佳奈多アフター~It's a Wonderful Cross Life~ side Kanata 作:月の海
説教が終わる頃には日もすっかり暮れかけてしまっていた。
葉留佳はその間一度も足をくずさせなかったので立てずにorzのままプルプルと震えている。
正直可愛くて仕方ない。
表情には出さないようにいないと…
理「ただいま」
理樹が帰ってきた。
佳「おかえりなさい、理樹」
葉「理樹君、おかえり…」
理「葉留佳さんどうしたの?」
佳「なんでもないわ」
理「そ、そう」
ぴしゃりと言い放ったので理樹は少し驚き気味だった。
理「ところでまだ晩御飯は作ってないよね?」
佳「?えぇ、まだ準備してないけど?」
理「よかった、二人ともちょっと一緒に来てほしいんだ」
葉「どこに行くんですカ?」
理「ついてからのお楽しみかな?」
よく分からないが断ることでもないので理樹に言われるままついていくことにした。
佳「じゃあ早く行きましょう」
理樹の背中を押して外に出るのを急かした。
佳「行って来るわね」
そう言って私は玄関の鍵をかけた。
―足が痺れて動けないままの葉留佳を残して。
葉「ちょ、ちょっと待ってえええぇぇぇぇ!!」
葉「ひどいですよぉ…」
佳「ちょっとした冗談じゃない」
葉留佳は少し瞳に涙を浮かべていた。
葉留佳をなだめながら理樹についていくとたどり着いたのは学校だった。
葉「学校、ですカ?」
理「うん」
佳「ちょっと待って理樹、今の私達は休学中…つまり部外者よ」
理「大丈夫だよ、ちゃんと許可はとってあるから」
理樹は私がどういう反応をするか完全に読んでいたようでポケットから私達三人分の許可証を取り出した。
佳「驚いたわ」
理「こうでもしないと佳奈多さんは入ってくれないって分かってたからさ」
葉「お姉ちゃんはクソ真面目ですからネ」
佳「なっ!?それはあなた達が―」
理「ストップ」
思わず食って掛かりそうになるのを理樹が制した。
理「ケンカしないで、ほら、行こう」
理樹は私達の手をとって歩きだした。
その手はとても温かく、気付けば私からも握り返していた。
横目で見た葉留佳の顔が赤く見えるのは見間違いではないだろう。
私の顔にも熱が上がっているのを感じもう片方の手でマフラーを深く巻き直した。
引っ張るようにして理樹が連れてきたのは使い慣れたあの学食だった。
私の記憶が確かなら営業時間は過ぎてしまっているはずだ。
だというのに中には明かりがついたままだった。
佳「理樹?ここがどうしたの?」
葉留佳も同じ疑問を抱いているようで首を傾げていた。
理「いいからいいから、中に入ってよ」
そう言うと理樹は私達の後ろに回り込んで背中を押してきた。
佳「ちょっと理樹何を―」葉「理樹君どうし―」
パンッパンパンッ
押されるままに中に入った私達を出迎えたのは小さな連続した破裂音。
これがクラッカーのものであることに気付くのに数秒を要した。
クラッカーに続くのは拍手。
リトルバスターズの面々とあーちゃん先輩、風紀委員の子達、そして両親達が温かい拍手を送ってくれていた。
恭「遅かったな」
理「ごめんごめん」
謝る理樹に問いかけた。
佳「理樹、これは?」
戸惑う私達に理樹は微笑みながら言った。
理「佳奈多さんと葉留佳さんの誕生日パーティーだよ」
佳&葉「!!」
佳「何で今日が誕生日だって」
理「好きな人達の誕生日だからね、ちゃんと知ってるよ」
佳「でも私達あなたに教えてないわ」
理「あー…それは」
唯「私に聞きに来たのだよ」
一歩前に出た来ヶ谷さんが答えた。
唯「サプライズパーティーをしたいから二人の誕生日を教えてほしいとな」
晶「最初から俺達に聞きゃあいいのによ」
佳「謀ったわね、父さん」
父さんは心底面白そうに笑った。
朝の電話はきっとこのサプライズのための布石だったのだろう。
恭「話は後だ、そろそろ始めよう」
理「そうだね、じゃあ改めて―」
「せーの」の掛け声とともに全員が同じ言葉(語尾に違いはあるけれど)を口にした。
「「「誕生日おめでとう(ございます)っ!!」」」
パーティーが終わる頃にはすっかり日付が変わってしまっていた。
主役に片付けをさせるわけにはいかないと強制的に帰らせられてしまった。
あの後、葉留佳は主にリトルバスターズの人達に、私は主に風紀委員の子達に囲まれお祝いを言われた。
父さん達はというとその様子を少し離れた場所で見守っていた。
理樹が父さん達に何かを言った後頭を下げると、思いきり髪がぐしゃぐしゃになるまで撫でられていたがあれはいったいなんだったのだろう?
私が「あの時何話してたの?」と聞いても理樹は苦笑いするだけで教えてくれなかった。
顔が赤くなっていたようにも見えたがきっと周りの空気にあてられたのだろう。
家に着くとすぐ葉留佳は布団に入って寝てしまった。
佳「疲れてたみたいね」
理「まぁあれだけ騒いでればね」
理樹は私達がもらったプレゼントを置くとクッションに座った。
私は理樹の隣に座り、理樹の肩に頭を乗せるようにして寄りかかった。
理「お疲れ様」
そう言って頭を撫でてくれる理樹の手は優しかった。
佳「理樹は大丈夫?」
理「うん」
それからしばらく私達は言葉を交わさなかった。
ただそこにいるだけで理樹の体温が私を安心させてくれていた。
夜も遅いため聞こえてくるのは時計の針の音だけ。
そのリズムが私を眠りへと誘おうとする。
そんな時だった。
理「ねぇ、佳奈多さん」
佳「どうしたの?」
理「渡したいものがあるんだ」
佳「何?」
誕生日プレゼントならパーティーの時に既にもらっている。
理樹は覚悟を決めたようで小箱を取り出した。
大きさは手のひらに収まる程度のものだ。
佳「開けてもいいのかしら?」
理「うん」
理樹の返事を聞いて箱を開けると、そこに入っていたのは指輪だった。
佳「これって」
理「月並みな台詞だけど給料3ヶ月分の指輪だよ、家に入れてる分は貯金してたのをくずしたからちょっと違うかもしれないけど…」
そこまで言うと理樹は言葉を一旦切り、私をまっすぐ見据えた。
理「今すぐっていうのは流石に無理だけど、二木佳奈多さん、僕と結婚してください」
佳「…………」
理樹がここまで考えてくれていたのが本当に嬉しかった。
佳「………本当に」
理「え?」
佳「…本当に、私でいいの?」
理樹はいつもの優しい笑顔で答える。
理「うん」
佳「きっと面倒よ、私」
理「そんなことないよ」
佳「他のリトルバスターズの人達に嫉妬もするわよ?」
理「程々に頼むよ」
佳「浮気したら許さないわよ?」
理「絶対にないから」
佳「ずっと一緒にいてくれる?」
理「うん、ずっとそばで佳奈多さんを愛し続ける」
佳「………そう」
嬉しさでも本当に涙が出ることが初めて分かった。
私は三つ指を立てて頭を下げた。
佳「こんな私でよかったら、私を理樹のお嫁さんにしてください」
今日のことを私は一生忘れないだろう。
この日私は理樹と婚約した。