川なんとかさんルートを妄想してみた。   作:ハーミット紫

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現在、俺はテニスコートに立っている。

テニス=リア充。つまりテニスコートは俺にそぐわない場所なのだが何の因果かこうしてラケットまで持ってこの場に留まっている。

雪ノ下がネットの向こうから打つボールを四人のローテーションで打ち返している。

俺、川崎、ガハマさん、そして戸塚彩加。

彼は少し…いや、かなり…というか今でも信じられないが同じクラスの男子だ。

川崎が打ち返すとそれと交代にコートに入ってラケットを構える姿は正直に言ってしまえば男子には見えない。

こんな可愛い子が女の子のはずがない!とでも言えばいいのかその容姿はとても男子には見えない。というか天使にしか見えない。

と馬鹿な事を考えていると俺の番が来た。

 

「っ!!」

 

きわどいコースに打たれたボールを何とか打ち返す。

そのボールはギリギリ線内に入る。自分でも驚いているが、意外と様になっている。

 

「一旦、休憩をしましょうか」

 

肩で息をしている雪ノ下が休憩を提案してくる。

俺はまだ余力がある。後ろの面子も疲れてはいるがまだやれそうだ。

こいつ体力無いな。初めは水を得た魚の如く、戸塚以上に出来ていたのに5分程の運動で割としんどそうだ。

 

「それにしても意外ね。比企谷くんがここまでテニスができるだなんて…」

 

「あ?…まぁ、運動はそこまで苦手じゃないからな。自発的にやらないだけで」

 

「息も上がって無いようだし、流石は男子といった所かしら」

 

5分くらいの運動でこいつは何を言っているんだ。

と言えば俺では思いも着かない罵詈雑言を浴びることになるのは明白なので黙っておく。

 

「比企谷くんすごいね!やっぱり上手だよ。最後も良い所に打ち返していたし」

 

おい、そんな笑顔で褒めるな!嬉しくなっちゃうだろう。

 

「なんかヒッキーキモい」

 

「何ニヤついてんの?」

 

浮かれた気持ちは女性陣が現実に引き戻してくれた。

 

「俺だって褒められたら少しは喜んでもいいだろうが…」

 

「それはそうなのだけれども…さっきの貴方はそれとは違う感じで気持ち悪かったわよ」

 

「おい、止めを刺すな。自覚してる分余計に辛いだろう」

 

今回の依頼は戸塚からのものでテニス部に関するものだ。

他の部員のモチベーションも低くなんとかしたいとのことだ。テニス部員の顧問の先生は結構高齢の人なので毎日顔を出す訳ではないそうだ。

明確な指導者がいないのならばモチベーションが低下するのも仕方の無いことだろう。

そこで雪ノ下が様々な練習メニューを組んで、念のために俺達で実践しているわけだ。

 

「しかし、四人だと回転が早くて緊張感が保てて良いな」

 

「えぇ、そうね。もう何パターンか試すつもりだったのだけれどもこの手法がベストかもしれないわね」

 

現在テニス部の練習はそれ程人数も多くないので試合形式で行われているそうだ。

その練習自体は悪くはないのだが、毎回それだとマンネリ化するだろう。試合形式とはいえ、所詮は練習だ。

次第のモチベーションは低下し、サボる部員が出てくる。

放課後に2時間から長くて3時間の練習時間を個々が思い思いに練習するだけでは駄目なのだろう。

俺には無い経験だが、一つの目標に向かって皆が団結する。そういうことができなければ練習内容の向上は恐らくは得られない。

1人が、例えば戸塚が部長として部を率いるのなら締まりはある程度期待できるかもしれないが…

 

「戸塚、3年は夏で引退か?」

 

勝手なイメージだが、運動部というのはな夏の大会なんかを区切りに引退するイメージがある。

もし想像通りなら勝負を仕掛けるのはそこだ。今のテニス部の現状を脱却し、新たなテニス部としてスタートするのならばそこしない。

 

「うん、大会の結果次第だけどね。…でも内の部はそんなに強くはないから多分そんなに良い成績を残せないと思う」

 

「そうか。…単刀直入に言うが今こうしていることではテニス部は変わらない。

というか練習内容がキツくなって辞める部員も出るかもしれん。

なんとなく、とりあえず入ったから。練習キツくないし3年頑張れば内申点の足しになる。一般論としてこんな考えの奴は少なからず存在する。

そういった層が戸塚が頑張ることで離れていく可能性がある」

 

これは恐らく雪ノ下も思い当たっていることだ。

だから今日、戸塚にこうして練習を体験してもらっているのだろう。本人が頑張るといっても実際やってみて出来ないなんて言えば話は終わるしな。

軽く短い時間流した程度だが、密度の高い練習をいつもの部活と同じ時間する時の大変さは戸塚自身にも想像が付いた筈だ。

 

「なんかこの手の話をヒッキーがすると妙な説得力があるね」

 

「えぇ、本当ね」

 

ねぇ、それ褒めてるの?貶してるの?どっちなの?

 

「うん…それは分かってる。けどそれでも頑張りたいんだ。

残ってくれる部員は少ないかもしれない。けど僕はきっと皆残ってくれるって信じてるから頑張るんだ!」

 

天使か。…じゃなくて、本人がその気ならきっと大丈夫なのだろう。

 

「なら3年が引退したらそいつらを締め出すのが第一だな。

これは顧問の先生でもなんでも協力してもらえばいい。これは絶対条件ではあるがそこまで難しいことじゃない。

幸いなことに進学校だ。引退後も未練がましく部活に顔出すようなのは先生がなんとかしてくれるだろう」

 

提案している時に、戸塚が息を飲んだのがわかった。

考えていなかったことなのだろう。

 

「まぁ、それが妥当かしら?

夏までは新体制以降にどうして行くかを考えておけばいいのだし」

 

どうやら雪ノ下も賛成のようだ。

川崎に目を向けると、特に言うことは無いから任せるよと目が言っていた。こういう場面でものぐさになるのお兄さん良く無いと思います。

というか誰かが働いていないのにおれが働いているなんて許すまじ行為だ。変わってくれそっち側なら大歓迎だ。

 

「え?どういうこと?先輩とかに教えて貰ったほうが良くない?」

 

ガハマさんはよく分かっていないようだ。

こういのは上と関わりが少なければ思い当たらないものなのかもしれない。

いや、俺も無いですけどね。年代の違う交流相手。というか全世代に渡って存在していないまである。

 

「2年が3年から部を引き継いでこれからのことをどうしていいかわからない。

先輩が居た頃のようにするにはどうすればいいですか?ってのが2年のスタンスならその通りなんだがな」

 

「由比ヶ浜さん。今回に関して言うのなら3年生が敷いていたスタイルを2年生は受け継がずに独自の方法を模索して行くかことになるわ。

つまり端的に言ってしまえば3年生は邪魔にはなっても役には立たなくなるの」

 

その通りだけど言い方がキツ過ぎやしませんかね?

ほら、戸塚だって苦笑いしてんじゃねぇか。

 

「けど、呼ばなくても勉強の息抜きに来たりするんじゃないの?

それぐらいだと先生も注意しにくいでしょう?」

 

川崎の言うように、そこは今後の問題点ではある。

 

「あぁ、そう通りだ。だから勝負を仕掛けるのなら夏休み中になる。

3年間部活頑張って夏休みに引退したら普通は夏休みを満喫するだろう?強豪校だと後輩のために夏休みを返上してってのがいるかもしれんが、毎年結果残すような部活でもない進学校の緩い部活に夏休みを割いてまでいくだろうか?いや、行かない!」

 

「あー、それはわかるかも。

中学の時の運動部とか引退した子って今までのアレですごく楽しんでる感じだった」

 

当てっずぽう見たいなものだが、ガハマさんも共感してくれたことから的外れではないことが証明される。

 

「川崎の言うように、そういう問題もあるだろう。

けど、目先に控えているのは新体制になった状態で迎える夏休みでいかに現状から脱却するかだ」

 

それさえ乗り越えてしまえば、例え夏休み明けに我が物顔で3年が遊びに来ても問題無いだろう。

雰囲気というものは非常に重要だ。それがガラリと変わっていれば居心地の悪さを感じるものだ。

それが古巣なら尚更だ。しかもそれを成したのが後輩ともなれば効果は絶大なものの筈だ。

 

「…そうだね。先輩達のことはともかく、夏休みにどれだけ頑張れるかが重要だよね」

 

とりあえずの目標を見出せたおかげか、三年生を締め出すと提案した時に比べて顔色が違う。

そもそも、ここで心配していること事態が杞憂で終わる可能性も充分にあるのだ。

そうなることを内心で願っている自分に特に違和感は感じなかった。

 

 

 

 




戸塚可愛いよ戸塚。

部活の上下関係って面倒くさい(面倒くさい)
同学年が面倒くさくないかといえばそうでは無いんですがね!


原作での戸塚の依頼は八幡との関係を得るための手段だったような気がしますが、この話では依頼を掘り下げてもらいました。

これで原作登場人物で出ていないのはいろはすだけだな(すっとぼけ)

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