佳奈多アフター~It's a Wonderful Cross Life~ side Kanata 作:月の海
おかげで、外では皆の顔を見ずに済んだ。
あの井ノ原や宮沢でさえ普通に黒いスーツに身を包んでいた。
法事が全て終わり、電気のついていない誰もいない部屋に帰る。
葉留佳は一時的に実家に戻ってもらった。
今は誰とも会いたくなかった。
もう誰とも関わりたくなかった。
私は全てを望み過ぎた…
葉留佳と和解できただけで満足するべきだった。
誰かとなかよくなるだけで満足するべきだった。
理樹と共にすごせるだけで満足するべきだった。
もう私は、何も望まない。
無気力に時を過ごす。
バスターズの皆は初めの頃は私を心配して毎日のように来てくれていたが、それぞれの生活もあるし時間を空けることも必要だと思ったのか、ここ数日はめっきり来なくなった。
結局、皆に気を遣わせてばかりいる。
佳「最低ね……最低」
いつものように嫌悪の言葉を自分に浴びせる。
意味がないことなんてとっくにわかっているのに。
それでもそうしなければ私は私でなくなってしまう気がした。
どこを見ても、何をしても、理樹のことを思い出してしまう。
でも、もう理樹はどこにもいない。
その事実に気が狂いそうになる。
でも、そうはならない。
今、私を私たらしめているのは皮肉にも自責の念だった。
腕にはミミズ腫れの様な痕の他にも爪痕ができてしまっている。
私には自傷癖の気もあったらしい。
この醜い傷痕を見ても理樹は―
自分の中でどれだけ理樹の存在が大きかったのか痛感する。
思わず自嘲気味な笑みが零れた。
ドンドンドンッ!
玄関を叩く音に少しだけビクッとする。
誰だろうか?
扉を開けるとそこにいたのは息を切らした祐一君だった。
祐「佳奈多さんすみま…せ…はぁ…はぁ…あ…あの……ゴホッゴホッ…」
佳「ちょっと落ち着いて。ほらこれ飲んで」
私がコップに水を汲んで差し出すと祐一君は勢いよく飲み干した。
佳「それで、一体どうしたの?」
祐「あ、あゆを見かけませんでしたか!?」
佳「残念だけど見てないわね」
祐「そうですかお騒がせしてすみません!」
祐一君は嵐のように現れ去って行った。
…………
佳「これでよかったかしら?」
あ「うぐっ」
玄関先に立ったまま振り返らずに問いかける。
あ「バレた?」
佳「いつから?とかどうやって?とか色々分からないことはあるけどそんなことはもうどうでもいいわ。何か用?」
あ「うぐぅ、佳奈多さんが冷たい。これを届けに来たんだよ」
あゆちゃんはコートのポケットから取り出したものを私に手渡した。
それは天使のキーホルダーだった。
あ「これはなんとっ!なんでも3つの願いが叶うキーホルダー……に似てる、街の小物屋さんで見つけたキーホルダー」
佳「つまり、普通のキーホルダーじゃない」
あ「で、でも一つだけ願いが叶うんだよ?」
佳「へぇ、そう」
あ「うぐっ、その目は信じてない!」
佳「えぇ、信じてないもの」
あ「ほんとだもん!」
佳「もし仮にこれが本当に一つだけ願いが叶うキーホルダーだったとしても、私の願いは叶わないわ」
あ「佳奈多さんの願いって?」
佳「それは…」
葉留佳と仲違いする前まで戻ること…?
違う気がする。
理樹と出会う前まで戻ること…?
それも違う。
もしたった一つだけ願うことが出来るなら…
それが許されるのなら―
佳「理樹と……一緒にいたい……」
あ「叶うよ」
佳「え?」
あ「佳奈多さんの願いは叶うよ」
さっきまでのあゆちゃんとは雰囲気が違っていた。
あ「でも、それには佳奈多さんも思い出さないといけないことがあるんだよ」
佳「…な、何を」
あ「この悲しみが生まれた始まり。目を閉じて、そして思い出して。あの日本当は何が起こったのか」
あゆちゃんに従い、私は瞼と閉じた。
灰色の世界が広がっていた。
顔に無数の滴が降り注いでくる。
それが雨だと気がつくのにそう時間はかからなかった。
周囲を確認するために頭を動かそうとしても頭は私の言うことを聞いてくれない。
仕方なく目だけで見回すと辺り一面鉄くずの山だった。
もうここがどこだかはわかった。
ともの村のはずれの違法投棄のゴミ山だ。
理樹が記憶を失うきっかけとなった場所。
なぜ、私はこんなことろで寝ているんだろう。
起き上がろうとしても身体は金縛りにあったかのように動かない。
すぐそばでガシャガシャとゴミ山が崩れるような音がする。
「――――!―――――!」
誰かが叫んでいるようだったが私には何と言っているのかわからない。
不意に視界が暗くなり、雨粒が顔に降ってこなくなった。
だんだんとその暗さに慣れ、目の前の輪郭がはっきりしてくる。
そこにいたのは必死に私に呼びかける理樹だった。
駆け降りてくる時に引っかけたのか頬から出血していた。
理「―――――!!――――――!!」
口は動いているが音はなく無声映画のようだった。
私も応えようとしても少しも動けない。
そしてゆっくりと私の瞼が閉じられた。
あ「もうわかったよね?」
佳「あの日ゴミ山から落ちたのは…私だった…?」
あ「それじゃあ、出口はこっちだよ」
あゆちゃんが玄関を開けると、そこから先はさっき祐一君が出て行った外とは違い、ひたすら真っ白な何もない空間だった。
佳「あゆちゃんは何者なの?」
疑問を投げかけると、あゆちゃんはにぱーという擬音がしっくりくる笑顔で笑った。
あ「ボクは月宮あゆ、佳奈多さんの友達だよ」
佳「これからどうするの?」
あ「ボクは祐一を待たなきゃ。だから佳奈多さんとはここでお別れ」
私はこの自分を友達と呼んでくれた女の子を残して行ってもいいんだろうか?
あ「ほら!理樹さんも待ってるよ。早く早く」
佳「ちょ、ちょっと―」
あゆちゃんは無理やり私を外に押し出した。
あゆちゃんが遠くなっていく。
あ「じゃあねー!!」
あゆちゃんがぴょんぴょんはねながら両手をぶんぶん振っていた。
佳「絶対!絶対また―――」
…………
目が覚める。
目の前の点滴からここが病院であることが分かった。
何か夢を見ていた気もするがどうしても思い出せない。
起き上がろうとしても身体が動かない。
辛うじて首は動いたので反対方向を見ると椅子に座って寝ている少年がいた。
中性的な顔立ちに少し小柄な背丈。
頬に少しだけ残っている切り傷の痕がボーイッシュな印象を感じさせる。
その少年はこくんと大きく首を揺らすと目を擦った。
そして、少しだけ目を見開いた後、いつものように優しい笑顔になった。
理「おはよう、佳奈多」
佳「おはよう、理樹」
理樹の押す車椅子に乗り私達は理樹の友人との約束の場所に向かっていた。
佳「ねぇ、本当に私が行ってもいいの?」
理「うん、向こうも彼女連れてくるって言ってたし」
車椅子というのは街中では目立つものだ。
ましてや男女のペアなのだから周りからどう見えているかは想像に難くない。
佳「やっぱり留守番してた方が…」
理「ダメ。それにもう着いちゃったから」
大きな樹の下のベンチには既に二人の男女がいた。
理「祐一、待たせちゃった?」
祐「いや、俺もさっき来たとこ」
?「ボクが一番早いってどういうことなのさ」
祐「それにしても聞いてくれよ。あゆのやつこの歳で床屋で髪切ったんだってよ」
理「それは…だいぶ思い切ったね…」
?「うぐぅ~祐一君のいじわる」
祐「あ、まずは自己紹介だな。相沢祐一です。理樹とは病院で知り合って意気投合しました。それでこいつが右宮(うぐう)あゆです」
あ「うぐっボクそんな名字じゃないもん。ボクは月宮あゆって言います」
佳「二木佳奈多です」
なんとか動かせるようになった手を差し出し握手を求めた。
あ「よろしくお願いします、佳奈多さん」
佳「佳奈多」
あ「え?あ…よろしく佳奈多!」
佳「こちらこそよろしくね、あゆ」
理「それじゃあ今日はどうしようか?」
あ「ボクたい焼き食べたい!」
祐「いつも食ってるじゃねぇか」
あ「今日は佳奈多と半分こして食べたいの!」
佳「私も賛成」
祐「まぁいいけど」
理「―――――」
あ「――――!」
祐「―――――」
佳「―――」
―――
――
―
あとがきです。
とまぁこんな感じで佳奈多アフター終了となります。
後日談のようなものを一応考えてはいますが、実際に書くかわかりません。
とか言ってるうちに明日にもあげたりしてそうですが。
当初、この佳奈多アフターは先輩から「鬱系以外で」と言われてラブコメを想定して書き始めたわけなんですが……結果はご覧の有様です。
…どうせ根暗ですよ私は…
正直に言うとこの早さで終わらせるつもりは金曜日の段階ではまったくありませんでした。
友達にも「終わるまでまだまだかかりそう」とか言ってた週明けには終了報告をするぐだぐだっぷり…
まぁ元から一話一話その日の思いつきで書いてた時点で計画性なんかほぼ皆無でしたが。
サブタイトルに困る困る。
後、AirやRewriteが出ることに期待してくださっていた方々にはすみません。
やってない、見てないのでキャラの見た目以外分からなくて出せませんでした。
さて、とりあえず今後の方針としては
1.休む
2.佳奈多アフターSide Rikiを始める
3.唯湖Anotherの続きから始める
4.違う何かを始める
の4択といったところでしょうか。
どれを選ぶかはまぁ私次第ですけど、これを見て希望があればおっしゃっていただければ参考にします。
1を送られると何かヘコむんで出来れば2~4でお願いしたいところです。
長くなりましたが、最後に、これまで読んでくださった方々本当にありがとうございました。