大変長らくお待たせしました、最新話の更新です。
こうして書いていると、推敲したとはいえ文才のない自分が恨めしい。
駒王町の郊外に位置する、今や誰にも使われていない古びた教会。
その地下に作られた巨大な空間…地面に描かれた魔方陣や石で作られた祭壇から、何かの儀式を行うだろうそこに、一人の女が立っていた。
腰まで伸ばした黒い髪にボンテージのような際どい服に隠しきれない色気のある豊満な身体。
そして…背中に生えた一対の黒い翼。
彼女の名は、レイナーレ。
駒王町に潜伏する堕天使であり、兵藤一誠を一度は殺した張本人である。
「儀式の準備は整った…。これで、後は
人一人を磔に出来る大きさの、石製の十字架を見てレイナーレはほくそ笑む。
全ては己が至高の堕天使に至り、総督であるアザゼルからの寵愛を得る為に。
彼女は付き合いたくもない下賎な人間と恋人ごっこをし、その命を奪ったのだ。
だが…レイナーレは知らない。
その歪んだ愛への欲望に舌舐めずりをする闇が、自分の影から見つめていた事を。
そして。
『
底冷えのするような声と共に、闇がレイナーレへと牙を剥いた。
薄明かりに照らされた広い空間に、二人の人物が対峙していた。
互いに纏うは黒い衣服。
手にするは両刃の剣。
暁光牙とフリード・セルゼン、黄金と白銀が互いに向け刃を構える。
「…はっ!」
短くも気迫のこもった声と同時に、光牙が剣を振るった。
上段から振り下ろされる刃は端から見ても洗練されたものだと感じる躊躇いの無い一閃。
その刃は吸い込まれるようにフリードの頭へと迫るが、フリードへと到達する事は無かった。
「フッ!」
紙一重…否、太刀筋を読み最小の動きで刃を躱したフリードは地面を這わせるように刃を振り上げる。
並の剣士では、攻撃後の硬直と同時に繰り出される反撃に、なす術無く斬られているだろう。
だが、二人は魔戒騎士。
中でも光牙は、最高位である牙狼の称号を受け継ぐ者だ。
フリード同様に最小の動きで凶刃を躱すと、互いに剣を振るい合う。
振り下ろし、振り上げ、薙ぎ、突く。
虚実と拳、蹴りを交えながら行われる剣舞は既に10分にも及んだ。
再び互いに刃を正眼に構える。
その表情は、確かに疲労が見え隠れする。
だが、その目に宿る闘志は死んではいなかった。
同時に駆け出し、放たれる一閃。
それは偶然にも同じ、首を狙った必殺の剣。
放たれるタイミングが同じなら、それを防ぐタイミングもまた同時。
互いに剣を持つ手首を掴み、首筋に刃が触れる寸でのところで睨み合う。
「…ふ」
「…引き分け、ですね」
より濃く殺気に満ちた剣呑とした空気を霧散させると、光牙とフリードは互いに小さく笑みを浮かべた。
二人がこれまで行っていた殺気に満ちた一戦…それは、単なる互いの腕試しに過ぎなかった。
「見てるこっちは冷や汗ものだったにゃ。いくら『サバック』と同じルールだとしても、二人とも殺気出し過ぎにゃ」
互いに笑い合う二人の姿を見て、唯一の観戦者だった黒歌は疲れが押し寄せたように溜息を吐く。
サバックというのは魔戒騎士たちによって行われる武芸大会だ。
ルールは単純。
戦いに臨む魔戒騎士は魔戒剣や鎧の使用は禁じられ、鉄剣のみを用いて戦い、一滴でも血が流れた方の負け、というものだ。
因みに…公式なサバックには魔戒騎士の最高位である『牙狼』の称号を持つ者は参加してはならないという決まりが存在するが、其処はご愛嬌、という事で。
ともあれ、新しくチームを組む事になったフリードの腕試しが終わった一行は暁邸のリビングに居た。
「しかし、国外の魔戒騎士を招集するなんて、東はそんなに騎士が少なかったかにゃ?」
三人分のコーヒーを出しながら、黒歌は尤もな疑問を口にした。
元老院、あるいは番犬所からの要請で他所の管轄から騎士が出向する、という話は稀ではない。
だが、国外から、となれば話は別だ。
これまでの歴史上、国外の管轄から魔戒騎士を元老院、番犬所が出向させるなど異例中の異例と言っても良いだろう。
「…この事は、俺が申し出た事でもありますから」
黒歌の疑問を聞いたフリードが、苦笑混じりに口を開く。
「この日本…其の中でも、東の管轄には、俺の因縁とも言えるヤツが居ます。そいつが闇に堕ちるなら…俺の手でヤツを斬りたい」
そう語るフリードの目は、懐かしさと哀しさで彩られていて。
それを見た光牙と黒歌は、フリードの秘めたる思いに口を閉ざすしか無かった。
-Devil side-
「金色の次は、銀色の鎧、ねぇ…」
数日前に起きたイッセーの負傷事件について聞いた私、リアス・グレモリーは深く溜息を吐いた。
何でも、イッセーを助けた男は…廃工場で見た金色の鎧を纏った男と同じような、銀色の鎧を纏い、悪魔のような存在を倒したらしい。
金色の鎧の彼だけでも頭が痛くなる話なのに、もう一人増えるなんて…。
ただでさえはぐれ悪魔の侵入も増えているのに、何処の勢力とも知れない神器を持った人間が、このグレモリーの管理する町に入ってくることに思わず頭を抱える。
これ以上は看過出来ない、とお兄様へ報告はしてみた物の、返ってきた言葉は
『その騎士の事は私たちの方で調べる。リアスやソーナ君達は、この事に関わらない様に』
といったものだった。
魔王の命令とはいえ納得いかない、と内心憤慨するのだけど…解ったことが、一つだけある。
「お兄様は…彼らについて、何かを知っているのかしら…?」
-side out-
-Knight’s side-
「ハァッ!」
昼間だというのに薄暗さを感じる路地裏で、俺…フリード・セルゼンは刃を振るっていた。
というのも、俺達魔戒騎士は只人間に憑依したホラーを狩るだけが仕事じゃない。
昼間はこうして町を練り歩き、人間の邪心から生まれる闇…陰我を取り込み門と化したオブジェを封印して回っている。
暁光牙との腕試しの後、三人で手分けした俺達はそれぞれ門の封印を行っていた。
『これで3つ目…悪魔が管理する町だからかしら、少し
「悪魔と契約してまで願いを…自らの欲望を叶えたいと願う人間が居て、悪魔が居る…陰我が他より生まれやすいのも、当然かもな」
門を封印する姿を見ていたアルバが小さく呟くのに対し、小さく苦笑しながら路地裏から人通りの多い路地に出た時だった。
「っきゃ?!」
「おっと」
出会い頭、俺は誰かとぶつかった。
倒れそうになるその人を抱きとめた時に解った事は…その人は、小柄な女性と言うことだ。
だから…彼女を見たとき、俺は驚きのあまり目を見開いた
「ぇ…フリード…君?」
「…アーシア…、なのか?」
俺が抱きとめた女性…それは、10歳の時に離れ離れとなった幼なじみ…アーシア・アルジェントだった。
俺がアーシア・アルジェントと出会ったのは、まだ幼い頃だ。
両親が物心つく前に亡くなり、天涯孤独となった俺は教会の営む孤児院に引き取られ、其処で多くの子供達と一緒に生活をしていた。
7つになる頃だったか、マザーが小さな女の子を連れ、孤児院へとやってきた。
それが、俺とアーシアの出会いだった。
当時から、アーシアは人の傷を癒す力を持ち「聖女」なんて呼ばれていたが…今に思えば、それは彼女の中にある「神器」が持つ力だったのだろう。
ある事情によって俺はアーシアと離れたが…それから6年の時が過ぎて1年前、アーシアが教会を追放された事を知った。
誰にでも分け隔てなく接し、優しかったアーシアが何故、と思ったが人々の噂を聞いて思わず納得してしまった。
「聖女アーシア・アルジェントが悪魔を癒した」
それが、教会から彼女が追放された理由。
教会や信者は神こそが至上であり、悪魔は唾棄すべき悪だと教え、それを信じている。
彼らの抱える闇を知った俺は今となっては神だとか信じては居ないが、彼らは別だ。
悪魔を癒したアーシアを異端の魔女と蔑み、追放したのだろう。
そんな彼女が、今…異国である日本で、俺の目の前に居る。
「まさか…アーシアが日本に来ているなんてな」
場所を移動して公園へ来た俺とアーシアはベンチに隣り合って座っていた。
「私もびっくりしました。フリード君が亡くなったと聞いた時は、夢なんだって…」
アーシアの言葉を聞き、俺は微かに顔を顰める。
俺が参加した計画…その過程で烙印を押された者達は、皆口封じに
俺ともう一人は仲間に助けられ、逃げる事が出来たが…俺達は、薄暗い森の中で逸れてしまい、更に不幸というものは続くらしく、俺は素体ホラーに襲われあわや喰われ掛けるという事態になった。
まぁ…其の時に俺の命を二つの意味で救ってくれたのが、俺の師匠…先代のジンガだった訳だ。
「アーシア」
微かに涙を浮かべるアーシアの頭を、ポンと軽く撫でる。
俺達がまだ孤児院に居た頃…こうして泣きそうなアーシアの頭をよく撫でた物だ。
「理由あって俺達は一度は別れちまったけど…こうして生きてるし、再会出来たのは夢じゃねぇよ」
「…はいっ」
俺の言葉にアーシアは、昔と変わらない奇麗な笑顔を見せた。
-horror SIDE-
フリードとアーシア・アルジェントが再会した日の夜。
町外れの教会にある一室に、一組の男女が居た。
一人は修道服に身を包んだ黒髪の男性。
そして…もう一人は黒髪を腰まで伸ばした女性、レイナーレだ。
「くす…」
小さく、妖艶な笑みを浮かべたレイナーレを見て、男は目を見開いた。
ベッドへと歩み寄るや否や、レイナーレが徐に服を脱ぎだしたのだ。
纏っていたボンテージを脱ぎ、露になった瑞々しい絶世の裸体に男は思わず息を呑む。
男の前で裸体をさらした事を意に介すどころか笑みを深めたレイナーレは、そのまま男にゆっくりと歩み寄る。
そして…。
「ん…っ」
首に腕を回し抱きつきながら、男の唇を奪った。
身体に密着する柔らかい感触と鼻腔を刺激する甘い香りに男の意識は次第に麻痺していく。
「っ…!」
今まで、神に仕えてきた身である男には刺激が強かったのだろう。
その甘美な感覚に呑まれるままに、男はレイナーレの身体を貪る。
レイナーレが、濁りきった白い瞳で男を見て、嗤っている事にも気付かずに。
-Kight’s side-
「光牙、新しい指令が来てるにゃ」
夕暮れ時、訪れるホラーが活発になる時間に備えフリードと手合わせをしていた俺の元へ、一通の紅い封筒を手に黒歌がやってきた。
封筒…指令書を受け取り魔導火で燃やすと瞬時に封筒は燃え尽き、代わりに魔導文字が虚空に浮かび一つの文章を形成する。
「偽りの愛を齎す者、現世に現れ出で人を誑かし喰らわんとす。直ちに此れを討滅されたし、か」
魔導文字を読み上げたフリードは、腕を組み小さく呟く。
どんなホラーかは知らないが、人を喰らおうとするならば、討滅しなければならない。
俺達は互いを見合わせた後、修練場を後にした。
「!これは…」
指令にあったホラーを探して町を歩いていた最中、黒歌は空を見上げ小さく声を洩らした。
同時に感じた、妙な違和感。
悪魔や堕天使が布く結界の気配だ。
だが、俺が黒歌から聞き、実際に感じた結界とは違う異質さ。
そう…この気配は!
『小僧、ホラーの気配だ!』
ザルバの声を聞くや否や、俺達は結界が張られたであろう場所へと走り出した。
「此処か?!」
『あぁ、間違いないが…一足遅かったようだな』
ザルバが探知した気配を辿り公園へと足を踏み入れた俺達だが、其処は素手にホラーは居なかった。
代わりに居たのは、血だまりの中に倒れる少年の姿だ。
「これは…」
地面に広がる真新しい血の中に横たわる無傷の少年の姿に、黒歌が膝をつき小さく呟く。
「傷が完全に塞がってるけど…この子、悪魔ね。体内に光とホラーの邪気が残留してる」
黒歌の言葉からは、微かに焦りが感じ取れた。
悪魔にとって、光は毒と同じだという。
光の毒はある程度は自分の力で癒す事は出来るが、ホラーの邪気は別だ。
少年の身体を起こすと、黒歌は懐から一本の小瓶を取り出して口へ含ませる。
その姿を横目に、ザルバにホラーの探知を任せていると、微かに目を見開いているフリードの姿が目に入った。
「…どうした、フリード」
「そんな…アーシア?」
-devil side-
「っ…」
沈んでいた意識がゆっくりと浮上するのを自覚しつつ、ゆっくりと目を開ける。
始めはぼやけていたが、次第に視界が明瞭になり、空を覆う程の星空が見えた。
「ここ、は…」
身体を起こし、辺りを見回した所で、此処が公園である事を思い出した。
そして…。
「アーシア…っ!」
友達になると決めた、女の子の哀しそうな微笑みが脳裏を過る。
そうだ。
俺は、此処でまた堕天使に襲われ…そして、アーシアが連れ去れるのを見ているしかなかったんだ。
重たい身体を引きずるように歩き、俺は一歩、また一歩と歩き出す。
目的地なんて、決まっている。
アーシアと初めて会った時に案内した、あの教会だ。
「兵藤君!」
やっとの事で公園から出ると、木場と小猫ちゃんが俺の方へ駆け寄ってくるのが見える。
「大丈夫ですか?」
俺の様子に気付いた小猫ちゃんが心配そうに声をかけてくるけど、俺はそれに答える暇さえ惜しかった。
フラつく足で一歩、また一歩とアーシアが連れ去られた教会へと進んでいこうとする。
二人が何かを言っているけれど、俺の耳には一切入ってこなかった。
頭に浮かぶのは、此処には居ないアーシアが浮かべた哀しそうな微笑みだけだ。
「っ!」
逸る気持ちに身体がついていけず、思わず転倒する。
それでも、身体を止める事はやめなかった。
「アー…シア…」
地面を這い、ゆっくりと身体を前へと動かす…その時だった。
グイ、と身体を起こされる。
抱えられた感覚に戸惑い両側を見ると、木場と小猫ちゃんが俺に肩を貸して立っていた。
「部長から、君を迎えに行くように言われているからね」
「…町外れの教会に、堕天使が潜んでいると連絡がありました」
木場と小猫ちゃんが、俺が何をしようとしているのかを察したように言葉を紡ぐ。
それはつまり…。
「っ、ありがとう…」
小さく感謝の言葉を洩らし、俺は二人に肩を担がれながらアーシアがさらわれた教会へと向かっていった。
- Knight side -
黒歌が持つ魔針盤とザルバの案内によって俺達3人は、駒王町の外れに位置する教会の前に立っていた。
「ザルバ、間違いないか?」
『あぁ、ホラーの気配は此処から感じる』
ザルバに一応の確認をとるが、此処にホラー…エロスが潜んでいる事は間違い無かった。
「でも気をつけた方が良いにゃ」
『えぇ、複数の邪気を感じるわ』
黒歌とアルバの言葉から察するに、エロスの他に素体ホラーが潜んでいるのだろう。
黒歌達の言葉を聞き、フリードが教会に入ろうとするが、肩を掴み押さえつける。
「っ…!」
「待て、フリード」
それを横目に黒歌は辺りを見回し何かを探していた。
『落ち着け、迂闊に突入しようとするな』
「ッ、解ってる…!」
ザルバの言葉に苦虫を噛み潰したような表情をフリードが浮かべる。
エロスに捕えられている少女は、コイツにとって大きな存在なのだろう。
「お前が焦る気持ちは分かる、黒歌」
「丁度見つけたわ」
気が逸っているフリードを宥めながら黒歌に声を掛けると、教会を囲む様に配置された街灯を見ていた黒歌から返事が返ってきた。
等間隔に並んでいる街灯の足下には、魔導文字が記された紅い札が貼られている。
「結界…」
「恐らく、外界からの侵入を防ぐのと破られた時の感知を兼ねているんだろう…行けるか?」
漸く結界の事に気付いたフリードを離すと、俺は黒歌を一瞥した。
俺の視線に気付いた黒歌は小さく頷くと魔導筆を取り出し、印を組んだ後に筆先で札を撫でた。
其の瞬間。
街灯を基点に教会を覆うように紫色の壁が現れた刹那、硝子が砕ける音とともに結界が破られた。
『ほぉ、法術をここまで使いこなせるようになるとはな』
「当たり前にゃ、黄金騎士を支える為に頑張ってきたんだから」
ザルバの言葉に微かにはにかんで黒歌は答えるが、直ぐさま表情を険しくして教会を睨みつける。
「気をつけて…あの扉の向こう、複数の邪気を感じるわ」
『あぁ、エロスは自分より下級のホラーを飼いならし使役する事が出来るからな』
黒歌の言葉に継いでザルバもホラーの気配を感じているらしい。
「…フリード」
「はい」
俺は、隣で一際顔を険しくしているフリードへ声を掛ける。
「取り戻すぞ、お前の守りし者を」
「…はい!」
其の言葉を最後に、俺達は教会の中へと突入した。
教会の中は、異様な程静かな空気が漂っていた。
だが、その中に複数の…舐めつけるような陰湿な視線を感じる事からホラーが潜んでいるのは間違いない。
「…囲まれているな」
『相当、食事の邪魔をされたくないようだな』
辺りを見回しながら魔戒剣と魔導筆を構える俺達の前に、幾人もの黒衣を纏った男達が姿を現す。
「はぐれ
元悪魔であるがゆえに事情を知っている黒歌が小さく呟いたのと同時に、男達…いや、ホラーが一斉に襲いかかってくる。
「フリード、お前は先に行け!」
蹴りと拳を繰り出してくるホラーをすれ違い様に斬り付け、背後で応戦しているフリードに一喝する。
「しかし!」
「露払いくらい俺達だけで充分だ!」
「貴方は…貴方の守りたい者を救いなさい!」
俺の言葉にフリードは戸惑いを隠せないが、黒歌の言葉を聞くと目を見開いた。
『あの祭壇の下、其処から地下に入れるみたいよ』
「…すみません、行きます!」
アルバの声に背中を圧されたのか、フリードは俺と黒歌が開いた道を通り抜けて地下へと向かっていくのを見届けると、俺と黒歌は再びホラーの大群へと向かっていった。
-Sister side-
教会の地下にある儀式場に、私…アーシア・アルジェントは立って居ました。
向かい側に立っているのは、私を拾ってくれた堕天使であるレイナーレ様。
彼女は当初、私の
出会った頃に感じていた何処か妖艶な気配が増しただけではなく、無意識に惹き付けられるような何かを感じてしまっています。
「ねぇ、アーシア」
「は、はい…」
レイナーレ様に声をかけられ、戸惑いながらも返事を返すと…私の目の前にレイナーレ様のお顔がありました。
頬に触れられると顔が熱くなり、少しずつ意識が何処か別の場所にいってしまうような感覚に囚われていくのを感じます。
「私、少しお腹が空いているの…だから」
「あなたを、食べさせて?」
レイナーレ様の言葉に身を委ねそうになった時…脳裏に彼の姿が過りました。
最近まで亡くなってしまったと思っていた…私の大切な人。
フリード君の顔が…。
お互いの顔がゆっくりと近づいていき、その唇が重なろうとした瞬間でした。
「悪いな…この子は、お前に喰わせていい人間じゃねぇんだよ」
此処に居る筈の無い彼の声が聞こえ、身体がレイナーレ様から離されます。
思わず視線をレイナーレ様から外すと、其処には。
「フリード…君?」
彼…フリード君がレイナーレ様に剣を向けていました。
-Knight side-
腕の中に居るアーシアの姿を見て、小さく安堵の息を洩らした。
「フリード君…どうして…」
アーシアが俺を見上げ戸惑いの声をあげているが、俺は未だに目の前に居る堕天使…いや、ホラーを睨みつけていた。
「あら、礼拝堂には私のかわいい子達がお出迎えしていた筈なのだけど」
「生憎、お前の子飼いは黄金騎士が相手をしてくれているよ」
ホラーは妖艶な笑みを浮かべて小さく首を傾げるが、俺の言葉を聞くや否や顔を顰めて此方を睨む。
「そう…じゃあ、手早く貴方を殺してアーシアを戴かなくちゃね!」
俺を睨みつけていたホラーは、光の槍を複数作り出し俺に向けて投擲してくる。
それを魔戒剣で捌きつつ、アーシアを背後に庇って俺は構えた。
「はぁッ!」
ホラーは俺に接近すると拳や蹴りを繰り出してくるが、それを腕で捌くとホラーの胸部を剣で斬りつけ、頭部に上段の回し蹴りを叩き込んで大きく吹き飛ばす。
「ちっ…魔戒騎士…!」
俺の蹴りで5m程飛ばされたホラーはゆっくりと身体を起こすと身体に力を込め、その身体を翼で覆い隠した。
そして、再び翼を広げたとき…そこに堕天使の姿は無かった。
焼け爛れたような黒い右半身に、女神を彷彿とさせる左半身。
それが、ホラー…エロスが堕天使の陰我から得た姿だった。
「…此れで全部か」
「そのようね」
最後のホラーを切り捨て、姿が消失するのを見届けると俺と黒歌は小さく息を吐いた。
だが、油断は出来ない。
本命であるホラー…エロスがまだ残っているのだ。
「アーシア!」
不意に、大きな音で扉が開かれ声が教会内部に響き渡る。
視線を声の聞こえた方向に移動すると、其処には何時か見た少年達3人が立っていた。
「!アンタ達は…」
「グレモリーの悪魔か…」
『やれやれ、面倒な事になったな』
目を細めながら少年達を睨み呟くと、教会自体が大きく揺れ地面に亀裂が走る。
其の瞬間、床の一部が崩れ複数の人影が礼拝堂へと飛び込んできた。
一人は救出に向かっていたフリード…その腕の中には金髪の少女が抱きしめられている。
対してもう一人…いや、もう一体は異形の姿だった。
『小僧』
「あぁ…黒歌!」
「分かってるにゃ!」
ザルバの声に反応し剣を構え黒歌に声を掛けると、黒歌はフリードから少女を受け取って背後に下がる。
「光牙さん!」
「フリード…間に合ったみたいだな」
「えぇ、ギリギリでしたけどね」
俺の側に来てホラーと向き合うフリードを見ると、その顔は突入前と比べ幾らか穏やかなものに変わっていた。
『くっ…よくも私の邪魔を!』
「ホラー【エロス】…貴様の陰我、此処で断ち切る」
忌々し気に声を荒げるホラーを見据え剣を振るい円を描き、鎧を召喚すると、俺達はホラーへと跳躍した。
-??? side-
暁光牙と黒歌、フリードの3人がホラー【エロス】と相対している頃。
教会の裏手にある森ではリアス・グレモリーと姫島朱乃の二人が堕天使と対峙していた。
「あなたたちがシスターの神器を狙っているのなら、放っておく訳にもいかないわ」
木の枝に佇む堕天使達を睨みつけ、リアスは口を開く。
だが、3人の堕天使は口元を歪め…やがて大きな声で嗤い始めた。
「あのシスターの神器は確かに狙っていたが…もうどうでも良いのだよ」
「我々は、代わりに兄弟な力を得たからな!」
ひとしきり嗤い落ち着いたのか堕天使は、口元を歪めたままリアスと朱乃を白く濁った瞳で見つめ黒い翼を広げた。
堕天使から漂う異様な気配…不気味さを感じ取ったリアスは一歩後ずさる。
しかし、彼女とて上級悪魔グレモリー家の次期当主。
その身に背負うプライドで踏みとどまると朱乃へと指示を飛ばした。
「朱乃!」
「はい!」
リアスの言葉に首肯くと朱乃は掌を堕天使へ向け雷撃を飛ばす。
並の堕天使や悪魔ならば立っていられない程の強力な雷が襲いかかっているというのに、堕天使…ドーナシーク達は回避しようとする素振りすら見せない。
余裕ぶっていた割には呆気無い終わり…雷撃が堕天使に直撃するのを見届けていたリアスは内心そう感じていたが、煙が晴れた先を見ると目を見開いた。
「なんだ、この程度か」
「存外たいした事ないのだな」
「レイナーレ様には感謝っス」
朱乃が放った雷撃をまともに受けてなお、3人の堕天使は無傷で立っていたのだ。
「っ、もう一度よ!」
切羽詰まった様子のリアスの指示に、朱乃は自身の中でも最大威力の雷撃を放つ。
これならば立っていられる訳が無い。
そうリアス達は確信していた。
だが。
「そんな…」
堕天使達は膝をつく様子など微塵も無く、ただ悠然と雷撃の降り注ぐ中で立って此方を見ていた。
朱乃の雷撃が駄目でも自身の持つ力なら…。
「それなら、これでも食らいなさい!」
その身に紅の魔力を迸らせ、リアスは掌から魔力の塊を堕天使めがけて放つ。
リアスの母方であるバアル家から受け継いだ【滅びの魔力】だ。
如何なるものでも、この力を受けて滅ばない筈が無い!
魔力弾が堕天使に直撃し、爆音と土煙が巻き上がる。
此れならば、さすがの3人でも…。
不安とプライドに揺れ動かされながらも、リアスは表情険しく誰も居ないだろう空間を睨みつける。
しかし、現実というものは時に非情だ。
土煙の中から聞こえる足音にリアス達は目を見開き、其の顔を次第に蒼く染めていった。
「グレモリーの滅びの魔力…確かに以前の我々ならばまずかったかもしれないな」
「あぁ…だが」
「今のウチらなら、どうってことないっスね」
リアスが放った滅びの魔力を受けてなお、堕天使達は立っていた。
先程と違うのは、其の身体に微かに傷を負っている程度だろうか。
「次は、此方の番だな」
堕天使の一人、ドーナシークが口を開くと3人の堕天使は其の手に光の槍を生み出し、リアス達へと投擲する。
「キャァッ!」
咄嗟に結界を展開したことで直撃は免れたが、リアスと朱乃は堕天使が放った槍の威力に耐えきれず弾き飛ばされる。
その間にも、ドーナシーク達は不気味な笑みを浮かべ、濁った瞳を向けたままリアス達のもとへ一歩、また一歩と歩み寄ってくる。
中級程度の堕天使だと聞いていたのに、この強さは上級…いや、それ以上。
情報とはまったく違う3人の様子に二人は恐怖した。
「そう言えば、人間は食べたけど悪魔って食べた事ないっスよね?」
「ふむ…今までならば穢れると忌避していたが、私も興味があるな」
「ならば、軽い夜食とでもいこうか」
自分たちを見て話す堕天使達の言葉を、最初は理解出来なかった。
だが、彼らが自分たちに向ける視線が…それが食べ物を見るそれである事を察知したリアスは息を呑み、自らの耳を疑った。
あの3人は、自分たちを食べると言わなかったか?
必死に、何かの間違いだと考えている間にも堕天使は手が届く距離へと近づいていた。
「美味しいか分からないけど、いっただきまーす」
ゴスロリの服を着た堕天使…ミッテルトが舌舐めずりをしながらリアスへと手を伸ばす。
其の様子から彼女達が言っている事が偽りなく、自分たちを喰おうとしている事を理解したリアスはこれから起こるだろう出来事に身を縮ませ、目を閉じる。
「…?」
しかし、予期していた事は起きなかった。
ミッテルトに身体を掴まれる感触も、先程まで感じていた不気味な視線も感じない。
恐る恐る目を開き…リアスは【彼】を見た。
黒に近い濃緑色の外套を纏い、自身に背を向ける一人の男。
彼が、自分たちと堕天使の間に割って入ったのだ。
「…大丈夫みたいだな」
微かに視線をリアス達の方へ向けながら呟くと、男は前に立つ堕天使を見据える。
「っ…貴様、何者だ?」
「俺が誰かなんて、分かっているんだろう?」
ドーナシークの言葉に皮肉気に笑みを浮かべると、男はライターを取り出し3人の前に翳すと躊躇い無く火を灯す。
青みがかった翠色の炎が3人の目を照らしたとき…その目に魔導文字が浮かび上がり、ホラーであることを証明する。
「…魔戒騎士か」
炎を見たドーナシークは忌々し気に呟くと男に向けて槍を投擲する。
だが、男はコートから一本の剣を抜き涼し気な顔でドーナシークが放った槍を弾き返した。
「あの槍を、剣一本で…」
其の様子を見ていたリアスが驚いたように目を見開く。
リアス達が驚いているのを他所に、3体のホラーは男に接近し、各々の槍で貫かんと襲いかかる。
ドーナシークの腕を蹴りでいなし、ミッテルトの槍を刃で逸らす。
だが、その背後ではカラワーナが空中から槍で男を狙っていた。
「危ない!」
リアスは咄嗟に男へ声を掛ける。
その声も遅く、カラワーナの槍は男に向けて投擲される。
滅びの魔力を使おうにも遅い…そう思っていた瞬間だった。
「二人掛かりで此方の動きを塞いでいるうちに、背後からの奇襲…なかなか考えたな」
だが、男は冷静に槍を手にした
「両刃長剣の二刀流…やはり、貴様は…」
男の両手に握られた剣を睨みつけ、ドーナシーク達は身構え…ホラーとしての姿を現す。
「なに…あれ」
「悪魔…でも、あんな姿見た事ありませんわ」
実際にホラーを目の当たりにしたリアスと朱乃は、その姿と身体から放たれる邪気に悪寒を感じる。
其の先…男は二人に背を向けたまま腕を交差し、頭上に剣を掲げる。
「本来なら俺にくだされた指令ではないんだが…」
男は小さく呟くと、流れるような動作で頭上に二重円を描く。
頭上に描かれた二重円は空間を魔界と人間界を繋ぐ門となり、男の身体を翠色の閃光が包み込む。
光が止んだとき、其処に立っていたのは一人の『騎士』だった。
全身は各所に刃を備えた翠色の鎧に包まれ、同色の兜は耳が角のような造形となった紅の眼を持つ狼の貌。
手にした両刃の長剣は反りの無い片刃の大剣に姿を変え、そよ風のように時に優しく、時に荒々しい嵐の様にホラーを薙ぎ払う。
其の名は、烈風騎士・狼嵐。
『貴様達の陰我、断ち切らせてもらう…!』
-Knight’s side-
『ハァァアッ!』
エロスに向かって跳躍したフリードが、手にした大剣でその身体を両断する。
「やった?!」
両断されたエロスを見て、茶髪の少年が歓声をあげる。
しかし…。
両断されたエロスの身体…その断面から、失われた部分を取り戻すように新たな肉体が再生した。
『増殖…いや、分裂か!』
『ヤツは二体で一体のホラーだ、封印するには同時に斬るしかない』
その様子を見ていた俺の言葉に、ザルバがヤツの情報を教えてくる。
二体で一体のホラーか…厄介な相手だ。
「光牙!」
『あぁ、フリード!』
ザルバの言葉が聞こえたのか、黒歌は魔導筆に術を込めると青色の光球を此方に向けて放つ。
黒歌の言葉と放った術に意味を察知した俺は、光球を牙狼剣で受け止めると、刃に込められた術の力をフリードの持つ閃刃剣にも譲渡する。
刃で黒歌の術を受け取った俺達は、壁を足場に跳躍しエロスの身体へと刃を振り下ろす。
寸でのところでエロスは俺達の刃を躱すが、その腕には微かに斬り裂いた傷が浮かんでいる。
其の瞬間を、黒歌は見逃さなかった。
「…はぁっ!」
黒歌が筆をエロスへ向け、術を発動される。
すると、傷口同士に魔導力で作られた色が生まれ、分裂したエロスは互いに其の身体を引き寄せ合った。
『オォォォォォォ!』
『ハァァァァァァアッ!』
互いに身体を引き寄せ合ったエロスを睨みつけ、俺は牙狼剣でエロスの身体を貫き、フリードは魔導火を纏わせた刃でその身体を両断した。
既に分裂しているうえ、その身体も牙狼剣で貫かれ逃れられないエロスは、断面を基点に其の身を燃やしていく。
『いや…私は、まだあの方達に愛されていない…!』
身体を燃やしながら、エロスは憑依していた堕天使の姿に変わり、手を伸ばす。
「ふざけんなよ…!」
茶髪の少年が苦痛の表情を浮かべ、エロスを睨みつける。
微かに涙を滲ませながら、少年はいつの間にか左腕に紅い篭手を装着し一歩、また一歩と近づいていく。
「誰かを本気で愛したこともないヤツが…人に愛される訳ねぇだろうが!」
そう言うと、少年は左腕を大きく振りかぶり…まだ燃えていないエロスの顔面を思い切り殴った。
顔面を強く殴られ、其の眼を見開いてエロスはその身を消滅させる。
「…グッバイ、俺の初恋…」
エロスが消滅するのを見届けた少年は、哀しそうな眼で先程までエロスが居た場所を見つめていた。
「フリード君!」
「アーシア…」
鎧を解除した俺達のもとに金髪の少女が駆け寄り、フリードに抱きつく。
最初は驚いていたようだが、フリードは少女の頭を撫でながら小さく笑みを浮かべる。
「…さて」
フリード達の様子を見て小さく笑みを浮かべるが、改めて少年達を見据える。
彼らは各々臨戦態勢に入って俺達を睨みつけていた。
「ホラーを無事に討滅できたようだな」
「
其の瞬間、教会の入り口から聞き覚えのある声が聞こえる。
声のする方へ全員が視線を向けると、其処には元老院付きとなった師匠が居た。
それだけじゃない。
「部長?!」
師匠の隣には、リアス・グレモリーともう一人、彼女の眷属が立っている。
何故師匠が二人と一緒なのか問おうとした時、教会の中央に魔方陣が浮かび…二人の人物が現れた。
紅の髪の男と銀髪のメイド服を纏った女だ。
「っ…、黒歌?」
突如現れた二人から感じる強者の気配に刃を構えるが、隣に立つ黒歌の怯えた表情に表情を浮かべる。
「…なんで、此処にルシファーが…」
ルシファー…黒歌が以前話してくれた、悪魔の話を思い出した俺は男を睨む。
この男が…冥界を束ねる魔王の一人。
「お会い出来て光栄です…光の騎士殿」
そう言うと、俺を見て男…サーゼクス・ルシファーは小さく笑みを浮かべた。
俺様が直々に、お前達に魔戒の話をしてやろう。
聞いたらもう、後には引けないぜ?
次回【魔戒】
闇の世界へようこそ
ホラーファイル No.05
エロス
アーシア・アルジェントの神器を奪い、アザゼルとシェムハザの寵愛を受けようと企んだ堕天使レイナーレの持つ陰我に引き寄せられ、憑依したホラー。
他者に偽りの愛を齎し、幸福感に満たされた相手を食らう事を好む。
ホラーとしての姿は、焼け爛れた黒い甲皮に覆われた右半身と【闇を照らすもの】に登場した女神像に似た左半身を持つ。
2体で1体のホラーであるため分裂能力を持つ為討滅が難しいほか、自身より下級に位置するホラーを人間界に召喚することが出来る。