きんいろティーチャー   作:ケイトラ

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最初に補足です。

・大事な始業式の描写を失念していました……本当なら、そこで主人公が出ていないとおかしいのに。皆さん、補完お願いします。

・教員実習は、原則、その人の母校で行われます。というわけで、主人公のようなことは基本的に無理です……。

今更ながら、見切り発車とは怖いものですね……。

後、一条のモノローグでの二人の呼び方は、学校と外で変えました。


第2話 過去を想って、今になって

――――

 

 

「というわけで、この助詞が――」

 

 

 国語の時間。

 気もそぞろに担当教師の声を聞き流しながら、ぼんやりと、前方に座る女子生徒を眺めていた。

 彼女は一心不乱といった様子で、ノートへとペンを走らせ続けている。

 

 

「……」

 

 

 頬杖をつきながら、俺は何となく考える。

 その女子生徒は、つい3日前に転校してきた。

 朝のHRで担任教師に促されるまま教室に入ってきた生徒は、教壇に立ち、自己紹介を始めた。

 未だに印象に残っているくらいに、緊張しきった様子だった。

 何度も噛みそうになりながら、しどろもどろに最後まで言い終えて――

 

 

 

「……あ、ありがとう、ございまし、た」

 

 

 顔を真っ赤に染め上げながら、ペコリと頭を下げた。

 

 

 

 大抵、学生の頃は第一印象通りの人間ということが殆どだ。

 眼鏡をかけていれば高確率で真面目と感じさせるし、髪をちょっとでも染めているように見えれば、それは活発系だ。

 でもって、その転校生は眼鏡をかけてなくても、真面目と思わせるものがあった。

 つまり、根っからの真面目、と判断できるほどに――

 

 

 というわけでもないんだろうけど、まだ彼女には友達らしい友達は出来ていないみたいだった。

 俺たちみたいな男子は勿論、同性の女子にも。

 女子生徒は一旦は近づいてみても、何だか距離があるような感覚を覚えて、離れてしまう、らしい。知り合いの女子曰く。

「何だか、あまり笑ってくれないの」とも言ってたっけ。

 

 

 キーンコーン、という聞き慣れた鐘の音が聞こえた。

 最後のコマの国語が終わり、さて、下校時のHRだ。

 うーん、と俺が疲れきった身体を伸ばしていると――

 

 

「え、今日の板書、テストに……?」

「いやいや、嘘でしょ。私、何も聞いてなかったんだけど……」

「いや――そういえば、最後のほうで」

「え? 成績に入れちゃうって?」

「あー、そういえば聞こえた、ような……」

 

 

 不吉な声が聞こえた。

 伸びをしたまま、身体からサーッと血の気が引く感じがした。

 

 

 あの小テスト好きの国語教師の作る問題は、大抵いつも難しい。

 というのも、俺たちのクラスの大半は、彼の授業を聞き流しているからだ。

 参考となる資料がない俺たちと教師の勝負は、いつも生徒側が大幅に不利だった。

 

 

 

 

「――それじゃ、HR始めるね」

 

 

 情報が広まり、どこか陰鬱とした雰囲気が流れ始めたクラスに、担任の女性教師が姿を現した。

 

 

「えっと、朝のHRで言った通り――席替えをしますっ」

 

 

 嬉しそうに言うと、お手製と思われるくじ箱を出してきた。

 そんな女性教師の振る舞いに、沈んでいた空気が少しだけ和らいだような気がする。

 そういえば朝、そんなこと言ってたっけな……。

 

 

 

「それじゃ、移動してー」

 

 

 笑顔のままの担任に促され、俺たちは席を立った。

 思い思いに自分の引いたくじ番号と座席表を照合して、移動する。

 

 

「えっと……あ」

 

 

 指定されたのは、前から2列目。これはなかなかサボりにくい……じゃなくて。

 別の理由で、つい、声が漏れてしまった。

 隣の席の彼女も、モジモジとした様子でこっちを見ている。

 その姿は、さっきも俺の視界に入っていたもので――

 

 

「えっと……よろしくな」

 

 

 何はともあれ、挨拶だ。

 軽く会釈もしよう。

 

 

「――あ。は、はい。よろし、く」

 

 

 焦った様子が丸わかりのまま、彼女もペコリと頭を下げた。

 

 

 

 まだ移動し終わっていない生徒もいたため、HRは再開されない。

 隣の席で落ち着かなさそうにしている女子を、チラッと見る。

 

 

 気になったのは「転校生」ということがあったからだった。

 何となく、所在なさげにしてる彼女を見ていると、何だかむず痒くなって。

 

 

「……あ」

 

 

 ふと、思い出す。

 最後のコマの後、流れた情報。

 国語教師。小テスト。必要な板書――

 

 

 

「――ちょっと、いい?」

「わっ!?」

 

 

 未だに移動のため騒がしいクラスの中、隣の女子に声を掛けると、肩をビクッと震わせた。

 そして、オズオズと俺の方へと視線を向ける。

 

 

 彼女を近くで見たのは、これが初めてということになる。

 当時はまだ、今に比べると短めだった髪。

 今よりも、ずっと強ばっていた身体と表情。

 

 

 何だか気恥ずかしくなって、俺も一息に言う。

 

 

 

「さ、さっきの授業のノート……写させてほしいかな、って」

 

 

 

 

――――

 

 

 

「それじゃ、一条湊の教師就任を祝して……乾杯!」

「乾杯っ!」

「乾杯……って、自分で言うのね」

 

 

 その日の夜。

 俺たちは容器を手にして、それらを軽くぶつけあった。

 その後で俺はジョッキを傾かせて、ゴクゴクと喉に染み透らせていく。

 うん、やっぱり仕事終わりのビールほど美味いものはない……。

 

 

「お疲れ様、一条くん」

「……あなたより、私の方がずっと疲れたような気がするけど」

 

 

 前方から、二つの声が聞こえてきた。

 そのうちの一方――烏丸先輩は、おっとりした様子でコップを傾け、カシスオレンジを味わっている最中だった。

 でもって、もう一方はというと――

 

 

「早速、ウイスキーとは飛ばすなぁ」

「誰のせいと思ってるのよ……」

 

 

 隣の先輩より心なし速いピッチで飲んでいる女性は、不満そうな様子だった。そんな表情のまま、コップをテーブルに置き、それをテーブルの端に置いた。そして彼女自身も、端に寄った。

「なんだ?」と思いながら見ていると、彼女は自分の髪止めに手で触れる。

 そして、それを外した。

 フワッと、髪の毛が空中に翻る。

 彼女は目を瞑ったまま、一度、肩を上げて、また下ろした。

 

 

「一条くんのせいで、私がどれだけ疲れたと思ってるの?」

 

 

 そんな挙動の後、彼女は俺にジトッとした目を向ける。

 ああ、どうやら……「これくらい、私は疲れてるのよ」という一種のアピール、か?

 そうだとしたら、こういう所は茶目っ気があって、面白かったりするけど。

 あんまり見てると「バカにしてるの?」なんて言われて、下手をすると怒られるから笑ってごまかそう。

 

 

 彼女はさっきまでサイドポニーにまとめていた髪をいま下ろし、俺から見れば、その長さが目立っていた。

 

 

「……うーん」

「な、なに?」

「いや――その姿、生徒に見せたら、もっとモテるんじゃないかと」

 

 

 普段の彼女――クッシーが学校で見せている「教師モード」を思い返しながら、俺は何とはなしに言ってみる。

 

 

「なっ……!」

 

 

 あっ、クッシーが照れた。

 一方の手を口に当てて、口元を隠そうとしながら、頬を染める。

 学生の頃から変わらない、クッシーの照れ隠しのやり方だった。

 

 

「もう、一条くんったら。あまり朱里ちゃんをからかっちゃダメよ」

 

 

 そんなクッシーを見ていたら、彼女の隣から笑い声が混じった声がした。

 隣の女性――烏丸先輩は、学校で見せた時と変わらない様子で、優しげに笑っている。

 

 

「いや、先輩。俺はクッシーが、学校でも今みたいな素振りを見せたら、と……」

「あなたの妄想に、私を巻き込まないでよ……」

 

 

 照れたまま、クッシーは手を額に当てながら俯いてしまった。

 この辺りの振る舞いは、さっき教室で見せた時と変わらないんだなぁ、と妙な所に気づいてしまう。

 

 

 

 

 ――放課後。

 生徒を送り出してから、俺は様々な仕事に追われていた。

 指導する生徒の内情、成績、授業態度、その他諸々のチェック……。

 それに加えたあれこれをしていたら、あっという間に時間が経ってしまっていた。

 

 

「……疲れた」

「一条先生、お疲れ様」

 

 

 一区切りついて俺が机に突っ伏してしまったら、右から何とも癒される声がした。

 烏丸先生は相変わらず笑顔を絶やさずに、

 

 

「久世橋先生が来られるなら、今日は予定通りとしましょうか」

 

 

 嬉しい事を言ってくれた。

 そして、その後、職員室に戻ってきた久世橋先生に打診したら、「先月も行きましたよね……」と呆れながら承諾してくれたのだった。

 

 

 

 

 というわけで、俺たちは仕事帰りの飲み会と洒落込んでいた。

 ちなみに、今日の飲み会は、先生方が催してくれる(らしい)歓迎会があった場合は延期ということになる予定だった。

 しかし、忙しい方が多いためか行われず、俺たちは学校からちょっと離れた居酒屋に来たというわけだ。

 

 

 

 

「まあ、たしかに予定とはしてたけど……今日は家でゆっくりとしてたかったのに」

 

 

 そう言いながら、クッシーは二つ目に頼んだビールのジョッキを傾け始める。

 ちなみに、さっき下ろした髪を再度まとめていた。

「くたびれるけど、飲む時はこっちじゃないと」ということらしい。

 ……やっぱり、さっきのはアピールだったんだろうか?

 

 見る限り頬に朱色が指しているのは、さっき照れたためというだけでもなさそうだ。

 三つ目に手を出そうとしたら、一旦止めないとな、と俺は密かに思う。

 

 

「まあまあ、朱里ちゃん。今日は楽しかったでしょう?」

 

 

 隣の後輩を宥めながら、烏丸先生は二つ目に頼んだカルーアミルクを飲んでいる。

 甘い物に目がない先生らしく、ラインナップはそういった系統のものだった。

 俺もクッシーも、先生が居酒屋でビールやウイスキー等を頼んだ所を見たことがない。

 その点では、俺とクッシーは似ているのかもしれない……。

 

 

「先輩……私、もう一条くんの相手をすることに疲れました……」

「あらあら。それなら一条くん、私の所に来る?」

 

 

 溜息を付きながら言うクッシーに先輩は悪戯っぽく笑いながら、俺に水を向けた。

 うーん……2年C組、か。

 

 

「ありがたいお誘いですけど……俺、A組の生徒をちょっと覚えたので。しばらくは、クッシーと二人三脚で……」

「あなた……二人三脚の意味、分かってるわよね?」

 

 

 うーん、今日はジト目を向けられる日がいつもより多い。

 そりゃまあ、学生の頃から何となく習慣化した3人呑みで、こういう表情をするクッシーを見たことは一度や二度じゃないんだけど……。

 ああ、そういえば先輩は、そんな目をする所を見たことがないな。さすが。

 

 

「――先輩も、先輩です」

 

 

 勝手に感心していると、不満気なクッシーの声は、隣の先輩に向けられていた。

「あらあら」と微笑む先輩は、怖いくらいにいつも通りだ。

 

 

「一条くんに優しすぎます」

 

 

 そこで軽く俺を睨むと、再び先輩に顔を向ける。

 

 

「私、この一年、教師として『真面目に』頑張ってきたつもりです。

 それなのに、それが今日一日だけで、何だかヒビが入ったような気がします」

 

 

 そこでクイッと、もう一口。

 真面目、という所にアクセントを付ける所が、いかにもクッシーらしい。

 

 

「それじゃ……朱里ちゃんは一条くんのこと、キライ?」

「ええ、キラ――い、いえ! そうじゃなくて!」

 

 

 言い切った後でジョッキに目を落とすクッシーに、先輩が変化球を投げた。

 久世橋選手、これを綺麗に空振り。

 ……今、赤らんでいる顔は、さっきのウイスキーと今のビールのせいだな。うん。

 

 

「と、とにかく! 一条くん。明日から、今日みたいなことをしたら――」

「したら?」

 

 

 半ばシリアスになったようなクッシーの目を、俺もジッと見つめてみたりする。

 一体、どんなことを「担任」から告げられるんだろう……ちょっとドキドキする、かなぁ。

 

 

「……しゅ、主任の先生に言いつけるんだから」

「先生が生徒みたいなことを言って、どうするんだ……」

 

 

 いつも通りのクッシーだ。

 勢いで一気に言ってくるけど、実際は考えていない。

 普段は真面目で思慮深いクッシーだけど、ある一定の条件下で、それは一気に緩む。

 ……目の前でビールの入ったジョッキを傾ける彼女が、その事実をはっきりと裏付けてくれるだろう。

 

 

「はぁ……朱里ちゃん、私を頼ってくれないのね」

 

 

 

 俺もクッシーに倣ってジョッキを傾けていると、先輩が溜息を付きながらクッシーを見つめた。

 

 

「せ、先輩は、一条くんに優しすぎますから……」

「わっ、一条くん。私たち、もしかして……」

 

 

 焦りながらそれに応じるクッシーを見た後で、今度は俺へと視線を転じる先輩。

 その瞳が、からかいの色を帯びていることを俺は見逃さない。

 

 

「ええ。これは……俺たちがクッシーの敵になった、ということですね」

「ああ、私の近くから朱里ちゃんが……」

 

 

 一旦、目を伏せた後で、俺はジョッキを、先輩はコップを構える。

 それからお互いに掲げて、

 

「今日から同盟ですね。乾杯」

「ええ、乾杯」

 

 

 カチン、という音が俺たちの手に持った容器から発せられた。

 俺は笑い、先輩も笑った。

 二人の間に、和やかな時間が――

 

 

「……先輩、一条くん」

 

 

 あ、何かカチンという音がこっちからもした、ような気がする。

 まあ、実際に鳴ったわけじゃないし、スルーしても……。

 いや、何だか表情が一気に冷ややかになった――?

 

 

「ごめんね、朱里ちゃん。はい、一条くん。同盟破棄で」

「先輩の頼みなら……」

 

 

 スルー回避。少し慌てた様子の先輩の言葉に、俺も素直に従う。

 さすが烏丸先輩だった。

 こういう時、もしかしたら放っておいたら、関係がこじれるかもしれない。

 でも、先輩はこういう時に機を見るに敏だ。

 ……こういう所を見るにつけ、先輩は本当に教師に向いていたんだなぁ、と再度感心してしまう。

 

 

「――まったく、先輩たちは」

 

 

 そんな俺たちを見て、さっきまでの険しい(ように見えた)表情が、幾分和らいだ、ような気がする。

 とはいえ、相変わらず目がジトッとしてるような……いや、見間違いだ。うん。

 

 

「まあ、あれだ、クッシー。色々、からかってごめん」

 

 

 フォローのつもり、というわけでもないけど俺はクッシーに、はっきりと言う。

 さっきまでのからかい口調は一旦、全部差っ引いて。

 

 

「……一条くん?」

「でもさ。俺、せっかく教師になれたから……だから」

「色々教えてほしい、みたいよ?」

 

 

 少し照れた俺が言葉を詰まらせると、すぐさま先輩がフォローに入った。

 そのまま続けて、

 

 

「朱里ちゃん? たしかに一条くんは、教員実習を母校以外で行うような、よくわからない所があるけど……」

「今更ですけど、本当にわからなすぎでしたよね、それ……」

「し、仕方ないんだ。その時、うちの学校の受け入れ態勢が整ってなかったんだから」

 

 

 一転して、フォローがからかいになって返ってきた。

 先輩が笑いながら、クッシーは呆れながら、俺を見る。

 ……いや、仕方ないだろ。

 俺が申し込むのに遅れて、それで結局、委員会に泣きついて――

 

 

「ね? こういう、ちょっぴり危なっかしい所もあるから、私も心配なの」

「……たしかに」

 

 

 さっきから、からかわれる対象は一気に俺に傾いたらしい。

 やれやれ。これまた、恥ずかしい……。

 

 

「私は英語教師の先輩として、一条くんに出来ることをするつもり」

 

 

 俺が俯いていると、前方にいる先輩の声が飛び込んできた。

 からかいのトーンがいきなり変わり、一気に優しさでいっぱいになっている。

 俺は身体を起こし、視線をそちらに向けた。

 視界の中いっぱいに、先輩の姿が広がって――

 

 

「先輩……」

「だから」

 

 

 俺が言葉を返そうとすると、先輩が俺を見つめてきた。

 その佇まいを見て、俺は何故か昔の先輩の出で立ちを思い出していた。

 きっと、今日が教師として学校と再び関わり始めていく節目だったからだろう。

 

 

 眼鏡をかけてなくて、三つ編みに編んだ髪。

 優しい目。声。振る舞い。

 そんな、どこか気品も感じられた、女子の先輩――

 

 

「一緒に頑張りましょうね、一条『先生』?」

 

 

 そのまま先輩は、俺を見つめる。

 初めて、俺たちと会った時のように、穏やかで柔らかな表情のまま――

 

 

 

 ――よろしくね、二人ともっ!――

 

 

 

 なるほど。中学の頃から、俺やクッシーを離さなかったわけだ。

 

 

 

 ――わからないことあったら、私が何でも教えてあげるからっ!――

 

 

 

 まさか、こんなにいい人と10年後も付き合いがあるなんて、全く想像してなかったよな……。

 きっと、その隣で見とれてる様子のアイツも。

 

 

「だから朱里ちゃんも、一条くんにちゃんと教えてあげないと。ね?」

「……私、この人に何を教えればいいんですか」

 

 

 先輩に対する尊敬の眼差しが、俺に対しては何だか寂しい目つきになる。

 無理もない、んだろうな。きっと……。

 

 

「ほら、担任教師としての心構え、とか。私が教えちゃうと、朱里ちゃんに怒られちゃうから……」

「べ、別に、怒ってません!」

「え? いや、さっき怒って――」

「一条くんは静かに!」

 

 

 俺と先輩の間で、クッシーは酔いも手伝ってか、かなりハイテンションに反応している。

 そろそろ、頬に差している朱色も、かなり濃いものになっていた。

 

 

 

「――まったく」

 

 

 再度、からかわれた後で、クッシーは先輩に顔を向けて、次に俺に顔を向けた。

 先輩に対しては、目つきが少し緩み、いつも厳しく見える口元も穏やかに変わったように見える。

 俺に対しては――うん。全てがその逆、といえば、一番分かりやすい上に、簡潔だろう。悲しいなぁ……。

 

 

「明日から、覚えていて下さい……」

 

 

 そんな視線を二人にぶつけた後、クッシーは再びジョッキを傾ける。

 とはいえ、もう中身はない。

 氷が溶けて、申し訳程度に水嵩を増しているだけだった。

 

 

「……」

 

 

 そのことに気づき、ジョッキの底を見つめるクッシー。1ステップ。

 それからすぐにジョッキをテーブルに戻し、チラッとテーブルの端の呼び出し用のボタンを見る。2ステップ。

 そして、次に俺たちを見つめる。3ステップ。

 

 

「……どうでしょう?」

「そこまで」

「もう、止めた方がいいかもね。朱里ちゃん」

 

 

 俺たちが声を揃えて言うと、クッシーは「そうですよね……」と名残惜しそうな顔のまま、空っぽのジョッキを見つめるのだった――




漠然と考えをまとめられたのは、今回までということになりそうです……。
次回以降、色々と手探り状態で、しかも実生活が忙しくなるかもしれないので遅くなってしまうかも……ごめんなさい。
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