佳奈多アフター~It's a Wonderful Cross Life~ side Kanata   作:月の海

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D.C.―ダ・カーポ―

最初に戻って繰り返す。

私が差し伸べる彼の手を掴まなければこんな悲しみは生まれなかっただろう。

きっと彼は愛すべき仲間達ともっと楽しい時を過ごせていたはずだ。

あのまま別々の道を選んでいればよかったのかもしれない。

出会わなければよかったのかもしれない。

でも、私は、私達は出会ってしまったから―

だから私は彼のそばにあり続ける。


母をたずねて約何里? 後編

辿り着いたそこは家が点在していて、大部分は畑のようだった。

 

高台には一際大きい建物があり、その周囲には人影が見えた。

 

智「…のどかなところだな」

 

河「でも見かけだけかもしれないよ。部外者だと知れたら、いきなり襲いかかってくるかも」

 

失礼極まりないわね。

 

河「用心して進みましょう。先頭はあたしがいきます」

 

河南子を先頭に、人のいる方へと歩き始めた。

 

あぜ道は舗装などされていなくて土がむき出しの状態だった。

 

先程の大きな建物に辿り着くと、門のそばに一人の男性がいた。

 

朋「あの、すみません。ちょっと訊ねたいことがあるんだけど」

 

男性は黙ったまま建物を指差すと畑の方へ走り去っていった。

 

唯「襲いかかるどころか逃げていったな」

 

朋「俺、そんなに怖いか?」

 

理「いや、そういうわけじゃなさそうだけど」

 

佳「とにかく、入ってみましょう」

 

木造の建物は外よりは暖かかった。

 

床はワックスがけもきちんとされていて、外観の割には手入れがしっかり施されていた。

 

朋「すみません」

 

岡崎さんの声が響くだけで返事はない。

 

朋「ごめんくださーい」

 

「…はいはい、聞こえてるわよ」

 

気だるそうにひとりの女性が現れた。

 

女性「いらっしゃい、何か用?」

 

葉「おぉ」

 

河「口きいてるぞ、この人、ひゃっほー」

 

智「こら」

 

智代さんが河南子をたしなめる。

 

朋「あの、ちょっと人を探してるんだけど」

 

女「ひと?誰を?」

 

朋「三島っていう人」

 

女「三島さん、三島さん…ああ、有子さんね」

 

少し名前を反芻した後、思い出したように言う。

 

朋「ここにいるのか?」

 

女「いるわよ。あんたたち、有子さんの知り合いとか?」

 

女性は私達を見定めるように見回している。

 

河「どっちかっていうと家族に近いね」

 

女「あれま、有子さんに家族いるなんて、初めて聞いたわ。しかもこんなにたくさん」

 

佳「私達は違います。ただの付き添いです」

 

河「こちらの先輩、智代さんって言うんですけど、三島さんは…えーと、何になるんでしたっけ?」

 

智「一応義理の母、ということになるか」

 

河「で、こっちの男が朋也で智代さんの彼氏」

 

朋「呼び捨てかよ…」

 

河「そのうち結婚するだろうから、こっちも家族ですね」

 

朋「勝手に決めるなよ」

 

唯「ほう、では智代君とはお遊びだと?」

 

葉「飽きたら捨てると?」

 

佳「最低ね…最低」

 

智「そうか…私はもてあそばれていただけだったのか…」

 

朋「ああー、くそっ、結婚前提だよ!これでいいか!」

 

智「朋也…」

 

女「はいはい、ごちそうさま」

 

見ると、目の前の女性はくすくすと笑っていた。

 

女「わかったわ、それでどうしたいわけ?」

 

朋「会わせてもらえますか?」

 

女「私の一存じゃ無理よ。本人に聞いてくるから、ちょっと待っててもらえる?」

 

女性は奥へと消えていった。

 

理「大丈夫かな」

 

ここまで来ておきながら最悪会えずに終わる可能性だってある。

 

そんなことも考えたがどうやら無駄な思考だったらしい。

 

許可が出たのか、女性が奥から手招きしてくれた。

 

廊下は一歩毎に、きし、きし、と音を立てる。

 

朋「…この建物、なんなんだ?」

 

岡崎さんが率直な疑問を口にした。

 

女「元々は病院なんだけどね」

 

朋「じゃあ今は?」

 

女「うーん、病院みたいなもの、かな」

 

女性はここの成り立ちを話してくれた。

 

戦前くらい女性の祖父が病院のなかったこの村にここを設立。

 

この村に住んでいる人は、町や都会に適応できなかった人らしく、どこか心を痛め、傷ついている人達を最初は治療の一環として入院してもらった。

 

その祖父が死んで以降、この人が管理人をしているらしい。

 

階段を登ると、一番奥の扉だけが閉まっていた。

 

そこが三島さんの部屋ならしく女性は軽くノックをした。

 

管理人「有子さん、大丈夫?」

 

すこしして、小さく、はい、と聞こえた。

 

確かに前に聞いた声だった。

 

部屋に入ると、三島さんはベッドから上体を起こして出迎えた。

 

管「じゃ、私は仕事に戻るから、何かあったら呼んでね」

 

それだけ言い残して管理人は戻っていった。

 

私達は勧められるままパイプ椅子に座り、向かい合った。

 

有「…どうして、ここが?」

 

朋「いろいろ調べてね。これとか」

 

岡崎さんが差し出した手紙は幾度となく読まれて封筒の角や便せんが擦り切れていた。

 

有「…消印ですか?」

 

朋「それもあるけど、決め手のひとつになったのはこっち」

 

岡崎さんは便せんを見せた。

 

朋「これ、珍しい和紙なんだってな。こいつが知ってたんだ」

 

来ヶ谷さんを指しながら言う。

 

有「そうですね…ここの特産品だそうですから。管理人さんが筆を使うならと持ってきてくださいました」

 

有子さんは私達の背後を窺った。

 

有「ともは…来ていませんでしょうか?」

 

佳「家で留守番しています。智代さんの弟さんが面倒を見てくれています」

 

智「しっかりした奴だから大丈夫だ」

 

有「そうですか…よかった」

 

理「どうしてよかったんですか?」

 

思いがけず理樹が発言した。

 

確かにわざわざ写真を求めるくらいの自分の娘に会いたくないはずがない。

 

それは疑問だった。

 

有「今更もう会えません」

 

智「それは…あなたが今もとものことを愛しているからだ」

 

智代さんが床を見つめたままつぶやく。

 

智「だから、会えなくてほっとしてるんだ…それは矛盾したような感情だ。でも、今なら分かるんだ、そんな心情も…そうさせる何かが起こりうることも」

 

そこまで言うと智代さんはゆっくり顔を上げた。

 

智「だから、聞かせてほしい…私達はそのためにここに来たんだ。あなたをそこまで追い込んだもの…それはなんなんだ?」

 

三島さんの目を真正面で見据えて言った。

 

三島さんは表情を変えず、止まったままだった。

 

その間、智代さんも瞬きすらせずその口が開くのを待った。

 

その真摯な思いが伝わったのだろう。

 

有「わかりました、お話ししましょう」

 

語られたのは、三島さんの半生。

 

身寄りがなく、ずっとひとりで夜の仕事をしていた。

 

智代さんの父親と出会い、初めて愛を知った。

 

そして絶望。

 

その中で、生まれてきた小さな命。

 

それを希望に生き始める新しい日々。

 

だが次第に生活はひっ迫し、娘を守るために夜の仕事を続けるしかなかった。

 

そのことで他の母娘との摩擦が起きる。

 

ともと子供を遊ばせてくれる親はいなくなっていた。

 

園内でも、ひとりきりで遊ぶともを見て自分が嫌になる。

 

それでも生きていくために働き続け、精神もぼろぼろになり、やがて過労で倒れた。

 

病院で知らされたのは、過労とは全く関係のないドラマで聞くような病名。

 

すでに手遅れであることをつきつけられる。

 

…錯乱。

 

自分ひとりの面倒も見ることが出来なくなった彼女は、ともを父親に託すことにした。

 

そうして辿り着いたのがここだった。

 

有「ここには何もありません。あるのは、ひっそりとしたその日の暮らしだけ。ここなら余生を過ごせると思いました。だから私は、この場所で暮らすことにしました」

 

 

 

私達は、入れられたお茶を飲んでいた。

 

誰もが押し黙り、告げられた事実を飲み下していた。

 

来ヶ谷さんは平然とお茶を啜っていたけど。

 

三島さんはやることがあると退室していた。

 

河「なんか言えよ…」

 

河南子が岡崎さんの膝をつつきながら囁く。

 

朋「それ、お前の役目だろ…」

 

河「重すぎるよ…こんな展開、予想だにしてなかったっての…今何言っても、笑えないじゃん…」

 

朋「お前のはいつだって笑えねぇよ…」

 

河「そんなこと今言うなよ…ショックだよ…軽く鬱入るよ…」

 

朋「思い出してみろよ…お前が来てから、誰か笑ってた記憶あるのかよ…」

 

河「…………」

 

思案する。

 

河「うわ、ねぇよー。なんだこれ、何でこんな時にあたし別のことでショック受けてんだわけわかんねー」

 

朋「今こそ挽回しろよ…」

 

河「今こそって、今笑わすの生きてきた中で一番難易度高いよ…」

 

佳「むしろ今なら笑えるかもしれないわ」

 

河「まじっすか…」

 

佳「えぇ、葉留佳あなたも協力しなさい。そのために来たんでしょ」

 

葉「突然無茶ぶりしないでくださいヨ!?」

 

朋「この空気を変えてくれ…お前達ならできる…否、お前達にしかできない…」

 

河「わかった…やってみるよ…」

 

しばし葉留佳と話した後、私達の前に立ち、口を開いた。

 

 

 

 

河&葉「ここまがるー」

 

 

 

 

朋「…………」佳「…………」

 

理「…いやいや、せめて何か言ってあげようよ!?」

 

朋「河南子、お前、アイス買いに行くんだろ?」

 

佳「葉留佳もよね?」

 

葉「いや、こんなところで売ってないし…」

 

佳「じゃ、作りなさい」

 

河&葉「………ハイ」

 

「がんばれば、できるんかなー…」とつぶやきながら二人は出て行った。

 

しばらくの沈黙の後智代さんが漏らした。

 

智「私があさはかだった…一方的に、母親が悪いと決めてかかっていたんだ…」

 

朋「知らなかったんだから仕方ないだろ」

 

智「でも、もう知ってしまった…」

 

智代さんは震えていた。

 

岡崎さんはその震える手を握り締める。

 

私達は何も言わず部屋を出た。

 

理「智代さん、大丈夫かな」

 

唯「たぶんしばらくはあのままだろう。真っ直ぐな分打たれ弱いからな」

 

佳「…………」

 

とものことを考えるなら母親一緒に暮らさせるべきだろう。

 

でも、いったいどうすれば…?

 

目的は達したがやりきれなさが残った。

 

 

これが私達が旅路の果てに得たものだった。

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