佳奈多アフター~It's a Wonderful Cross Life~ side Kanata 作:月の海
ここからはもう少し先の話をしよう。
この間にも色々あったけれど、それを語るのはまた別の機会。
あーちゃん先輩「まったく、私のとこまで愚痴りに来なくてもいいじゃない。皆聞いてくれるでしょ?」
佳「あーちゃん先輩に言う方が気楽なんですよ」
私はあーちゃん先輩のところに遊びに来ていた。
あ「なんか私軽く見られてる?」
佳「気のせいです」
あ「まぁいいけどね。今日、直枝君は?」
佳「棗先輩が連れまわしてます」
あの人はまったく変わらない。
仕事休みの半分は遊びに来ているだろう。
あ「神北さんも、あ、今は棗さんか。大変よね、旦那さんがあれだけ自由だと」
佳「そうでもないみたいですよ。この間もドライブデートしてきたそうですし」
あ「へぇ、棗君も意外とマメなのね」
佳「あれでもちゃんと小毬さんのことを愛してるみたいですから」
あ「妬けるわね」
佳「あーちゃん先輩は相手いないんですか?」
あ「なによ、自分には婚約者がいるからって言うじゃない?」
佳「まぁその婚約者が問題ですけど」
あ「…もう3年くらいだったかしら?」
佳「はい」
そう、理樹が記憶を失ってから早いものでもう3度目の冬を迎えていた。
彼を取り巻く人々の環境も変わりつつあった。
棗先輩は商社に就職し、神北さんは大学に行かず入籍、専業主婦になった。
鈴さんは猫のブリーダーになるために先輩の人脈から色々教わり勉強している。
クドは工学部へ進学し、コスモナーフトの夢を追い続けている。
宮沢は進学せず道場を継ぐために日々研鑽を積んでいる。
その傍らには古式さんがいる。
西園さんは大学で司書講習を受けている。
教員免許もとり司書教諭になることも視野にいれているらしい。
井ノ原は留年が決定すると中退し、工事現場や引っ越し業者など力仕事関係をかたっぱしから渡り歩いている。
退職理由はどれも「筋トレとして不十分」だそうだ。
…就職なめんな。
来ヶ谷さんは大学にこそ行ったものの、その大学の偏差値は決して高いと言えるものではなかった。
本人に志望理由を訊いたところ、「近いから」の一言で終わってしまった。
これだから天才は、と思わなくもない。
岡崎さんと智代さんは相変わらずラブラブだが結婚はまだだった。
たぶん、私達に気を使っているんだと思う。
鷹文君と河南子は今は同棲しているらしい。
時折、喧嘩しては隣やウチに来るが、仲はまぁいいみたい。
だいたいこんなものかしら?
あ「どうなの?直枝君」
佳「変わりませんよ」
あ「そう」
回復の兆しは依然として現れていない。
理樹は一週間毎に記憶にリセットをかけ続けていた。
佳「正直…」
あ「え?」
佳「正直に言ってしまえば、自信がなくなってきてます…」
あ「何の?」
佳「もう一度理樹に好きになってもらう…」
この3年間、理樹から「好き」と言われたことは一度もなかった。
当然だとは分かっている。
過程が失われてしまっている今、理樹からすれば私は自分の彼女を名乗っている知り合いに過ぎない。
もちろん、優しい彼がそう拒絶するはずもないけれど。
停滞したままであることを無視することはどうしても出来なかった。
あ「倦怠期のカップルみたいね」
笑いながら言うあーちゃん先輩にムッとくる。
佳「あーちゃん先輩に話した私が馬鹿でした」
あ「まぁまぁ、そう怒らないで。それに全部が全部つらいだけじゃないでしょ?」
佳「確かにそうですけど」
あ「それにね、私達だってなんでも覚えてるわけじゃないでしょ?私、一週間前の夜ご飯だって思い出せないわよ?でもだからって好きな食べ物まで忘れるわけじゃない」
佳「つまり?」
あ「かなちゃんが直枝君と過ごした日々は無駄じゃないってこと。記憶には残ってなくてもね」
佳「…………」
prrrr…
携帯が鳴った。
画面を見ると棗先輩からの着信だった。
「もっとかわいい着メロとかあるでしょうに」と言うあーちゃん先輩をスルーして応じた。
佳「はい」
恭『あぁ、俺だ』
佳「オレオレ詐欺ですか」
恭『違うわ!そろそろいい時間だし理樹帰すぞ」
佳「あぁ、はい、わかりました」
恭『一緒に飯食うかって話してみたんだがお前の飯がいいんだとさ』
佳「!!」
恭『まぁ俺も味気ない飯屋で食うより小毬の手料理の方が何百倍もいいからいいけどな。それじゃ』
最後に惚気て棗先輩は通話を切った。
…………
あ「顔、にやけちゃってるわよ?」
佳「え!?いや、その…」
あ「早く帰って愛妻料理作ってあげなさいな」
聞こえていたらしい。
佳「そ、それじゃ今日はこれで失礼します」
あ「またね~、直枝君によろしく」
来たときよりも軽い足取りで私は家路についた。
その晩、理樹のお腹が少し出てしまうほど料理を作ってしまったのはご愛嬌…よね?