ハイスクールD×G~金色の伝説~   作:ジャッキー007

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ども、作者のジャッキーです。
なんか前回よりもグダっている気がしますが...どうぞ、お楽しみください


相棒

人気のない深夜の公園。

其処に、二人の男が居た。

一人は息も荒く、気が動転しているような表情でもう一人の男を見ている。

もう一人は地面に仰向けに倒れ、力なく空を見上げている。

そして…倒れている男の腹部には、一本のナイフが突き刺さっていた。

「はぁ、はぁ、はぁ…」

男は、肩で荒い呼吸を繰り返しながら倒れ臥し、事切れたもう一人を見ていた。

こんな筈じゃなかった。

殺すつもりは無かった。

ただ、男が持っていた金の入った鞄が欲しくて襲っただけだったのに…。

 

男の頭の中に、これまでの出来事がフラッシュバックする。

男は、事切れた男の元で勤めていた。

普通に働き、普通の生活を送っていた。

だが…、男は金に困っていた。

男は生来のギャンブル好きだったのだ。

給料が入れば、大半が賭け事に消えていく。

そうしていくうちに借金がかさみ、生活に支障が出る程の額を背負っていた。

そんな時だった。

社長がある日、売上金を回収して帰っているのを偶然目撃した。

その金に、目がくらみ…魔が差してしまったのだ。

 

鉢合わせになれば面倒になる…狙うならば深夜、社長が帰っているとき。

そう思い、男は毎日社長の帰宅時を観察し続けた。

そうしているうちに、この公園を近道として通る事をしったのだ。

決行当日。社長は何時もの様に会社の金庫から売上金を取り出して鞄に入れた後、会社を後にした。

背後から忍び寄り、鞄を奪って立ち去るだけ。

簡単な筈だった。

だが…予想外に、社長は鞄を奪おうとした男に抵抗してきた。

初老の何処にこんな力があるのか、と言わんばかりに鞄を掴み、奪われまいと男を睨む。

その末…業を煮やした男は、持っていたナイフで社長を刺し殺した。

 

「アンタが悪いんだ…アンタが抵抗なんかするから…」

取っ組み合いの末に開いた鞄から撒き散らされた紙幣を掻き集めながら、男は正気を失ったように呟く。

その時、ふと…社長に突き刺さったナイフを見て男は気付いた。

自分は、手袋をしていなかった。

このまま証拠が残れば、男は間違いなく警察に追いつめられ、後の障害を刑務所で暮らさねばならない。

男は慌てて社長の腹部からナイフを引き抜く。

刃を通して伝わる柔らかい、肉を切るような感触と指先に付着した血液に吐き気を催すも、其れをなんとか堪えて男は公園から去ろうとした時だった。

サエザボチリオサ(金が欲しいのか)?』

自分と社長の死体以外誰も居ない公園に、声が響いた。

ロナレイコニヨラカレケワモル(お前に富を与えてやろう)トオカネオキサマノ(その為の力も)

辺りを見回しても誰も居ない。それなのに声は、闇の中から…否。

男が手にしたナイフの影(・・・・・・・・・・・)から聞こえた。

低く、不気味に響く声は、男の頭の中に麻薬の様に甘く浸透する。

「…あぁ、くれよ」

男は呆然としながらも、小さく呟く。

「俺は金が欲しい…その為だったら何だってやってやる!だから、その為の力を俺によこせぇ!」

その声は次第に大きくなり、叫びとなった瞬間。

人と闇を繋ぐ門は開いた。

男が手にしたナイフの影から、不釣り合いな人間に似た腕が生える。

其れは這い出る様に全身を露にしていき、遂に男の前に姿を現した。

「キシャァァッ!」

(いびつ)に歪んだ角の生えた骸に似た貌。

黒く爬虫類に似た、粘液を帯びた腐臭を漂わせる身体。

翼と鋭い尻尾を生やしたそれ…素体ホラーは男に襲いかかると同時にその身体を闇に変え、体内へと潜り込んでいく。

それを男は叫びもせず…むしろ歓喜するかのように受け入れた。

 

公園には、さっきまで居たホラーの姿はない。

それどころか、男に殺され地面に倒れていた社長の死体すらなかった。

其処に居るのは、一人の男だけだ。

だが…その姿は当初着ていた見窄らしいトレーナーではなく、ビジネススーツに包まれている。

そして…。

男は、瞳を白く濁らせたまま、ニタァ…、と不気味に笑った。

 

 

 

 

 

 

-kouga SIDE-

 

俺が牙狼の鎧を受け継いで、数時間後の夜中。

黎明館…そう呼ばれる建物の応接間に、三人の人物が集まっていた。

一人は俺…こと、黄金騎士牙狼の鎧を受け継いだ暁光牙。

それと、俺の師匠である魔戒騎士の風間悠斗さん。

そして…俺が助けた女の子である黒歌だ。

『……』

応接間の中は、沈黙が支配している。

互いが互いの動きを見て、どう話を切り出して良いもの、と悩んでいた。

「…悪魔、か。俄に信じがたいが、ホラーやそれと戦う俺達と言う存在が居る事を考えると、居ても可笑しくなかった…というべきか」

師匠が静かに、俺達にも聞こえる声で呟く。

俺達は、黒歌から全ての話を聞いた。

この世界には、俺達のような存在とは別の者達が住まう事を。

彼らは聖書や神話に語られる存在であり、人とは異なる世界に暮らしているらしい。

黒歌もその一人…悪魔であり、あの夜に聞いたように、妹と暮らす為に悪魔の元につき…そして、離反したのだと言う。

「とりあえず、今日は此処でゆっくり傷を癒すと良い。幸いにも部屋には困っていないしな」

「…良いの?私はあなた達とは違う、人間の敵のようなものよ?」

小さく息を吐きながら師匠が言うと、黒歌は戸惑いと疑念を込めた瞳で師匠を見ていた。

「…君が人間に害を為すなら、容赦はしない」

返す様に鋭い視線を返した師匠を見て、俺は咄嗟に間に割って入ろうとする。

「だが…君からはそんな匂いは感じないし、自分や大切な者を害する者にしか牙を剥かないだろう」

刹那、微かに滲んでいた殺気を霧散させ笑顔を浮かべる師匠を見て、俺達は呆気に取られた。

そんな俺達を他所に、師匠は話を続けていく。

「君は光牙に守りし者とは何かを気付かせてくれた恩もあるからね…。恩人に牙を剥くなんて事したら、俺は先代に顔向け出来ないよ」

そう言って軽く手を振った師匠は、俺達に背を向けて部屋を出て行った。

おそらく、俺が鎧を受け継いだ事などを報告する為に番犬所に向かうのだろう。

「~っ、はぁ…」

ドカッと椅子に座り込むと、天井を眺めて大きく溜息を吐く。

同時に、何とも言えない疲労感が身体を襲った。

 

「…大丈夫?」

「あぁ…なんとかね」

黒歌の心配そうな言葉に小さく苦笑を浮かべながら顔を上げる。

それと同時に黒歌を見るが…彼女が悪魔、だなんて未だに信じられない。

「黒歌もその言葉遣い…素じゃないだろ?無理しないで良いよ」

「…分かったにゃ。それで、聞きたいんだけど…」

俺の言葉に黒歌は素の口調に戻ったようだけど…にゃ、なんてまるで猫みたいだな。

気のせいか猫耳や尻尾まで見えてしまう。

「教えて…くれるよね?あの悪魔みたいなヤツや…貴方たちの事を」

黒歌のその言葉を聞いて、俺は頭を抱えた。

魔戒騎士やホラーの事を知った人間には、二つの道がある。

俺達の事を何もかもを忘れるか、其れを知った上で今までの生活に戻るか。

黒歌の目を見るに…忘れる、なんて選択肢を言えば怒るのは確実だろう。

「…オーケー、話すよ」

諦めたように溜息を吐くと、俺は改めて黒歌と向き合い、この世に潜むもう一つの闇について語りだした。

 

 

 

-kuroka SIDE-

 

彼…光牙から話された事は、私たちが知るような世界ではなかった。

魔界、と呼ばれる世界に住み人間を喰らう魔獣…ホラー。

人知れず闇に紛れホラーを狩る魔戒騎士や魔戒法師。

遥か古の時代から繰り広げられる闇と人間の戦い。

ホラーと魔戒騎士達の戦いは、幾重もの世代を重ね、未だに続いているという。

それこそ…この世界から人間という種が絶えるまで。

それは、私たち悪魔と悪魔払いの関係に似ている。

でも…彼らの戦いは、誰からも賞賛を与えられるものではない。

ホラーは人間の邪心に憑依し、その人間に成り代わって人に紛れ、人を喰らう。

そして、奴らは憑依した時に、その人間の魂を喰らってしまう。

そのため、ホラーに憑依された人間を、元に戻す術は無い。

斬るしか無いのだ…たとえ、それが自分にとって大切な人だったとしても。

ホラーに憑依され、騎士達に狩られた人の家族には、彼らを恨む者も居るという。

それでも、彼らはホラーを狩り続ける。

ただ…人を守る為に。

 

「…光牙は、辛くないのかにゃ?」

話を全て聞き終えた私は、光牙を見つめて問いかける。

孤独に戦い続ける、其れは、想像出来なかった。

「それでも、俺は自分の意志で決めたんだ。一人でも多くの人の未来を守る魔戒騎士になるって」

「人の、未来を…?」

私の言葉に、光牙は小さく首肯く。

「人の命は、その人だけじゃない…そこから更に、多くの人の命や未来に繋がる。俺達の使命は、その人たちの未来を守る事だって…黒歌が気付かせてくれたんだ」

そう言って、光牙は赤い鞘の剣を握りしめると、時計を見て立ち上がった。

時計はあの人…悠斗が出て行って既に一時間が経とうとしている。

「今日はもう遅い…俺達も休むとしよう。…と、そうだ」

部屋から出て行く直前、光牙は私の方へと振り返った。

「此処まで話したが、君には二つの道がある。俺達の事を忘れて生きるか、俺達に関わらずに生きるか…明後日、答えを聞かせてくれ」

その言葉を最後に、光牙は部屋から出て行った。

 

 

 

 

-kouga SIDE-

次の日、番犬所に向かおうとしていた俺達はある人を待っていた。

「…ねぇ、光牙」

「ん?」

黎明館の入り口に背中を預けていた俺に、黒歌が声をかけてくる。

「誰を、待ってるのかにゃ?」

「あぁ…師匠の相棒だよ」

相棒?と俺の言葉に黒歌は小さく首を傾げる。

服の裾を摘んできたり小首を傾げたりと一々仕草がかわいいな、コイツ。

「名前は…」

「私の事を呼んだかい?」

俺が待ち人の名前を言おうとした時、彼女は悠然と俺達の前へ歩いてきた。

男物の魔法衣に身を包んだその姿は細くも鍛えられ、女性特有の身体。

そして、腰まで伸ばした髪をポニーテールに纏めた女性だった。

「魔戒法師の蓮だ。よろしく頼むよ、えっと…」

「黒歌にゃ」

黒歌を見て小さく笑うと、彼女…蓮さんは握手をする。

 

「さて、待ち人も来たし番犬所に行くか」

その姿を見届けた俺達は、師匠の言葉に小さく首肯くと番犬所へと向かっていった。

 

 

 

 

「で、歩いてきたのはいいけど…」

黎明館を出た俺達は、一目のつかない路地に来ていた。

其処には一枚の壁が在るだけで、他には遠目にビルや道路が見えるだけだ。

「こんなところに、その…番犬所?ってのがあるのかにゃん?」

「私たちの存在は秘匿だからね…まぁ、見てれば分かるよ」

黒歌の言葉に小さく苦笑する蓮さんを見た後、俺はザルバを壁の前へと翳すと、何の変哲も無い壁に光の線が走る。

人が二人潜れる程の大きさの四角形を形作ると、線の中の壁面が窪み、中心から縦に裂け…一つの門を作り出す。

「この先に番犬所があるが…あまり無駄なお喋りはするなよ」

何時もと違う、真面目な表情で俺達を見る師匠の言葉に気を引き締めると、俺達は番犬所へ一歩を踏み出した。

 

 

「待っていましたよ、黄金騎士の血を継ぐ者…暁光牙」

番犬所に入った俺達を待っていたのは、白いローブを纏った一人の女性だった。

神官ジュネ…師匠からは、そう聞いている。

彼女の前に歩いてきた俺達は、深く一礼した後に改めて彼女を見る。

「貴方が牙狼の称号を受け継ぎ、ホラーを一体封印した事は知っています。そして…」

ジュネは俺を見て小さく呟くと、今度は黒歌へと視線を移す。

「貴女が暁光牙が守った悪魔の少女ですか…私はジュネ。この西の番犬所で神官を務めています」

「ど、どうも…黒歌にゃ…です」

黒歌の挨拶に小さく首肯くと、ジュネは俺達を見て口を開いた。

「彼らの存在については、烈風騎士から話を聞いています。彼らにホラーが憑依すれば、今まで以上に脅威となる…故に、より気を引き締めて使命を全うしなさい」

『はい』

彼女の言葉に、黒歌を除いた俺達は口を揃え返事を返す。

すると、ジュネは改めて俺へと視線を移してきた。

「暁光牙。貴方は牙狼の称号を受け継いだ者…その魔法衣を纏う必要はないでしょう」

そう言い、彼女は側に居た使いの者に目配せをすると、使いは俺の前に大小併せて二つの箱を持ってきた。

「元老院から、牙狼となった貴方への品です」

「俺への…」

ジュネの言葉に箱を受け取り、蓋を開けると、中には白いコートを模した魔法衣と一つのライターが入っていた。

「光牙、お前も正式な魔戒騎士になったんだ」

師匠の言葉に小さく首肯くと、俺は箱から魔法衣と取り出すと先程まで着ていたダークグレーの魔法衣を脱ぎ、新たな魔法衣へ袖を通す。

それと同時に、そう遠くない昔…父さんが纏っていた魔法衣を思い出した。

『あのハナタレ小僧が大きくなったもんだな』

「放っとけ」

折角思い出に浸っていたのに、ザルバの一言で台無しだ。

小さく苦笑しながらザルバに返すと、俺を見ながら言葉を続ける。

『まだ契約するつもりは無かったんだがな…小僧、お前さんと契約してやるよ』

ザルバがそう言うと、ドクン、と心臓が強く鳴った。

それと同時に、俺とザルバの間に見えない線での繋がりが生まれたのを感じる。

契約…それは、魔戒騎士と魔導具の間で交わされるものだ。

魔導具に封じられたホラーは、魔戒騎士のサポートをする代わりに月に一度、騎士から命を喰らう。

その一日分の命が、魔導具の一月分の食事となる。

「光牙、大丈夫...?」

契約が完了すると、黒歌が心配そうに俺を見てきた。

「あぁ、大丈夫だよ」

「剣の浄化を終えたら、烈風騎士と共に門の封印を行いなさい。指令については追って司令書を送ります」

俺の契約を見届けたジュネの言葉に全員で礼を返すと、俺達は魔戒剣の浄化を済ませ番犬所を後にした。

 

 

 

-horror SIDE-

 

「話が違うじゃないか!」

全てが寝静まった真夜中、郊外に建てられた真新しいビルの中に男の声が木霊する。

起業したてであろうビルの社長室。

其処に二人の人物が相対していた。

息を荒げ怒鳴り散らしながら、肥満体の男は窓際に立つもう一人の男を睨みつける。

だが、窓際に立つ、黒いビジネススーツを纏った男は怒鳴り声にも狼狽えず、涼しい顔で笑みを浮かべるだけだ。

「事業に成功した場合、融資した額に加えて売り上げの20%を還元するという話だっただろう!いったい何時になったら払うんだ!」

「やれやれ…辛抱が足らない方ですねぇ。そんなに欲しいのですか?」

「当たり前だろう!いったい、君にいくら融資したと思っているんだ!」

飄々と、何処か嘲りすら含んだ男の話し方に肥満体の男は更に顔を険しくし、先程よりも大きな声で怒鳴り散らす。

その大声に呆れ、肩を竦めながらスーツ姿の男は未だ怒りの収まらない男の横を通り過ぎ、社長室の扉を開けた。

「そうですか。ではついてきてください…お望みのものを与えましょう」

 

社長室を出た二人の男がたどり着いたのは、ビルの近くに建てられた大きな倉庫だった。

「どうぞ、ここに貴方が欲しいものはありますよ?」

社長らしき男は倉庫の扉を開けると、肥満体の男に中に入る様に促す。

電気が一つもついていない、真っ暗な倉庫の中を見て、男は小さく息を呑む。

その中から感じる何とも言えない感覚に、一筋の汗が頬を伝う。

やがて、決心した様に男は倉庫の中へと足を踏み入れた。

「…な」

倉庫に入り、月明かりに照らされたそれらを見て男は言葉を失った。

其処にあったのは、夥しい数の黄金。

どれも、一級品と思わしき金品だった。

「これらは私の大事な商品であり宝ですが…好きなだけ差し上げましょう」

社長の囁く声が聞こえた瞬間、男は黄金の前に駆け出した。

目の前に広がる黄金…それを好きなだけ、貰って良いというのだ。

男には既に、理性など存在していない。

在るのは、己の内に潜んでいた醜悪な欲望のみであった。

必死に目の前の金品を掻き集める男を見て社長…否、ホラーは嗤う。

人間の醜さ、愚かさに。

「あぁ、そうだ。其れを差し上げる代わりにですが…もう一つ、私の願いを聞いていただいても?」

「あぁ、構わん!なんだ、また融資でもして欲しいのか?!」

ホラーの問いかけに、男は振り返らずに答える。

後ろに立つ男が、形容する言葉が見つからない程に醜く歪んだ笑みを浮かべていることに。

「いえ、融資はもう結構です。その金品を差し上げる代わりに…」

 

「貴方の魂をいただきます」

社長の言葉に、男は耳を疑った。

魂をいただく?何を馬鹿な事を。

そう言おうとして振り返ったときだった。

男は見てしまった。

社長が此方を見て口を開いている姿を。

その姿は、さながら食物を頬張ろうとしている姿に似ている。

刹那、男の身体に異変が起きた。

身体を動かそうとしても指一本すら動かない。

言葉を発そうとするが、喉が痙攣しているかのように、言葉が出てこない。

それどころか、身体から力が抜けていき、意識が遠くなっていく。

それなのに身体は動かず、信じられない事に男は身体が社長の方へ…正確には彼が大きく開いた口へと吸い込まれていく錯覚すら覚える。

男の理解の外で事は進み…そして、遂に。

男の意識は、ゴクリ、という飲み込む音と共に闇に呑まれた。

 

 

「…ふぅ、やはり欲にまみれた人間の魂は美味ですね」

軽く口元を拭いながらホラーは呟くと、時計と確認して倉庫の出入り口へと歩き出した。

「あぁ、そうそう」

倉庫から出ようとした時、思い出した様にホラーは倉庫の中を振り返る。

「確かに、貴方に融資していただいたお金は還元しました。後はどうぞ、ごゆっくり」

そう言って足音が遠ざかっていく中…倉庫には、無数の金品と

純金で出来た人間の像が残っていた。

 

 

 

 

 

-kuroka SIDE-

 

「はぁ…」

光牙達と番犬所って所に行った翌日。

私は一人溜息を吐いていた。

その全ては、一昨日に光牙から告げられた事。

魔戒騎士とホラーが戦う、誰も知らない世界を知った夜に与えられた選択肢。

『俺達の事を忘れて生きるか、俺達に関わらずに生きるか…明後日、答えを聞かせてくれ』

その期限が、今日なのだ。

当の本人は、師匠である悠斗と門になるオブジェの邪気を封印しに出ている。

改めて考えると…私がこの世界を知ったのは、たった数日前だ。

今までだったら、誰とも関わらずに白音と二人で生きる事だけを考えていた。

でも…。

話を聞いた夜の光牙が浮かべた笑顔を思い出す。

彼はきっと、これから一人で戦い続けていくのだろう。

誰にも知られず、私を守ったときの様に傷だらけになりながら。

それに…。

私は、光牙に提示された選択肢を想像する。

仮に…そう、仮にだ。

白音がホラーに憑依されたり、襲われたら。

私は、耐えられるだろうか…守れるだろうか。

「…よし」

不安を取り払う様に頭を振ると、私は立ち上がり、部屋に居るだろうあの人の元へと走った。

 

 

-kouga SIDE-

 

「っ!」

オブジェに剣を突き刺すと、一つの、球体を模した邪気を帯びた影が飛び出す。

これが、ホラーが人間界に出現するときに用いる門となる陰我だ。

『逃がすなよ、小僧』

「分かってる…!」

ザルバの声に短く返しながら、鞘から牙狼剣を抜くと素早く刃を走らせ、影を斬り裂く。

『■■■…!』

斬られた影は、ホラーの声に似た金切声をあげると、空気に霧散していった。

其れを確認すると、俺は牙狼剣を鞘に納めてザルバに話しかける。

「これでこの辺にあったゲートは封印完了か?」

『…あぁ、どうやら周囲に感じていた邪気はないようだ』

その声に小さく一息つくと、俺達は黎明館へと足を運ぶ。

この後は師匠とまた鍛錬が待っている…が、称号を継いでから今まで以上に厳しく容赦がない修行に小さく身体を震わせた。

 

「帰ったか」

黎明館に入ると、師匠は赤い封筒を持ったまま此方を振り返った。

よく見ると、其れは魔戒騎士へと送られてくる司令書だ。

(もしかして…今夜は修行は無しか?)

そう思っていた時…師匠は、持っていた指令書を俺へと差し出してきた。

「光牙、お前への指令だ」

「俺に…?」

訝し気に封筒を受け取ると、昨日番犬所で貰ったライターで魔導火を灯し、封筒の端へ火をつける。

すると、手にしていた赤い封筒は一瞬で焼き消え、代わりに魔導文字で書かれた指令が宙へと浮かび上がった。

 

『歪んだ富への欲に憑依するホラー、マモンあり。直ちに討滅せよ』

ザルバが読み上げる指令の内容に、俺達は表情を険しくする。

人の持つ欲望に付け込み憑依し、その為に人間を弄び喰らう。

典型的なホラーのようだ。

「いけるか?」

改めて、師匠へと向き直ると真剣な顔で俺へと声を掛けてきた。

それに小さく首肯き、俺が黎明館から出ようとした時だ。

「待って!」

「…黒歌?」

投げかけられた言葉に振り返ると、其処には黒歌が決意したような表情を浮かべて立っていた。

「…私も、ホラー討伐に連れて行って」

 

 

 

日も落ち、人の気配も途絶えいく夜。

ザルバの持つ探知能力をたよりに、俺は黒歌を連れて町外れに建つビルの前に立っていた。

あの後…俺は、黒歌を黎明館にとどまる様に説得した。

だが、黒歌の決意は固く説得に応じなかったため、こうして俺と共に居る。

「黒歌」

「分かってるにゃ」

俺の短い呼びかけに、黒歌は小さく返事を返す。

ホラーの討伐には関わらず、隠れて見ている事。

それが、ホラー討伐への同行を許可した条件だった。

『小僧、あの倉庫からホラーの気配だ』

ザルバが発した言葉に小さく首肯き、俺達はビルの裏手にある倉庫へと向かう。

一見すると、何の変哲も無い何処にでもある倉庫のようだ。

だが…そこから感じる陰我とも違う負の気配。

それが、肌で感じられた。

 

重たい金属の扉を開き、倉庫へと入った俺達は…言葉を失った。

其処に広がるのは、おびただしい数の金品。

どれもが偽りの無い一級品ばかりだ。

だが…中でも一際目立つのは。

「なんだ…これ…」

金品の中に紛れて立つ、純金で出来た人物像だった。

表情から衣服、髪に至るまで精巧に出来た…まるで、本当に動き出しそうな人物像。

それが、俺達の目の前にあった。

それも、一体だけではない。

服装は違えど、同じ様に精巧な金の像が立ち並んでいる。

『どうやら、肉体はこうしてコレクションしているようだな』

ザルバの言葉にギリ、と奥歯を噛み締める。

そこから意味する言葉は…此処に並ぶ像は、元人間だったという事だ。

 

「困りますねぇ、コソドロですか」

俺達が苦々しい表情を浮かべた時、突如として聞こえてくる声。

振り返ると、そこにはビジネススーツを着た一人の男が立っていた。

すかさず、懐からライターを取り出して男の眼前で魔導火を灯す。

すると、男の目…その虹彩を取り囲むように、魔導文字が浮かび上がった。

「…おや、ただのコソドロかと思えば魔戒騎士でしたか」

俺の行動に男…いや、ホラーは狼狽える事無く歩み寄ってくる。

「如何です?私のコレクションは、お気に召しましたか?」

「…とんでもない悪趣味だってことは解ったよ」

澄ました表情を浮かべるホラーを睨みつけたまま、俺は剣を抜いて構える。

「やれやれ…貴方には解りませんか」

ホラーは肩を竦め、嘲るような笑みを浮かべた。

「此処にある像は皆、私の言葉に乗り…富に目が眩み、欲に堕ちた者ですよ。見てくださいよ…彼らの浮かべる表情」

そう言いながらホラーは一体の像の前に跪き、その頬に触れる。

「とても醜く卑しい…それでいて愚かだ。そのような人間に、生きていたって価値がありますか?」

ホラーが言葉を言い切るや否や、俺はホラーへ刃を振り下ろしていた。

だが、その刃を躱すとホラーは俺へ蹴りを放ってくる。

其れを左腕で受け止め、代わりに右薙ぎに腹部を斬りつける。

「ふざけるなよ…!」

静かに、喉から絞るように俺は口を開いた。

「人間は確かに愚かだ…欲深く、其れ故にホラーが絶える事は無い。だが!」

ヤツを鋭く睨みつけたまま、俺は天へ剣を翳す。

「そんな人間にも守るべき光があるし、生きている事にこそ価値がある!」

そして、俺は剣で頭上に円を描き、牙狼の鎧を纏う。

『人の欲に付け込み、その命を弄び喰らう貴様の陰我…俺が断ち切る!』

 

 

 

-kuroka SIDE-

 

光牙とホラーの戦いを、私は影で見ていた。

黄金の鎧を纏う光牙と対峙するのは、くすんだ金色の体色をしたホラー。

姿は狐に似ているけれど、両肩には鳥類…鴉の頭蓋骨があり、背中から黒い翼を生やしている。

『カハハハ、まさか黄金騎士と相見えるとは!』

『オォォォッ!』

ホラーの爪と光牙の剣がぶつかり合い拮抗する。

両者の間で拳や蹴り、剣と爪が何度も衝突する。

戦いは互角に見えた。

だけど…。

『!』

ホラーがその翼で飛翔した事で、戦局に動きが見える。

飛翔しながらの攻撃に飛ぶ術のない光牙は次第に防戦となり始めていた。

『っ…』

『これで…終わりです、黄金騎士!』

羽根を弾幕のように飛ばし視界を奪うと、ホラーは光牙の背後から襲いかかる。

「光牙!」

咄嗟の行動だった。

光牙がホラーの魔手に貫かれてしまうと感じた私は、無意識に仙術を使っていた。

右手に魔力と気を混合・圧縮してホラーへ放つ。

有効かは解らない。

でも、僅かな隙を作るだけ。

放たれた魔弾は光牙へと迫るホラーに着弾するとそのバランスを崩させる。

そして、その隙を逃す訳が無く。

光牙は、振り向き様に牙狼剣でホラーを両断した。

 

 

 

-kouga SIDE-

 

ホラーの討滅を終えた俺達は無言のままに歩いていた。

「…光牙」

やがて、痺れを切らしたように黒歌が口を開いた。

その表情は討滅へと向かう際に見せたように、決意を込めた瞳だ。

「一昨日の答え、今言うにゃん」

黒歌の言葉に、俺達は向かい合う。

俺達を忘れるか、関わらないか。

それが…今日決まる。

黒歌は少し考えた後…。

「私は…忘れない」

答えを口にした。

 

「そうか…じゃあ、此処でお別れかな」

小さく笑うと、俺は踵を返そうとする。

だが。

「待って」

きゅ、と黒歌の小さな手が俺の手を握る。

「ずっと考えて…決めたにゃん」

俺の手を握ったまま、黒歌は再び俺と向かい合うと口を開き

「私、魔戒法師になる」

俺が提示しなかった、三つ目の選択肢を口にした。

 

「…自分が何を言っているのか、解っているのか?」

俺は、真剣な表情を浮かべると黒歌を見つめる。

澄んだ金色の瞳で俺を見る黒歌の決意は揺らがない様子で、小さく首肯いた。

「もし、ホラーや魔戒騎士の事を忘れても…奴らの脅威は消えた訳じゃない。もし、白音や関わった人が襲われたりしても、守れる力が欲しいにゃ」

俺の手を握る力に微かに力を込めながら、黒歌は小さく俯いて言葉を紡ぐ。

「それに…」

黒歌は微かに潤みを帯びた目で俺を見つめ。

「光牙を独りで戦わせない。貴方が私の未来を守ってくれたように、私が光牙の未来を守る」

握った俺の手を胸元へ持っていき、小さく囁いた。

 

 

「…もう決めたのか?」

「乙女の決心は岩よりも固い…悠斗さんから教わらなかったかい?」

小さく溜息を吐きながら黒歌に問う俺は、後ろから掛けられた問いに視線を向ける。

その先には、昨日会った蓮さんが立っており、俺の横を通ると黒歌の頭に手を置いた。

「私も最初に聞いた時は驚いたよ。でも、この子の意思は相当だ」

蓮さんに頭を撫でられる黒歌に小さく苦笑すると、俺は蓮さんを見る。

「黒歌は閑岱(かんたい)で私が鍛え上げるよ」

「…解りました。それが黒歌の決めた答えなら、俺がとやかく言う筋合いは無いですね」

蓮さんの言葉に小さく肩を竦めながら答える。

既に蓮さんに話はつけていた、という訳か。

「光牙」

ふと、黒歌から声をかけられる。

「6年…それまでに、私は光牙や白音達を守れる法師になるにゃん。だから…」

「…あぁ、俺もそれまでには黄金騎士として、守りし者として強くなる」

その言葉に首肯きながら俺達は互いに笑みを浮かべ合い…一時の別れを告げる。

 

これが、俺と黒歌の相棒としての始まり。

互いの先にある未来と、人々を守る。

そう誓い合う俺達を、あの時と同じ月明かりが見守っていた。




人の世に紛れるのは何もホラーだけじゃない。
ヤツらはお前達の知らないうちに隣にいるかもしれないぜ?
次回「巨獣」
あぁ、そういやアイツもそうだったな。


ホラーファイル No.02
マモン
七つの大罪において、強欲を司る悪魔マモンと同じ名前を持つホラーで、強盗の末に殺人を犯した男「椎名一臣」の金銭欲に惹かれ憑依する。
両肩に鴉の頭蓋骨を備えた二足歩行の狐に似た姿をしており背中に生えた翼での飛行が可能。
富を愛し授けるホラー、と呼ばれており金銭欲に堕ちた醜い人間の魂を好んで食す。
また、捕食後に残る抜け殻となった肉体を純金の彫像に変えてコレクションするという陰湿かつ悪質な嗜好をもっていたが、その価値観が光牙の逆鱗に触れ、黒歌の協力もあり討滅された。
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