佳奈多アフター~It's a Wonderful Cross Life~ side Kanata   作:月の海

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理「ごほっ……ごほっ……ごめんね、佳奈多さん」

布団を深くかぶり頭に氷嚢を乗せた理樹が申し訳ないといった様子で言う。

佳「私のことはいいのよ」

理樹は風邪を引いていた。

佳「元はといえばあの馬鹿のせいなんだから」


SNOW WARS epilogue

それは昨日の雪合戦でのことだった。

 

雪合戦は公園に集合したのはいいものの人数が多すぎたため急遽河原で行われることになった。

 

そして戦いも中盤、調子に乗った井ノ原が投げた雪玉が猫に当たった。

 

棗さんはそのことに怒りハイキックを繰り出す。

 

そこまではいつもの彼らのコミュニケーションとも言えるものだった。

 

ただ一つ違ったのはその井ノ原の吹っ飛ぶ射線上に理樹がいたことだった。

 

しかも、その延長線にあるのは川。

 

足を雪に取られて理樹は回避できなかった。

 

あの巨躯にぶつかられては線の細い理樹ではひとたまりもなく、そのまま二人で川に落ちてしまった。

 

宮沢がすぐさま川に飛び込み急いで理樹を引き上げた。

 

12月の川なんて寒いなんてものじゃないだろうに「俺のことはいいから早く理樹を!」とあくまで理樹を助けようとする宮沢は不覚にも格好いいと思った。

 

今度は棗さんが宮沢から理樹を受け取りお姫様抱っこで走り出した。

 

私はそれに追従した。

 

家に着くとすぐに濡れた衣服を脱がせ、暖房の前に座らせた。

 

それでもまだ理樹は震えていた。

 

「後はお前の仕事だな」と棗先輩は部屋を出た。

 

気をきかせてくれたのだろう。

 

私は震える理樹を少しでも温めるためにしばらく抱き締めた。

 

熱を取り戻した理樹はそのまま眠りに落ちた。

 

 

 

そして現在に至る。

 

「風邪をうつすと悪いから」という理樹の意向で葉留佳はお隣に退去中だ。

 

今頃ともや河南子と遊んでいるだろう。

 

佳「まったく、今度会ったらただじゃおかないわ」

 

理「真人も悪気があったわけじゃないから許してあげてよ」

 

佳「理樹がそう言うなら私から手を下すのはやめとくわ」

 

あの後、クドリャフカから聞いた話によると井ノ原は来ヶ谷さんにボコボコにされたらしい。

 

さらに駄目押しで一週間『理樹のトラウマ』の固定称号をつけられたそうだ。

 

理樹のことが大好きな井ノ原にとって理樹のトラウマになっているという称号はこれ以上ない罰だった。

 

実際トラウマになんてなってはいないけど。

 

佳「…すでにぼろぼろだし」

 

理「え?」

 

佳「そう言えば棗さんがカップゼリー持ってきてくれたけど食べる?」

 

理「あ、うん、もらうよ」

 

棗さんは自分の蹴りが間接的であったとはいえ理樹を川に落とすことになったのが気がかりだったようで朝早くに大量のカップゼリーを持ってやってきたのだった。

 

佳「すまなかったって伝えてくれって言ってたわ」

 

理「後でお見舞いありがとうって言いに行くよ」

 

一応棗さんも加害者なのだから被害者の理樹がお礼を言いに行くこともないんじゃないかと思ったが、こういうところが理樹の良いところだとも思った。

 

佳「でも棗さんが来たのはちょっと意外だったわ」

 

学校にいた頃は猫ばかり気にかけていて他者のことを気にもかけていないという印象が強かった。

 

少なくともお見舞いに来るようなタイプではないと思っていた。

 

理「あはは、鈴は人見知りするからぶっきらぼうな感じに見られがちだけど本当は仲間思いのいい子なんだよ」

 

「佳奈多さんにも知っていてほしいんだ」と嬉しそうに語る理樹。

 

これが小さい頃からずっと一緒にいて築いてきた絆なんだと思った。

 

思えば理樹を救出するまでの宮沢と棗先輩の連携はそういった信頼からの力だろう。

 

今回は棗さんと井ノ原のせいで起きたことだったから二人での連携になったが、いざという時この5人のチームワークに適うものはそうそうないだろう。

 

理樹にこんな風に嬉しそうに語らせる、そしてそんな理樹の私が知らないことまで知っている棗さんが少しうらやましかった。

 

佳「………ねぇ、理樹」

 

もしも理樹が棗さん達と出会ったその頃に、私達と出会えていたら―

 

理「どうしたの?」

 

―理樹は私達を好きになってくれた(たすけてくれた)?―

 

佳「…何でもないわ」

 

頭に浮かんだ問いを直接理樹に尋ねることはしなかった。

 

今こうしていることが答えだと思ったから。

 

不意に理樹が私の頭を撫でた。

 

佳「理樹?」

 

理「なんとなく撫でたくなった」

 

佳「そう…」

 

私はそれを拒まずにされるままに受け入れた。

 

撫でる理樹は風邪のせいか儚げで、どこか遠いところにいなくなってしまいそうで―

 

佳「理樹はいなくなったりしないわよね…?」

 

馬鹿げていると分かっていても聞かずにはいられなかった。

 

理「うん、あの日約束したよ?佳奈多さん…佳奈多のそばで愛し続けるって。その気持ちは変わらない、むしろ毎日どんどん愛おしくなってる」

 

佳「ありがとう、理樹」

 

『私も愛してるわ』

 

私はその言葉を口にしなかった。

 

なぜなら私の唇は塞がれているから。




理樹が寝た後、葉留佳を引き取りに行くと葉留佳は布団に寝かされていた。

佳「遊び疲れて寝ちゃったの?」

智「いや、熱があったから休ませたんだ」

佳「え?」

葉留佳は家を出た時そんな様子も見せず元気に出て行った。

佳「やせ我慢してたのかしら…?」

鷹「そういうわけじゃないよ、単純に気付いてなかったっぽかったし」

佳「どういうこと?」

智「普通に遊んでたんだが少し触れたらとても熱かったんだ。試しに計ってみたら39度あった」

佳「それってつまり」

鷹「自分が風邪なのにも気が付かないで遊んでたってこと」

佳「…………」

馬鹿は風邪を引かないんじゃなくて引いたことに気が付かないのね……

後日、男子寮で目を回して倒れている井ノ原が発見されたそうだ。
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