前編ですが、もしかしたら修正することがあるかも……。
「それじゃ俺、ちょっと昼ごはん買ってきます」
「……買ってこなかったんですか」
俺が言うやいなや、呆れたような声音でツッコミを入れる久世橋先生。
とはいえ、仕方ないことだ。
「寝坊しても何とか始業に間に合わせたんです。むしろそれは――」
「嗜めることは無くても、決して褒められることじゃありませんよね?」
先手を打たれて、俺はどもってしまう。
視線の先には、少しばかり呆れたように額を抑えるA組担任の姿が。
……いや、何というか。
「――お二人とも、本当に仲良しさんですね」
「!?」
「か、烏丸先生……!」
何となく思っていた。
いくらなんでも息がピッタリ合いすぎじゃないかと。
俺も、きっと向こうも、決して意識していないのにタイミングがぴったり過ぎて――
「……ち、違います! 烏丸先生!」
「そうです、烏丸先生。悪いのは俺じゃなくて久世橋せんせ――」
「一条先生? お静かにお願いできますか?」
言い終わる前に、またしても牽制球が投げられた。
何ともいいコントロールで、俺の口に球が入れられる。ナイスストライク。
……ああ、またこうして。
「うーん……お二人を見ていると、学生の頃とはまた違う気分になれますねぇ」
掌を合わせて、烏丸先生は満面の笑みで俺たちを見つめる。
照れる久世橋先生、口元を押さえて隠す俺。
――何だ、結局。
(学生の頃と変わらないじゃないか、これって……!)
何となくいたたまれなくなり「し、失礼します」とペコリを頭を下げて、ギクシャクと職員室の扉へと向かう俺だった。
――――
「ありがとうございましたー!」
店員さんのスマイルに見送られながら、俺はコンビニを出る。
袋の中にはサンドイッチ、コッペパン、カレーパン。
普段ならコッペパンだけで十分、と思っていたけど――
(……さすがに、数日続けるとキツい)
満天の青空を見上げながら、俺は思う。
時間が経つのは、思っていたよりずっと早く、身体には大きく響くということを――
猪熊さんたちとラーメン屋で遭遇したのは、何日前だっただろうか。
一週間前? いや、もしかしたら十日……?
感覚すら掴めなくなっている、ような気さえする。
(――まあ、実感が湧かないのは)
我ながら、何となくわかっていた。
ラーメン屋で会ったあの二人、そして、その後で会った三人組――
(何かと、話してるからなぁ――)
俺に声を掛けてくれるのは、大抵は猪熊さんと九条さん(思った通り、ラーメン屋での遭遇組)。
次いで大宮さんで、それに付いてくる形で時々、小路さんとカータレットさん。
何にせよ、生徒に話しかけてもらえるのは悪い気がしない。
というか、それが嫌なら教師になる余地はないだろう。
大抵の人は、生徒とコミュニケーションを取ることを求めて、大学時代に教職課程を――
(……本当に、俺って)
思わず、ため息をついてしまう。
自分のことを振り返ると、どうしても何かを思わざるを得ない。
色々、考えるとこじれそうだから抑えながら、俺は高校へと歩き続ける――
「……うーん」
「お、お兄ちゃん……どうしよう?」
「どうしよう?」
「ええ……」
――中で、ランドセル姿の二人組を見つけてしまった。
茶色い髪(地毛だろうか?)をした似たもの同士の二人組を。
「何だかさ、やっぱり入りにくいよね」
「そ、そうだよね……」
「はぁ……お姉ちゃんには、どうやったら」
「会えるんだろうね……」
校門前で、そんなやり取りをするのはランドセル姿の二人の男女(児童)だった。
お互いで、無意識的に息の合った会話をしている、ように見えた。
あっちがそう言えば、こっちがそれを引き継いで補完する、みたいな感覚で。
まるで『阿吽の呼吸』という比喩がピッタリ当てはまる、ような気さえした。
(――でも、まあ)
思わず、少し笑ってしまいそうになる。
あれは色々と意味合いがあるけど、俗には夫婦関係に使われるものだから。
目の前の二人は――なるほど、よく似ている。
けれど少なくともここ日本では、こんな小さな夫婦の例は、まずないだろうから。
(……さてと)
コホンと一息つく。
微笑ましく思っているだけでは、時間は進まないし。
まずは、自分の勤める高校の目の前で逡巡しているちびっ子たちを気にかけてあげないと、だ――
「どうかした?」
「あっ」
「あっ」
俺が声を掛けると、同時に反応を返された。
二人とも、ちょっとばかり驚いたように。
その反応のしかたも、なるほどよく似ていた。
正面から見れば、その二人は本当に似通った容姿だった。
一方の髪を少し伸ばせば、もう一方と瓜二つになる、というくらいの。
双子かな、と俺は何となく見当をつける。
付け加えるなら、もう一つ。
(――誰かに似ているような?)
例えば、さっきの英語の時間で担当した時に、どこかこっちをからかおうとしていたような「あの子」とか。
目の前の子どもたちは表情こそ「あの子」とは違うものの、どこかで雰囲気が――
「な、なんでもない、です……」
「わ、私たち、小学生で……こ、こことは、関係……」
なんてとりとめのない事を思っていたら、可愛らしい二つの声が聞こえてきた。
こうして間近で聞いてみると、一方は小さいながらもどこか男の子っぽいし、もう一方は女の子然りという感じだった。
「でも、似てるなぁ……」
「はい?」
「え?」
「何となく。どこかで嘘つきたいけど、嘘つくのは得意じゃないんじゃないかなって」
相手側の二人からしたら俺はただの他人にしか見えないだろうに、俺は何をペラペラと喋っているんだろう。
おそらくは、目の前の二人が何となく他人の気がしなかったためだと思う。
いや、どんなに言い繕っても意味がないか。
「そ、そんなこと……」
「べ、別に――違います」
ほら、目の前で視線をプイッと逸らす二人とか見てると、なおさら。
そこで何かしら言葉で反論するより先に、態度で相手にバレバレという感じを示すのは、なるほど――
(やっぱり……高校生と小学生は違うなぁ)
なんて、とりとめのない事を再び思ったりするのだった。
――――
「……それで? 二人は誰と会いたいのかな?」
いつまでの校舎の前で向き合ってるのもアレだから、俺は二人を招き入れて、校門の内に入った。
俺が呼びかけても、やっぱり二人は目線を逸したり、顔を赤らめたりするばかりだった。
無理もない、のかもしれない。
俺たちの頃よりも、もっと年上の他人と関わったことのない年頃の子たちだ。
別に、教員採用試験の勉強をしなくたって分かる、当たり前すぎることだった。
「え、えっと……その」
「わ、私たち……そうだっ。お兄ちゃんに、ちょっと」
「あ……は、はい。ぼくたち、お兄ちゃんに……」
しどろもどろになりながら、二人組は返事をしてくれる。
どこまでも緊張した様子で、俺への返事に窮している様子がありありとわかった。
とはいえ残念ながら、二人の編み出した『嘘』も分かってしまう。
偶然だった。さっき感じた直感と、今の二人の様子を突き合わせれば。
やっぱり、結びつく姿は――
「そっか。お姉ちゃんに会いたかったんだね?」
「あ、そうです。お姉ちゃんに」
「家の鍵、忘れちゃったから――あっ!」
一人目の女の子がいい終わり、二人目の男の子が後を継ごうとする。
そこで気づいたのだろう。
俺が自然に投げかけた引っ掛けに、すくわれてしまったらしい。
「……あんまり、嘘をつくのには向いてないかもな」
俺は笑う、というよりもむしろ、どこまでも微笑ましい気持ちになっていた。
だから、俺がその時に浮かべた表情も頬を緩めるに留めたものだ。
目の前の二人はというと、共通してどこまでもいたたまれなさそうな様子だった。
何ともいいようのないくらい恥ずかしそう、と言い換えてもいい。
「――お、お兄ちゃん、だし」
「そ、そう、です……お兄ちゃん、だから」
髪の長い女の子と、神の短い男の子。
似たもの同士の二人組は、最後に反論しようとする。
……でも、やっぱりそこはランドセル姿の小学生だった。
グー。
俺は右腕にぶら下げたレジ袋を感じながら、思う。
時間帯は、高校の昼休み。
そして、そんな時間に、ここまでちょっと離れた小学校の子たちが来るには――
「……あ」
「……あ」
思い出したかのように、自分のお腹に手を当てる二人組。
そして、これまた似通ったように、顔を赤らめてバツの悪い表情を浮かべている。
――なるほど。
「あれか。給食、なかった?」
「……べ、別に」
「そ、そんなことは――」」
最後まで、出来る限りの嘘をつこうとする子たちだった。
とはいえ、その嘘の説得力のなさは、まだお腹に手を当てようとする挙動からも十分すぎるほどに窺えてしまって――
「お。そこのベンチ、空いてるみたいだな」
二人からチラと目線を逸らして、俺は中庭のベンチへと目をやる。
いつもなら人気スポット(カップルやら友達同士やら)のそこは、どうやらまだ誰もきていないらしい。
キョトン、とした様子の二人を促して、
「――この中に三つのものがある。選んでいいよ、二人で」
前回に続き、少し短めです。
後編までの案はできているので、その時に調整するかもしれません。
とりあえず、このSSでの初登場、ということでお願いします。