大学に入れば自分の時間が持てるといっていた恩師の顔をひっぱたいてやりたいと思う今日のこの頃です。
朝、学校に少し遅れて登校した。別に遅刻というほどではないが、弁当に思いのほか時間がかかってしまい、予定の時間を過ぎてしまったのだ。
余談だが、屋上で見たあの黒猫。あいつは本当に気まぐれで、弁当を持って行っても無駄になってしまうことが多々ある。だが、最近ある法則に気づいた。あいつがやってくるのは決まって一年生が体育をしてるときなのだ。なので子猫ちゃんに体育の時間割予定を教えてもらおうと聞いたところ、すごい冷たい目で見られた…。誤解は解けたからいいものの、なかなか精神的にくるものがあった。
まあ、そんな余談は置いといて。
今の問題は校門当たりがやたら騒がしいことだ。何があったか知らないが、これでは通れない。
近くにいた女子生徒に話しかけてみる。
「ねぇ、君。なんでこんなに校門が騒がしいのか分かる?」
「えっ、私ですか?ついさっき、リアスお姉様とエロ猿の一人が一緒に登校してきたらしいんですよ!それもエロ猿は図々しくもお姉様の鞄を持っていたらしいんです!!なんて羨ましい!!」
…うん、最後の方は聞かなかったことにしよう。
「そうか、それでこんなに騒がしいのか…」
「みんなその事で今頭いっぱいなんですよ。そういう私も。リアスお姉様が…。リアスお姉様が汚されてないか心配で心配で…。気がどうにかなってしまいそう」
「俺は君の頭の穢れの方が心配だよ」
せっかくスルーしたのに、倍以上の力で投げ返してくるんじゃない。
「私だけじゃありません!この学園みんな同じ気持ちですよ!」
「なにそれ怖い」
「いっそのことグレモリーお姉様を拉致ってしまうのはどうかしら…?そうすれば私だけを見てくれて、悪い虫もつかないし…」
「そういうことは俺じゃなくて警察署の前で言いなさい」
この子、途中から目のハイライト消えてない?何、ヤンデレ?ヤンデレなの?
これ以上関わるとどうなるかわかったもんじゃないので、ヒートアップしてきた女の子と別れを告げた。
どうせクラスにいけば真相はわかる。早足にその場を後にする。
上履きに履き替え急いで教室に向かうと、廊下ですれ違う生徒はみな同じ話をしている。
男と一緒に登校しただけでこれだけ影響を及ぼすとは恐れ入るよ。
教室のドアを開けて中にはいるとグレモリーの周りには姫島しかおらず、みんな遠巻きに見ているだけだった。直接話を聞きたいが聞きづらくて、遠くからチラ見するのが精一杯、といったところだろうか。
みんなのあからさまな対応に苦笑をしつつ、グレモリーに話しかけた。
「おはようグレモリー、姫島。今日は随分と騒がしいね」
「おはようございます、東雲君」
「おはよう、誠。それは皮肉?なにがあったのかくらいわかっているでしょう?」
「・・・そうか。異性には、興味がなかったグレモリーにも、とうとう春がきたのか。良かったな、グレモリー」
「まるで同性に興味があるように言うのも、まるで娘の成長を喜ぶ親みたいな反応もやめてもらえるかしら?」
心底嫌そうに言うな。
「イッセーと一緒に登校したってのを聞いただけだよ。詳しいことは何もきいてない」
「私が彼に用事があった、それだけよ。何か特別なことがあった訳じゃないわ」
それを聞いてホッと息をつくクラスメイト一同。でもね。グレモリーは肝心の用事のこと何も言ってない。皆が一番聞きたいことを最後に持ってきて、具体的なことから話をそらしたからね。
あ、グレモリーと目が合ったら逸らされた。確信犯か…。姫島は…無理か。あの笑顔は、ある意味無表情より怖い。だって考えが読めないし。
「まあ、なんにせよだ。あんなんでも、こんな俺を慕ってくれる可愛くない後輩だ。あんまり、変なことに巻き込まないでくれよ?」
軽い冗談のつもりだった。グレモリーがどんだけ高校生離れした美少女でも、その中身は俺たちと同じただの高校生で、大事と言っても心配する程のことなんて・・・無いと、思っていたから。
だが、グレモリーは笑わずに、至って真剣に、冗談とはとても言えない表情で返事を返した。
「えぇ、約束するわ。あの子を傷つけたりしない」
・・・まるで厄介ごとに、既に巻き込んだように聞こえるのは気のせいか?
それも、相当に危険なレベルの。
確認のため、姫島のほうを見るが駄目だ。こいつはこんな時でも笑顔を崩さないらしい。だが、いつも違い少し真剣に見えるのは気のせいだと思いたい。
その後も、何があったのか聞き出そうとしたがうまく躱され続け、結局有耶無耶のまま授業が始まってしまった。
だが授業が始まっても誠の頭の中では、一つのことで埋め尽くされていた。
――――気に入らない。
授業の内容なんて全く頭に入ってこない。
だが、気に入らないのは別にグレモリーが何か隠していることに対してではない。人は嘘を吐く。それは当然のことだ。
だからグレモリーの隠し事を根掘り葉掘り聞くつもりもない。
なら何が気に入らないのか。
誠は種類を問わず、多くの本を読む。恋愛、ミステリー、サスペンス、コメディ、ホラー、SF、ファンタジー、伝記、歴史書、哲学書、絵本。だがこれらは決して本が好きだからではない。
誠が好きなのは、物語だ。自分ではないほかの誰かが、自分と価値観や思想が違う
他人が、時に迷い、時に立ち止まり、時に勝ち、、時に負け、時に挫折し、時に立ち上がる。
自分以外の誰かの想いや思想、信念が、他人に触れることで変わっていく、または影響を及ぼし、そして成長していくその軌跡一つ一つが愛しい。
極度の読者主義。自分は読者で、それ以外のすべての人は主人公。それが東雲誠のすべて。
故に、気に入らなかった。
自分の関与しないところで、見えない場所で、自分の知らない物語が進んでいるという事実が許せなかった。
だが、今の誠には関わる術はない。結局、どんなにイラつこうが、足掻こうが、泣き寝入りすることしかできないのだ。
だから―――。
「気に入らない」
最後にそう呟き、窓の外を見を向ける。
雲一つない空が、なぜか無性にイラついた。