佳奈多アフター~It's a Wonderful Cross Life~ side Kanata   作:月の海

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古河家の人々

今日は理樹を連れて古河パンに行くことにした。

 

手をとって歩き出すと、理樹は顔を真っ赤にして俯いてしまった

 

記憶を失ってからというもの初々しい理樹の反応を見ると思わず私も頬が熱くなるのを感じていた。

 

すれ違う人達がこっちを見てはにやりとして通り過ぎていくような気がするのは…きっと錯覚に違いない。

 

道中終始無言のまま私達は歩き続け、気がつけば目的のパン屋に辿り着いていた。

 

葉「いらっしゃー…おやおや、お姉ちゃんに理樹君じゃないですカ。っていうか顔真っ赤だけどどうかしたの?」

 

店に入るとエプロン姿の葉留佳が出迎えてくれた。

 

…可愛い。

 

佳「なんでもないわ」

 

葉「パンをお求めですカ?ならおススメのパンがあるのですヨ」

 

私達の答えも聞かず、葉留佳は陳列棚の一角から2つのパンを差し出した。

 

佳「…これは?」

 

葉「はるちんスペシャル!名付けてチョコミントパンですよ」

 

至って普通のパンだった。

 

?「そいつにしてはまともなパンだろ?」

 

店の奥から同じくエプロンをつけた男性が現れた。

 

佳「おはようございます、古河さん」

 

古河「秋生かあっきーでいいっつってんのに変わんねぇな、かなたん」

 

佳「金輪際その呼び方を止めてくれたら考えます」

 

秋「考える止まりかよ。まぁそれでもやめる気はねぇからいいが」

 

この人は古河秋生さん、古河パンの店長だ。

 

気さくないい人ではあるんだけれど、私のことを時々とはいえかなたんと呼ぶのはやめてほしい。

 

佳「早苗さんと渚さんはいないんですか?」

 

早苗さんと渚さんは秋生さんの妻と娘さんのことだ。

 

娘さんと言っても私達よりも年上だ。

 

だから、古河夫妻はそれ相応の年齢であるはずなのだけれどどう見ても成人した子供がいるようには見えなかった。

 

早苗さんに初めて会った時なんて姉妹かと思ったほどだ。

 

秋「いるぜ?おーい、さなえー、なぎさー」

 

秋生さんの呼びかけに応じて二人がカウンターまで出てきた。

 

早「いらっしゃい」

 

渚「おはようございます、かなちゃん、直枝君」

 

佳「おはようございます」

 

理「…………」

 

理樹はどうにも落ち着かないようだ。

 

早「ふふ、そんなにかしこまらなくていいんですよ?」

 

理「あ、はい、えっと、初対面…ではないんですよね?」

 

理樹を連れてきたのは、今週は初めてだった。

 

渚「はい、直枝君はここでバイトしていました」

 

理「その、こういう時なんて言ったらいいのか…」

 

秋「笑えばいいんじゃねぇか?」

 

理「え?」

 

秋「堅っ苦しいのは、俺がめんどくせぇ。だからよ、笑顔で『おはようあっきー』これでいいだろ」

 

理樹は少しの間の後、少し照れくさそうに口を開いた。

 

理「おはようございます…秋生さん」

 

秋「かーっ!結局あっきーじゃねぇのかよ」

 

理「その…ちょっと恥ずかしいので」

 

葉「いいじゃん、それに私がいつも呼んでるじゃないですカ」

 

秋「お前なんざノーカンだノーカン」

 

葉「ひどっ!?」

 

ぎゃーぎゃーと言い争う二人は放置することにした。

 

渚「この間はありがとうございました」

 

理「この間?」

 

佳「神北さんのボランティア活動の一環で児童館で劇をしたのよ」

 

渚「その時に私も誘っていただいたんです」

 

理「へぇ、そうなんだ。覚えてないのがもったいないな」

 

早「ちゃんと録画してありますよ。よかったらご覧になりますか?」

 

理「ありがとうございます」

 

秋「お、おい、小僧、近所のガキ共と野球するから付き合え」

 

理「え、あ、ちょっと―」

 

秋生さんは有無を言わさず理樹の腕をとって外へ出て行った。

 

ちなみにその劇で理樹は姫役だった。

 

その場では吹っ切れてノリノリでやっていたが終わった後の理樹のテンションの下がり様は尋常じゃなかった。

 

流石の秋生さんもあれを見せるのは男として酷だと思ったんだろう。

 

渚「まったくもう、お父さん強引なんですから」

 

早「息子のように思ってるのかもしれませんね」

 

早苗さんは二人が出て行った玄関を微笑みながら遠い目で眺めていた。

 

佳「いつもありがとうございます」

 

理樹が記憶を失ってからというもの、毎週ではないけれど時々こうして古河家の人々に会いに来ている。

 

この3年間、古河さんにはお世話になりっぱなしだ。

 

ウチの二―…もとい葉留佳がここで働けているのも古河さんの厚意に甘えてのことだ。

 

早「いいんですよ、渚のお友達ですもの」

 

渚「お母さん…」

 

早「直枝さんは病気しがちで友達作りが苦手だった渚の友達になってくださいました。それだけでも私達は感謝しているんです」

 

渚「わ、私もっ、何か力になれることがあれば力になりたいんです…と、友達ですから…」

 

これも理樹の人望なのかしらね…

 

佳「今度ともよろしくお願いします」

 

早「こちらこそよろしくお願いしますね」

 

互いに頭を下げ合うと何故か可笑しさが込み上げてきて、私達は顔を見合わせて笑いあった。

 

最早空気と化した葉留佳だけが所在なげに立ち尽していた。

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