佳奈多アフター~It's a Wonderful Cross Life~ side Kanata   作:月の海

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Beginning to run  後編

鷹「おかえり、ってあれ?姉ちゃんは?」

 

佳「ちょっと出かけてもらったわ」

 

鷹「…………」

 

鷹文君はすぐに察したようだった。

 

鷹「それで、僕から三年前に何があったか聞こうってわけ?」

 

佳「半分当たりよ」

 

鷹「半分って?」

 

佳「まずは私の昔話を聞いてもらうわ」

 

鷹「は?」

 

佳「どこから話せばいいかしらね…」

 

私は鷹文君に全てを話した。

 

家のこと、葉留佳のこと、理樹のこと、私が話せることは全部。

 

佳「質問はあるかしら?」

 

鷹「何の前振りもなくとてつもなく重い話を聞かされた僕への配慮は?」

 

佳「ないわ」

 

鷹「ははっ即答」

 

佳「それじゃあ今度は鷹文君が話す番よ」

 

鷹「……ぜんぶ、教えてくれたんだ」

 

鷹文君が呟くように話し出した。

 

鷹「勉強も、運動することも、仲間を作ることも…生きることの意味もぜんぶ」

 

―それまで無気力に生きていたこと。

 

―恩師に誘われて陸上を始めたこと。

 

―河南子に出会ったこと。

 

―河南子に惚れたこと。

 

―河南子と付き合い始めたこと。

 

―家族を守るために恩師を裏切ったこと。

 

鷹「最後に言われたんだ…そんな奴に河南子が河南子がやれるものか、ってさ…そしてそれが本当に最後の言葉になった。僕はずっと、先生の言葉を待ち続けてたんだ…許しの言葉を…でも聞けなかった」

 

私は黙って聞き続けた。

 

鷹「その日以来、僕は夢を見る。全力で走ってる夢。周りがなんにも見えなくなるぐらいのスピードで…心臓がばくばくいって、破裂しそうで…それでも破裂しない限り、全速力でひた走る。ゴールのテープを切る。振り返ると、遥か地平線の向こうに、他のランナーたちが見える。滑稽なくらい小さい。僕はそれで勝ったんだと気付く。僕は、息を切らせながら、先生の元に駆け寄る。勝利の報告をする。そして、いつものように、これで河南子をくれますかって、訊こうとする…だけど、それ以上何も言えなくなる…先生は優しい顔で僕の言葉を待ってくれている。でも言い出せない。それは、僕が現実にあったことを知っているから。先生が、次に言う言葉は決まっているから…そんな奴に河南子がやれるものか、って…だから、僕はもう何も言えない…ただ先生の前から逃げ出したい。先生が優しい顔のままでいるうちに。でも疲れきっていて、足は動かない。苦しくなって…もだえて…飛び起きる。もう、終わったことなのに…全部、終わったことなのに…今でもたまに見る。それは呪いみたいなものなんだ。僕の過ちの…」

 

鷹文君の話はそこで終わった。

 

鷹「ね、佳奈多姉ぇ」

 

佳「なに?」

 

鷹「すべて昔話だからね。もうすべて、終わってるんだ。僕はもう、河南子のことが好きじゃない。ただ、たまに昔のことを思い出して、夢でうなされるだけ。それも少なくなってきてる。すべては、時間が解決してくれる。便利なもんだね。だからさ…くれぐれも、ねぇちゃんに話したりしないでよね」

 

それだけ言い残して鷹文君は自分の家に帰っていった。

 

 

佳「…というわけよ」

 

私は帰ってきた智代さんにすべてを伝えた。

 

今この場にいる岡崎さんと理樹、それに偶然遊びに来た棗先輩と神北さんにも聞いてもらった。

 

智代さんは涙を流していた。

 

と「わー、ともがはなしきくよ、なになに」

 

話を理解していないともが智代さんをなぐさめていた。

 

ともを抱きしめて、顔を上げた。

 

智「鷹文ひとりが…すべてを犠牲にしてたんじゃないか…私たち家族のために…」

 

朋「そうだな…」

 

智「夢でうなされてるのも知ってた。わけを訊いても、教えてくれなかった」

 

朋「あいつはさ…夢の中で、今も走り続けてるんだ。ずっと苦しみながら。救ってやってくれ」

 

智「うん…」

 

智代さんは手の甲で瞳に湛えた涙を拭った。

 

智「あいつを幸せにする」

 

小「きっとできるよ~」

 

河「たっだいまー」

 

出かけていた河南子が帰ってきた。

 

河「うわっ、修羅場?」

 

泣きはらした智代さんを見て引いていた。

 

智代さんは立ち上がると河南子に近づいた。

 

河「え、なに…ん、やんのかっ……うわっ」

 

構えかけた河南子を抱きしめる。

 

河「え?あたしに乗り換えんのっ?」

 

智「河南子…こんなにも長い時間…つらい思いをさせてしまった…許してくれ…私が絶対に、お前を幸せにする…」

 

河「は、はぁ…」

 

河南子は唖然としたままだった。




次の日、智代さんが鷹文君にマラソン大会に出るように言ったらしい。

一度決めてしまえば曲がらないのは弟である鷹文君が一番理解しているのだろう、鷹文君は練習を始めた。

その日は路上で倒れていたらしい。

見舞いに行くと「頼んだのになんで言っちゃうかな」という視線でこちらを見ていた。

でもそれは見当違いだわ。

だって私、あの時了解の返事してないもの。

とにかく、マラソン大会は次の日曜日だ。

これで鷹文君の言うところの呪いが解ければいいのだけれど…
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