きんいろティーチャー   作:ケイトラ

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長引いて中編です。
次回で、ヒロインの久世橋先生の登場となる予定です。


第15話 嘘つきブラザーズと俺(中編)

「……ねえ、美月? そっちのコッペパン、おいしい?」

「おいしいよ、空太お兄ちゃん。でも――」

 

 

 モグモグと食べながら、どことなくさっきより嬉しそうな表情で問答する二人だった。

 そんな二人を微笑ましく思いながら、俺はさっき買ってきたうちのサンドイッチを口に含む。

 うん、おいしい。でも、やっぱり物足りない。

 そんな空腹感も――

 

 

「あ、やっぱり……こっちも欲しかった? それじゃ、少し分けてあげる」

「わっ。ありがとお兄ちゃん。それじゃ、私も少し……」

「うわ、嬉しい……ありがとね、美月」

 

 

 ――うん、あれだ。

 二人のお互いへの思いやりっぷりを見ていると、空腹感を忘れてしまうくらいの何かを感じる。

 俺は、自分の膝の上に置いてある三色サンドイッチ(チーズ、サラダ、玉子)を見た。

 その内の一つ、チーズはもう俺の口に入ってしまった後だ。

 残っているのは――

 

 

「……二人とも、足りない?」

「え……い、いや、そんなことは!」

「べ、別に、ぼくも……」

 

 

 一瞬、呆けたような表情の後で本心を表したかのように慌てる女の子と。

 それに続くようにして、便乗しようとしながらも失敗する男の子だった。

 失礼だとは思うけど、反論をしようとして失敗する姿も、どっちも本当によく似ているから何だか面白い。

 

 

「サラダと玉子しか残ってないけど、欲しいなら……」

「……え?」

「……え?」

 

 

 声を合わせて、俺の見せるサンドイッチにキョトンとする二人だった。

 どっちも、期待半分、退きたい気持ち半分で見つめている。

 

 

「――食べたいなら、あげるから。どっちがほしい?」

「あ。そ、それじゃ、私……玉子」

「え、美月、玉子? そ、それじゃ……サラダ、で」

 

 

 オズオズと手を差し伸べて、二人とも自分の希望したメニューを手に取る。

 その時に、二人の手がツンと触れ合った。つい、見つめ合う二人。その後で、ほんの少し笑い合う姿――

 

 

(……仲いいなあ、ホント)

 

 

 そんな一挙一動を目にしながら、俺は心の底から微笑ましくなった。

 どこかしら遠慮し合った後で、それでも相手のことを思い合える姿が見え隠れして。

 俺には、兄弟姉妹はいない。

 でも、ここまで互いに互いを愛しく思える二人組は、そうそういないと思う。

 

 

「――それでさ。誰と会いたいのかな?」

 

 

 少し経って、二人がサンドイッチを食べ終わった辺りを見計らって、俺は聞いた。

 すると、二人ともハッとした表情を浮かべた後で、それを取り繕おうとついと目線を逸らすのだった。

 気持ちは分かる気がする。

 小学生ならなおさらだけど、自分が普段いる場所から遠ざかった場所では、不安な気持ちを隠そうとごまかしたい気持ちが先に出るものだと思うから。

 

 

 

「そ、それは……お兄ちゃん、だし」

「そ、そう! お兄ちゃん、だもんね」

 

 

 男の子がそう言えば、女の子がそれに同調する。

 二人とも、どこまでも照れくさそうな調子で。

 ……なるほど、それじゃあ。

 おそらく俺の直感は正しいだろう、と見込みをつけながら、

 

 

「ああ、そっか。『陽子お姉ちゃん』に会いたいんだね?」

「あっ、陽子お姉ちゃん……」

「そうそう! 鍵ないから――って!」

 

 

 ほら。

 さっきとはちょっと違った引っかけをしたら、すぐに乗ってきちゃう。

 俺はといえば、猪熊さんのことを陽子お姉ちゃんなんて口に出してから少し後悔したいくらい照れくさくなるけど……。

 

 

 

「……よ、陽子お姉ちゃん」

「ち、ちが――ううん、陽子お姉ちゃん、に……」

 

 

 自分たちでも、もう色々と厳しいんだと思う。

 口元を抑える二人に、それよりかなり年齢差の離れた俺も、その気持ちが何となくわかってしまうから。

 

 

 

「もう大丈夫だよ、二人とも」

 

 

 本格的に教師になってまだほんの数日しか経っていない。

 だからこの時、この二人に聞こえる言葉がどういうものだったかは判然としない。

 でも――

 

 

 俺はベンチから立ち上がり、二人の正面に移動した。

 

 

「……あ」

「お、おじさん……」

 

 

 ピクッとした表情の後で、ほんの少しだけ慌てた様子がなくなったかのような印象。

 あと、ついでに聞こえてきた「おじさん」という言葉。

 ――少しは、安心してくれたのかな。

 いや、俺ってもうおじさんって言われる年になっちまったのかな、とかは引っかかってしまうけど……。

 

 

(ホントに怖い人には――)

 

 

 呼びかけることすら躊躇すると、何となく思うから。

 

 

 

「……二人とも。名前、教えてくれる?」

 

 

 ほんの少ししゃがむ形で、二人と目線を合わせる。

 見れば見るほど、誰かさんによく似ているような気がした。

 

 

「……い、猪熊空太、です」

「い、猪熊美月、です」

 

 

 こういう時も似ていて、お互いにどこかで詰まりながらも、きちんと応えてくれた。

 それはまあ……態度自体は、誰かさんとは結構違う。どこかで逡巡しがちな所があると思う。

 ラーメン屋で、俺に色々と聞いてきた「あの子」と比べれば――

 

 

 それでも、やっぱりどこか似ている。

 髪の色もそうだし。

 なにより――

 

 

(……あの時、あの子がラーメン屋で見せた時みたいな)

 

 

 どこかで、相手に遠慮しているような。

 そんな、ほんのちょっとした微妙な感覚が、あの子によく似ている二人にシンクロしているためか、よく分かってしまった。

 

 

 

「……うん、わかった。二人とも」

「え?」

「え?」

 

 

 とことん、どこまでも似たような返しをする二人に向かって、俺は言う。

 

 

「いいよ。『陽子お姉ちゃん』の所に、いこっか」

 

 

 俺は二人をそう言って促すのだった。

 

 

 

 ――その後で。

 

 

 

「……い、一条先生? その子たちは?」

 

 

 間の悪い所で、久世橋先生に出会う俺だった。




空太と美月と一条の話でした。
次回、お目当ての例のあの子と会っておしまいの予定です。
その間の久世橋先生と紆余曲折あるかもしれません。
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