佳奈多アフター~It's a Wonderful Cross Life~ side Kanata   作:月の海

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おわりとはじまり 前編

智「よかったなとも」

 

と「たかいたかーい」

 

朋「あ、こら、あんまり暴れるなよ」

 

岡崎さんがともを肩車している。

 

智「なにもついて来なくてもよかったんだぞ?」

 

佳「あら、親子の団欒を邪魔しちゃったかしら?ねぇ、パパさんママさん?」

 

ともは岡崎さんをパパ、智代さんをママと呼んでいる。

 

智「い、いや、うんそんなことはないぞ?」

 

葉「まぁいいじゃないですカ。ともも皆で一緒の方が楽しいですよねー」

 

と「うん!おにいちゃんたちがいればもっとたのしいよー」

 

佳「ごめんね、とも。理樹お兄ちゃんは今日お仕事が朝早くてね」

 

河「鷹文は直接学校行ったんじゃないかな」

 

と「ざんねん」

 

佳「その分帰ってきたら一緒にまた遊びましょう?」

 

と「わかったー」

 

朋「ほら、そろそろ幼稚園着くから降りような」

 

岡崎さんがともを降ろすと今度は智代さんが手を繋いで歩き出す。

 

それは何も知らない人から見れば仲の良い親子にも見えるかもしれない。

 

葉「…………」

 

葉留佳はその様子をじっと見つめていた。

 

私と同じことを思っているのかもしれない。

 

私は葉留佳の手を握った。

 

今は手を繋いで歩ける人がいるんだっていう気持ちを込めて。

 

葉留佳は最初こそきょとんとしていたがすぐに嬉しそうな顔をして私の握った手をぶんぶんと振り回した。

 

佳「ちょっと葉留佳」

 

葉「ねぇとも、皆で幼稚園まで手を繋いでいきませんカ?」

 

と「そうだねーそのほうがたのしいよー」

 

葉「じゃあ決まりだね」

 

朋「ちょっと待て、俺もか?」

 

河「当たり前じゃん」

 

朋「男、俺一人なんだが」

 

確かにこの状況で手を繋ぐのは男の岡崎さんには恥ずかしいだろう。

 

河「ともさんともさん、あいつ手を繋ぎたがらないんですよ」

 

と「もーだめだよ、パパもつながなきゃ」

 

朋「手を繋ぐと腕がとれちゃうんだ」

 

岡崎さんがとんでもない嘘をついた。

 

でも流石にともだって―

 

と「えー、それはたいへんだよ!つないじゃだめだよー」

 

信じるの!?

 

純粋なのはいいけどこれは危険じゃないかしら?

 

智「こら朋也、変な嘘をつくな」

 

朋「わかったよ」

 

しかたなくといった感じに岡崎さんが手を繋ぐ。

 

と「パパだいじょうぶなのー!?」

 

朋「あぁ、今治ったんだ」

 

と「よかったー」

 

無邪気に喜ぶともに一抹の不安を感じずにはいられなかった。

 

 

 

先生「ともちゃん、おはよう」

 

と「おはよーございます」

 

ともはそのまま園内に入って行った。

 

先生はこちらに向き直って真剣な顔つきになった。

 

先「えっと坂上さんは?」

 

智「私だ」

 

先「親御さんが送りに来なかったのはどうしてなんでしょう?それに皆さんは?」

 

見るからに学生くらいの見た目の私達が気になったのだろう。

 

佳「私達は智代さんの友達です。智代さんのご両親は忙しいそうなので私達が来ました」

 

戸惑っていた智代さんに代わって私が答えた。

 

先「そうなんですか…ともちゃんは…新しいおうちに迎えられたんでしょうか?そのことが心配で…」

 

智「新しいうち……うちがか?」

 

先「え…娘さんは聞いていないのですか?ともちゃんのお母さんからはそう伺っています。あの子は坂上さんの家の子になります、と」

 

智代さんが何かを言おうとしたが、岡崎さんが智代さんの手を握りそれを制した。

 

智代さんは動揺していた。

 

当然のことだろう。

 

そのことを微塵も考えていなかったのは智代さんだけだっただろうから。

 

先「あの子のお母さん…三島さんは、とても子供思いで優しい方でした。でも、精神的に少し弱い人で…あの子を手放したことで思いつめていないといいんですけど…ともちゃんは昨日は元気でしたか?」

 

智「…………」

 

河「うん、元気に私達と遊んでたよ。先輩にすっごく懐いてる」

 

何も喋らなくなった智代さんの代わりに河南子が答えてくれた。

 

先「そうですか。優しいお姉さん達がいるなら、大丈夫ですね」

 

智「…………」

 

智代さんは終始呆然としたままだった。

 

朋「学校ちゃんと行けよ」

 

岡崎さんはすぐに仕事場に行かなければならなくなったらしい。

 

朋「佳奈多、葉留佳、河南子、智代を頼む」

 

佳「えぇ、お仕事頑張ってね」

 

朋「すまない」

 

岡崎さんは走り出しすぐに見えなくなった。

 

誰もいなくなった歩道に立ったままの智代さんは一向に歩き出そうとしない。

 

佳「そろそろ行かないと間に合わないわよ」

 

智「……なぁ……あの子は何も知らないんだ……」

 

河「…………」

 

智「お父さんに会えるからって家の前まで連れてこられただけなんだ」

 

葉「…………」

 

智「たちの悪い悪戯か……そんなことしたら可哀想だろ……あんないい子なのに……可哀想じゃないか……」

 

佳「そうね……だからといって貴女がここにいても何にもならないわ。貴女のすべきことは学校へ行くこと、そしてあの子と一緒に弁当箱を買いに行ってあげることよ」

 

智「……うん…」

 

頷いてようやく歩き始めた。

 

その様子を私達は黙って見送った。

 

葉「大丈夫ですかね」

 

佳「どうかしらね?少なくとも今日の授業の内容は頭に入らないでしょうね」

 

河「先輩なら帰る頃には立ち直るよ、ともにあんな姿見せるわけにはいかないし」

 

佳「だといいけど」

 

学校に向かう智代さんの背中はいつもより小さく見えた。

 




鷹「ウチの方にはやっぱり何も話してなかったみたいだよ」

佳「そう…やっぱりね」

鷹文君はとりあえず状況報告に来た。

智代さんは隣の部屋でともとぬいぐるみで遊んでいた。

弁当箱を買いに行くついでにおもちゃ屋さんも覗いたらしく、気に入ったものを衝動買いしたらしい。

今度神北さんに頼んでぬいぐるみを貸してもらって私も混ざろうかしら。

理「とりあえず捜索願いを出しておいた方がいいんじゃないかな」

鷹「さっき兄ちゃんにも電話で言われたよ。明日には出しとくって」

理「繰り返しでごめん」

鷹「いいよ、元々理樹兄ぃ達には関係ないことなのにここまで親身になってもらって感謝してもしたりないよ」

佳「他に何か出来ることがあったら遠慮なく言うのよ」

鷹「ありがと。そろそろ兄ちゃん達の方に行ってくるよ」

佳「待って、私達も行くわ」

出るとちょうど岡崎さんが仕事から帰ってきたところだった。

鷹「あ、お帰り兄ちゃん」

佳「お帰りなさい」

理「お疲れ様」

朋「あぁただいま。今からウチに来るところか?」

佳「えぇ」

朋「智代はどうしてる?」

鷹「ともと二人で遊んでるよ」

朋「そうか。とりあえず中入るか」

岡崎さんを先頭に部屋に入った。

朋「ただいま」

鷹「ただいま」

智「ほら見ろ。あの二人は男同士なのにできてるんだ。待ち合わせて帰って来てるんだぞ。気持ち悪いだろう。きもいと言ってやれ」

と「きもいー」

朋「そんな言葉覚えさせるなよ。意味も分かってなさそうだし」

理「それに僕達もいるしね」

智「あぁ、理樹に佳奈多、いらっしゃい」

朋「それ、どうしたんだ?」

ぬいぐるみを指して岡崎さんが尋ねた。

智「お弁当箱を買いに言ったついでにおもちゃ屋さんにもよってそこでともが気に入ったものを買ったんだ。ここには遊べるものがないしな」

智代さんはくまのぬいぐるみを動かしながら答えた。

智「お金のことなら心配ない、小遣いは結構貯めてあるんだ。弁当箱もちゃんと二人で選んで買ったんだ。すごく可愛い…すごく可愛いの見つけたんだ…」

智代さんの声が徐々に弱くなっていく。

智「とももこれで明日から皆と同じお弁当だ……私が毎日作る……楽しくて、温かい毎日だ……」

智代さんのくまがうなだれるようになった。

その頭をとものぱんだがよしよしと撫でる。

智「…ともっ!」

それに感極まったのだろう、ともの小さな体に抱きついた。

と「どうしたのー、ともがきくよー?」

何も知らないともがそれを無邪気に受け止めた。

と「だいじょうぶ、だいじょうぶ」

ともは智代さんの背中を撫でた。

私達はその光景をただ黙って見守るしか出来なかった。
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