魔の男が持っていた嗜虐心と色欲に惹かれ憑依したホラー。
猪と河馬、鰐を掛け合わせたような肥満体に近い鱗を持った醜い身体をしており、両肩から大小併せ5本ずつ角を生やしている。
巨体による腕力と大顎による噛み付き、肩の角を用いた突進を武器とするが活躍することなく牙狼の鎧を纏った光牙に討滅される。