パワーインフレ世界の一般人   作:愛黒猫

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平凡な出会い

グレモリーから噂に関わるなと警告を受けた日の昼過ぎ。俺は弁当を食べに、屋上にきていた。

 

騒がしいのは嫌いじゃないが、基本的にご飯は一人静かに食べることの方が多い。

 

特に屋上で一人静かに読書出来るのはなかなか気に入っている。一人になれる時間は貴重だ。

 

だが、今回は違った。先約が一人、いや、一匹いた。

 

真っ黒な猫だ。

 

「にゃー」

 

その猫は一声鳴くと、こちらを警戒するように見ながら屋上の隅に座った。

 

俺は生き物が好きで、猫は特に好きだ。犬派猫派でいうなら、猫派だし。

 

だからだろうか。

 

「なんか、そこまで警戒されるとくるものがあるな」

 

警戒心MAX、といった感じの黒猫は俺のハートに多大なダメージを及ぼした。

 

このまま嫌われているのも精神的衛生上問題がありそうなので、取り敢えず話しかけてみる。

 

「黒猫ちゃん、こっちに……」

 

「フシャーッ!」

 

……なかなかに溝は深いようだ。

 

全身の毛を逆立てて威嚇してくる黒猫に、若干涙が出てきた。

 

こうなってしまっては打つ手も無いので、おとなしく昼飯を食べることにする。

自分の弁当箱を出して、少し遅くなった昼飯にありついた。

 

すると、黒猫がこちらをじっとみていることに気がつく。

警戒しているように見えないところをみると、狙いは弁当箱の中身だろう。

 

(どうすっかな~。これをやったら昼飯抜きだしな)

 

しかし、弁当をやればなでさせて貰えるかもしれない。午後は腹が減るだろうが、購買で何か買えばいい。

 

遠目からでもわかるほど質のいい毛をなでさせて貰えるなら安いものだ。

 

「ほら、弁当が欲しいならくれてやるよ。そのかわりその質のいい毛を撫でさせてくれ」

 

というわけで、俺の弁当は保証も信頼も無しの株に投資される事となった。

 

なるべく黒猫のちかくに弁当を置く。ついでに作ってきた羊羹も。

 

(ん?猫って羊羹食うかな?)

 

少し心配になったが、多分大丈夫だろうと思う。

 

実際は知らん。

 

弁当から離れたところに座り、読みかけの本を取り出す。栞を外し、まだ見ぬ新しい物語に集中した。

 

文字の羅列を目で追い、目に入った言葉が頭の中で文章となり、文章が物語となる。

 

何時しか、時を、猫の事を忘れ、小説に没頭した。

 

それからしばらくして、ふと気づくと片手に柔らかく暖かい感触が押しつけられていた。

 

慌ててみてみると、先程の黒猫だった。

 

弁当を方を見ると綺麗に平らげられており、羊羹だけが一口かじられたまま放置されていた。

 

自信作だっただけに、少しがっかりもしたが、そこは種族の違いと諦めておく。

 

それより、目下の問題はこの手にある素晴らしい感触だ。

 

まるで上質なシルクのように軽く、ふわっとしている。ペルシャのように毛は長くないが、それが撫でるのに丁度よく、何ともいえず心地良い。

 

小説を置き、夢中になって撫でていると、黒猫がスルッと手の間から抜けていった。

 

「あぁ…」

 

喪失感のあまり、思わず情けない声がでてしまった。

 

多分五分位だっただろうが、至福の時間だった。

 

手に残った感触を忘れぬよう、しっかりと記憶する。

 

すると、黒猫が此方を向き、弁当箱の上で一声鳴いた。

 

「…もしかして、また作ってこいと?」

 

「にゃー」

 

どうやら正解らしい。

 

ついに猫と会話ができるようになったらいしい。

やったね!

 

…端から見たらヤバい人に見えるだろうけど。

 

と、そこで昼飯の時間を終わらせるチャイムが鳴り響いた。

 

「…そろそろ戻らなきゃな。良し、黒猫ちゃん。また今度もここにきて撫でさせてくれるなら作ってきてあげるよ」

 

「にゃー」

 

また、肯定するように鳴く黒猫。

 

…話通じてるよね? 可愛いからいいけど。

 

猫は九の命を持つと言われたり、不吉や幸運をもたらす存在、猫又、猫神といった様々な伝説や伝承が残っている。

 

言葉がつうじたっておかしくない。

 

…やっぱりおかしいな。

 

「まあ、いいや。それじゃ、この羊羹は回収して……おっと!」

 

突然、黒猫が俺が回収しようとした羊羹をもぎ取るように口に咥えて走っていってしまった。

 

「気に入ってくれたのかな?」

 

最後まで美味しいものをとっておく性格だったのかもしれない。

 

だとしたら、うれしい。

 

「これ以上遅れたらまずいな…」

 

黒猫がきになるが、授業が迫ってきていた。

 

後ろ髪をひかれる思いでその場を後にする。

 

 

 

 

その後ろ姿を、黒髪で着物を着た女性が見つめていた。

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