佳奈多アフター~It's a Wonderful Cross Life~ side Kanata 作:月の海
もうじき夜が明けるのだろう。
今日は彼が目覚める日だ。
何度繰り返してもこの日はつい一晩中付き添ってしまう。
一応仮眠はとっているがもしかしたらクマができているかもしれないので手鏡で確認する。
私だって女の子だ、好きな人の前では綺麗でいたい。
…うん、大丈夫。
幾度となく繰り返した今日を私はもう一度始める。
さぁ――Restart――
早朝。
以前学校へ行っていたよりも早く、駅に集合していた。
それぞれ大きめのカバンを持参した。
何日間の旅行になるか分からないので数日分の着替えなどが入っている。
朋「忘れ物はないな」
河「んなことしるかー」
智「大丈夫だ」
佳「平気よ」
葉「準備万端絶好調ですヨ」
理「うん、大丈夫」
唯「問題ない」
ちなみに出来るだけ品行よく見せるため、岡崎さん以外は皆制服だ。
まぁ3種類の制服の集団は傍から見るとむしろおかしく見えるかもしれないけれど。
河南子や葉留佳は特に気を付けなければいけないのであらかじめ厳重注意しておいた。
智「それより、旅費の方が心配なのだが…」
朋「…まぁ、寸志もらったからな」
岡崎さんは仕事場の親方さんからある程度もらっていたらしくそれを今回の三人分の往復と宿代に充てるらしい。
私達はというと普段切り詰めた分だけではどうしても心許なかったので両親達に事情を説明して援助してもらった。
流石にお隣の家の隠し子の母親に会いに行くとは言える訳もなかったので人助けのためとだけ話したが、両親達は納得してくれた。
今度会ったときは肩でも揉んであげようかしら?
朋「時間、大丈夫か?」
智「あと20分くらいあるな」
河「ねー、アイス買っていい?」
朋「仕方のないやつだなぁ…」
葉「あ、私も食べたい。いいでしょお姉ちゃん?」
佳「はぁ…仕方ないわねぇ」
葉「やった」
河南子と葉留佳は揃ってアイスの自販機に走って行った。
朋「お互い大きい子供を持つと苦労するな」
佳「えぇ…まぁそんなところも可愛いけれど」
朋「そうか?」
智「可愛いじゃないか」
唯「うむ」
それから私達は電車が来るまでアイスを頬張る二人を眺めていた。
車窓を流れていく景色は、それなりに楽しかった。
実のところ、この街を出たことのない私達は電車に乗るのも初めてだった。
一般知識としてどんなものかは知っていたけれど、こうしていざ乗ってみると新鮮味が感じられる。
車内販売もなかなか風情があっていいと思う。
葉留佳も同じようでさっきから辺りをきょろきょろと見回したり座席の感触を確かめたり落ち着きがなかった。
河「あ、アイス買ってーっ」
朋「仕方のないやつだなぁ…って、お前、さっきも食ってなかったか?」
そう言いつつも販売の女性を見つけると買ってあげていた。
割と溺愛してるんじゃないだろうか?
河「でも、こういうのもいいよねー」
アイスに噛り付きながら河南子は心底楽しいといった様子で言った。
河「あー、ともも連れてきてあげたかったなぁ」
…鷹文君は?
座っているのに体が強張りだした頃、私達はようやく目的の駅に到着した。
鷹文君が作ってくれた乗り換え案内によるとここから先はバスで行くらしい。
街道を抜け、山道に入る。
民家が少しずつ減っていき、その代わりに田畑と山林が広がっていく。
目的地のバス停に着く頃には私達しか乗客がいなくなっていた。
降りがけに岡崎さんがバスの運転手さんに話を聞くと、時々人の出入りがあるらしかった。
一本道だから迷いはしないが遠いと同情された。
理「まだ結構歩きそうだね」
智「とりあえず先に昼を済ませた方が良さそうだな」
とはいえ、店らしいものは目の前の小さな雑貨屋しかない。
河「あ、アイスも買っていい」
朋「仕方のないやつだなぁ…って、仕方ないことあるかっ!何本目だよっ」
あ、流石にツッコんだ。
智「まぁ、高いものでもなし、いいじゃないか」
朋「仕方のないやつだなぁ…」
そこでパンとアイスを買い求め、近くのベンチに座り昼食を済ませた。
冬によくアイスをそんなに食べられるものだ。
徒歩で山道に入る。
河「鬱蒼としてますな、うっそーってくらい」
智「この辺は、夏は涼しくなって気持ちよさそうだ。」
佳「住み心地がいいでしょうね」
智代さんが河南子のダジャレを素でスルーしたので敢えて私も乗ってみることにした。
河「先輩方、河南は傷付きました」
智「何をうなだれているんだ?」
前々から分かっていることだが智代さんにはツッコみの素質は皆無だ。
そういう意味では河南子と智代さんの相性は最悪なのかもしれない。
たぶん葉留佳とも。
今まで、誰かしらがツッコんでいたから河南子は自然に振る舞えてたのではないだろうか。
葉「まー、気持ちは分かりますヨ」
同類的なものを感じてか葉留佳が同情していた。
河「いいんだ、ひとりで雪うさぎ量産して動物園作るんだ…」
拗ねたように、しゃがみ込む河南子。
河「あぶなーーーい!雪玉トラップだああぁあーーーっ!」
ひょいひょいと雪玉を投げつけてくる。
岡崎さんと智代さんにいくつか当たった。
河「少しは避けろよ、お前ら」
朋「いや、お前こそ少し落ち着けよ」
河「あんたたちの危機感を試してみたんだよ。全然なってないね。これが鉛玉だったら、お前ら死んでたぞ」
唯「ほう?では君も戦死だな」
いつの間にか河南子の背後に回っていた来ヶ谷さんが河南子の背中に雪を入れた。
河「わひゃあ!?」
はっはっはと来ヶ谷さんが高笑いする中、岡崎さんが理樹に何か耳打ちしていた。
佳「何て言われたの?」
理「何があってもツッコむな、だって」
智代さんがすっと一歩前に歩み出た。
智「あのな、河南子」
河「うん?」
智「雪玉は鉛玉じゃないから、死なない」
河「…うん」
智「………」
河「………」
うわっ…この子の相性、悪すぎ…?
その後も河南子は必死にボケ続けたが智代さんに素で殺され続け、終いには「うあああぁぁーーっ!あたしの存在価値0じゃんっ」と泣き崩れてしまった。
あなたの存在はギャグがすべてなの?
そうこうしているうちに山道が途切れ、目の前に見えたのは、どこかで見たような田舎の風景だった。