オカルト部に入部してしばらくたったある日。
黒猫を家で飼い始めてから猫用弁当を作ることがなくなり、かわりにオカルト部にもとい、小猫にお菓子を作っていくことになって数日のこと。
一度家に帰り黒猫のごはんを作ってからオカルト部を訪れると、中からグレモリーの激昂した声とイッセーの反発するような声が聞こえた。
「――――どうしてあなたは分かってくれないの!?」
「――――俺は友達を見捨てられません!」
・・・どうやら深刻な事態のようだ。
俺がドアを開け中に入ると案の定、イッセーとグレモリーが睨み合っていた。二人は気が付いていないのか、それとも気づいていても反応する余裕がないのかわからないが、俺に構わず言葉を交わす。
「イッセー、その子がどんなにいい子であっても教会側である限り、私たちの敵なのよ。根底から相容れないものなの。それだけは変わらないわ」
「アーシアは敵じゃないです!」
・・・なるほどね。聞いた限り、どうやら教会のシスターであるアーシアに、危険が迫っているらしい。そして教会と悪魔はどうやら対立しているらしく、助けることはできないと。
そしてイッセーの顔を見る限り、状況は相当に切羽詰まっているらしい。
するとようやく俺が来たことに気づいた小猫と木場がこちらに駆け寄ってきた。
「・・・誠先輩!・・・実はイッセー先輩が」
「いや、説明はいいよ小猫。今の会話だけで大体の話は分かった」
日頃無表情な小猫が少し心配そうな顔をしている。木場も顔には出さないが心中は心配なはずだ。ここにいる奴らはみんな仲間意識が強いからね。
そうこうしてるうちに、姫島がグレモリーに何か耳打ちし、それを聞いたグレモリーはイッセーにプロモーションと神器の説明をして魔法陣でどこかに行ってしまった。
イッセーはその姿を見送ると、覚悟を決めたように息を吸いドアのほうへと歩き出した。
その背に木場が声をかける。
「イッセー君、僕も行くよ」
「なっ!いいのか!?」
「もちろん。僕は教会を憎んでいるけど仲間を見捨てるわけにはいかないからね」
「・・・私も。先輩だけでは不安です」
「まじか!ありがとう小猫ちゃん!」
「・・・イッセー君?僕も行くんだよ?」
相変わらず不憫な奴だな木場って。
「それじゃあ、俺も行きますかね」
「誠先輩も!?でも誠先輩は普通の人間なんすよ!?下手したら死んじゃいます!」
「死ぬ可能性があるのはみんな一緒だ。それに後輩を置いて先輩が逃げるわけにもいかないよ」
本音はこんな面白そうなこと見逃すわけにはいかないからだけど。
「でも部長は・・・!」
「グレモリーは関係ないだろ。・・・それにあいつはお前に闘う許可を与えたしな」
「・・・えっ?」
驚きの声を上げるイッセーに木場がグレモリーの真意を教える。
あいつが後輩を、仲間をあっさり見放すような奴だったら俺はどんなにおもしろい奴でも一緒にいようとは思わなかった。なんだかんだで俺もあいつとは3年の付き合いだ。それくらいのことなら、口に出さなくても考えぐらいは読める。
だがグレモリーの真意を知って、イッセーは俯いて呟くように言った。
「・・・すいません。みんなを巻き込んじまって・・・」
・・・はぁ。変なとこでやっぱり真っ直ぐなんだなこいつは。
溜息ひとつ吐き、イッセーに近づく。そして―――
「いたたたたた!!??」
思いっきり頭をこねくり回した。
「痛いいたい!?何するんですか先輩!?」
涙目でイッセーがなんか言ってるが無視して俺は話しかけた。
「いいか、イッセー。お前がどんだけあほでバカで間抜けでお人好しで変態でもな」
「なんかすごい馬鹿にされてる!?」
全部ほんとのことだろう。
「そんなんでも、俺の後輩だ。だから面倒を見る。それにな、巻き込まれたんじゃなくて自分から巻き込まれたんだ。小猫にしても木場にしてもそうだ。自分のせいだなんて、自惚れも甚だしいぞ」
「・・・そのとおりです」
「誠さんの言う通りだね。僕らは仲間だから、自らの意志で君を助けるんだ」
「みんな・・・」
木場たちの言葉に、イッセーは感動したように目を潤ませた。そして目を脱ぐ動作をした後、高らかに宣言した。
「よっしゃ!それじゃみんなで救出作戦と行きますか!」
それを合図に、俺たちは部室を後にした。
教会につくと、そこは昼間と違い神秘的な雰囲気はなく、かわりに身の毛がよだつような不気味さが支配していた。
だがそんな教会に臆することなく、イッセーたちは少し打ち合わせをした後、すぐさま突進していく。
・・・急がないといけないのは分かるけどもうちょっと作戦はなかったのだろうか。イッセーは木場と小猫の戦闘スタイルを知らないのだから、そこらへんの話し合いとかさ・・・。
もう過ぎてしまったことなので何も言えないが、もうちょっと頭使おうよ・・・。
そんなことを考えながらゆっくりと後を追う。
教会の中ではすでに戦闘が始まっていた。相手は白髪の神父のようだ。・・・多分、神父。自信はないけど、戦う神父はトリニティな血や運命なんかでいたから、その類だと思う。
神父(推測)はこちらに気づくと狂ったような笑顔を浮かべ、叫んだ。
「おいおいおい!あんた様もしかして人間様じゃございませんか!人間様が悪魔と関わってるなんて殺さないないといけませんね!つか殺す!おもしろおかしく腸引きずり出して御覧にいれますぜぇ!」
「・・・わーお」
これはひどい。言動からすでにおかしい。なにこいつ、気分がハイになる薬でもやってんの?むしろそうじゃない方が怖いんだけど?
そんな俺の内心を知ってか知らずか、狂乱神父は光る剣を此方に向けた。
なっ・・・まさか・・・あれは・・・!?
俺は驚きで目を見開いた。それを見た狂乱神父が恍惚と言った表情で叫ぶ。
「きゃははは!ただの人間でも怖いざんしょ?こいつはここのボスからもらった代物でね。名前は・・・」
「ライトセーバー!?」
「「「違います!」」」
俺の驚きの声に後輩たちが戦闘中にもかかわらず、勢いよくツッコミという名の返事を返した。
そんなに否定することないじゃないか。でも、ライトセイバーじゃないとすると・・・。
「ビームサーベル?」
「「「全然違う!」」」
「ゴルンノヴァ?」
「「「なにそれ!?」」」
光の剣です。ていうか・・・。
「じゃあ何なんだよ!!?」
「「「逆ギレ!?」」」
だって光の剣なんて出てきたら、そう言いたくなるじゃないか。むしろ言わない方がどうかしてる。
というか仲いいね、君たち。一糸乱れぬ突込みだったよ。
「・・・先輩、空気読めないんですか?」
空気は吸うものだと思います。以上Q&A。
だがそんなくだらないことを言ってる間も戦闘は続いている。さすがだね。
大体は木場と神父の戦いのようだが、実力はほぼ均衡。此方が有利に見えるのは、純粋に数の差にあるのだろう。
(・・・俺が戦闘に参加する必要はなさそうだな)
いざとなれば割って入るつもりだったがその心配は無用のようだ。イッセーはともかく、小猫や木場は戦い慣れしているようで、しっかりと相手の動きを見切れていた。
そして、均衡していた高速の勝負にも終わりが見える。木場の神器によって作られた光を喰う剣、光喰剣で神父の武器が封じられた。最初からそれ使えよ。
そこで出来た隙に、すかさずイッセーが神器とプロモーションした戦車の力で殴り掛かる。神父の反撃も戦車の防御力でかき消し、イッセーの拳は真っ直ぐ神父を捉えた。
―――だが。
(防がれたか・・・)
イッセーに殴られる瞬間、神父が刀身の無くなった剣の柄でガードするのが見えた。超人的な反射速度だ。しかしノーダメージとはいかなかったようで、右の頬が赤く腫れ上がっていた。
神父は殴られたショックからか、テンションが著しく落ちていた。そして独り言のようにぶつぶつと何か言っているかと思うと、いきなり。
「・・・っざけんな」
明らかな怒気を含み声を張り上げた。
「ざけんなよ!クソが!殺してやる!絶対に殺してやるっ!」
ふざけた言動ではなく心からの怒りの声。今にも飛びかからんばかりの怒りがそこにあった。
そんな神父の怒声を聞いて俺は呆れたような溜息を吐く。他人がだめで自分はいいなんてことが通じるのは子供だけだろうに。
だが木場たちに囲まれた瞬間落ち着き取り戻したのはさすがというべきだろう。どんなに怒りに包まれようとも、そこからすぐに正気に戻るのは至難の業だ。
「悪魔に殺されんのは御免こうむるかね~。といわけで!逃げさせてもらいまーす!・・・それとそこの悪魔。俺お前にホーリンラブ。次会ったら必ず殺してやるよ」
そう捨て台詞を残し、神父は三人の間を潜り抜け、窓から外へ飛び出していった。
・・・ふむ。
「よかったなイッセー。人生初めての告白だぞ」
「殺害予告でしたけど!?」
「・・・誠先輩、こんな時でもぶれない」
俺の冗談に、今度は小猫が呆れたように溜息をついた。
その後祭壇の下にあった階段を見つけ、小猫が匂いでアーシアのいる部屋をを特定した。大きな扉を前に、木場が確認するように声を発した。
「誠さん、おそらくこの扉の向こうには堕天使と大勢のエクソシストがいます。危険だと判断したらすぐに逃げてください」
「・・・はいよ。危険だと思ったら逃げるとするよ」
死んでもいいとさえ思ってる人間が、何かを危険と感じるか保証はないけどな。
しかし俺の投げやりな返事に、小猫は心配そうな顔をして俺の袖を握り言った。
「・・・先輩が居なくなるなんて、そんなの、嫌です。・・・だから約束してください。死ぬような危険に会う前に必ず逃げるって」
小猫のその寂しげな顔。
なぜだかわからないけど、その顔は人間ですらない黒猫の顔に重なって見えた。そしてその顔がどこか眩しくて、俺は思わず顔を背けた。
「・・・俺が居なくなったら菓子を作ってくれる人、いなくなるからね」
口を衝いて出たのはいつもと変わらない冗談。その言葉に小猫は目を丸くし、そして―――
「・・・・・・そうですね。そうなったら困ります」
―――そしてはにかむように、笑った。
そんな小猫の頭を撫で、思う。
約束とも言えないような約束。逃げるなんて一言も言ってない。今だって本当は逃げる気なんて毛頭ない。だけど小猫はそれがわかったうえで、死なないようにするなんて、言語外の言葉の方を信じたのだ。この後輩はなかなかどうして強かだ。
そして俺はそこまで考え、思わず笑みを漏らした。
・・・もし本当に命の危険を感じたなら。その時は逃げることも視野に入れておこう。小猫の可愛らしい笑顔を見て、そう思ってしまったから。
やはりこの物語を読んだのは正解だったと、改めて思う。今までとは違う自分に、まったく新しい物語になる。何の根拠もない確信が、誠の中に芽生えた名も知らない感情とともに残った。
―――目の前の扉ゆっくりと、重々しく新しい物語を歓迎するかのように誰の手も介さず、開きだしていた。
何故か小猫がヒロイン化してきているような・・・?
まぁ、気のせいですね!
ようやく見えてきた1巻の終わりにほっとしている今日のこの頃です