きんいろティーチャー   作:ケイトラ

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2話を観ました。
久世橋先生回で、テレビの前で頬が緩みっぱなしでした。


第3話 踊り場での紆余曲折

「……眠い」

 

 

 朝の通学路を歩きながら、俺はつい油断してしまった。

 つい、だらしない欠伸を衆目に晒してしまう。

 おっと、いけない。そういう時は掌を口にかざさないと……。

 何といっても、俺はもう――

 

 

(正規の教師、なんだから……)

 

 

「……ん?」

 

 

 通学路を歩きながら、前方に見知った姿を発見した。

 背筋はピンと伸ばしたまま、程よいスピードで歩き続けている。

 

 

 軽く走るような感覚で、俺は彼女に追いつく。

 そして、横に並ぶと、

 

 

「おはようございます、久世橋先生」

「……あ」

 

 

 挨拶をした。

 顔を窺えば、あまり赤みは差していない。

 そのことに、少し安堵した。どうやら酔いは残っていないらしい。

 

 

「お、おはようございます。一条、先生」

 

 

 ちょっとばかり焦りを混ぜながら、先生も挨拶を返してくれた。

 サイドポニーにまとめた髪に、キリッとした顔つき。

 うん、なるほど。これは、たしかに――

 

 

(――生徒に怖がられそう)

「……先生? 何か言いたいことでも?」

 

 

 おっと、いけない。

 またしても油断していると、久世橋先生が不満気な顔で見つめていた。

 

 

「いや……何でもないですよ」

 

 

 そうごまかしながら、俺は目を逸らした。

 おそらく今、久世橋先生の顔には迷いの色が混ざっているだろう。

「私、何かおかしかった……?」みたいな。

 それなりに長い付き合いだと、何となく勘で分かることも増えてくる。

 

 

「……一条先生、何か失礼なことでも?」

 

 

 ほら、相手も同じだし。

 ある意味お互い様って感じでも、あるかもしれない。

 

 

 

 少し、心配していた。

 昨日の久世橋先生の急ピッチぶりに。

 

 

 3杯目に入る前に先輩と一緒に止めたのが良かったのかもしれない。

 実際、久世橋先生は、あまり酒に強い人じゃない。

 俺も先輩も、あまり人のことを言えないけど……久世橋先生は放っておくと、一気にグイグイ飲んでしまう。

 一度、それで危なげな事態になったこともあったため、それ以降は俺たちも気をつけていた。

 

 

 

(……あ)

 

 

 そんなことを思い返していると、ふと後方に見覚えのある姿が現れた。

 金髪のロングヘアーを、頭上でまとめている彼女。

 何だか嬉しそうな表情で、俺たちの方へと向かってきている。

 

 

「――ところで、先生」

「やっぱり、失礼なことを……」

 

 

 未だに拘ってそうな久世橋先生の発言を敢えて無視して、

 

 

「頑張ってくださいね、生徒にモテるために」

「……はい?」

 

 

 そう助言してあげた。

 案の定、久世橋先生は疑問符を浮かべている。

 まあ、すぐに分かるだろう――

 

 

「久世橋先生! おはようごじゃいマース!」

「わぁ!?」

 

 

 ほら、甲高い目立つ声がやってきた。

 慌てて後ろを振り向く久世橋先生に対し、心から楽しそうに笑う生徒がどこか対照的だった。

 

 

「く、九条、さん……?」

 

 

 そう。

 俺たちのクラスの生徒――九条、えっと……そうだ。九条カレンさんだった。

 一応、昨日、名簿とにらめっこした甲斐は多少なりともあったのかもしれない。

 

 

 

「先生!それ、貸してくだサイ!」

「へ? それって……?」

「ああ、このシュシュってやつか」

 

 

 唐突に迫ってきた生徒にビックリしたままの久世橋先生に代わって、俺が応じる。

「ハイ!」と元気よく九条さんが言うので、

 

 

「それじゃ、今から取るから」

 

 

 と、俺は先生の髪へと手を伸ばす。

 へえ、間近で見ると、ピンク色で――何だか、久世橋先生の普段の姿には似つかわしくないような……

 

 

「……一条先生」

 

 

 あ、触れそうになった所で睨まれた。

 チラッと向けられた顔は、恥ずかしさとか焦りとか、ついでにちょっとばかりの怒りで混沌としている。

 

 

「自分で、取れます、から」

 

 

 俺を睨みつけながら言葉を区切って、その後でスッと外した。

 ちなみに、昨日みたいに全ての髪留めを外したわけでもないので、その長い髪は下ろされない。

「何だか勿体ないなぁ」とか取り留めのないことを思いながら、俺は久世橋先生を見ていた。

 

 

「……ヤッパリ」

 

 

 ん?

 シュシュを外して渡そうとする先生。

 ボンヤリと、それを見つめる俺。

 そして――そんな俺たちを、クスクスと見る生徒。

 

 

「お二人は……」

 

 

 そこで意味深に一息吸うと、

 

 

「トモダチ、デス!」

 

 

 そして、シュシュを持ったまま、後ろを振り向き「これが目に入らぬカー」なんて声を上げ始めるのだった。

 

 

 

 

 そんな彼女を、しばらく俺たちは呆然と見つめてしまった。

 チラッと隣を窺えば、久世橋先生の顔は可哀想なくらい真っ赤だった。

 とはいえ恐らく、先生ほどでもないだろうけど、俺も一緒なんだろう……。

 

 

 少しばかり呆然とした後で、先生はピクッとした。

 視線の先には、さっきの生徒の九条さん。

 無理やりに照れた顔を整えて、先生は彼女に――

 

 

「返してください、九条さん」

 

 

 努めて、冷静な口調で彼女に催促をするのだった。

 

 

 

 

 

 

――――

 

 

 

 Side:陽子

 

 

(……なるほど、ねぇ)

 

 

 後ろからカレンが二人に軽口を叩いているのを見ながら、私は理解した。

 昨日、私は、あの二人を見ることは出来なかった。

 とはいえ、A組の三人の話を聞いていると「何だか面白そうだな」なんて思ったりもしていた。

 

 

「……あれが、久世橋先生と一条先生」

 

 

 隣で、私と同じクラスの金髪少女――アリスが呟いた。

 案の定、というか当然、アリスも二人を見るのは初めてらしい。

 

 

「何だか、仲良さそうだな」

「……う、うん」

 

 

 私が笑いながら声をかけると、アリスは少し照れくさそうに返してくれた。

 それを見て、私は再び前を向く。

 

 

 

「あ、久世橋先生。俺って今日もA組に行っていいんですよね?」

「いえ、一条先生。今日からは普通の授業実施日になるので、もう先生が私に付いてくることは――」

「え……」

「昨日、お伝えしたでしょう?」

 

 

 前方で、一方はどこか残念そうに、もう一方は呆れながら返していた。

 その掛け合いは、どう考えても付き合いの浅いそれではないと思ったりする。

 

 

「え? 一条先生、来ないデスカ?」

「あ、九条さん。九条さんから言ってくれたら変わるかも……」

「久世橋先生、お願いしマス!」

「か、勝手に生徒に嘘を吹き込まないでくださいっ」

 

 

 で、そんな二人に飄々と軽口を叩き続けるカレンも一緒になる。

 見てるだけで、何だか自然に頬が緩みそうになるような、変テコな光景だった。

 

 

「今日も、お二人は仲良しさんですねぇ……」

「何というか――ただの担任と副担任とは」

「え? 綾ちゃん、どう思うんですか?」

「そ、それは……」

 

 

 隣では、しのが綾をからかっているようだった。

 綾が何を想像していたのか、何となく分かる。

 とはいえ、あまり深入りするのはよくないかもだ……。

 

 

「――久世橋先生と、一条先生、ねぇ」

 

 

 変わらず賑やかそうに言い合っている二人(+カレン)を見ながら、私は何となく呟いた。

 A組の、担任と副担任――

 

 

 

「……何だか、二人のクラスは暇しなさそうだな」

「ええ、そうですねっ」

「……わ、私は、真面目に授業やってくれたら嬉しいかなって」

 

 

 私がそう言うと、しのは満面の笑顔で、綾は照れくさそうに頬をかきながらそう応えた。

 しのはともかく、綾は本心というわけじゃなさそうだな……。

 

 

「ヨウコ? 私たちも烏丸先生と一緒で嬉しいでしょ?」

「ん、アリス。もちろん、そうだけどさ……」

 

 

 アリスにそう言われるまでもなく、私も当然、カラスちゃんと一緒のクラスになれたのは嬉しい。

 たしかにそう、なんだけど――

 

 

「あれもあれで面白そうだな、って……」

 

 

 あ、ついに久世橋先生の我慢が限界なのか、スタスタと歩き始めてしまった。

 それを軽い調子で追いかける一条先生。

 そんな二人を後ろからニヤニヤと見つめるカレン。

 

 

 

 ……後で、A組でも行ってみようかな、なんて思ったり。

 

 

 

――――

 

 

「久世橋先生、今日はどんな挨拶を?」

「……いつも通り、普通です」

「え? それじゃ、昨日みたいには――」

「わ、私は別に、ああいうアプローチは……」

 

 

 階段を上りながら、俺は久世橋先生に聞いてみた。

 といっても、どうやら型通りの挨拶に終始する予定らしい。

 

 

「むしろ、またしても一条先生が一緒になることが不安で――」

「まあ、仕方ないですよ先生。学年主任の指令ですし」

「……嬉しそうですね、先生」

「そりゃまあ」

 

 

 久世橋先生の不安げな瞳を見ながら、俺は思い返す。

 今日の職員朝礼で、「一条先生は、しばらくは久世橋先生と一緒にHRには向かって下さい」と指示を受けたことを。

 それが口から発せられた瞬間、左隣から物凄く複雑そうな感情が混ざった久世橋先生の視線を感じたことも。

 あと、右隣から明るい色のジャージを翻しながら、クスっと軽く笑う烏丸先生の姿も記憶に残る。

 

 

「――あ。そういえば、久世橋先生。俺のネクタイ、曲がってませんか?」

 

 

 階段の踊り場で、ふと思い出した俺はそう聞いてみる。

 そういえば、鏡でチェックするのを忘れていた。

 さすがに、まだ初めなのに身だしなみが整っていないのはみっともないだろう。

 

 

「え? ……あ、少しだけ」

 

 

 ちょっとばかり慌てたように反応すると、久世橋先生は手に持った出席簿をチラッと見た。

「持ちますよ」と俺が言って受け取ると、先生は少しだけ距離を縮めてきた。

 

 

「えっと、ほんのちょっと右の、この辺りが――ご自分で出来ませんか?」

「そうしたいのは山々なんですけど、もう少しで時間ですし……ごめんなさい」

 

 

 親身になって見てくれる久世橋先生に、俺はお詫びを伝える。

「ごめんなさい」が意味するのは、つまり――

 

 

「……し、仕方ないですね」

 

 

 そう言うと、ゆっくりと俺の上半身に手を伸ばし、ネクタイに触れた。

 触れられただけで、首筋がピクッとしてしまう。

 久世橋先生のまとめあげられた髪の毛も近くで見てしまい、何となく照れくさくなった。

 

 

「これから気をつけて下さい。今日だけ、ですからね」

 

 

「副担任がこうだと私も困りますし」と困ったように言いながら、先生はネクタイをクイッと引っ張った。

 不思議と最初に覚えた照れくさい感覚は、その内、消えてしまった。

 

 

(――ネクタイは、いいのか)

 

 

 親身になってくれる久世橋先生を見ながら、俺は思う。

 例えば肩と肩が触れそうになるだけで、彼女は分かりやすいくらいにズザッと離れてしまう。

 何となく、コイツ……いや、この先生の基準が分からなくなったりもした。

 

 

「……あ」

 

 

 ん?

 何やら、聞き覚えのあるような声がした気がするな。

 久世橋先生も気づいたらしく、ネクタイに触れながら、チラッと上方を見た。

 

 

 上の階は、俺たちが目指していた2年A組のある所だった。

 階段を上ったら、すぐ隣が目的地だ。

 なるほど、この踊り場なら、そこの生徒も――

 

 

「へぇ……」

 

 

 声の調子から思った通り、女子生徒だった。

 口元に手をあてて無邪気な顔のまま、クスっと笑う。

 髪量十分のおかっぱ頭。

 どこかほんわかとしたように見える、のんびりとした顔つき。

 

 

 たしか名前は――大宮、忍、さん。

 

 

「失礼します」

 

 

 どうやら、俺と目が合っていることに気づいたらしい。

 ペコリと頭を下げると、軽やかにA組へと戻っていった。

 

 

「……」

「あ。どうもありがとうございます、久世橋先生。助かりました」

 

 

 ネクタイから手を離した彼女に、俺はお礼を言う。

 うん、感覚からしても、どうやら違和感もないし……さすが家庭科教師。いや、関係あるのかな?

 まあ、ともあれ。これで恥をかかずに教室へ――

 

 

「い、ち、じょう、先生……?」

 

 

 ――まあ、そんな上手い話はないよなぁ。

 区切り区切りに久世橋先生が話しかけてくる時は要注意だ。

 大抵、本気で怒っている時か、心から照れている時か――この場合は、きっと、

 

 

「ど、どうしてくれるん、ですか……」

 

 

 後者、だろうな。

 壁際に寄りかかると、天を仰いでしまう。顔は赤く、目の淵に液体がちょっぴり付いているようにも見えた。

 

 

「いや……たしかに、これは俺が悪いですね。ごめんなさい」

「あ、謝っても、もうあの子には見られてしまったじゃないですか……」

 

 

 きちんと呂律が回っていることは良かった。

 とはいえ、どう言ったらいいものか――

 

 

「……うーん。これでもっとモテる、というのはダメか」

「ダメですっ!」

 

 

 あっ、つい思っていたことが漏れてしまった。

 壁際から身体を起こし、久世橋先生はプルプルと震わせながら俺を睨みつけた。

 その姿は残念ながら、怖い……というより、むしろ――

 

 

「先生、教室まで行けますか? 何なら肩を貸しましょうか?」

「よ、余計なお世話ですっ!」

 

 

 俺がそう提案すると、久世橋先生は俺を置いてスタスタと上がっていってしまった。

 ……むしろ、心配になるようなものだったけど、どうやら助ける必要はないらしい。

 

 

 

(……ああ)

 

 

 そんな彼女を追いかけるようにして階段を上がりながら、俺は申し訳ないやら、やっぱり恥ずかしいやらで大変な気分だった。

 教室に入ったら、どうなることやら――




思いついたままに書いていっています。
何か気づいたこと等がおありでしたら、是非ともコメントをお寄せ下さい。
参考にさせて頂きたいと思います。
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