佳奈多アフター~It's a Wonderful Cross Life~ side Kanata   作:月の海

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Beginning to run  前編

智「河南子、話があるんだ」

 

智代さんが河南子の正面に座った。

 

河「ほへ?」

 

智「河南子」

 

改めて名前を呼んで向き合った。

 

智「だらだら過ごしていても、何も変わらない。よくしていくこと、それが大事なんじゃないか?」

 

河「よくしていくこと?」

 

河南子は怪訝な顔をした。

 

河「んーじゃあ、母親を説得して再婚止めてくれますか?」

 

河南子が岡崎さんのところに居着いているのは母親の再婚話が発端だった。

 

智「いや…それは私が口出しできることじゃない。でも、話し合って、お互いの気持ちをもっと知れば、よくなると思う」

 

河「うわ、教科書通りの説得だぁ」

 

佳「そんなにお母さんの再婚が嫌なの?」

 

河「嫌」

 

河南子は短く拒絶の意を示した。

 

佳「それは亡くなったお父さんのことが引っかかってるの?」

 

河「もちろんそれもあるよ。でも、それはさ…象徴なんだよね。先輩が信じてる、ずっと続いていく愛なんかないっていうさ」

 

智「…………」

 

河「そんなものがなかったらさ…楽しく生きたもん勝ちじゃん。あたしはさ、ここでだらだら暮らしてるのが好きなんだ。楽しいから。苦しいこともないしさ」

 

切実なその言葉に私も智代さんも何も返せなくなった。

 

鷹文君のキーボードを打つ音だけが響いていた。

 

ともだけが不思議そうに、私達の顔を無遠慮にきょろきょろと見回していた。

 

あーあ、冬休みだってのにテンション下がっちった…とも肉まんでも買いにいこっか」

 

と「いくー」

 

河南子は立ち上がり、ともを連れて部屋を出ていく。

 

智「河南子は…」

 

ドアが閉まってから、智代さんが口を開いた。

 

智「ああはいうが、苦しいんじゃないだろうか。なんだか…救いを求めているように見えた」

 

佳「そうね」

 

智「助けてあげたい」

 

カタカタカタカタ

 

鷹文君のキーを打つ音が一際大きくなっていた。

 

これ以上聞きたくないということね。

 

佳「鷹文君少し姉さんを借りるわね」

 

鷹文君の答えを待たず智代さんを連れ出した。

 

 

 

佳「河南子が救いを求めているとしたら、それは鷹文君によ」

 

歩きながら話し始める。

 

佳「最初からあの子の目的は鷹文君に会うことだったみたいだし、あの子は今もきっと鷹文君が好きよ。だから確かめに来たんじゃないかしら、鷹文君もまだ自分のことを好きでいてくれてるってことを」

 

智「うん…そうだな。私もそう思う」

 

佳「でも、何かがふたりを割いているんでしょうね」

 

智「そうなのか…?」

 

佳「たぶんね。問題はふたりが別れた時、三年前に何があったかよ」

 

智「三年前か…」

 

智代さんはすっと目を細めた。

 

佳「鷹文君が家族を繋ぎ止めるために公道に飛び出しだのも、河南子がお父さんを亡くしたのも、ふたりが別れたのも全て三年前。智代さん、三年前に起きたことを知っている範囲で教えてくれないかしら」

 

しばらく沈黙した後…

 

智「河南子の父親は、陸上部の顧問だったんだ。鷹文はその人を慕って陸上をしていた。長距離走者だった。その父親が亡くなったのは鷹文が公道に飛び出した三ヶ月後。鷹文が退院して少ししてからのことだ。元から心臓が弱い人で…心臓発作で倒れてそのまま…」

 

智代さんは一度そこで言葉を切った。

 

智「そして…それを境に鷹文と河南子は疎遠になった。私が知ってることはこれだけだ。悲しいことにな」

 

佳「十分よ。後は鷹文君に直接聞くわ」

 

智「それは容易なことじゃないぞ」

 

先程の鷹文君の様子を思い出す。

 

佳「分かってるわ」

 

智「どうするんだ?」

 

佳「話を…してみるわ。出来れば二人で」

 

智「わかった、私は少し出ていよう。鷹文を頼む」

 

私は一人で鷹文君のいる部屋に戻った。

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