きんいろティーチャー   作:ケイトラ

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きんモザ2期で、前から気になっていた久世橋先生に心を撃ち抜かれてしまいました。
※大幅に加筆修正しました。


プロローグ 始まりの季節と、同級生と、先輩

 

 

 通学途中の駅前で、一人の女子生徒を見かけた。

 

 

 その子は長いツインテールをなびかせながら、時計を見つめていた。察するに、友人との待ち合わせだろう。

 その女子がチラッと、こちらに顔を向けた。おそらく、何となく友人がやって来る姿が見えないか気になったんだなと思った。

 視線の先にいたのは見知らぬスーツ姿の男だったわけだけど、こうして俺たちは偶然、目が合った。

 

 

 実は、俺がその女子がほんの少し気になったのには些細な理由がある。

 自分が今日から勤めることになる学校の制服ということが分かったから。

 そして、新任教師の自分が登校する時間としてはともかく、学生としての彼女が登校する時間としては早目ということが印象に残ったのだろう。

 

 

 せっかく目が合った「関係者」ということもあったので、軽く、本当に軽く会釈をする。

 すると、あからさまに動揺した様子を見せながら、彼女も軽く同じ反応を返してくれた。

 その「返事」を見てからすぐに目を反らし、自分の学校へと歩を進める。

 

 

 ――その後で、ふと思った。

 

 

(俺はともかく、あの子は俺のこと……)

 

 

 知らないよな、絶対。

 となると、もしかしてこれって……事案になったりする、のか?

 いけない。就職早々、同じ公務員たるお巡りさんのお世話になるのは避けたいんだけど――

 そんなとりとめのない思考を弄びながら、俺は急いで学校への道を進んでゆく。

 

 

 うちの学校は校則が緩く、校則に書かれているようなものにしても、生徒は勿論、教師陣にしてもチェックしている人の方が少ないだろう。

 それは、俺たちがこの学校に通っている時も同じだったと思う。

 

 

(……今日から)

 

 校門を通ってから見上げると、ついこの前、案内された職員室が見える。

 学生時代から変わらないその光景に、懐かしさを覚えた。

 

 

 昇降口からスリッパに履き替え、向かう先は文字通り、俺の職場。

 廊下を歩き、そこに辿り着いた俺は、職員室のドアをコンコンとノックする。

 

 

 ……返事はない。

 

 

 なるほど、殆どの先生方がまだ来ていないのだろう。

 初日ということで張り切りすぎた自分、という要素もあるのかもしれない。

 

 

「失礼します」

 

 

 ノックの後で、ドアを開ける。

 今日から自分が担当するのは、2年生だった。 

 しかしどうやら、目の前の2年担当の職員席に座っている諸先生方の姿はなかった。

 

 

「――おはようございます」

「ん、ああ。おはようございます」

 

 

 慌てながら他の学年を担当する先生方の方を向き、挨拶を交わす。

 とはいえ、自分も相手も、ぎこちない対応になってしまった。

 

 

 当たり前といえば当たり前だった。

 俺は相手を見たことがあるけど、一度も教わったことはなかった。

 こういう先生が相手だと、接するときにどうしてもぎこちなくなる。

 それに、同じ学年を担当する、いわば「同志」とも言える方々がいないと、落ち着かない。ただでさえ、俺は新人だしな……。

 

 

(……えっと、自分の席は、っと)

 

 

 指差し確認をしながら、自分の席を見つけた。

 他の先生方の席に比べると、まっさらで何もない。

 右隣の席を見てみると……

 

 

(……おお)

 

 ファンシーな小物が置かれたテーブルには、よく見知った名札が付いていた。

 その名前だけで、おっとりと笑う彼女の姿が目に浮かぶようだった。

 安心感で、表情が綻びそうになる。

 

 

(べ、別の隣の席は……)

 

 

 おっと、いけない。

 右隣が彼女ならば、左隣はどうだろう。

 恐る恐る調べてみた。 

 

 

 右に比べると簡素という印象だが、机の奥に猫がプリントされた小さなカレンダーが、ちょこんと置かれていた。

 案の定、席に付いている名札は、とても見知ったものだった。

 高校時代、何度も注意をしてきた彼女。

 その後、大学1年生の頃のオリエンテーションで、親しくなれそうな相手がなかなか見つからず、ついには自分に声をかけてきた彼女――

 

 

(――凄いな)

 

 

 偶然の力って。

 思わず、軽く天を仰いだ。

 そうしながら、自分の名札の付いた席に着く。

 

 

 

 ――俺が、高校教師になるなんて。

 思い出すのは、ついこの前、二人と会った時のことだった。

 目の前にいる二人の前で、つい呟いたら「こっちが驚きよ」「本当に、ねぇ……」と、むしろ二人の方が何やら感慨深げだった。

 いや、感慨深そうなのは一方だけで、もう一方はどこか――。

 

 

「おはようございます」

 

 

 おっと、つい思い出に浸ってしまった。

 職員室の入り口から、聞き覚えのある、というより馴染み深い声が聞こえた。

 女性らしく高いけれど、どこか強張っている声音――

 

 

「おはようございます、えっと……久世橋先生」

「――あ」

 

 

 先手を打って俺が席から挨拶をすると、職員室に入ってきたばかりの彼女は戸惑ったと見える。

 ほんの少しばかり目を見開き、驚いたという感情を露わにすると、すぐさま自分の席――すなわち俺の左隣――についた。

 スーツ姿に、サイドポニーにまとめた髪が特徴的だった。

 とはいえ、俺にとっては見慣れた彼女の姿だ。

 

 

(……それじゃ、この本棚にこれを)

 

 

 俺が申し訳程度に机上を整理していると、左隣から視線を感じた。

 えっと、今日から使うプリントはここに置こうかな……っと。

 

 

「ちょっと、一条先生?」

 

 

 わざと気づかないフリをしていると、溜息混じりの聞き慣れた声がした。

 見れば、腕組みをして困ったような表情を浮かべる教師の姿が。

 

 

「どうかしましたか、久世橋先生?」

「……今日から、2年A組の副担任になるとお聞きしたもので」

 

 

 コホンと一息つきながら、クッシー……久世橋先生は強張った目つきを崩さない。

 うーん……困った。

 たしかにその通りだ。2年A組の副担任。

 ただ、俺はそこの担任が誰なのかを知ってしまっていた。

 いや、伝えられていないほうがおかしいんだけどさ。

 

 

 ついでに、久世橋先生も俺が2年A組の副担任になるということは少し前から知っていた。

 それを初めて知った時の、彼女の苦笑を俺は忘れられない。

 

 

「ああ、たしかにそうでしたね。というわけで、今日からお願いします、久世橋先生」

 

 

 思い出しながら、俺はとぼけた振りを混ぜることにした。

 何だか落ち着かない雰囲気になりそうなのを避けるためだ。

 果たして、目の前の久世橋先生の表情は――

 

 

「何が、『というわけで』ですか……」

 

 

 どうやら、失敗したらしい。

 思わず「そりゃないよ、クッシー……」と、あの頃のままの呼び名が口を突いて出そうになる。ほら、場を和ませるのに、堅苦しい喋り方はしたくないし。

 

 

「お世話になりますね。頼りにしています」

「……私は、あなたを副担任として受け持つことに不安たっぷりです」

 

 

 純粋な新米教師として振る舞おうと明るくしていても、どうやら久世橋先生はお気に召さないらしい。

 まあ、昔からの顔見知りにそんなことを言われても、からかわれているように思うのだろう。逆の立場なら、俺だってそうなると思うし。

 

 

 久世橋先生は、再び溜息を一つ。

 俺はというと、それを見ながら少し前のことを思い出していた。

 

 

 ――少し、といっても今から2年ほど前ということになるだろう。

 3月。俺たちは通い慣れたキャンパスを背に立っていた。

 呆れたような寂しいような表情をしながら、晴れ着に身を包んだ女性は桜の木を見つめている。

 俺はその隣に立ち、一緒に桜観賞と洒落込むことにした。

 

 

 俺たちの前を通り過ぎて行くのは、希望に満ちた卒業生たち。

 スーツ姿のまま、新年度の赴任先について、時にナーバスに、けれど期待に満ちた声が行き交う。

 

 

 俺がそれを見ていると、彼女と目が合った。

 彼女は呟く。どうするの、と。

 俺は返す。どうすっかな、と。

 

 

 舞い散る桜吹雪を前に、俺たちのやり取りは虚しい響きを帯びていた――

 

 

 そして今、目の前であの時と同じような複雑そうな表情で、久世橋先生は俺を見つめる。

 

 

「……何を考えているんですか?」

 

 

 俺が「どうすっかな」と返した時と同じ、ジト目のままで。

 

 

 おっと、それどころじゃないか。

 職員朝礼が始まるまで、もう間もない。

 そんな状況なら、左隣に座る彼女が神経質になるのも無理からぬことだろう。

 

 

「――本当に教師になって、ここに来るなんて思っていませんでした」

 

 

 そんなことを考えてたら、呟くように彼女が言った。

 そっちを見てみると、何やら照れている様子だった。

 というわけで、俺は知らない振りを貫くことにする。

 

 

「おはようございます……あっ」

「……あっ」

 

 

 その後ですぐに、これまた聞き覚えのある声がした。

 隣に座ってる女性とは違い、どこまでもおっとりとした間延びした声が、職員室の入り口から聞こえた。

 俺や、隣の彼女にとって、どこまでも聞き覚えのありすぎる声――

 

 

「本当に来たんですね、一条く……一条先生」

「おはようございます、烏丸先生」

 

 

 何かを言い間違えたのか顔を赤らめながら取り繕う烏丸先生に対し、それなりに堂々とした態度を心掛けながら俺は返す。

 とはいえ、理由は分かっていた。

 学校内では建前上、先生呼び以外はご法度だろうから、それをつい破ってしまったことの気恥ずかしさだろう。

 

 

「お、おはようございます。烏丸先生」

「あっ、おはようございます。久世橋先生」

 

 

 照れたままの烏丸先生に、左隣の久世橋先生が声を掛けた。

 顔を赤くしたままの彼女に、喜色満面の烏丸先生。

 

 

(――さすが、『烏丸先輩』)

 

 

 そう思いながら、俺は自分の担当するクラスの名簿の整理をしていた。

 全く顔と名前が一致しない。これもまた、当たり前の話。

 とはいえ、左隣の久世橋先生が落ち着かないままだと、おそらく何も話が進まないから、こうして作業をしているだけでも少しは落ち着くというものだった。

 学生時代からの経験則だ。

 

 

(……ん?)

 

 

 何かピクッときた。

 というのも、見たことのある顔が載っているような気がしたからだ。

 その特徴的なツインテールは、さっきの――

 

 

(うーん……)

 

 

 ツイてるのか、ツイてないのか。

 しばし、考えてしまった。

 おそらく、真面目そうな生徒は概して記憶力が高い。

 そうなると、この女子に覚えられているということは――

 

 

「熱心ですね、一条先生。早速、名簿を熟読するなんて……」

 

 

 そんなあれこれを考えていると、右隣から穏やかな声がした。言うまでもなく、烏丸先生だ。

 おっと、いけない。

 一人の女子生徒を凝視する所なんて見られたら、事案の妄想は現実になりかねない……。

 なるべく落ち着いた様子のまま、俺はコホンと一息ついて、

 

 

「――初めてですし」

「あらあら」

 

 

 格好つけようとしたら、逆に微笑ましく見られてしまったらしい。

 そんな彼女に、ついつい照れそうになってしまう。

 これに関してはきっと、左隣の久世橋先生と似た感覚を持っているのだろう。

 この感情をくすぐられるような優しげな声に、落ち着かない気持ちにさせられることは今に始まったことでもない。

 

 

「そうですか……一条先生が久世橋先生の部下に」

 

 

 俺が名簿とにらめっこを続けていると、感慨深げな声が聞こえた。

 顔を見なくても分かる。きっと頬に手を当てて、嬉しそうに口を綻ばせているのだろう。

 

 

「烏丸先生。一応、副担任は担任の部下じゃないと思います」

「え、そうだったんですか?

「……多分」

 

 

 俺もよく分からないし、どっちでもいい気はする。

 まあ、久世橋先生の部下、っていうのも悪くないし、対等な立場っていうのも面白そうだ。

 そんなことを思いながらチラッと左隣を窺えば、裁縫道具を弄りながら、何だかソワソワした様子の久世橋先生の姿が見えた。いつの間に……。

 

 

 落ち着きがなさそうとはいえ、相変わらず手付きはあからさまに器用で、家庭科教師をやっているというのも全く合点のいくものだった。

 ……まあ落ち着かないのも、無理ないか。

 刻一刻と経つ時間は、2年A組に俺と一緒に向かうことになるという事実を雄弁に物語っているし。

 

 

「――あ。主任の先生がいらっしゃいましたね」

 

 

 俺がそんな風に、クッシー……久世橋先生を気にかけていたら、右隣の烏丸先生が声を発した。

 その声に、久世橋先生もピクッとした後で、裁縫道具をしまう準備を始めた。

 どうやら、パッチワークでもしていたと見える。作成途中であろう作品は、もう少し待てば見栄えの良いものになるだろうな、と思った。

 その時は、俺や先輩――烏丸先生にも見せてほしいものだ。

 

 

「頑張りましょうね、一条先生」

「……はい。そうですね」

「まさか本当に教師になって、この学校に来るとは思っていませんでした」

「――それは、久世橋先生に言ってあげたほうが」

「わ、私は、最初からここに来るつもりでした!」

 

 

 おっと、さっきから静かにしていたままのはずの久世橋先生が声を上げた。

 反論されなくても、知っていた。ただのからかいのつもりだ。

 針の穴から糸を外しながら、焦った様子で俺と烏丸先生を見つめる。

 

 

「むしろ一条く……一条先生がここに来たことの方が驚きです」

 

 

 焦ったから、どうやらミスをしたらしい。

 自分の口に手を当てながら、顔を赤らめている。

 

 

「クッシー……いや、久世橋先生。落ち着いて下さい」

 

 

 そして、それは俺に伝染した。久世橋先生のせいだ、そうに違いない。

 ……何というかたしかに、このミスは照れくさいな。

 

 

「お、落ち着くのは一条先生の方でしょう? ここは学校ですから、言葉遣いには気をつけて下さい」

「今、そっちが先に……いえ、なんでもないです」

 

 

 少しばかり顔を赤らめ、ほんのちょっぴり頬を膨らませたように見える久世橋先生に、俺は努めて冷静に返事をした。下手すると、俺も照れそうだった。

 ……おそらく、努めた意味はほとんどないだろう。

 傍から見たら、ちょっとした言い争いにも見えたかもしれず、少し周囲の目が気になったりもした。

 

 

 そんな俺たちに追い打ちをかけるように、烏丸先生はクスクスと笑っていた。

 

 

「お二人とも、無理はなさらず。ね?」

 

 

 ……相変わらず、先輩には敵わない。

 俺と久世橋先生は照れくさくなりながら、烏丸先生をついつい見つめてしまうのだった。

 

 

 ――さて。

 そうこうしている内に、職員朝礼が始まった。

 進行役の主任は、俺が学生時代だった頃と変わらない出で立ちのまま、朝礼の挨拶を交わし、一礼。

 

 

「えっと……一条湊です。よろしくおねがいします」

 

 

 主任に促されるまま、職員室の先生方に挨拶をする。

 ペコリと頭を下げて顔を上げると、拍手の音が聞こえた。

 とはいえ、ライブとかで発せられるような大きな音ではなかったけれど……とても嬉しかったことは事実だった。

 つい、顔が綻んでしまった。崩れたように見えてなければいいんだけど。

 

 

 その後で他の先生方は思い思いに、自分のクラスへと向かう――

 

 

「それでは、お二人とも。また後で」

 

 

 そんな先生方の後ろ姿を目で追っていたら、聞き馴染みのある声がした。

 見なくても分かるくらい、俺たちに安心感を与えてくれた声――

 

 

「あ、せんぱ……先生。が、頑張ってください」

 

 

 俺が慌てて発言を修正すると、

 

 

「一条く……一条先生も、お気をつけて」

 

 

 相手も同じように発言を直した。

 照れくささは最高潮に達しそうだ。

 

 

「いえいえ、大丈夫ですよ。なんといっても、あの――久世橋先生が付いてますし」

 

 

 しどろもどろになりながら、俺は取り繕おうと言葉を発する。

 お互いに、恥ずかしい気分だった。

 

 

「……まあ、でも。一条先生が一緒なら、もしかしたら」

「え?」

「ふふっ、なんでも……」

 

 

 一足先に恥ずかしさから脱したらしい烏丸先生は、そんな意味深なことを言うと、いつも通りの笑顔のまま静かに職員室を後にした。

 俺は、彼女の後ろ姿を見ながら考える。

「もしかしたら」の先は、何て言おうとしたんですか、と。

 

 

「何をしてらっしゃるんですか、一条先生?」

 

 

 ――あ。

 俺が思案しているといきなりプレッシャーがかかった。

 相手を確認するまでもない。

 その声の主は、今まさに名前が出た所だった。

 

 

「ほら。副担任の方がいらっしゃらないと、私が困ります」

「……それってこの前、話してたことで?」

「そ、その話は、今はやめてください」

 

 

 見るからに動揺する久世橋先生に言われるがままに、俺も彼女と肩を並べて歩き出す。

 少しばかり改装したような箇所も見え隠れしたものの、大方は俺がここにいた頃と変わっていない。

 ついでに言うと今、肩を並べて歩く隣の教師も周囲に溶け込んでいて、それもまた俺に懐かしさを想起させた。

 

 

 ……とはいえ、懐かしさに浸ってばかりもいられない。

 問題なのは、隣の教師との付き合い方だけではない。

 そう、つまり――

 

 

「クッシー……いえ、久世橋先生。おれ――いや。僕、まだ生徒の名前、(一人除いて)全然」

「生徒の名前を心配する前に、言葉遣いに注意して下さい、一条くん」

「え?」

「……あ」

 

 

 あれ? 

 今、何度も聞いたことのある呼び方が聞こえたな。

 と、そんなことを思い浮かべながら、当事者へと目を向けると、

 

 

「い、今のは無しです」

「はぁ……」

「な、何ですか、その態度は」

「いや、ちょっとばかり思ってしまいまして。先生だって――」

「ほら、着きましたよ、一条『先生』。副担任ですから、後で私がお呼びしたら入ってくださいね」

 

 

 と、一部の語句を強調しながら一息に言うと、慌てたようにガタガタと入っていった。

 

 

 

 教室のドアを見つめながら、俺は思う。

 

 

(――今みたいな所をもっと見せれば、生徒にもモテるだろうに)

 

 

 なんて。

 

 

 

 

 というわけで、今日から俺は、この高校――二人と同じだった母校の教師に就任した。

 烏丸「先輩」や、今入っていた「先生」とは違い、昔から教師になろうという熱い想いは持っていなかった。

 にも関わらず、スーツを着ながら、今、俺は教室の前に佇んでいる――

 

 

 

(――人生、わかんねぇな)

 

 

「塞翁が馬」の意味はなんだったっけ? なんてことを考えながら窓の外の景色をそれとなく見つめていると、

 

 

「一条先生? さっきからお呼びしているんですけど……」

 

 

 静寂に包まれた教室(間違いなく、それを作り出したのは彼女だ)の中から、少しばかり不満気な声が聞こえた。

 そんな声音も、昔と変わらない。

 そのことに何故か苦笑しながら、俺は扉を開ける――

 

 

「えっと……初めまして、一条です」

 

 

 そんな、どこまでもありふれた挨拶を口にしながら――




これから、どう膨らませようか迷っています。
頑張りたいと思います。
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