佳奈多アフター~It's a Wonderful Cross Life~ side Kanata 作:月の海
もちろん学校側の許可はとってある。
先生の覚えもよかったため交渉はとても楽だった。
こういう時は優等生をしていてよかったと思う。
皆からは制服で行くように言われたが流石に恥ずかしいので却下した。
二人、私服姿で敷地内を回る。
だか、彼が知っている人はもうここにはいないし、野球部も復活してしまっている。
記憶を取り戻すきっかけたるものは学校に残ってはいない。
それでも、もしかしたらとありえもしない淡い希望を抱き、私達は歩き続けた。
作業は少しずつだが着実に進んでいた。
私達には知識がないため、どうしても岡崎さん頼りになるしかなかった。
黒板みたいな露骨に使うものならまだしも、どのケーブルが役に立つのか、それが断線していないかどうかといったことは私達ではどうしようもない。
来ヶ谷さんはある程度分かるらしいが、正確さはやはり岡崎さんの方が上らしい。
岡崎さんに聞きながら作業をしていると時折葉留佳と河南子が冷やかしにやってくる。
そして、智代さんも。
昨日現れた智代さんはどうしてもともと別れることが受け入れられないのかどこか普段と比べおかしくなっていた。
そのため、岡崎さんは河南子達に智代さんを見守るように言いつけたのだった。
今日も作業を続ける。
岡崎さんが簡単に書いた図面を元に、配置場所を皆でああでもないこうでもないと話し合いながら組み上げていく。
河「ねぇねぇ、みてみて、いいでしょ、ホットケーキ!」
窓から外を見ると葉留佳達がクレープのように巻いたホットケーキを見せびらかしていた。
葉「なななーんと、中にはアイスが挟んであるのだぁー!」
朋「どうしたんだ、それ」
葉「一緒に作ったんですヨ」
朋「またか」
河「違うよ、村の人が一緒に作ろうって誘ってくれたんだよ」
理「へぇ…」
どうやらだいぶ村の人達と打ち解けてきているらしい。
河「みんなで楽しかったよ」
佳「それはいいけど、迷惑とかかけてないでしょうね」
葉「ちゃんとお礼も言ったし、みんな笑ってましたヨ」
朋「そっか、じゃ、その調子で仲良くな。あれ、お前達、智代は?」
河「あー、大丈夫、大丈夫、ちゃんと見てるってば。じゃあねー」
結局、食べ物を見せびらかしに来ただけだったらしい。
理「仲良くなれてよかったね」
佳「確かにね」
この村に来たばかりの頃は考えられなかったことだった。
午後になると、智代さんが訪れた。
智「なぁ、朋也…」
朋「うん…?」
智「先に帰ろうと思うんだ」
朋「どうして」
岡崎さんは手を止めて、智代さんと向き合った。
私達はというと手を止めず、二人の方は見はしなかったが話だけは聞いていた。
智「ともが心配なんだ…」
朋「鷹文がいるだろ」
智「あんな頼りない奴には任せておけない」
朋「お前、矛盾してるぞ。ともの母親には、しっかり者だから心配ないって言ってたじゃないか」
智「そういう意味じゃない…寂しい思いをしていると思うんだ…私じゃないと…約束したから…ともは私と遊びたいはずなんだ」
朋「悪いが…お前だけを先に帰らせるわけにはいかない。帰る時は一緒だ」
智「嫌だ、ともと一緒にいたいんだっ!」
朋「それはお前のわがままだろう」
智「…………」
朋「いや、全部お前のわがままだ。ともは、母親との暮らしを選ぶ。さして、俺達とともの生活は終わる。楽しかったな。そのことをちゃんと理解して帰ろうな」
敢えて厳しく突き放す岡崎さん。
果たして今の智代さんに届いているのだろうか。
智「本当に、それが正しいのか…ともがそれを選んだとしても、それが正しいとは限らない。そもそも母親はそれを望んでいるのか?」
朋「まだ望んでいない」
智「じゃあお前は何をしているんだ。全部無駄になるかもしれないぞ」
朋「母親も説得する」
智「それじゃあ、ともがまた不幸になってしまうじゃないか…私だったらともを…幸せにできる…するから…誓うから…お願いだ…」
最後の方には嗚咽になっていた。
朋「河南子っ!!」
思わず二人の方を見てしまう。
岡崎さんが呼ぶと、木陰から二人が現れた。
朋「智代に花畑を見せてやってくれ。智代、きれいな場所があるらしいんだ。見に行って来い」
葉「さ、一緒に行きましょ。きれいな花でいっぱいですヨ」
河「ほら、いーきーーまーーしょーーーーっ!!」
葉留佳が背中を押し、河南子がその手を掴んで引きずっていく。
智代さんはすがるような目がずっとこちらに向けたまま連れていかれた。
佳「…岡崎さん、今日は智代さんについていてもいいかしら」
朋「あぁ、あいつを支えてやってくれ」
私は彼女らを追って、走り出した。
三人と合流した後、葉留佳達が見つけたという花畑に向かった。
確かにその花畑は圧巻の一言だった。
一面に広がる菜の花畑は十二分に感動に足るものだった。
智代さんは花を見てというより時間が経って落ち着いたようだった。
智「…河南子はどう思う?」
河「はい?」
智「ともと一緒に過ごして楽しくなかったか?」
河「もちろん楽しかったに決まってるじゃん」
智「佳奈多達はどうだ…?一緒に遊んだだろ?楽しかったか?」
佳「えぇ、楽しかったわよ」
葉「あんな可愛い子と遊んで楽しくないわけないですヨ」
智「鷹文だってそうだろうし、ともだって私達と暮らしていけば幸せになれるはずだ。いや、してみせる」
佳「ご立派な決意ね」
智「そうだ、多数決をとらないか?」
葉「多数決?」
智「あぁ。ともと一緒に暮らす方がいいか、母親と一緒に暮らさせる方がいいかを多数決をとって決めるんだ」
佳「…………」
本気で言っているのだろうか。
いくら盲目的だとは言ってもここまでだとは思わなかった。
智「河南子達はともと一緒に暮らすほうを選んでくれるな?」
笑顔で言う智代さんに対して私は呆れ顔、葉留佳は困り顔、河南子はそっけない顔で答えた。
佳「反対よ」
葉「それは賛成できませんネ」
河「母親とだね」
智「え?…なんでだ?」
困惑した様子の智代さんに代表して私が答える。
佳「岡崎さんも言ってたけど、それは貴女のわがままでしかないわ。それに、多数決なんて聞こえはいいけれど、ともの意志を無視してる最低な意見だって分かってる?」
智「っ!それは…」
佳「ともが私達の暮らしを選ぶならそれはいいことだわ。でも、ともの意志を無視して縛り付けるなら、それは悪よ」
智「私は……」
智代さんはその場に崩れた。
佳「葉留佳、河南子、智代さんは任せたわ。もう作業に戻るから」
これでもまだ、だだをこねるというのなら私から言うことはもう何もない。
私は二人に後を任せ、廃屋へ戻った。
佳「これが今日の報告よ」
朋「…そうか」
廃屋に戻ると私はとりあえず岡崎さんに報告した。
朋「はぁ…あいつにも笑って見送ってやってほしいんだけどな」
唯「後は智代君の問題だ。ここで話したところで意味はない」
理「それまでに僕達は僕達にできることをしないと」
理樹が言うのと共に各々作業に戻る。
智代さん…信じてもいいわよね?