佳奈多アフター~It's a Wonderful Cross Life~ side Kanata 作:月の海
佳「ん…」
目覚まし時計のアラームでまどろみから意識が醒める。
理樹も葉留佳もまだ寝ているだろう。
二人を起こさないよう手早くアラームを止め、布団を畳み朝食の準備に入る。
葉留佳にやらせることもたまにあるけれど、その場合食卓には卵料理しか並ばなくなるので専ら私がこなしている。
包丁がトントンと小気味の良い音をたてる。
おたまで小皿に味噌汁をすくい、啜ってみる。
うん、大丈夫。
炊飯器が炊き終わったことを電子音で知らせてくれる。
後はもう盛りつけるだけなので先に洗い物を済ませておこう。
襖が開き、寝ぼけ眼の理樹が現れる。
理「おはよう、佳奈多さん」
佳「おはよう、理樹」
―今日は何をしようか?―
しばらくして本調子になった理樹と外へ出た。
出かけるまでに葉留佳は起きてこなかったが葉留佳の分の朝食はきちんとラップして書き置きを残してきたので大丈夫だろう。
今日は夕方にスーパーのタイムセールに行くこと以外には特に予定はない。
デート気分で手を繋ぎ、照れる理樹を横目に街中を歩こうと考えていると―
?「どいて~!」
背後から不意に誰かから声をかけられた。
振り返ると目の前に女の子がいた。
宙に浮いている。
…あぁ、つまずいたのね。
もう避けられないと分かっているからか状況だけは冷静に把握できていた。
そのまま謎の少女の突撃を受け転んでしまったが、理樹を巻き込まずに済んだのは幸いだろう。
?「うぐぅ~…」
佳「いたた…」
理「大丈夫?二人とも」
心配そうに尋ねながら手を差し伸べる理樹に「大丈夫」と答えながら、その手を借りて立ち上がった。
理「君も立てる?」
?「ありがとうございます」
お礼を言いつつ理樹の手をとって立ち上がる。
茶髪のショートヘアで赤いカチューシャをしている。
背中には天使の羽をイメージしたような羽のついたバックを背負っていた。
少し服を払うと、少女はすぐさま頭を下げた。
?「ごめんなさい!つまずいちゃって!」
佳「私は怪我がなかったからいいけど、貴女は大丈夫?」
?「は、はい」
理「あれ、足すりむいちゃってるよ」
?「え?」
本人自身も気がついていなかったようだ。
理樹に指摘されたことで痛みが襲ってきたらしく、若干涙目になっていた。
?「うぐぅ~」
「うぐぅ」がこの子の口癖らしい。
佳「ちょっと待ってて」
私はポシェットから絆創膏を取り出してその子の足に貼ってあげた。
?「ありがとう…」
佳「消毒液は持ち合わせがないんだけれど…」
女の子はほっとしたように息をついた。
理「ウチに帰れば救急箱に入ってるよね?」
佳「えぇ、急ぎじゃなかったらウチまでついてきてもらえるかしら?」
?「え!?いえ、本当、これだけでも十分ですよ?」
消毒液、怖いのね。
理「でも、やっぱり痕になっちゃうと大変だし、ここは僕達にお世話焼かせてくれないかな?」
?「う、うぐぅ…わかりました…」
理樹にやんわりと言われて観念したらしい。
理「僕は直枝理樹」
佳「二木佳奈多よ」
?「ボクは月宮あゆって言います」
自己紹介を済ませて、三人でアパートに向かった。
佳「ただいま」
葉「ふぁ、ほへぇひゃん、ほはへり(あ、お姉ちゃん、おかえり)」
葉留佳が朝食を食べながら出迎えてくれた。
…もう昼食の時間なんだけど。
佳「行儀悪いわよ」
理「遠慮しなくていいからね」
あ「お、お邪魔します」
葉「誰ですカ?その子」
佳「さっきぶつかって転んじゃったのよ。それで怪我しちゃったから手当てするために来てもらったの」
葉「てっきり誘拐でもしてきたのかと」
あゆちゃんが少しだけビクッと反応した気がする。
理「いやいや、するわけないでしょ」
佳「ウチのニートはほっといていいわよ、あゆちゃん」
葉「いや、ちゃんと働いてますヨ!?」
救急箱からお目当ての消毒液を見つけだした。
佳「ちょっと沁みるわよ」
あ「うぐっ」
あゆちゃんは目を閉じて沁みるのに耐えていた。
佳「これでもう大丈夫よ」
良い子良い子というように頭を撫でてあげると目を細めて気持ちよさそうにしていた。
理「そういえばあゆちゃん、どこか行くところだったんじゃないの?」
理樹に尋ねられてぽやっと惚けていたところから戻ってきた。
あ「どこってことはないんですけど、探し物をしてたんです」
理「探し物?」
葉「何かなくしたんですカ?」
あ「それがよくわかんないんです」
佳「どういうこと?」
あ「失くしたことは分かるんだけど、それがなんだったのかが曖昧で…何か大事なものだったと思うんだけど…」
理「僕達も手伝うよ」
あ「え?」
佳「手伝うって、探し物が何かも分からないのよ?」
理「でも、一緒に街を回ってれば何か手がかりが掴めるかもしれないし。それにちょっと他人事とは思えなくてさ」
あ「それってどういう…」
葉「理樹君はね、ここ3年間の記憶がないんですヨ。だからあゆちゃんと自分が重なって見えるじゃないかな?そうですよネ?」
理「まぁね、それでどうかな?」
あ「それじゃあボクも理樹さんの記憶探しを手伝ってもいいですか?」
理「もちろん、よろしくね」
あ「こちらこそよろしくお願いします」
佳「話が決まったところでお昼にしましょ。あゆちゃん食べれないものとかあるかしら?」
あ「あ、特にないです」
理「両親に連絡とかしなくていいのかな?」
あ「両親は旅行中なので問題ないです」
葉「へ?じゃあ家で一人なんですカ?」
あ「祐一くん…友達のところにお世話になってます。今日はお昼いらないって伝えてあったのでそっちも大丈夫です」
佳「そう、じゃあそのまま楽にしてて。すぐ作るから」
その後、ついさっき食べたばかりの葉留佳を除く三人で昼食をとった。
それから四人で色々見て回りはしたもののどちらもそれらしい兆しを得ることが出来ないいまま夕方になってしまった。
葉「いやー、なかなか上手くいかないもんですなぁ」
佳「やっぱり本人達の感覚に頼るしかない以上私達ではどうしようもないわね」
理「ごめん」
あ「すみません」
二人ともしゅんとしてしまった。
佳「べ、別に責めてるとかじゃないのよ?」
あ「あ!」
何かを発見したあゆちゃんが突然走り出した。
あ「ゆーいちくーん!」
どうやら昼の話に出てきていた祐一君らしい。
あ「うぐっ!」
理&佳&葉「「「あ…」」」
背後から飛びついたのを祐一君が回避したため、あゆちゃんは街路樹にもろに頭を打ってしまった。
振り返りもせずに避けたところを見るとどうやら一度や二度のことではないらしい。
祐一?「まったく、なんで俺を見かける度に突撃してくるかねこのうぐぅ星人は」
?「あゆちゃん大丈夫?」
祐一君の隣にいた女の子が心配そうに尋ねていた。
あ「うぐぅ~避けなくてもいいじゃない」
祐一?「嫌だよ、俺が吹き飛ばされるだけじゃないか」
?「まぁまぁふたりとも」
理「えっと…どうすればいいのかな?」
あゆちゃんが走って行ってしまったため私達は少し離れたところで見ているしかなかった。
思い出したようにあゆちゃんがこちらを手招きしてくれたので近寄って行った。
?「あゆちゃん、この人達は?」
あ「今日一緒に探し物手伝ってくれたんだよ」
祐一?「すみません、こいつなにか迷惑かけたみたいで」
理「いやいや、僕達もあゆちゃんに手伝ってもらってたからお互い様だよ」
佳「貴方が祐一君でいいのかしら?」
祐「はい、俺が相沢祐一です。あゆから聞いたんですか?」
佳「えぇ、貴方のことは色々聞いたわ」
祐「あゆ、お前この人達に何言った?」
あ「ひーみーつー」
葉「そっちの子の話はまだ聞いてないんですけど、名前聞いてもいいかな?」
?「水瀬名雪です。あの…私達スーパーのタイムセール行くつもりだったのでそろそろ行かないと」
そう言えばもうそんな時間だった。
理「僕達も今日行くつもりだったから皆で行かない?その方が数量制限の商品も協力できるし」
祐「いいですよ、名雪もいいよな?」
名「うん、皆で行った方が楽しいもん」
佳「じゃあ歩きながら話しましょうか。遅れたけど二木佳奈多よ」
理樹と葉留佳も続いて自己紹介をした。
6つの長い影を並べて私達は戦場に向けて歩き出した。